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第1話 出会いがしらの混乱 楠恭弥

 アルスのど阿呆にゲームとやらに強制的に付き合わされ、召喚とやらをされたわけだが、僕の思考は目の前にいる女によって著しくかき乱されていた。

長い茶色のツインテールの髪、とても僕と同じ人間とは思えない彫像のような整った顔にスラッとした引き締まった八頭身。どう見ても僕が今最も憎むべき長馴染みの姿だったからだ。

 ここは明神高校の修練所のような場所であり、茶髪の幼馴染の女の視線は観覧席の電光掲示板に向けられていた。


『■召喚者:織部紅葉(おりべくれは)

■召喚されしもの:ライト

■種族:人間

■階位:高校生

 ■ランク:Ω+

 ■属性:無

 ■許容限界使役数:残り0』


(ライトね……)


僕は元の世界地球で魔術審議会の組織の《殲滅戦域》という部署に形式的には所属している。ライトとはその《殲滅戦域》での僕――楠恭弥(くすのききょうや)のコードネームだ。ちなみにこのライトの由来はあまり言いたくないので聞かないで欲しい。

 目の前の女の魂と魔力で繋がっているのが感覚でわかる。ライトが僕の事を指すなら、召喚したのは織部紅葉(おりべくれは)だ。召喚者たるこの女は朱花ではなく、短なるそっくりさん。そういうことになるのか?

 そう結論付けた途端、試練場中に落雷にも似た狂喜の声が轟く。

 その声の性質は純粋な笑いであったり、驚愕の声だったり、そして嘲笑であったりした。

 僕は周囲から情報の摂取を試みる。


「おい、おい、お~い、見ろよ! 百年に一人の天才様が召喚したの、ただの人間だぜ! しかも、階位が高校生って――ぶふっあはっくはははっ!!」


「ちょっと、笑ちゃっ失礼よ。くふっふ……」


 腹を抱えて爆笑する男子生徒と必死で笑いをこらえようとする女子生徒に聴力を集中する。ステータスが上がればこんな人間離れした事も可能となるわけだ。


「それにしてもランクΩ+って何?」


「さぁな、何せ召喚されたのが人間だからなぁ~Hより以下ってことで理解していいんじゃね?」


「ともあれこれで一人脱落か」


「ええ、聖騎士選定杯の最有力候補が落ちたのは大きい。これで少なくともこの学年で一枠は予選を通過できるかも」


 

少し考えをまとめよう。

 まずは判明していること。

 この世界は十中八九、アルスの創った玩具箱(おもちゃばこ)。大方奴が地球のゲームにでも嵌った際に再現したくなったんだろう。そのゲームに僕は捕らわれた。これは僕の名前がライトになっている事からも明らかだ。

 クリア条件は中ボスとラスボスの討伐。それが元の世界への帰還条件となる。もし元の世界に戻れなければグレーテルはあの狭い石部屋で一生一人きりということもあり得る。それは僕には許容できない。ゲームの敗北は許されない。

 次が僕の召喚者について。

 目の前で壮絶に項垂れているこの女が織部紅葉(おりべくれは)であり、僕の召喚者であることは間違いない。どうも朱花似の顔には拒絶反応があるが、彼女には僕への絶対服従の命令権がある。下手に機嫌を損ねて自害でも命じられたらえらいことになる。気持ちを切り替えよう。

 最後は聖騎士選定杯の言葉。話しの流れから言って、この召喚もそのためになされたもの。そう取りあえずは理解しておくのがよさそうだ。


「何で? 何で人間が召喚されるのよ? 『真赤玉』は最高の触媒じゃなかったの?

 父さんの研究がそもそも間違っていた? でも、でも――」


 観覧席の生徒達の隣には精霊やら幻獣やらがわんさかいる。召喚術の授業に僕を呼び出したんだ。彼女の疑問も僕らなら答える事は可能だ。

 精霊や幻獣達の僕に対する侮蔑の視線からして魔力の感知はできていないようだ。考えられる要因としては二つ。

 一つは召喚された精霊、幻獣が魔力の感知が真面にできない半端者であること。

 二つ目はそもそも精霊や幻獣の魔力の感知の不能もアルスのルールの元にあること。

 もっとも、少なくそれがルールだとしても例外はいるようだ。それが――あれか……。

 青髪の女性の精霊は僕と視線が合うと、ビクッと身を竦ませ急速に血の気を失わせるが、直ぐに戦闘態勢を取ってきた。所謂決死の覚悟という奴かもしれない。

 彼女は《妖精の森スピリットフォーレスト》に入る直前のイフリートやジン並みの強さはある。もっとも、イフリート達は今や別次元の生物と化しており、彼らと戦えば瞬殺されるだけだろうけども。

 兎も角だ。ほとんどが力のない下級から中級精霊のみ。確かに青髪の女性は強力だがそれでもレベル145に過ぎない。僕のレベルは592。

 さらに通常の《召喚術》で呼び出す存在の強さはその者のステータスに加え、スキルや魔術の保有数も考慮されるところ、僕は気の遠くなる数の魔術やスキルを保有している。つまり召喚術の禁術であっても僕は召喚できやしないんだ。

 多分紅葉、彼女が発動させたのはそもそも術ではない。《召喚術》では許容しきれないほどの魔力を注ぎ込んだ結果、術がオーバーヒートし偶然にもアルスの時空間転移系の術とアクセスしてしまったに過ぎない。

 どれほどの魔力があれば召喚術をオーバーヒートできるのかは不明だが、其の触媒とやらの保有する魔力の桁が違ったのだろう。


「ライト君、君、人間ですよね?」


 神官姿の目が細い黒髪の青年が僕の傍までやって来ると、当たり前の問いを投げかけてきた。正直、この手の質問はお腹一杯だ。真面に僕が人間だと嘲笑ってくれている生徒達や精霊、幻獣達の方が僕的には新鮮で若干ポイントが高い。

 僕が頷くと黒髪の青年はグルリと学生達を一望すると、声を張り上げる。


「それでは最後の織部さんが終了いたしましたので今日の授業はこれで終了です。

 今日はホームルームもありませんので直ぐ下校していただいて結構です。

 ただ霊獣召喚により皆さんは御自身が思っている以上に魔力と精神をすり減らしております。今日一日、身体を休めるよう心掛けてください」


 和気あいあい家路につく生徒達の大部分がこの闘技場から姿を消すのを確認してから、未だに地面で項垂れている朱花に似た少女――紅葉に近づき手を伸ばす。


「巻き込まれた僕より巻き込んだ君がショック受けてどうするのさ。

立ちなよ、みっともない」


 理由は不明だがこの子が項垂れている姿を見ると無償にイライラする。


「余計なお世話よ!」


 鬼のような形相で僕の手を弾き返すとスタスタと歩き出す紅葉。

このゲームは彼女が命を失えば即死亡だ。ついていくしかあるまい。



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