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ココアのない喫茶店  作者: 椿ツバサ
トルコのことわざ―――『コーヒーは地獄のように黒く、死のように濃く、恋のように甘くなければならない』
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 世はクリスマスシーズン。12月24日。クレフでは特別変わったことを行うわけではなくいつも通りの経営状態を維持する。変わった部分と言えばインテリアとしてクリスマスツリーを店先に出している程度だ。そもそもクレフは都会と田舎の境目のような街。時間帯等によっては人もまばらで客獲得には難しい時期となってしまう。そこで勝負を仕掛けるか仕掛けないかは店によるのが一般的だ。事情が変われば別だが。

「ごめんね?折角のクリスマスに」

「気にしないでください。どうせ暇でしたし」

「そういってもらえると助かるよ……京。2番テーブル、カフェモカ」

「茉奈さん。こちらカウンター席、アメリカンコーヒーとバニラエッセンスチョコクレープ」

「はい、すぐ持っていく」

「わかった~。受け取りました」

 商品を出したらまだ余っている、注文の山を崩していかなくてはならない。華央は奥で必要な分のコーヒー豆を次つぎと挽いていく。もし、これが焙煎を店で行っていたら大変だ。毎年この時期はクレフ御用達の焙煎業者から多目に豆を用意してもらっている。

「にしても、ここまで忙しくなるとは」

「だから毎年この時期は入れる人は全員いれているんだよね。今年は運がよかったよ。全員に予定がなくて……」

 英章は嬉しさ半分、困った気持ち半分の笑いを見せる。この盛況はクリスマスのせいではない。クリスマスに毎年開かれているアーティストのライブが近くのドーム開場で開かれている。今年は男性アーティストの様で若い女性がひっきりなしにやってきていた。会場が夜7時からなので6時までがピークと考えられる。

「でも、今年は奏音ちゃんもこちら側に回ってくれているから注文を早くさばけていいよ」

「私も……まだまだ半人前ですけど。バリスタになるなら経験が多い方がいいに決まってますからね」

 小さく微笑んでそれに返す。その返答に納得がいったかのように英章は大きく頷いてからそれ以上口をはさむことなく注文と向き合う。その英章に一瞬視線が吸い寄せられそうになる自分を律して真剣にコーヒーと向き合う。

 ―――自分の淹れたコーヒーを飲むのは今日は初めてなんだから、きっちり淹れなくてはならない。

 奏音はまだバリスタの資格を得ていない。できれば年内中……という目標だったが次期的には厳しいだろう。

 華央を通してのクレフ全体としてのバリスタ資格講習の誘い。三日間考えたのち受け入れることにした。その時、英章はこの言葉を伝えてきた。バリスタとなるなら今まで以上にコーヒーを淹れることになるだろうということを考慮したうえで大切なことを伝えたのだ。

 講習をうけようと思うということを英章に伝えたときは、嬉しそうに表情を壊していた。それをみて自分の選択が間違いじゃなかったと改めて感じた。そこに英章と並べるようになりたいという下心を隠そうともしない自分に嫌気も差しかけたが。

「先輩、これ追加分です」

「ありがとう。これだけあれば……うん。料理の方任せていいか?」

「了解です。注文品は……サンドウィッチか」

 伝票を確認しながらもすぐに行動を開始する華央。昼時を過ぎたので油断していたがそれでもまだこういった料理注文がある。チラリとホールを確認して談笑を楽しむ少女たちを見て、また一滴ずつ、大切にコーヒーを入れ始めた。

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