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ココアのない喫茶店  作者: 椿ツバサ
マーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ』―――『ほかの理由はともかく、砂糖やクリームのはいった本当のコーヒーが飲めなくなったことだけでも、彼女は北軍を憎んだ』
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 1月の最後に、最後のテストを終えると後は春休みと同様である。学生の春休みは長いと聞いていたが、夏休みのソレ以上に長くゆったりとした空気が流れている。奏音はというとこの機会にバリスタ資格試験の為に自力での勉強も進めている。テストは2月末……残りが一月を切っているという事実は重くのしかかっている。

「うん。美味しいな。メキメキうまくなってるよ」

「ありがとうございます」

 奏音が淹れたカプチーノを一口テイスティングした英章が小さく頷き笑みを浮かべる。

 奏音が淹れたカプチーノは確かに英章から受け継いだような、クレマの癖、甘味、酸味、香味があり余計な緊張さえしなければテストも無問題で進めるだろうと推測する。基礎知識も恐らく大丈夫であろうことを考えると問題があるとすれば味覚テイストだ。京都を訪れた際のカッピングテストでは上場の成績を見せたとはいえそれが偶然である可能性も否めない。彼女の実力を信じるしかないだろう。

「にしても、ごめんなさい。家まで押しかけちゃって」

「誘ったのは僕だし気にしないでよ。京も今日は学校だし、クレフも休みだしね。むしろおもてなしもほとんど無しでごめんね」

「い、いえ。もとをただせば私の言葉が原因ですから」

 少しナヨナヨと言葉を濁しながら視線を逸らせる。

 それは数日前。クレフの仕事をしている最中に雑談気味に発した言葉が原因だ。バリスタライセンステストを受けるに当たり自信のほどを伺ったところ、心配をこぼしたのだ。それならばと1からテストを見てあげようと英章が提示したのだ。そのときの奏音の慌てぶりと、それを面白がるようにニヤニヤと笑う茉奈、奏音以上に慌て『お兄ちゃん』呼びに戻る京と、その記憶は奏音の頭にこびりついている。その間英章は何がこの状況をもたらしているのだろうと疑問に感じており、そのときいた常連のお客さんが1人苦笑をしているという状況になっていた。

「そういえば、なんか奏音ちゃんが来てから京が『お兄ちゃん』と呼ぶ回数が増えてきた気がするんだよなぁ。なんでだろ」

 英章も同様の事を回想していたのかふとそんなことを言いだす。それは恐らく私と英章さんの関係が気になるからでしょう、とは口が裂けても言えないので、

「そうなんですか」

 という曖昧な言葉で終える。

 京も気づいているということは茉奈から聞かされているので微妙にやりにくい。そもそも自分のこれが本当に“恋”と言うのかが気になるところでもある。来期の授業では恋愛心理学を取ろうと決意をする。大抵そんなことをすると、人間の本質というか、理論を理解するからというかで、後悔することになるのが心理学であるようにも思えるが。

「さてと、次は僕からカッピングテストをするよ。先生―――京音里さんのところでやったのと同じような形にするから。制限時間は1つの群につき3分。合計12分でいくよ」

「はい!……12ってことは4つ?」

「さぁ、どんな結果を見せてくれるか。ちなみに最後の一個は基本的に答えさせる気はないと思ってくれていいよ」

「ちょ、ちょっと~」

 英章のその言葉に思わずため口風味の言葉ですがる奏音。

 肩の力が抜けていることを確認しながら英章はコーヒーづくりに取り掛かった。

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