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こんな夢を観た

こんな夢を観た「彗星が近づいている」

作者: 夢野彼方
掲載日:2014/11/24

 4丁目の外れには、通称「ハカセ」と呼ばれるおじいさんが住んでいる。

一応、発明家ということになっているけれど、製品化されたとか、誰かが買ってくれた、なんて話をこれまでに1度だって聞いたことがない。

 町内の口さがない人は、「頭のいかれたじじい」だの、「ネジの緩んだアインシュタイン」などと呼んでいた。

 そんなハカセだったが、わたし達は子供の頃から家に入り浸りだった。山と積まれたガラクタは、用途こそわからないものの、わくわくと想像力をかきたてる。

「どれも、わしの最高傑作なんだ。『最後の微調整』が済んだら、とっくりと見せてやるからな」

 それがハカセの口癖だ。


 桑田孝夫、中谷美枝子、わたしの3人で、久しぶりにハカセを訪ねてみた。

 家の中は相変わらずで、何に使うのか不明な「発明品」がいっぱいだ。この中に、本当に役に立つ物なんてあるのかなぁ。けれど、なぜか夢と期待を膨らませてしまう。

「おおっ、来たな子供達っ!」

 わたし達は顔を見合わせて苦笑いをした。ハカセにかかれば、わたし達はいつまでも子供のままらしい。

 ぼさぼさに爆発した白髪頭、しわくちゃな顔、「ネジの緩んだアインシュタイン」だなんてあだ名したした人は、確かにセンスがある。幼稚園に通っていた時分でさえ、すでに今と変わらない様相を呈していた。いったい、年はいくつなんだろうか。


「ハカセ、最近の発明はなんですか?」中谷が聞いた。もっとも、本当に興味があるわけではない。挨拶のようなものなのだ。

「よくぞ聞いてくれた」ハカセはテーブルに掛けられていたシーツを引き剥がす。

「望遠鏡?」桑田が意外そうに洩らす。ぴかぴかに磨かれた真鍮製の筒、ぶ厚いレンズ、それが三脚にぽん、っと載っている。わたしも、それが望遠鏡に見えた。

「確かに望遠鏡だが、もちろん、ただの望遠鏡なんかじゃないぞ」いたずらっぽく笑うハカセ。

「わかった、近くのものが、うんと遠くに見えるんでしょ?」手を叩いて、中谷が答えた。

「そんなもん、望遠鏡とは呼べんだろが」ハカセが呆れたように言う。


「じゃあ、望遠鏡で覗いたものが、実際にたぐり寄せられるっ!」これしかない、絶対の自信を持って、わたしは叫んだ。

「いやあ……。さすがのわしにも、そりゃあ無理な話さね」

 すかさず、桑田と中谷が茶々を入れる。

「ばか、マンガじゃねえぞ」

「そうよ、あんたって、ほんとにもうっ」

「わかった、わかった。教えてやるよ」ハカセが両手を振って、2人を制する。「接眼レンズのところを見てみい。何が付いてるね?」

「顕微鏡に似てるなあ」桑田がつぶやく。

「そうね、これって顕微鏡だよ」中谷も同意する。

「さよう、顕微鏡だ。これで火星を見れば、土壌の生物も観測できるってわけなんだ。どうだい、すごいだろ?」ハカセは自信満々に装置の紹介をした。


「すごい……とは思うんだけど」中谷が言い淀む。

「うん、確かに大発明だ」桑田がわたしを横目で見る。「でも……なあ」

「『最後の微調整』が、どうせまだなんですよね?」中谷達の代わりに、わたしが尋ねる。

「ところがどっこい。こいつはな、とっくのとうに完成しておるんだ」ハカセは、そう来ると思っとったよ、とでも言うように胸を叩いた。

 わたし達は一斉に驚きの声を上げる。1度だって、発明品が動くところを見せてもらったことがないのだ。ハカセがウソをついていると思ったことはない。でも、発明なんてほんとかなぁ、そんな疑問はちょっぴりあった。

「論より証拠。今は昼間だから火星は見えないが、ほれ、ちょうど彗星が近づいているだろ? あれを見てやろうじゃないか」ハカセが言い出す。


「彗星かあ。氷でできてるんだよね、あれって」中谷が天井を見上げる。その方角に、今も彗星が尾をなびかせているのだ。

「すると、あれか。氷の粒々が見えるってわけだな? 四角い結晶だったっけ?」と桑田。

「それって、塩。塩の結晶だってば」わたしは訂正する。

「ああ、ちと勘違いしてたぜ」そう言って頭を掻く。

 ハカセは望遠鏡を窓際に移動させ、対物レンズの向きを合わせる。雲1つない青空に、白く長い尾を引いた彗星が見える。

「頭の部分、そここそが彗星の核なんだ」接眼レンズに目を押しつけながらぶつぶつと言う。「おお、ここだ、ここだ。ふむ、氷と岩石とが混ざり合った構造をしとるな。はて、こりゃなんだ? まさか、そんな。いや、まさか。あり得ない。あり得っこないぞっ!」


「どうしたんですか、ハカセ?」身を屈めて1人騒ぐハカセに、わたし達の好奇心は破裂しそうだった。いったい、何が見えるというのだろう?

「みんな、見てみい。順番にな、順番にだぞ」

 桑田、中谷、そしてわたしの順に、望遠鏡を覗いてみた。ハカセが驚いたのも当然だ。

 彗星の核には人が住んでいた。それも、本当に本当に小さい。表面に付着するバクテリアに手綱をつけて、氷の平原を走り回っているのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 狙いと世界が素晴しいと思います。 人の認識を超えた広がりのある空。 理性では認識できない奥行きのある想像力。 その二つを上手く融合して巨大な凸レンズにしてしまいました。 そのレンズで屈折さ…
[一言] かわいい!彗星人に会ってみたいです。流星群の時に、一人ぐらい落ちてこないかな〜。 博士の大発明、私にも貸してほしいです。 あんパンの芥子粒の中にも、書物の天にたまった埃にも、スノードームの…
[一言] これじゃあ、殺人バクテリアもおちおち殺人してる暇がありませんね。ああ、忙しい。
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