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ココアのない喫茶店  作者: 椿ツバサ
シャルル=モーリス・ド・タレーラン=ペリゴール―――『よいコーヒーとは、悪魔のように黒く、地獄のように熱く、天使のように純粋で、愛のように甘い』
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『よいコーヒーとは、悪魔のように黒く、地獄のように熱く、天使のように純粋で、愛のように甘い』

 シャルル=モーリス・ド・タレーラン=ペリゴールの残した言葉だ。

 ただし、日本語訳にたいしての弊害か、コーヒーがカフェになったり愛が恋だったり。そのあたりは仕方のない誤差ともいえる。

 奏音はその言葉を思いだしため息を吐く。もし、それが最上級のコーヒーだというのなら甘ったるすぎないかと。

「それでね。彼ったら顔赤くして~」

 饒舌なちっひーとそれに反して呆れた顔をする奏音、小説を読んでいるミキちゃん、携帯を弄っているユウくん。

 最近できたらしい彼氏ののろけ話に真面目に付き合っているのは奏音だけだ。

「本当、かっこいいんだけど時々見せるああいう表情がそそるんだよね」

「そそるとか言わない方がいいと思うけど」

「だって、普段はそっけないクールな感じなのにそういう弱さを見せられるとさ~」

「ちっひー。時間大丈夫なの?」

 見かねたのかユウくんが腕をまくって時間を見せる。

「あっ、本当だ!そろそろ部室行かなくちゃ。またね!」

 ピューンという音を残しそうな勢いでちっひーは去っていく。それに大きくため息をつくのは奏音。

「まあ、一時期だけだと思うから、付き合ってあげようよ」

 苦笑いをしながらユウくんは笑う。

「私もそう思うけど……。てか、ユウくんもミキちゃんも全然話聞いてなかったんじゃん」

 頬を膨らませて文句を言う。

「あはは……ごめんごめん」

「私は最初から本読んでたし」

「だからって酷いよ、もう」

 ちっひーの視線も完全に奏音をとらえていたので逃げられたのはこの3人だったということでもある。

「というか、ちっひーだけが1人飛び立って、なんかね」

「俺も恋人とかほしいとは思わないからなー。まあ、いたら楽しいとは思うけどさ。ミキちゃんは?」

「タンパク質よりインクやグラフィックのほうがいい」

「あはは……流石」

 全く持ってぶれる様子のないミキちゃんは流石ともいえる。

 三次より二次ということらしい。

「はぁ……。まあみんなこの後授業ないよね。かえろっか」

「賛成。なんていうか、疲れたし」

「私この後バイトなのに」

「コーヒー屋さんだっけ。ちっひーの惚気と業務どちらが大変か」

「惚気じゃないかな」

「即答!?」

 何気ないやりとりだけどある意味いつも通り過ぎて笑ってしまう。まあ、なんというか平和だ。平和の中に惚気という異分子があったが排除したので問題ない。

「コーヒーか……。そういやお店の店員さん、イケメンって言ってたよね」

「えっ?まあ、かっこいい人いるけど」

 優しく朗らかな英章と線が細く華奢な感じもうかがわせる華央。どちらもタイプは違えどイケメンと言える。

「……ユウくん」

「うん?」

「この後暇?」

「まあ、特にやることないけど」

「よっし。じゃあ、三人で喫茶『センブリ』に直撃しに行こうか!」

「ちょっ」

「おっ。面白うそうだね」

「えっ?本気で?」

「もちろん」

 素敵な笑顔で答えるミキちゃんに奏音は深くため息を吐かされる。奏音の疲れ倍増計画でもこのグループはしているのであろうか。

 そんなはずは、ないと思いたいと願うが。

「えっと……そうだ。二人とも駅違うじゃん!」

「二駅の距離はおよそ徒歩15分程度。加えて一番便利性の高い駅じゃないというだけでそっちの駅からも行けるから別に問題ないんだよね」

「そういう聡明な回答は今欲しくないユウくん」

 頭を小さくふって自分の頬を叩く。またやってしまったがもうかまってられない。

 最後の砦的に反論したけが、そんなものは織り込み済みということらしい。

「じゃあ、せめてお店の人には迷惑かけないでよ」

「コーヒーはカノンが淹れるの?」

「私はただのバイトです。バリスタではありません。コーヒーはマスターと副店長のどちらかが淹れます」

 よっぽど忙しいときはという条件付きでほとんどは英章が淹れているのだが。

 華央とはスタイルが異なるのでどうしても味にブレが生じてしまうらしい。

「あはは。まあ、そうだよね。ということは、今回はカノンちゃんのウェイトレス姿を楽しむこととするかな」

「写真は禁止だからね」

「了解了解」

 本当にわかっているのかと軽く睨みながら奏音らはバスへと乗り込んでいった。


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