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ココアのない喫茶店  作者: 椿ツバサ
トルコのことわざ―――『コーヒーは地獄のように黒く、死のように濃く、恋のように甘くなければならない』
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 バーの方に移ると、そこはそれでなかなかの出入りをしていた。時間の関係上、京は帰宅したがその他のメンバーは未だ残っている。完全に労働基準法に反している部分もあるのだが……そこはご愛嬌ともいえる。一応、時間外労働の分は、本来定休日にあてている日に働いたというていにして給料を支払うという形にして法の抜け目を使ってはいるが。

 奏音はやはり、まだアルコールを用いた種類のドリンク提供はやっていなかった。英章はやってみてもよいのではと勧めてみたのだが、やはり自分で飲めるようになってからという自分ルールを優先させた。その分、アルコールを含まない飲み物に関してはできるだけ極めようと今もこうしている。

「お待たせしました、エスプレッソ・マージとクリーム&ココアフィーユ・ベリーです」

 客一人一人に丁寧に商品を提供していく。クリーム&ココアフィーユ・ベリーを始め奏音が創作した料理が注文されるとなかなかに嬉しいものだ。そういったところはやはりまだ子供らしさというものが抜けきってないように感じる。

 厨房をちらりと確認するとクールに注文をこなしていく店長、副店長コンビ。この二人はいい意味であか抜けていないところがあるので、逆に大人らしさというものが分かりやすくみられる。その姿はカッコイイという表現以外に当てはまるものはない。

「奏音ちゃんお疲れ。とりあえず、今出ている分は片づけ終わった感じだよね」

「そうですね。少し休憩を取れる感じですかね」

 その休憩というのはあくまでも気を張り詰めなくていいという意味であってバックヤードに戻るというものではない。

「それで、イケメンを見て疲れを取ってた感じ?」

「……何言ってるんですか」

 自分はまだ子供だと認識したところだが、ただ恥ずかしがるだけの子どもはいい加減に脱したと思っているのでなだめツッコミとなってしまう。まるで、ミキちゃんのようなことを言う。

「いきなりそんなことを言うなんてどうしたんですか?」

「ちょっと、京ちゃんと話しててね。そうだ、奏音ちゃんは恋をして綺麗になる女の子ってどんなふうに例える?」

「休憩のときに何の話してるんですか……」

 京ちゃんらしくもないから茉奈さんがそんな話をし始めたんだろうな、と勝手に想像しながら頭を巡らせる。

「恋は魔法とかいろいろ言いますが――――う~ん」

 視線を巡らせて店内を観察する。

「しいてあげるなら、ロブスタ豆かな」

「ロブスタ?せめて、アラビカ種じゃなくて?」

 高品質なものが多いアラビカ種とひきかえに、苦みや渋みが強いロブスタ種を選択したことに違和感を覚え尋ね返す茉奈。そもそもコーヒーで例えているということのツッコミも忘れてしまっている。

「ロブスタって病気に強いじゃないですか?そのくせ苦味も強いし……、それって、甘いだけじゃない恋と同じかなって。だけども、ロブスタ種はベトナムコーヒーなどのように甘くして飲むのが主流です。たとえ苦味を覚えたとしても美味しく添加されて……だからロブスタ種かなって」

 その言葉に茉奈は理解すると同時に軽く呆れもする。

「半年前の奏音ちゃんなら違う言葉を選んでたと思うんだけどなぁ」

「……茉奈さんは、なんて例えたんですか?」

「恋は化粧水って。そして京ちゃんはファンデーションになるのかなって」

「ファンデーション?」

 その意味を問い返そうとする奏音だが、新たにお客さんがやってきて疑問が中途半端に途切れてしまう。茉奈が新たな客を接客する中、化粧水かと喉の奥で反芻をさせた。

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