表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢は異世界とともに  作者: ルーマン
6/15

 ギルドの少し硬いベッドで目が覚める。


 空気は少し冷たいぐらいで心地よく、頭がすっきりしてくる。


 知らない天井に焦ることもなければ、なぜギルドにいるのか疑問に思うこともなく、いたって普通の朝を迎える。


 唯一普通ではないことといえば、全身が筋肉痛なことだ。昨日のあれだけ動いたのだから、仕方ないといえばそれまでだが。


 痛む体を動かすのは諦めて、そのまま寝転がったままでいると、昨晩のことがなんとなく頭に浮かぶ。


 誰かとご飯を食べるなんて久しぶりだったからかな。




 ローズさんの家は予想通り綺麗で、それとなく女性らしい素敵な家だった。作ってくれた料理も美味しく、一緒にいたサラさんも満足そうに頬張っていた。


 ギルドに戻る時も、サラさんがいろいろ話を聞かせてくれて退屈することはなかった。


 初めて来た街、それも、俺は迷惑を持ち込んできたというのに、こんなにも暖かく迎えてもらって嬉しい反面少し心苦しい。俺は何もお返しできないし、面倒をかけてばかりなのだ。


 そのことをサラさんに言うと、「若いうちは周りにいる年上の人間がフォローすらもんだ」と笑っていた。ローズさんに言っても、きっと笑いながら同じようなことを言うんだろうな。


 俺の外見は十二歳だが、精神年齢は二十歳をとうに超えている。分かりやすく助けられると、どうしても気恥ずかしさがある。できるだけ早く、ある程度のことは一人でできるようにならなければならないと思う。





 服を着替えて食堂に行くと、話に聞いていたように、無料で朝ご飯が食べれた。味は、まあまあで、昨日のローズさんのご飯の方が美味しい。


 俺の他にも数人食べている人がいて、食べ終わる頃にはサラさんも現れた。


「おはよう、ハルト。元気か?」


 サラさんは俺を見ると、挨拶してくれた。朝なのにもうシャキッとしている。


「おはようございます。全身が痛むこと以外はまったく問題ありません」


「そうか。それなら大丈夫だな。一人で食べるのも退屈しだし、私が食べ終えるまで付き合ってくれ」


「はい。いいですよ」


 サラさんは俺の向かいに食事を置き、食べながら話し始めた。食べながら話すのは行儀が悪いと注意するのは不粋だろうか。




「ローズの飯は美味かっただろ?」


「はい。久しぶりにあんなに美味しいご飯を食べました」


「それはよかった。あいつに言えば喜ぶぞ」


「直接言うのは恥ずかしいですから。サラさんは料理の方は?」


「私もできないことはないが、滅多にしない。わざわざ作るなんて面倒くさいじゃないか」


「サラさんはそうでしたね。結婚したら大変ですよ」


 俺がそう言うと、サラさんはむっとしたように言い返す。


「一応できると言ってるだろうが。問題ない」


 そうですよね、と無難な返答をして、その話は終わった。





「……今から、昨日は聞かなかったことを聞くぞ。いいか?」


 俺が次の話題を探していると、サラさんは急に神妙な顔をして言った。


「急にそんな真剣な顔してどうしたんですか?」


「いや、昨日は大事なことを聞いていなかったからな」


「? ……よく分かりませんが、どうぞ」


 何のことか少し考えたが、思いつくことは多くない。だが、この場から逃げることができない以上、諦めて答えるか、誤魔化すかした方がいい。


「じゃあまず一つ目だ」


 真剣な声音に、俺は思わず唾を飲む。



「昨日は、どうしてあの場所にいた?」



「……どうして、とはどういうことです?」


 いきなり核心を突かれた。


 昨日、サラさんは俺の話から疑問点を整理したはずだから、そこを直接聞いてきただけなんだろうが。


「つまり、森にいた目的だ。狩りをしていたわけでもなく、何かを採集していたわけでもないんだろう?」


 サラさんは真面目な顔で俺を見ながら言う。


 このサラさんを誤魔化す? 言葉にするだけなら簡単だ。


 しかし、どうやって?



  ……思い付かない。


 おそらく、今ここで思いついた嘘を言ってもすぐに論破されて余計に苦しくなるだけだろう。


 もう話してしまおうか。そうすれば、随分と楽になる。話を合わせなくてもいいし、開き直ることができる。


 だが、全てを話して変人だと思われるのは癪だ。地球から来たと言っても、証拠は無いし、信じてはもらえない可能性が高い。


 それなら、出身地はそのままに、そこから急に飛ばされてここに来たことにすればいいのではないか。


 武器やお金を持ってなかったことも、突然だったから、ということで誤魔化せる。神様のことも別に話す必要はないのだ。


 覚悟を決めた俺は、俯いていた顔を上げ、サラさんと視線を合わせて言葉を絞り出す。


「……特に目的はありませんでした。気付いたらあの場所にいたんです」


「気付いたら? それはまたどういうことだ?」


 サラさんは訝しげに首を捻る。


「……こんなことを話して信じてもらえるかは分かりませんが、唐突に、何の前触れもなく、あの森に飛ばされたんです。それで、武器も持ってなかったから、グレイウルフに見つかっても逃げるしかなくて。そうしたら、逃げている間に街を見つけて、そのまま走ってきたんです」


 嘘は言ってないぞ。今言ったことは全て真実だ。


「そうか。それは……大変だったな。多分、魔力溜まりでもできていたんだろう。そういう話は数年に一回は聞く」


「そ、そうですか」


 思ったよりも上手く誤魔化せたようでよかった。というか、数年に一回そんなことが起きるって、危ない世界だとしか言いようがない。


「ああ。事情は分かった。それで、今後はどうする? 両親も心配しているだろうし、早目に旅に出て帰るか?」


「いえ、その」


「うん? ……すまない。急すぎたな」


 そういえば、このぐらいの歳なら親はいるのが普通だよな。つい忘れてしまっていた。


 日本にいる時は成人してしばらく経っていたし、親に頼ることも少なくなっていた。たまに長期休暇に帰省するぐらいのものだった。


 この世界には、多分俺の両親は存在しないはずだ。俺は連れて来られた存在であって、新しく生まれてきたわけではないからだ。


 いっそのこと幼い頃に両親は死んでしまったことにしようか。それからはほとんど一人で暮らしてきた、と。


 家事はできるし、これで誤魔化せそうな気がする。


「あ、いえ、そういうことではなくて。実は、両親はもういなくて……。一人で暮らしていたんです。だから急いで帰る必要もない、というか……」


「あ、いや、すまない。そうだったのか。どうりでしっかりしてると思った」


 サラさんがばつが悪そうに目をそらす。


 今回も上手くいったようだ。


「両親のことは昔のことですし、もう気にしてませんよ。だから大丈夫です」


「ああ。分かった。そういうことなら、この街にしばらく居るといい。ここならそれなりに安全だし、冒険者になるための訓練もできる」


「訓練、ですか?」


「そうだ。戦闘や、魔法、採集の訓練ができる。他にもいくつかあるが、それは必要になったら、という感じだ」


「それはありがたいんですが、僕にはお金がありませんから、とりあえず生活費を稼がないと」


「それについては心配いらないぞ。訓練開始から半年間はギルドから生活費が出る。もちろん、額は少ないがな」


 そんな話は初めて聞いた。訓練のこともそうだが、この街は冒険者の初心者に優しいんだろう。


「そんな制度があるんですか」


「ああ。だからお金に関してはあまり心配はしなくてもいい。で、どうする?」


 どうしよう。


 別にこの世界で何をするかまだ決まってはいないが、いずれ神様を助けるためには戦闘ができなければならない。呑気に生産職に就くわけにはいかないのは分かる。


 手っ取り早くここで冒険者を始めたほうがいいか。


 うん。よく考えたら悩むまでもないな。


「訓練受けさせてください。とりあえず半年間、お願いします」


「分かった。それじゃあ、明日から訓練が受けれるようにしておく」


 サラさんが少し嬉しそうだ。


「はい。何か必要なものって有りますか?」


「ギルドで全部準備するから大丈夫だ。明日、今日と同じくらいの時間に食堂に来てくれればいい。他に何かあるか?」


「いえ、大丈夫です」


「よし。私はもう仕事に行かなければならない。後のことはローズに任せてあるから、もう少し待ってるといい」


  「はい」


「じゃあな」


 サラさんは颯爽と行ってしまった。仕事はあんまりしてない感じだったが、意外と真面目なのかもしれない。


 それよりも、ローズさんが来るまで俺は何をして時間を潰せばいいんだろう。


 さっきまで朝食を食べていた人たちも食堂からいなくなり、食堂には自分一人しかいない。誰かがいたからといって話すわけではないと思うが、ポツンと取り残されたような気がして居心地が悪い。


 何をしようか考えていると、つい欠伸をしてしまう。そういえば、まだ随分早い時間だ。少し眠いし、体も痛い。


 ローズさんが来るまでは寝ることにしよう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ