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ココアのない喫茶店  作者: 椿ツバサ
アン・モロー・リンドバーグ―――『よいコミュニケーションは、ブラック・コーヒーと同じくらい刺激的。その後は、なかなか眠れないもの』
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「……はい、どうぞ」

 少し呆れたような声持ちで奏音はワクワクという擬音が各種からはみ出ているちっひーに出す。そこには前、教えてもらったデザートを家庭用の簡単な材料で再現したもの。

「あっはー、美味しそう!」

「なんで、バイトも何もないのにわざわざ大学方面まで来ているのか……」

「それはあたしの専属メイドだからだ!」

「……ユウくん、二つあげる」

「おっ、ありがとう」

「ちょいちょい!あたしのそれ!」

「誰が専属使用人よ!」

 全くと息をつきながら奏音は自分も腰を下ろす。

「というか、ここ私の家なんだけどね。メイドだとしたら私のメイドだし」

「そういやそうだな……。まさかのミキちゃんとちっひーが隠された姉妹とかそんなんじゃないかぎりあり得ないね」

「だから!私をメイドにしない!」

 奏音の半ば叫ぶようなツッコミに笑いが起きる。

 バスのある駅からほど近い場所に建つアパート。そこにミキちゃんが一人暮らしをしており、デザート作りを学んだという話をきいたちっひーの提案で集まることになったのだ。絶対無理と拒否を申し出たものの拒否権はほとんどなかったようだった。

「じゃっ、いただきまーす」

「うん、いただきます」

「いただきます」

「……はいはい。いただいてください」

 奏音の言葉を最後に一斉に一口運ぶと口々に美味しいと声が上がる。

「んもー、なんで色々できるの!この天が何物も与えた存在!」

「意味わかんないし、なぜ罵倒されるのか、あーもう」

 恥ずかしさとかも合わさって早く別の事に話題をシフトさせようとミキちゃんに話を振る。

「今更だけど、ミキちゃんって京都出身なんだよね」

「そうだよ。流れ着いたのがこの大学ってだけ」

「京都かー。いいよな。舞妓さんとかっているの?」

「京都っていっても市街地だからいなかったよ。まぁ、中心部とか観光地とかは結構見かけたけど」

「あれ?そういや、ちっひー方言とかないよね。イントネーションも普通だし。ほにゃららどすえーとか」

「そんなの歳言ってる人かそれこそ舞妓さんしか言わないよ」

「えっ?そうなの!?」

「そうどすえ」

「いや、あからさまな京言葉!」

「カノンは関西に行ってもツッコミだね」

「不名誉!」

 よくわからない断定にすぐ返す奏音。でも、話のすり替えには成功していたのでそれ以上は踏み込まずに静かに作ったデザート、アークショコラを口に運ぶ。といっても材料はだいぶ安く控えめにしたものでスポンジまでは焼いておらず市販のものだ。だから正しくはアークショコラ風のケーキとなるわけだが。

「そういや、関西弁って地方によって違うの?」

「うん。京都は京都の方言。少し語尾が上がるかな?一番テレビとかにも出てる大阪弁とはやっぱり違うし、かまへんとかは言わないかな。同じに兵庫弁とかはなになにしとう?っていう感じだし」

「へ~、なるほどね。じゃあ、京都弁で感想を」

「えっと、急にそんなに言われてもこまるわ~。ん~、でも美味しいわ。あんがとね、カノン」

「はい、カノン広島弁で」

「知らないよ!?」

 ちっひーの無茶ぶりに思わず驚く奏音。そのツッコミに、またしても小さな笑いが起きるのだった。

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