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ココアのない喫茶店  作者: 椿ツバサ
デヴィッド・リンチ———『まずいコーヒーでも、まったくないよりはましだ』
13/105

 水城大はその立地上、5月になってもまだ気温は低かった。

 薄手の長袖にジーパン。その上に春用のセーターを奏音は着ていた。

 退屈な授業も終わりあくびをかみしめながらスクールバスに乗る。

「カノン、おねむ?」

「いや、疲れたなーって思って。ちっひーは……寝てたもんね」

「いや、しっかり授業を聞いてくれている仲間がいるって素敵だよね」

「もぅ」

 軽く頬を膨らませる。この友人の自由奔放さはさすがだ。

 奏音は怒って見せ、Second World Storyを起動させポチポチとスタミナ消費をしながらちっひーと会話をする。最近面白かった話、授業の話、愚痴。

 いつの間にか話にも花が咲きバスが駅に着く。

「そういえば、カノンは今日バイトだっけ?」

 バスのスッテプから降り駅へと向かおうとした足を止めて振り返るちっひー。

「うん。だから、今日はここで」

「ほうほう……」

 怪しく光るちっひーの瞳。それを見て嫌な予感を覚える。

「別に店にこなくていいからね」

「確かセンブリ、だったよね」

「そうだけど」

「喫茶店、お金はある」

「ちょっと、ちっひー?」

「よーし、行こう」

「遊びに来なくていいから!」

 全くこちらの話を聞かないちっひー。どこか恥ずかしさもあるので来ないように言う。

「なーんてね。今日は忙しいからいけないんだけどね」

「もう、驚かさないでよ」

「ふふっ。でも、いつかユウくんとかミキちゃんとかとも遊びに行くからね」

「確定事項?はぁ、もうそろそろ電車くるよ」

 腕時計を見て告げる。

「あっ、ホントだ。それじゃあね」

「うん、バイバイ」

 手を振って別れる。バイト開始まではまだ時間があるのでゆっくりと歩く。

 バイトを始めてもうすぐ一か月がたとうとしている。いい加減に仕事も覚えてきた。その過程でわかるのは……店長こと英章がコーヒー等のドリンク作成が上手いが料理が下手だということだ。もちろん、簡単なサンドイッチや盛り付ける程度のパフェであれば作成しているが、火ををつかい包丁を入れ調味料を入れ……さまざまなことをしなくてはならない場合はサジをなげることも少なくない。そういった場合は奏音や華央、茉奈が料理を変わることもある。

 英章はどうやら一つの事に集中するのが得意なタイプだが、マルチに色々やる能力―――たしかワーキングメモリは苦手なようだ。

「こんにちはー」

 店の裏口から声をかけながら入る。微かなコーヒーの香りの中には制服姿の京がいた。

「あっ、こんにちは」

「京ちゃんもこれから?」

「はい。茉奈さんと入れ替わりです。とそろそろ着替え始めてもよさそうですね。一緒に着替えに行きましょうか」

「うん」

 京の提案に頷く。

 ロッカーの扉を開け、中に鞄を入れて制服を代わりに取り出す。

「うん?どうしたの」

 ふと視線を感じて京に問いかける。

「あぁ、いや……奏音さんの下着可愛いなって」

「えっ?」

 ふと視線をおろす。薄い桃色にリボンが数個ついたパンツにスタンダードなタイプなブラが透けている。だがそのブラにもいくつか模様が描かれている。

 勝負下着―――というものではないが個人的にもお気に入りの下着だった。

「そうかな……」

「どこで買ってるんですか?」

「普通のデパートとかだけどな、私は。あっ、でもこれは友達と一緒にランジェリーショップで買った気がする」

「うーん……。やっぱりそういう店行った方がいいのかな」

「京ちゃんも十分可愛いと思うんだけどな」

 京の下着を見ながら呟く。

「でも、その……サイズが合うのなかったりして」

「あっ、あぁ……。そっか」

「うぅ」

 自分で言って自分でダメージを喰らう京。確かに女性のソレに比べ京のバストサイズはひかえめだった。

「酷いんですよ。高校の友達が京はちっさくて可愛いねーって」

 アヒル唇にして愚痴る京。その姿が幼く見えるのではという言葉を飲みこむ。

「でも、私も特別大きい方じゃないからなぁ。そういうのは茉奈さんの方にリサーチしたほうがよさそうだけど」

「絶対からかわれるじゃないですかぁ」

「それは、否定できないけど」

「背に腹はかえられないのかなぁ」

 なんて悩みながら京はするりとセンブリの服をまとう。奏音も苦笑いをしたのち服を着る。

 気がつけばそこそこ時間がたっている。

「そうだ。京ちゃん」

「はい?」

「英章さん―――お兄さんもそこそこおしゃれっぽいんだから、下着はともかく大人っぽい衣装とか聞いてみたら?」

「兄にそういうの聞くのも少しなーって、感じなんですよね。というかあれ、雑誌のモデルの来てたやつをほとんどそのまま買ってますし」

「あっ、そうなんだ」

 そりゃ、そこそこのおしゃれになっていて当たり前だと肩透かしを食らう。

「兄さん、ドリンク以外に関しては興味を引くことも少ない人ですから」

「英章さんらしいね」

「はい」

 クスクスと二人で笑いながらバックヤードへと戻っていった。もうそろそろ始業時間だ。

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