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食事も終えて帰りの電車。
華央は途中で別方向に別れたため、現在、特急に揺られているのは4人。空はもう黒に染まっており星とまん丸い月がともっている。
「だけど、本当のところ、ブラインドサッカーやってみない~?」
話しは将来何になるかというもの。そのさなかで茉奈はしきりに奏音を勧誘している。
「でも、私も別に平凡ですし、そもそも大学も違いますから」
「外部からの人材もOKだよ」
「いえ、流石に」
苦笑いをして茉奈に断る。そしてまた話をふられないように京に話しかける。
「京ちゃんはなにかあるの、夢とか」
「そうですね……。なりたいものというのは今は無いです。しいてあげるならバリスタではないぐらいです」
「僕そんなに京に色々やったっけ?」
「自覚ないからダメなんです」
英章は首をかしげて困ったなという。鈍感というよりはコーヒーにかける情熱が高すぎるがためにも方向性をい見失っているように思える。
「奏音さん誘ってますけど、茉奈さんはなにかないんですか?」
「あたしはメディカルトレーナーかな」
「メディカルトレーナー?」
「ほら。怪我とかしたときリハビリするでしょ。それをサポートする専門職の事」
「あぁ、なるほど」
めざすものがしっかりしている茉奈にへーと頷く。たしかにらしいかもしれない。なんだかんだで献身的にサポートしてくれる気がするのだ。
「奏音ちゃんは?」
「私は……、うーん。とりあえず大学入ってって感じだったからなぁ。何となく自分の学力で行けそうなところで興味のあった学部を選んだ感じだし」
奏音自身、指定校推薦での入学だったため受験地獄に巻き込まれずにすんでおり、かなり熱い情熱がもとでいったわけではないのだ。
「バリス―――」
「バリスタも中途半端になりそうだし。難しいところですね」
英章が口を開くと同時にその気配を察知していたがためにかぶせるように否定する。英章はその行先の口を小さく閉じる。茉奈は肩を震わせて笑っていた。
「英章さん将来的に店をどうしたいとかあるんですか?」
「僕?そうだな……、とりあえずは益岡を一人前に育ててお店をもう一回りくらい大きくさせれたらなって感じかな。その時には益岡も独り立ちしてるかもだし、皆もそれぞれ夢をつかんでいなくなってるかもしれないからまた別のメンバーになってるかもだけど」
「はいはーい。だとしても、あたしはひいきにしておくよ~」
「あはは。ありがとう。その時はなにかサービスするよ」
「でも、可能性として華央さんがいなくなったからできる副店長という枠を奏音さんがやるという―――」
「いや、ないから。ないから……たぶん」
絶対と言い切れないのはコーヒーの知識が増えてきたことやお世辞かもしれないが色々褒められる点から。自分自身でもそれは分かっている。
「あはは。僕としてはそれはそれで嬉しいかも。新しい弟子?が増えた気分だし」
「だとしたら華央さんが奏音ちゃんの兄弟子になるんだ」
「益岡は俺だけじゃなくて、元の店では別の人を師事してたから正しくはただの先輩後輩関係なんだけどね」
英章は肩を揺らせて笑う。
プシュッと音が鳴って電車の扉が開く。
「私ここなので」
「あっ、そっか。バイバイね」
「はい、さようなら」
奏音は手を振って電車を出る。プシューと閉まって電車が動き出すまでこちらに手を振っていたメンバーがいなくなったのを見てから歩き出す。
「ユメ、か」
正直なところバリスタは否定したものの本当に興味が全くないわけではない。それに『センブリ』という店や雰囲気、英章らも気に入ってる。
だからこそ、自分がどうしたらいいのかわか内のだ。
「……、なんなんだろ」
最近になって気づいた、この胸の焦がれる気持ち。
それはバリスタという仕事に対する憧れからくるものなのか。それとも目新しさに興奮する子どものそれなのか。
一度っきりの人生、どうしたらいいのか奏音は分からずにいた。




