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ココアのない喫茶店  作者: 椿ツバサ
ジェームス・マッキントッシューーー『人間の意思の力はその人が飲んだコーヒーの量に比例する』
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「あたしの目に狂いはなかった!」

 すべての行程、片づけも終えた茉奈が放ったのはそんな自信満々の言葉だった。

 結局奏音はその後の練習から最後に行われた変則的なルールの試合にも参加させられてそこで初めてにしてはそこそこのプレイングを見せていた。

 初心者も多く慣れていない人もいるということで走るのは禁止、無理やりボールを取りに行くのも禁止にして、できるだけプレイヤーとそれをエスコートする人を近くにするというものだった。また、キーパーもなしにしていたので本格的なルールとは大きく異なっていたが。

「私何めざしてるのかわからなくなってきましたよ」

「えっ?ブラインドサッカープレイヤーボドゲ覇者バリスタじゃないの?」

「何か知らない間に色々付加されてますね。というか私普通の心理学部生です!」

「いや、ブラインドサッカー、ボドゲ、バリスタというか喫茶店でバイトしているというのは普通ではないと思いますけど」

「うっ」

 京の冷静なツッコミに詰まる奏音。確かにその通りであるため言い返せない。

「でも、ナイスセーブが多かったのは事実だしやっぱり才能とかあると思うんだけどな。ブラインドサッカーにしても、ボドゲにしても、バリスタにしても」

「あはは……、才能、ですか」

 少し苦笑いしながら自分はそんなものないですよと答える。

 その言葉は謙遜のつもりで言ったわけではなく本心からそう思ってる。

「まぁ、ボドゲに関しては最弱王こと華央さんとの比較ってのがあるのかもしれないけど」

「だーれが、最弱王だ」

「おわっ」

「えっ?」

 茶化すように言った茉奈に影が落ちて声も降ってくる。驚いた顔を上げるとその先には華央と少し後ろに英章の両名がいた。

「あっ、兄さんたちやっと来たんだ」

 一人落ち着いている京が二人に挨拶する。奏音たちはまだ状況が理解しきれておらず少し辺りを見ている。

「あはは、ごめんね。もともとセンブリ今日お休みにしてたじゃない?なんでかっていうと、ちょっとこの辺りでバリスタ仲間と会う約束してて。だからそれ終わったらここによる予定だったんだよ、元から」

「そう、だったんですか」

「まさかオレを最弱王と呼んでる場面で出くわすとは思わなかったけどな」

「えー、まぁ~、事実だし」

「そこは陰口きかれちゃったとかないの?」

「やだな~。裏だけで色々いう訳ないじゃないですか~」

「それって表でも言ってるってことだよね」

「もちろん」

「少しは否定してよ!」

 怒ってみせる華央にエヘヘと笑う茉奈。この二人の漫才のようなやり取りは店内、店外問わず健在なようだ。

「あっ、そうだ。私も」

 奏音はそんな風に見ていたが思い出したように英章の顔を見る。

「なんでここにきてまでコーヒー京ちゃんに持たせてるんですか?」

「あっ、どうだった、美味しくできた?」

「奏音さんがどんどん兄さんに似てきたって話をしてるくらいには美味しくできてたよ」

「京ちゃん、まだその話するのー?」

「あはは、ならよかった」

 そのやりとりに美味しくできていたんだと英章は納得するように頷く。コーヒーの残り香を探すように鼻を引くつかせたが当たり前のようにコーヒーの匂いはどこかに流されていた。

「あっ、そうだ。なんで今日のコーヒー、グァテマだったの?」

「あー、グァテマラなら酸味も強いからさっぱりできるんじゃないかなって。それに香りも強いし、外でも匂いを感じやすいんじゃないかと思ってさ。流石にもう残ってないみたいだけど」

 英章の説明に京と茉奈がクスクスと笑う。それは奏音が推測した通りだったわけなのでその奏音ははぁとため息を吐く。

「どうしたの?」

「い、いや、兄さんの説明通りに奏音さんも説明してたからさ」

「本当、華央さんよりセンスあるよ」

「ちょっとー!?」

 ケラケラと笑う茉奈によって急に戻ってきた矛先に驚きながら声を上げる華央だった。

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