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カッピングテストの結果は最後にまとめて知らされるということだったので次のテストへと移ることになった。その場所へとカウンターへ呼び寄せる英益。その後を追いながら京が尋ねる。
「どうでした?」
「んっ……んー。一つ目はよくセンブリでも嗅ぐ匂いや苦みがあったからたぶんあってると思う。だけど、二つ目以降はこれかな?ていうのはあるけど自信はないな」
肩を軽く落としながら息をつく奏音。それに加えすべてのカッピングを終えるのは断トツで奏音が遅かったのもある。英章は3つ目こそ少し悩んだ素振りをみせたもののスラスラと書いており、苦手と発言していた華央だって違いをキチンと吟味していた。そこをかんがみると自分がどれだけ素人なのかということが思い知らされる。
「んー、でもそういった違いが分かるだけすごいと思うなー。ね?」
茉奈が横から話に割り込む。茉奈と京はカッピングして余ったコーヒーの処理として残りのコーヒーも飲んでおりカッピングではないものの味の違いを見ていた。もちろんあるセンブリでのバイト経験がある為にこれかと思えるものや匂いの違いを感じようとはしたもののどれ一つとして自信があるといえるものはなかった。もちろん、味音痴というわけではなく味や匂いが近しい豆をあえて選んでいるというものがあるから仕方のないことなのだ。
「さて、二つ目のテストだ。ヒデのところではエスプレッソの機械に何を使っているんだ?」
「セミオートです」
「なら都合もいい。ウチもセミオートだ。ということで、二つ目のテスト。エスプレッソを入れてもらう。豆はこちらで用意したグァテマラ。一応説明を加えると適度な酸味と芳醇な甘みが特徴。さっ、まずは……カオから」
「俺からっすか……」
少し呟きながら豆の入った缶をてにやりエスプレッソ機械に近づく。その近くにも豆を挽くのだが……。
「えっ!?これ全部ピーベリーじゃないっすか!?」
思わず声を荒げる華央。
「ピーベリー?」
ききなれない単語に首をかしげる奏音。一体何に驚いているのか。英章に説明を求めようと見上げるが英章も驚いている。
「なんだ、奏音ちゃんには伝えていなかったのかい?」
「あっ、あぁ。はい。ピーベリーを用意することもめったにないですしそれを教えるなんて頭にも掠めてませんでした」
「あの……。ピーベリーって?」
控えめに尋ねる奏音。豆が何か特殊なものなのであるならば自分もきちんと理解しておく必要性がある。もちろん、それを知っていることもこのテストなら話は別ではあるのだが。
「先生。あの」
「あぁ。別に大丈夫。私の方から説明するとコーヒー豆って豆どうしが接するから平らな面ができるんだ。これをフラットビーンズと言う。普段使っているものだと思う」
そう言いながら近くのコーヒー豆が入っている瓶を持ってきて奏音、京、茉奈に少量づつ渡す。コーヒー豆の形を確認しろということだろう。
「それとは違い時折全体的に丸みが帯びる場合があるんだ。それをピーベリーと呼ぶ。もちろん成分に差はないけど、焙煎時に火が均一に通ることから風味がよくなると言われているんだ」
説明を加えながら華央からコーヒー豆をいくつか持ってきてまたしても三人に渡す。手触りや見た目からも確かに丸みを帯びて形が違うのが分かる。
「そうなんだ……。そんな豆をわざわざ」
「うん。欠点豆があるなんて言われたら敵わないからね。今回の為に取り分けた」
「いや、別に僕も益岡もそんな難癖つけませんよ。もちろん奏音ちゃんも。まぁ、珍しいもので淹れさせてもらえるのは嬉しいですけども」
「ともかくそういうことだ。華央。やってくれ」
「はいっす」
慌てて頷きエスプレッソを作成していく。奏音はどうなるか期待と不安を胸の中でゴチャゴチャと混ぜ合わせながらその後ろ姿を見ていた。




