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ココアのない喫茶店  作者: 椿ツバサ
北原白秋―――『やはらかに誰が喫みさしし珈琲ぞ紫の吐息ゆるくのぼれる』
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「……京ちゃんって朝弱かったんだね」

 ウトウトと舟をこぎながらソファーの背にもたれかかっている京を見て少し笑いながら奏音は告げる。

「京は昔っからこうだからな。低血圧気味というか」

 船をこいだままの彼女を見て兄である英章が代弁する。

「なんか、英章さんのことだからそのたびに眠気覚ましだってコーヒー呑ませてそうですね」

「うっ……」

「あれ?図星?」

「まぁ、そうだね。いい加減に怒られたけど」

「先輩らしいや」

 皿を持って帰ってきた華央とクスクス笑いながら茉奈が席に座る。

 バイキング形式の朝食であるために順番に取りに行っていた。バイキングというのは人のそれが出るらしく、華央は和洋中韓など関係なく自分の好きなものをバランスよくとっている。対して茉奈は和食中心の様で刺身やみそ汁などを取ってきていた。

「時々京ちゃんも嘆いてたからなぁ。ウンウン、お兄ちゃんの練習に付き合ってえらいえらい」

 普段ならお兄ちゃんという言葉に反応して茉奈に言い返す京だがコクンと大きく首が垂れるだけで返事と返していた。その様子を見てこのままでは満足にご飯も取ってこれないと判断する英章。

「京。適当になんか取ってくるな」

「うん……お願い」

「は、はは。奏音ちゃん。いこっか」

「はい」

 頷いて英章と共に席を立つ。華央達はそれを見送りつつ、ご飯を取ってる最中にしていた雑談の続きをしているようだ。

 とりあえずでパッとみると特段コレッといった食べ物が目に入らなかったので人がいない場所に向かって歩き出す。そこにあったスクランブルエッグを中心に合わせるようにとってくる。

「英章さんは、洋食中心なんですね」

 覗きこんだ先にはハニートースト、フルーツトマト、リンゴ粥等が並んでいた。

「というより、甘め?」

「あはは、まぁ甘いものが好きだし。あっ、このリンゴ粥は京の奴。あんまり噛むものよりは飲みこめる系統の方がいいかなって」

「へー……そうなんだ」

 と、小さく口に遺して甘い物から連想されるものを引っ張り出す。視線はドリンクコーナーに向けた。

「私も甘い物大好きです。だから、少し楽しみにしているんですよ、今日」

「えっ?」

「京音里さん……でしたっけ?私からしたら先生の先生。大師匠ですね。大師匠さんからOKもらったら……、その、私に一番にココアを飲ませてください」

「奏音ちゃん」

「もともと、私はココアを飲みにセンブリに足を運んだんですから」

「……ははっ。奏音ちゃんが良ければ。まぁ、あまり優遇しすぎると京あたりから小言言われそうだけど」

「そうですね。地味に華央さんもなんかいいそうですけど」

「あー。アイツも今回みられる側ってのになぜか僕の応援に徹する気満々だし」

「まぁ、デザート系等に関しては張り切ってましたけどね」

「だね」

 クスクスと笑いあいながらこのままお喋りするわけにもいかないのでさっさと料理を取り揃えて席へと戻った。

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