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ココアのない喫茶店  作者: 椿ツバサ
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン—――『一杯のコーヒーはインスピレーションを与え、一杯のブランデーは苦悩を取り除く』
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「色々迷ったんだけどやっぱりブルーマウンテンが一番じゃないかなと思ってブルーマウンテン、中炒りのを用意した。とりあえず200グラム」

 英章はバイト終わり、バックヤードにいる奏音に声をかける。コーヒー豆は焙煎したての状態では炭酸ガスが発生する。また、香味の点で言えば焙煎した手よりは2日ほど待ってからの方がいいと言われている。その為センブリでも焙煎した豆は二日ほど寝かすようにしており持ち帰り用の豆は二日、店で提供する用の豆は三日寝かしている。もちろん、炭酸ガスが抜けきっていない可能性も加味して豆のいれる袋は密閉のものではない。密閉した袋では最悪爆発の危険性があるのだ。

「ありがとうございます。えっと、お金は……」

「給料からの天引き、ということで、どうかな?」

「あっ、そうしてくれるなら嬉しいです」

 いちいち計算するのも面倒だし、そうならば簡単で済む。

「それに一応?社員割りみたいなのもあるし、こちらで計算したほうが早いかなって」

「わかりました」

「それにしても奏音さんも珈琲はまったんですか?」

 奏音らの会話を聞いていた京が口をはさむ。

「えっ?あぁ……どうだろ。元から嫌いじゃなかったしな」

「奏音ちゃんなら数年頑張ればバリスタとして活動できると思うんだけどな」

「兄さん、奏音さんびいきすごいよね」

「別に奏音ちゃんびいきしてるつもりじゃなくてただ純粋に益岡よりセンスはあると思っただけなんだがな」

「ちょっ、話の流れでオレ傷つけないでくださいよ!」

 アルゴという倫理カードゲームを京と遊んでいた華央が思わず立ち上がって文句を言う。

「あっ、華央さん、その数字が7で、こっちが3。それでこっちが4かな」

「あっ、当たり……」

 順番にカードを解放していく華央。敗北確定の瞬間である。

 アルゴは白と黒色で0~11までの数字が書かれたカード用いて勝負をするゲーム。チップを用いるルールと用いないルールがあるが、華央らは散らばるのを嫌ってチップはもちいらずにゲームをやっていたが。また、ルールとしても簡単で二人の場合はカードを自分から見て左から低い順に並べる。この時同じ数字のカードは黒のカードが低いものとみる。もちろん、その時は相手に自分のカードを見せないように裏を向けたまま。

 その後残りのカードを山札に置き先行から順に山札を一枚とり確認し手札に加える。その中から一枚アタックカードを選び相手のカードを一枚予想する。その結果そのカードが予想したカードならば相手はそのカードをオープンし、さらに相手はもう一度カード予想をするかターンを終えるかを選べる。カード予想を外した場合はそのアタックカードをオープンし相手にターンを譲る。これを繰り返していき先にカードを全部オープンされたら負けだ。

 そして華央はそれをたった今京によりやられたのだった。

「なぜ勝てないのか……」

 思わず顔をしかめる華央。そして頭を振ってそんなことよりと話を変える。

「流石にひどいんすけど」

「でも、事実だぞ?」

「くっ」

「あはは……、自分ではよくわかんないんですけどね」

 そもそも華央の淹れたコーヒーを飲んだのはまだ数えるほどだ。正直覚えていない。

「ふーん、ちょっと呑んでみたいかも」

「じゃあ、僕と益岡、それと奏音ちゃんで淹れてみる?」

「えっ?私もですか?」

「まあ、そこはね。淹れるコーヒーは一人二杯。奏音ちゃんが一番淹れているであろうカフェラテでの勝負。どうかな?」

「……わかりました。やります」

「オレも久しぶりに先輩に飲んでもらいですし、勝負受けますよ」

 華央も挑戦的に頷く。

「ふーん、判定は?」

「四人でそれぞれのコーヒーを飲みあう。その後全員自分淹れたコーヒー以外で一番おいしかったものを指しあい最多投票のものが優勝ということで。同数だった場合は決選投票かな」

「了解っす」

「まあ、最前はつくします」

 燃える華央に対して苦笑いをしながら頷く奏音。

「よし、じゃあまずは益岡から淹れて行って」

 英章に促され華央がまず調理場へと向かう。

「さて、副店長さんは二連敗するのかなー?」

 京はクスクスと笑いながらアルゴを片づける。

「あれ?これ手札的に華央さん勝ててもよかったような気がするんだけど……」

「あぁ、どこかで間違えたみたいです。計算」

「こういう所からコーヒーの味にブレがでるんだがな」

 英章も思わずため息を吐きながらバックヤードを出てホールへと向かった。

「いこっか、私達も」

「はい」


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