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デティールを退店して数日がたった。最後まで恨みがまし気な表情をしていた一奈が奏音の中では妙に印象的だった。
ちっひーは対した興味を示さずに、バイト中にいじれる相手が少なくなった程度で考えているようだ。山苗、古木はそれぞれ大人な対応でまた遊びに来てほしいや、もしもの時はヘルプに入ってほしいということを頼まれる。これらはこちらの予定と合わせてということになるので簡単に了承はできないが。
「なんだろう……。半年ちょっと別で働いていただけなのに、奏音ちゃんがどんどん遠いところに言ってるように感じる」
「茉奈さん何言ってるんですか」
頬杖をつきながら奏音のコーヒーを淹れる作業を眺めていた茉奈の発言に苦笑いを浮かべる。
開店を明日に控えて、コーヒーメイカーの感覚を思い出すための練習だ。やはり、ほんの少しだけ癖というか感覚が違う。それを矯正するためのものである。
「どうぞ。ブレンドコーヒーです」
「ありがとう……。んー、センブリの香り。正直わかんないけど」
二ヒヒと笑いながら一口飲む。ただ、なんとなくだが懐かしい匂いというものは本当に感じているらしい。たかだがバイトだがそれでも懐かしいと思わされるものがあるらしい。
奏音はもう一杯、自分でテイスティングする分も作成をして茉奈の前に座る。
「そういえば店長らは?」
「英明さんたちはロースターさんのところで、これからの入荷とかを決めているみたいです」
「なるほど。それにしても一年ちょっとで……すごく変わったなぁ」
「センブリ、ですか?」
「それと奏音ちゃん」
その言葉はある種事実であるために反論はできなかった。自分が変わったということは自分がよく知っている。
「茉奈さんは、なんだか自分の道を進めてますよね」
「まぁね……。ひとまず夢に向けて頑張ってる。あっ、そうだ。またブラインドサッカーしに来てよ」
「機会があれば」
「それ、行けたら行くわレベルで信用できないじゃないの」
ふふっと笑いあう。本音を言えばもう一度ぐらいならばお手伝いをしてもいいと思っている。
コーヒーの味はセンブリのものになっていた。デティールの際に身に着けた速さも残ってよりよいものとなっているように感じる。茉奈はその部分も含めて遠くなっていると発言をしたのだろう。
「ところで、ココアの方は調子どうなの?」
「すぐ追いついて見せますよ。今はまだまだですけども」
「さぁて、英章さんにおいつくのは、奏音か華央か。どちらとなるかのか、こちらとしても楽しみなところです」
「なんですか、その言い方」
また顔を見合わせて笑い合う。お互いに最初の頃から成長をしているのが分かる。少し大人に近づいた今、コーヒーがよくなうようになっていると感じるのはそこまで傲慢ではないだろう。