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ココアのない喫茶店  作者: 椿ツバサ
シャルル=モーリス・ド・タレーラン=ペリゴール―――『よいコーヒーとは、悪魔のように黒く、地獄のように熱く、天使のように純粋で、愛のように甘い』
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「いい?絶対迷惑かけないでよ?」

 奏音は念押しに念押しをかけるためにセンブリの入り口を前にミキちゃん、ユウくんへ指を一本立てて言う。

「わかってるって。それより、カノンは時間大丈夫なの?」

「そこそこヤバイけど……心配だから最後に言ってるの」

「大丈夫だって。暴走はしないし」

「ユウくんは、まあ信頼してる」

「私は信頼してないと?」

「ちっひーよりはしてるよ」

 奏音はため息を一つつく。

「とにかく、コーヒー飲んだら帰ってよ。私この後閉店までだし……って、あっ」

 そう返して裏口へ回ろうとしたとき店の倉庫から華央さんが現れる。手元にはコーヒー豆を持っているので補充用だろうか。

「あっ、奏音ちゃん」

 よっと挨拶する華央さんだが、今は見つけてほしくなかった。奏音は頭を小さく下げて挨拶を返す。その素振りを野次馬二人が見逃すはずがない。

「お店の人?」

「う、うん。とにかく私行くから」

 と、喋りかけたのがいけなかったのだろうか。そのまま気づかないふりをして無視をすればよかったと後悔するのはその後の華央の行動を見てからだった。

 ズンズンとこっちの方に向かってくる。

「お友達?」

「あっ、はい。すみません、静かにするとは約束してるんですけど」

「あはは。別に気にしなくても。今お客さんいないし」

 だから今補充しているわけでもあるのか。

「あっ、初めまして。カノンの大学の友達です」

 会話の跡切れをうかがったのかミキちゃんが乗り出してくる。どうやら好みのタンパク質だったらしい。

 たしかにアニメや漫画にいそうな華奢で線の細い中性的な男性だ。気にならないわけがないということらしい。

「うん、よろしく。じゃあ、奏音ちゃんが着替えてくるまでオレの方で接客しとくかな。奏音ちゃんは着替えといで」

「はいっ。よろしくお願いします」

 後を華央に任せてとりあえずバックヤードへと急ぐ。

「さて、お客様方。ようこそ、センブリへ」

 いつもの甘い声で店内に案内する華央の声が後ろに聞こえた。

 バックヤードへとつくが、そこには誰もいなかったので挨拶も無くそくさくと着替えを始める。

 今日は奏音と華央、そして英章だけが店内にいる状態だ。

 着替え終え、ミキちゃんたちにばれないようにそっと店内に入ってまず英章の元へと急ぐ。

「奏音ちゃん。こんにちは」

 キッチンに入ってきた奏音に英章は気づく。豆を挽いているのでもう二人から注文はうけとっているんだろう。

「こんにちは。えっと……」

「お友達来てるんだってね」

「すみません」

「いいよいいよ。むしろお客さん紹介してもらってるわけだし。売り上げになるしね」

「あはは……。で、華央さんは?」

 チラリと店内を観察すると親しげに華央はミキちゃんらと会話をしている。その会話の主な内容が自分のものになっているのではと不安も抱く。

「……アイツ、コミュニケーション能力は高いからな」

「華央さん、ですか?」

「うん。益岡はまだまだだと言ってるけど、正直そこら辺の三流喫茶店でだすようなコーヒー店よりは十分うまいコーヒーを作れるし、人によってはアイツの方が好きだという人もいるし」

 挽いた豆をセットしてコーヒーを入れ始める。

「正直コミュニケーション能力もある。対面型の、コーヒー淹れる姿を見せるような店だったら繁盛するんじゃないかとも思う」

「バーテンダー、みたいな?」

「そうそう。うんちく聞きながらでもいいし楽しく話聞きながらでもいい。まっ、うちとしてもまだ益岡にはいてもらいたいんだけど―――はい、これお友達に」

 話を切り上げて盆にカフェモカとブレンドコーヒーを置く。その隣には……。

「クッキー……?」

「まあ、サービス。店のじゃなくてたまたまお菓子に置いてあったやつだけどね」

「あはは、ごめんなさい」

「気にしなくていいよ。ほらっ、早くしないと変なこと言われるかもよ」

「あっ、そうですね」

 奏音は慌てて盆を持ち窓際に接客されている二人の元へと急ぐ。

「コホン―――お待たせしました、カフェモカとブレンドコーヒーです」

 咳払いをして話を止めてから二人にコーヒーを置く。ブレンドは想像通りユウくん、カフェモカはミキちゃんだった。

「おっ、カノンちゃんありがとう。と、それが制服か。カワイイじゃん」

「あはは……ありがとう」

「いい店だね、ここ。副店長さんは美男子だし店長さんもかっこいいし」

 ミキちゃんもどこか興奮している。というより、彼女にとっては店の良しあしは雰囲気などより店員の顔ということらしい。それに華央が副店長だと知っているあたりだいぶ打ち解けているようだ。そのあたりは英章の言っていた通りだろう。

「おっ、嬉しいね」

「はい、この二人……ふふっ」

 ここで店の先輩などが華央と英章がBLだと言っている伝えたりしたらミキちゃんは壊れかねないだろうという思いが一瞬よぎる。華央に悪いのでそんなことしないが。

「それにカノンのここでの様子も聞けたし?」

「えっ?ここでの様子?」

「うん。ボドゲ無双とかコーヒー淹れるのが意外とうまいとか。だから、今度私にでも淹れてほしいなーって」

「店の先輩が言ってたんだけど副店長と店長の絡みがBLっぽいって。私もそれっぽいと思ったことあるし」

「ちょっと、奏音ちゃん!」

 ガタッ。

「ミキちゃんも座って」

 立ち上がるミキちゃんをユウくんが制する。

「どんないいかたしたんでしょうね?」

 ツンと華央から顔をそらしてからサービスのクッキーを置いてキッチンの方へと向かった。

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