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ココアのない喫茶店  作者: 椿ツバサ
天童英章――――『中にはミルクやシロップをたくさん使いたい人もいるだろう。そのお客さんにとって最高の状態のコーヒーを召し上がってもらいたい』
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5

「奏音?」

「なに、お母さん?」

 明日の開店日に向けて準備をしていると母親が話しかけてくる。というよりまた勝手に部屋に入って……という思いもでるがどうせなんとなくいなされて終わりなのが目に見えているので、もはやなんとも言えなかった。あきらめの境地である。

「なんか妙にうきうきしているから、気になって。鼻歌まで歌ってたし」

「えっ?本当!?」

「嘘」

「も、もう」

 なんの生産性のない嘘に対して反応も困る。しかし、その程度には浮かれていたような自覚症状があるために強くも出れない。本当に微妙な気持ちになる。

「普通バイトっていえばお金のためとはいえ微妙に憂鬱になるものでしょ?」

「そう、なのかな?」

 これが初めてのバイトなので何とも答えることが出来ない。確かに、たまにこれやりたいのにバイトの時間だということはあるが……そんなものは店につくとすぐに忘れてしまう。それにコーヒーを淹れている時間はただ無心にそのことばかりを考えているので時間の流れが速く感じる。

 唯一嫌だなと思う作業は……開店準備と閉店準備くらいが。時折やたらと面倒に感じる。料理は好きだが片づけはやりたくないというものに似ている。

「今更だけどお金貯めてどうするつもり? 教科書代とかに回しているのは知っているけどそこまで大した金額でもないし」

「そもそも先生がレジェメ用意してくれているから教科書ない授業がおおいからね……。それで、お金は、そうだなぁ。エスプレッソマシンでも買おうかな、家庭用の」

「あるじゃない」

「あるし、英章さんにもらったやつだけど、それでもやっぱり自分好みのも作ってみたくあるなって」

「私としては嬉しいし手入れも自分でやってるからいいんだけど、本当に奏音変ったわよね」

「そう、なのかな?」

 少し首をかしげる。明日の準備は終了した。

「なんていうか、全体的にアクティブになったわよ」

「アクティブ、には確かになった。正直このままコーヒーとかかわっていけたらなって、そんな風にも思ってるぐらい」

「……自営業は大変よ?」

「楽な仕事なんてないよ」

「まぁ、奏音の人生だから好きに歩んでもいいけど、犯罪だけは起こさなければ」

「起こさないよ!」

 思わず大きな声で突っ込んでしまう。それから、自分はコーヒーにここまで魅了されているのかということに気が付く。正しくはセンブリに魅了されたと言い換えて絵もいいかもしれない。本当にコーヒーに魅了をされているのであればデティールでずっと働いていてもいいはずなのだから。

 手を横に振ってどこかへと去っていく。奏音は一応次部屋はいるときはノックしてねと伝えたが、おそらく無駄だろう。

 大きなため息をついて、だけど明日の気持ちも胸の中……センブリへの道をただただ思い浮かべていく。



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