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冷静になって考えてみれば、家を訪れるのは二度目であり、かつ一度目の時も特別何かあったわけではなかった。そのことから考えると、特別進展があるはずもないということが理解できる。そのことを象徴するかのっごとく、本当になにもなく一日が過ぎていった。だから、奏音にとってしたらこのまま家を辞することまでがそれからの予想だったわけだが、その予想は英章の唐突な言葉で区切られた。
「時間も時間だし、ご飯食べていきなよ」
「えっ、えっ?いや、でも悪いですし……」
「別に気にしなくてもいいし。なぁ?京」
「そりゃご飯作るの私だし!はぁ……まぁいいけど。奏音さんもゆっくりしてください」
「あ、ありがとう。というか、ご飯作るの京ちゃんなんだ」
どこか遠慮と、本当にいいのかという思いを乗せながら奏音がつぶやく。
「ほらっ、兄さんは料理が……」
その京の言葉で英章が料理だけは唯一苦手としていることを思い出す。最近ではデザートこそある程度は作れるようになってきているけども、やっぱりどこか抜けるところがあるのは、客観的事実でもある。
「料理だけはなぁ……。京、今日の晩御飯は?」
「今日は中華系統。奏音さん、辛い食べ物大丈夫ですか?」
「激辛とかなら無理だけど、普通程度なら大丈夫」
「なら、問題なしですね……」
そういってエプロンを翻してキッチンに向かう京。それを頬杖をつきながら見送る。
「京ちゃんいいお嫁さんになりそうですよね」
「そうだな……料理の腕は通常の主婦並みにあると思うよ。うちのお母さんが幼いころから作らせていたからね」
「なるほど。それで逆に英章さんには教えてもらってなかったんですか?」
「そうだね。だからバリスタになるという話をした時も驚かれたよ。まぁ、応援してくれていまやって感じだけどね」
「立派なバリスタさんですもんね。料理方面は華央さんがやってくれますし、案外問題ないんじゃないですか?」
「奏音ちゃんは僕みたいになっちゃだめだよ」
「私の師匠がそういいますか」
自身のことでありながらそんなことをいう英章に笑いは禁じ得なかった。
そんな様子を油と闘いながら聞いていた京は自身の複雑な感情とも考えていた。英章が好きという感情を持つのはコーヒー以外に来る時があるのだろうか。そもそも自身のブラコンぶりは、少しだけ認めている……少しだけ。そこに現れ、楽し気に会話をしている奏音という存在に嫉妬を覚えないといえば嘘になる。
「こんなことだったら維持張らずにバリスタ目指してもよかったのかなぁ」
中華鍋を振りながら一つため息をついた。




