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それは数瞬の思考。嘘つきがいるとするならば、それは自身以外。それを証明する方法はない。
いや、もしかすると全員が本当のことを言っている可能性も?確かに、話をまとめると全てにおいて矛盾点はない。だが、それをそのまま認めるわけにはいかないという感情がどこかにあった。
自分の決めた相手に投票を行う。そして、結果。
「ということで……処刑は京。結果は……、よし!京、人狼で村人の勝ち」
「あ~、バレてた……。絶対平和村に持って行けたと思ったのにぃ」
「よかったぁ、最後まで悩んでたんだよね」
食事の後、京のスマートフォンアプリでワンナイト人狼を行う。役職は村2、人狼1、占い1、怪盗1。先ほどのゲームは奏音と英章が村人をカミングアウトして、京が占いと嘘をつき、不使用カードを怪盗、人狼といったのだが、その嘘を見事奏音は看破していたらしい。
「僕は平和村派だったな。迷いなく怪盗、人狼っていってたし。どっちにしろ、平和村なら時計回り投票だから京に投票してたわけだけど」
「どこで私が嘘ついてるって気づいたんですか?」
「う~ん、カンなんだけども、どこか京ちゃんの様子がおかしく感じたんだよね。それに占いをカミングアウトしたのが結構遅めだったし」
「えっ?でも、占いカミングアウトを待つのって私結構やってたと思うんですけども。他の役職をあぶり出すために」
「うぅん、京ちゃんはそこに気をとられて大切なことを忘れてるよ。今回の場合は占いは待つ必要がないんだよ」
「どういうことですか?」
「画面をよく見てみて」
「……あっ!そっか」
「なるほど、僕もわかったよ」
京が本当の占いなのであれば不使用カードを見た時点で残り2人のプレイヤーが村人2人と確定する。つまり、他の役職をあぶり出すという行為をする必要性がないのだ。嘘をつこうとするがゆえにその思考に至るのが遅れてしまったのだろう。
「しまったなぁ。となると、平和村にしたかったら、村、人狼みたいな感じに……?だとしたら怪盗が出ないという矛盾が。となると、即答で村、怪盗といくしかなかったのかな」
「うん、そうなると思う。だからこそ、矛盾じゃないけども、違和感を感じたから京ちゃんが人狼かなーって」
「本当に、奏音さんってアナログゲームうまいですよねぇ」
そう愚痴るようにつぶやきながら机の中に身を沈める。そしてスマホを消して時間を確認する。白熱しすぎていたがそろそろ時間も時間だ。
「じゃあ、僕、車回してくるよ。家の前に着いたら電話するから」
「はい、ありがとうございます」
「もう、夜も遅いからね」
小さく笑って外に出る。時間としては、まだまだ夜はこれからという時間ではあるが、外はもう暗い。女子大生1人で歩かせるのはやや危険なところもある。
「…………」
「……えっと、京ちゃん?」
ジーという音が出そうな形で熱を感じる視線。その視線は京から発せられている。
「なんだろうなぁ、って思いまして」
「どういうこと?」
「奏音さんってもはやベテランの風格ですが、まだ1年たってないんだよなぁっと思いまして。にもかかわらず、私たちも普通に受け入れられてるし……。馴染んでいるというか、私は年下ですが、かわいがられる?という感じですね」
「な、なんていうか、微妙な評価。喜んでいいのかな?」
「いいんじゃないんですか?まぁ、私はもっと馴染んでもいいのかなって思ってるんですけど」
「もっと馴染む?」
「うちって駐車場から近いんですよね。だから、もうそろそろかな?」
その言葉に当てはまるようにプルルと電話が鳴りすぐ切れる。ワン切りしたらついたという意味だ。
京が立ち上がったので奏音も立ち上がる。
「もっと馴染んでもおかしくないなということです」
靴を履いている奏音に声をかける。履き終えたスニーカーをトントンと叩いたあと京を見上げる。京は答えをいう前に扉に手をかけていたずらっぽく笑って伝える。
「年上の、という意味ではなく戸籍上の意味で、私のお姉さんになるのは、難しいですよ、ということです」
「ちょっ!?京ちゃん!?」
「兄さん!お待たせ」
奏音の言葉を無視して扉を開ける。もう一度振り向いていたずらっぽく笑ってそっと耳に口を寄せる。
「コーヒー馬鹿なので難しいとは思いますけどね」
「もぅ」
少し顔を赤らめながら京にチョンとチョップをかまして車に乗り込んだ。




