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夢は異世界とともに  作者: ルーマン
7/15

準備

 目が覚めると、今度はベッドではなくテーブルから起き上がる。変な体勢で寝ていたせいか、全身が凝ってしまったような気がする。寝過ぎたせいもあるのかもしれない。


 その場で精一杯伸びをすると、背中から何かが落ちる音がする。


 まさか疫病神、なんてことはなく、毛布が落ちただけらしい。誰かが俺を見てかけてくれたんだ、と思うとなんだか気恥ずかしい。


 それと、伸びをした時に気付いたのだが、もう時間は昼である。カーテンは閉まっておらず、上りきったた太陽の眩しさに思わず目を細める。


 とりあえずそのまま立ち上がってみたものの、特に行く場所も無いし、することもない。


 俺はこの場所でローズさんを待っていたはずなのだから、ここにいれば問題ないだろう。下手に動いて迷子になったらそれこそ迷惑だ。



 結局、ローズさんが来るまで食堂の掃除をすることにした。


 食堂のおばちゃんに道具を借りて、ついでにエプロンまでして、できるところだけ掃除していく。もともとそんなに汚かったわけではなく、細々とした作業をこなした。


 しかし、驚くことに、朝まで痛かったはずの体がすっかり元に戻っていた。筋肉痛はどこへやら、という感じだ。


 そういえば、昨日捻挫した足首と、捻った手首も全然痛くなかった。この体は治癒能力が高いのだろうか。さすがに捻挫が半日で治るっていう話は聞いたことがない。


 そうこうしているうちに、ローズさんが来た。俺がエプロン姿で、なおかつ掃除しているのに驚いていたようで、怪我をしているんだから無理はしないように、と少し怒られてしまった。


 実は体がすっかり元通りになったことは黙っておいた。


 昼ご飯は、掃除のお礼と言っておばちゃんが無料で出してくれたので、ローズさんと一緒に美味しく頂いた。朝よりもボリュームがあって申し分なかった。


 食事を終えると、ローズさんが買い物に連れて行ってくれることになっていたらしい。


 俺が何も持っていないこともあって、生活必需品と、皮の鎧、それに剣を買いに行くみたいだ。




 最初は細々とした物を買いに行った。


 賑やかな街中を通って行くと、所々で視線を感じたりしてあまり気分は良くなかった。ローズさんも気にしていたらしく、できるだけ急いで雑貨店に入った。


 店の中には様々な商品があり、用途不明な物も多々発見した。色々と探してみるのも面白そうだったが、ローズさんに怒られそうだったのでやめておいた。


 当然のことながら、地球とは異なる習慣が多く、いざ選ぶとなると少し戸惑ったが、夢の中の生活を思い出して必要な物を選んでいった。


 ローズさんもかなり手伝ってくれて随分お世話になった。ふざけていて何度か怒られたのはご愛嬌だ。


 お金は、サラさんが俺のためにと貸してくれた分があるらしく、ありがたく使わせてもらった。またサラさんに助けられてしまった。そのうち、絶対に返しに行こうと思う。


 その流れで、防具屋、武器屋と一気に回り、なんとかギルドに帰り着いた頃には、日も暮れかけで、辺りは薄暗くなっていた。


 荷物を部屋に置いて食堂へ行くと、ローズさんとサラさんがすでに席に着いて俺を待っていてくれる。遅いぞ、とサラさんには怒られたが、それはそれだ。




「ハルト君、今日一日お疲れ様でした。大変だったでしょう?」


 食事を始めると、ローズさんが少し疲れた表情でそう言った。


「大丈夫ですよ。こちらこそ、わざわざありがとうございました。ローズさんがいてくれて助かりました。一人だったら店の場所も分からなかったんですから」


「ふふ、そうですね。お役に立ててよかったです。サラさんも一緒に来ればよかったんじゃないですか?」


「馬鹿言え。こう見えても仕事は結構大変なんだ。午後全部を使う余裕はねえよ」


 サラさんは不満気だ。本当は買い物に行きたかったんだろうか。


「あ、サラさん、カード出来ましたか?」


 ローズさんはそんなサラさんを華麗にスルーする。


「ああ。ほら、これだ」


「ありがとうございます。はい、ハルト君。これがあなたのギルドカードですよ。これがないと冒険者はできませんから、気をつけてくださいね」


 そう言って渡してくれたカードは赤色だった。よく見ると、名前とランクしか書いてない。これでいいんだろうか。


「ありがとうございます」


「ハルト、今『意外と地味だな』って思っただろ?」


 サラさんが意地悪な顔で聞いてくる。


「え、いや、そんなことはないですよ」


 本当はその通りなんだが。


「まあ確かに、一見名前とランクしか書いてないように見えるし、大した仕掛けも見えない、ただのカードだからな」


「……?」


「ええ。現状では見栄えがいいとは言えませんよね」


 ローズさんも納得顏だ。ローズさんも、最初はそう思ったのだろうか。


「ローズ、お前のカードを見せてやれ」


「……私のですか? サラさんのを見せた方がいいんじゃないですか? 自慢できるチャンスですよ」


 サラさんがピクっと反応したが、それ以上は動かない。自分のカードを見せる気はないらしい。


「自慢する程のものでもない。それに、生憎今は持ってないんだ。ほら、早く出せ」


「はいはい、分かりました。えっと、これ、ですね」


 ローズさんがカードを見せてくれた。


 まず思ったのは、これと自分のカードが同じ物なのか、ということだ。


 ローズさんのカードは銀色で、透明の宝石が埋め込まれている。それだけでも驚きだが、カードには所狭しと文字が書かれており、その字の大半は読めなかった。


「どうだ、ハルト。お前はまだ最低ランクだからカードもしょぼいが、ランクが上がればカードもどんどんアップグレードされる。今はとりあえず、ローズと同じ銀色を目指すといい」


 そうか。そういうシステムなのか。でも、銀色ってどれくらいなんだろう。俺でも辿り着けるランクではない気がする。


「……はい。ローズさんって本当に強いんですね」


「そんなことはないですよ。サラさんにはまったく及びませんからね」


「今度試合してみるか?」


 サラさんが意地悪そうに聞く。サラさんはよくこの顔をする。


「いやですよ。負けるだけですからね」


「昔はあんなに試合したのにな。負ける度に、『もう一回っ! もう一回っ!』って言ってくるのは可愛かったな」


 サラさんがそう言うと、ローズさんがガタンッと椅子を蹴って立ち上がった。


「ちょ、ちょっと!」


 しかし、そこで周りから注目を浴びていることに気付いたらしい。顔を赤くして大人しく腰を下ろした。


「 ……もう昔のことですからね。ハルト君、これは他言無用ですよ」


「……」


「ハルト君?」


「はい」




 こうして夜は楽しく過ぎていき、明日の朝に食堂で会うことを約束して別れた。防具と剣も持っていくらしい。


 明日からは訓練が始まる。


 果たして俺がついていけるのか、すごく不安だ。


 だが、やるしかない。俺は、ここで強くなるんだ。







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