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ココアのない喫茶店  作者: 椿ツバサ
ヨハン・セバスチャン・バッハ―――『千のキスよりすばらしく、マスカットぶどう酒より甘い。コーヒー、コーヒーはやめられない』
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 9月終わり、中高の頃とは比べ物にならないくらい長かった夏休みが終わり秋学期が始まる。奏音たちにとっては二度目となる授業選択も終え、やはり一年生というのは学科科目が少ないなとも感じる。外国語科目は一年の時に取っておけという教員の言葉を盲目的に信じてとりあえずとる。そんなことを行っていたためバイトのシフトも大きく変動した。それでもなんとかやりくりをして春学期同様の数を入れることができていた。

 そして変わらずに終業後には華央によるデザート講座と英章によるコーヒー講座が続いていた。

「それじゃ、あたし上がりまーす。皆はまだいるのー?」

「お疲れ様です。私はこれから少し英章さんに教えを乞いますし」

「教えを乞うって。まっ、そっか。じゃっ、お疲れ様でしたー」

 ヒラヒラと茉奈が手を振って帰っていく。それを見送ってから奏音はそっと英章、華央、そして京が集まる場所へと移る。

「帰りましたね」

「うん、そうだね。じゃっ、始めようか」

「はい、そうですね」

「そうだな……。やりますか」

 そして全員で声を合わせて続ける。

「「「茉奈誕生パーティー会議」」」

 10月1日産まれの茉奈の為に行われるこのパーティーの為の準備が粛々と行われていた。普段は流石にこんなことはやらないのだが今回はわけが違う。

「茉奈さん今年で成人ですもんね。どうしましょうか?」

「う~ん……難しいところですよね。茉奈さんってあんな感じだけど絶対お酒とかたばことかやってこなかっただろうからそっち方面の好みは全くわかりませんしね」

「あー、確かに。茉奈ちゃん絶対そうだよ」

「というか、みんなあんな感じって。まぁ、いいたいこと分かるけど」

 少しいさめながらも笑って英章は進める。

「まぁ、多少はお酒も用意するか。コーヒー酒も作ってるし」

「兄さん夜何かしてると思ったら、こんな時まで」

「ま、まぁまぁ、京ちゃん。ウチらしいじゃん」

「あはは、そうだね。オレもブランデーを多めに作ったデザート作るかな」

「そっか。じゃあ私は内装とか作ってみます。あまり派手なのはできないですけどテーブル周りは飾るぐらいは」

 順に色々と決まっていく。

「あっ、じゃあ私も京ちゃん手伝おっかな」

「いや、奏音ちゃんはオレ達側来て」

「えっ?こっち側って料理とかってことですか?」

「そっ、一番歳も近いから色々試行錯誤したいしそれに」

 そういって英章をちらりと見る。話がつかめず奏音もつられて英章を見る。英章はうんうんと二度ほどゆっくり頷いてから口を開く。

「まぁ、今までコーヒーは僕か益岡が、デザートは益岡をリーダーとして作ってきたけど夏休みの間ガッツリと練習をした奏音ちゃんの事も考えて特にデザート作成部隊に投入しようかという話が合ってね」

「えっ?えっ!?私がですか?」

「もちろん」

 迷いなく頷く英章にさらに戸惑う。

「だからそれも兼ねたテストを茉奈ちゃんを審査員として行ってもらう。まずはカフェオレを誰の手も借りずに作ってほしい。そして」

「創作デザートも何か作ってほしい」

 店長副店長コンビによる圧倒的な言い回しに戸惑いを隠さずにはいられない。

「あはは、まあ、そういうことらしいんで奏音さん頑張ってください」

「み、京ちゃん知ってたの?」

「まぁ、一応は」

「そんなぁ~」

 少し頼りない声を出しながら茉奈の誕生日という楽しみなイベントが少しだけ胃の重い物になってしまった。


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