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ココアのない喫茶店  作者: 椿ツバサ
ヨハン・セバスチャン・バッハ―――『千のキスよりすばらしく、マスカットぶどう酒より甘い。コーヒー、コーヒーはやめられない』
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4

2人の総意でデザート事態は完成をきしたがその後の、

「そういや、これの名前ってなんですか?」

という言葉に決めていなかったことを思い出していた。

「あはは、実はそれ華央さんもよくやるんですよ?」

「えっ?そうなの」

「はい。デザート作り終わった後に『あー、名前なにしよー』って迷ってる姿時々見れるよ」

「へー、そうなんだ。ちなみに華央さん、いつもどんなふうに考えているの?」

「えっと、いつもは兄さんと相談してという感じですね。最終決定権は華央さんに一任しているみたいだけど」

「なるほど……。名前かー」

デザートの名前というのはとても大切なのは奏音も理解している。それにインパクトがありすぎると頼まれないし、どんなものか伝わらなかったとしてもダメだ。かといって他にのまれても商品の印象を伝えることができない。

華央作成のデザートといえば『アークショコラ』や『プリンティラミスモード』とか存在するがどれもが何となくその商品をイメージできる。

「あー、難しいなぁ……どうしよ!」

と部屋の中で声を上げる。その時、部屋のふすまが開いた声がおりてきた。

「ふふっ、ゆっくり、考えてみたらいいさ」

「えっ!?」

「あれっ?お兄ちゃん!?センブリは?」

「少し用があって家に帰ってきたらって感じ。はい、これ」

そう言いながら二人に、珍しくコーヒーではなくオレンジジュースを出す。恐らく冷蔵庫にあった者であろう。

「ありがとうございます。えっと、その」

受け取りながらつい先ほど叫んでいた自分を思い出して顔が少し赤くなる。というか、家帰ってくるにしても盛り上がっていたからか物音に全く気付いていなかった。

「お兄ちゃん脅かさないでよ……。というか、ゆっくり考えてみたらってアドバイスでもなんでもないし」

「んーと、アドバイスかーって、どうかしたの、奏音ちゃん?」

フワフワとしている奏音が気になって呼びかける。

「えっ、あっ……いや、その」

「お兄ちゃんデリカシーなさすぎ」

「デリカシー?というか、お前お兄ちゃんって」

「へっ!?あっ、ちょっ、お兄ちゃ……兄さんのバカぁ!!」

家である点と動揺から今度は京が顔を赤くする。その兄妹のやりとりにスゥーと落ち着いてきて咳払いをして英章を見上げる。恐らく、英章には何の悪気もないのだ。

「それで、なにかアドバイスとかありますか?」

京をかばいつつ英章に問いかける。

「そうだな……益岡が言っていたところもあるんだけど、まず最初にその料理がどんなものかを表す必要性がある。できるだけストレートな部分がいるわけ。『アークショコラ』であれば、ショコラ、つまりチョコレートってことが分かるし、『プリンティラミスモード』だとプリンとティラミスの料理、『エッセンスアフォガート』だとアフォガートだということが分かる」

「ストレートに……」

その瞬間から色々とデザートの名前を作成しだす。だとするならばなんとかミルフィーユという名前になりそうだ。

「そして、もう一つ。その料理を自分が作ったわけだから、どういう想いを伝えたいかを表すことかな」

「想い?」

「アークは放電の一形態と言われている。つまり、食べた人がビターな味でしびれてほしいという想いがあるらしい。モードは、アラモード、つまり現代という意味があるんだけど、あえてアラを抜いているのは現代の人だけでなく未来や歳いった人にも味わってほしいという意味があるらしい。エッセンスはバニラエッセンスを使用しているという部分もあるけど、そもそもが本質という意味もあるから本質を味わってほしいという意味もあるんだ」

「……意外と深いんですね」

「アイツらしくないけどね」

と、小さく笑い声をあげる。

「兄さん、戻らなくていいの?」

その間に落ち着いていた京は時計を確認してから英章に注意を促す。

「えっ、あっと、益岡も待ってるし、そうだな行ってくる。じゃっ、奏音ちゃん、ゆっくり考えてね」

「はいっ!ありがとうございます」

暖かい激励を胸に受けて頭を下げる。

「もう、急に来て驚かすんだから」

「あはは、まっ、頑張ろう。茉奈さんの為にも、そしてアドバイスをくれた、“お兄ちゃん”のためにもね」

「奏音さんまで!!」

弄られた京はまたしても顔を赤くさせて声を張り上げたのだった。


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