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ココアのない喫茶店  作者: 椿ツバサ
ヨハン・セバスチャン・バッハ―――『千のキスよりすばらしく、マスカットぶどう酒より甘い。コーヒー、コーヒーはやめられない』
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6

 宴が終えたのは夜の9時を回ったところだった。お酒も出ていたとはいえ成人組は控えめに全員のんでいたためむちゃくちゃに酔っているという事態もなく、まだ呑み慣れていない茉奈が唯一ほろ酔い加減という程度だった。

「にしても、奏音ちゃんのボドゲプレイヤーっぷりは本当異常だよね」

「異常ってちょっとひどくないですか!?」

「いや、実際それでオレをぼこぼこにしたわけだし」

「う、うぅ」

 そういわれたら奏音は何も言い返すことができない。

 奏音がアナログゲームにそこまで詳しくなかった時でも知っていた人狼ゲームを今回行った。ただし、人数が少ないので一日で決着のつくワンナイト人狼となってはいたが。ワンナイト人狼はカードはプレイヤーの数プラス2枚を持ち入る。役職は誰か一人のカードを見る、もしくは使われていないカードを見ることができる占い師、誰か一人とカードを入れ替えることができる怪盗、市民を欺き、仲間がいれば仲間を知ることができる人狼、そして残りは村人という構成である。

 その結果、人狼になればうまく占い師や怪盗を騙ったり、人狼であるとカミングアウトしたうえで怪盗に入れ替えられたと主張をしたりなどで場をひっかきまわし、怪盗や占い師でも冷静に対処をして、村人は村人で直感的に人狼を見つけ出したりと活躍を見せ、その活躍の餌食となったのが人狼になればすぐ露見したり、占いで人狼を突き止めたと思ったらいつの間にか追い詰められていたりした華央であった。

「特にあれ傑作だったよね。店長、副店長コンビが人狼になったとき」

「あぁ、あれか。益岡7連敗目のやつ」

「うっ、あったっすねぇ」

 英章に言われて思い出すは苦い戦い。英章と共に人狼となり、奏音は占い師であるとカミングアウトした試合だ。そこで華央が自分は怪盗であるとカミングアウトをして奏音が京を村人と占ったため、自分は京と入れ替えたと騙った。そこで流れは2人のどちらかが嘘をついているか、2人とも本当で人狼が隠れているか、もしくは人狼のいない平和村となるのかの選択を迫られ、全員で平和村を選択した。そこで勝を確信していた英章だがオープンしたカードはなぜか怪盗。小さくほくそ笑んだのが奏音だったという試合だ。

「まぁ、奏音さんのコーヒー作り等の昇進もかねていいお祝いになったんじゃないですか?」

 京はテーブルを拭きながらクスクスと笑う。その時―――。

 カランコロン。

 扉が開閉する音。

 その音につられて全員が扉を見る。当たり前だが扉には『CLOSED』と書いてあるのでわかるはずだが。

 そう考えた奏音だがその人物を認めて小さくアッと呟く。

 だが、それ以上に驚いた声を上げたのは、英章だった。

「せ、先生……」

 華央もその近くで口を小さく開けて驚いている。

 やってきたのその客はゆっくりと声をした方を見て口を開く。

「変わらずだな、ヒデ、カオ」

「なんで……」

「たまたま、そこのお嬢さんと知り合ってな。世界とは小さいものだな。まさか『センブリ』の名前を『リンドウ』以外で聞くことになるとは思わなかったよ」

「奏音、ちゃんが?」

 話しを振られる奏音だが自分でも状況が読めずに英章たちとその老人―――、新作デザート作成のヒントくれたあの紳士の顔とをやりとりしていた。同じように状況が読めていな茉奈。

 その中で1人、動揺をなんとか抑え込み冷静に戻った京が切り出す。

「奏音さんとのかかわりは不明ですが―――」

「キミは……。なるほど、ヒデの妹の」

「はい、京です。お久しぶりです、マスター先生―――京音里きょういんさと英益ひでますさん」

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