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8月の第一週が終わると同時に水城大も長期休校へと入る。春学期の終わりだ。単位が取れているかの情報は8月の三週目あたりに発表されるらしい。それまではドキドキの日常をこなしていかなければならないのだが、テストも基本的にこなせたつもりであり、またレポートも友人らと協力して何度も見直し提出したので間違いはないだろう。
問題があるとするなら大学に入ってから初めて知ったGPAというものだ。GPA、つまりは~4の五段階評価で自分の成績が表わされそれの平均が自身のポイントとなる。そのGPAが高ければ次の学期に取れる単位の数が多くなったりとアドバンテージが大きい。もちろん単位が多く取れるというのはニアリーイコールとして授業が多くなりアルバイトの入れる日が少なくなるかもしれないが。
「珈琲学の授業があればS評価間違いないだろうけどね」
「そんな授業ありません」
休憩時間を使いボードゲーム、ラブレターを茉奈、英章と興じていた。
プレイヤーは姫に恋する人物となりラブレターを渡すために様々な協力者と共に姫に渡すというもの。ルールーとしては簡単で全16枚のカードから最初に1枚ランダムでひき使わないカードが選ばれる。その後プレイヤーが全員1枚だけカードを引いてゲームがスタートとなる。カードは強い順に姫、大臣、将軍、魔術師、僧侶、騎士、道化、兵士となっている。拡張パックもあるがそれはまだ買っていないようだ。
プレイヤーは順番に山札からカードを一枚引きどちらかを選択、カードを捨てることとなる。カードにはさまざまな効果が書かれておりその効果によっては脱落をしてしまう可能性があるのだ。例えば姫のカードには『このカードがあなたの捨て札に置かれた場合、あなたは脱落する』と書かれている。もし、魔術師というカードを誰かが捨てて効果が発動した場合、『あなた、もしくは対象のプレイヤーは手札を捨て札にし、山札からカードを1枚引く』という効果があるため、魔術師が姫を隠し持っているプレイヤーを示された場合は姫持ちのプレイヤーが脱落となってしまう。
勝利条件は自分以外が全員脱落する、もしくは山札が無くなった時に一番強いカードを持っていることとなる。
「でも、大学のシラバスは面白いものがあるんじゃないの?僕は専門卒だからよくわかんないけど」
「あぁ。何の意味があるんだって授業はありますね」
「あたしのところにも。そういう授業は単位が取りやすかったりするし、カモにしてるけど。あっ、奏音ちゃん、魔術師」
兵士のカードを捨てながら奏音にアタックする。兵士は一番弱いカードではあるものの能力事態はかなり強く、対象のプレイヤーに兵士以外のカードを言って、それが当たっていた場合脱落に持ち込めるというものだ。
「違います」
奏音は姫のカードを持ちながらほっと息を吐く。つい先ほど引いたこの姫のカードは強力だが、反動も高い。もう少し後のターンでひけていればと思うがそこは運であるので仕方がない。
「例えばどんな授業が?」
「あたしが受けた授業で一番変わっていたのはコミュニケーション学かな。それだけだったら普通なんだけど、ダンスを通してコミュニケーションを学ぶというもの」
「へー。そんなのが。私のところは笑いを通してコミュニケーションを学ぶというのがありましたね。友達が何度も面白くないなって呟いてたのを覚えてます」
少し悩んだ素振りを見せてから将軍のカードを捨てる。将軍の効果は手札を取り換えるというもの。すぐに茉奈を指定してカードを入れ替える。やってきたのは兵士のカードだった。
「そういうのを聞くと僕も大学に出てたらなって思うよ」
ノータイムで僧侶のカードを捨てる英章。僧侶は次の自分のターンまで自身へ能力を向けられないというものだ。
それをうけて茉奈はますます渋い顔をしてカードを引く。
「いいことばかりじゃないですけどね~」
道化のカードを捨てて英章を選択。道化の効果により英章の持つカードを知る茉奈。
「私はまだ春学期を終えたばかりだから何とも言えませんけど、やっぱりそんなものですか。茉奈さん、姫ですよね」
兵士のカードを捨ててゲームセットと言わんばかりに宣言する。
「負けた—」
パラリとカードを落とす。これで残りは英章と奏音となった。
「やっぱり強いな、奏音ちゃんはっと。でもって僕も負けた。魔術師カードと、大臣カードで合計12で負け」
大臣の効果は自分の合計が12以上になれば敗退するというもの。大臣の強さが7であり魔術師の強さが5なので合計12となる。
「ふぅ、運勝ちでした。さてと、そろそろ休憩も終了ですね」
チラリと時間を見る。13:50。丁度暇な時間に三人そろって休憩を取っていたのだ。
「あとはボドゲ学でもSとれそうだよね」
「もはや遊びじゃないですか」
苦笑いをしながら茉奈の言葉にツッコミを入れてラブレターを片づけた。




