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パラレルワールドを行き戻り

作者: xj8454

 西暦2014年、地球――。

 大手外資系企業の営業本部長、秋山は、久方ぶりに自宅の高層億ションに帰宅した。この数か月、海外の提携先を飛び回り、幾つものM&Aを成功させてきた。

「やはり家は良いな」

 秋山は静脈認証のロックを外すと、扉を開けた。

 ワンワン! 愛犬のブルが駆け寄ってくる。

「よーしよし、キング! 元気にしてたか?」

 秋山はブルののどもとを撫でてやる。ブルを抱き上げると、秋山はマイホームに上がった。

「明子! 帰ったぞ!」

 秋山は大きな声で叫んだ。すると、奥から長い黒髪の美女が出てきた。秋山の妻、二十歳年下の妻、明子だ。明子は満面の笑みで秋山の数十万はするスーツの上着を取った。

「お帰りなさい。仕事はうまく行ったの?」

「大成功だ! これで次期社長候補の席は堅いな! はっはっは!」

「頼もしいわね。社長さん♪」

「はっはっは! 二週間の休暇をもらったよ! 二人だけで、別荘に行こうじゃないか」

「もう一人いるわ」

「何だって?」

「子供が出来たの」

「何だって?」

 秋山はまじまじと明子の顔を見つめた。

「ほんとか?」

「ええ、パパ」

「でかしたぞ! クイーン! やったー!」

 秋山は明子を抱き上げた。秋山は幸福を噛み締めていた。俺にも遂に子供が!


 その夜……。


 秋山は異変に目を覚ました。

(何だ?)

 秋山は息苦しさを覚えた。

(な、何だ!?)

 秋山は、自分がぐるぐる巻きにされていることに気付いた。

(どういうことだ!? 一体何が!)

 秋山は持ち上げられた。

「んー! んー! んー! んー!」

 秋山は喚いたが、完全に体を固定されている。しかも周りは闇だ。

「んー!?」

 空気が冷たい。星空が見える。

(まさか!? おい! やめろ! やめてくれ! 明子! 明子! おい! 誰か! 助けてくれ!)

 視界が暗転する。秋山の体は地上30階から落下していった。

(うわああああああああああああああああああああああ!)


 秋山は意識を失っていた。周りの通行人がわいわいと集まってくる。秋山は、巨大な交差点のまん中に倒れていた。

「大丈夫かー?」

「おい! おっちゃんしっかりしろ!」

 と、通行人の中から白いアンドロイドが数体姿を見せると、秋山の傍にしゃがみ込んだ。アンドロイドは、秋山の体をスキャンすると、言葉を発した。

「意識を失っているだけだ」

「もしもーし! 大丈夫ですか~」

 アンドロイドの呼びかけに、秋山は目を覚ました。

「う、うーん……ん?」

 自身を見下ろしている白いアンドロイドに、秋山はいぶかしげに瞬いた。

(何だこのロボットのコスプレイヤーたちは? それとも俺は……SF映画のアトラクションの中にいるのか?)

「大丈夫ですか?」

「あ? ああ……」

 秋山は立ちあがると、周囲を見渡した。

「!? な!? 何だここはあああああああああああ!」

 秋山の視界に飛び込んできたのは、遥か空を貫き、最上階が見えない超超超超超超……とにかく凄まじい高層ビル群だった。

「こ!? これは!? えええええ!? CG!? じゃねえ! ここどこお!?」

 ざわざわと人々が秋山を見つめている。

「よろしければご自宅までお送りしましょうか? ミスター」

「な、何でお前たちはそんな恰好をしているんだ?」

「我々は汎用型アンドロイドです。何かお困りでしたら御用をお申し付けくださいミスター」

 秋山は口を開けてぽかーんとアンドロイドを見返した。

「よお、おっさんどうかしたのか? さっきから喚いてっけど……?」

 見れば、学生と思しき少年少女たちが秋山の後ろに立っている。

「き、君たち……ちょっと教えてくれないか?」

「何?」

「ここはどこ?」

「どこって……ここは東京だけど?」

「東京!?」

 東京だと!?

「東京って……日本の首都の東京だよね?」

「日本っていうか、地球政府の首都だけどさあ」

「はい?」

 秋山の目が点になる。

「おっさんどこから来たの?」

「ねえ君たち……今、何年?」

「地球歴2300年だよ」

「地球歴って何? 西暦じゃないのか?」

「西暦でも2300年だけど、西暦なんて百年以上前に無くなったよ。地球政府が誕生した時に、年号は地球歴に改められたんだ。おっさんそんなことも知らないのかよ。学校で歴史勉強しなかったの?」

「馬鹿な……」

 秋山は天を見上げた。

「俺は、未来へやってきたのか?」


「あなたはどうやら何かの時空の歪みに入り込んで、未来へタイムスリップしてしまったようですね」

 バーテンダーは言った。

「俺はどうしたらいいんだ?」

「元の世界には戻れないでしょう。さすがに、2300年にもタイムマシーンはありませんからねえ。まあ、適当に部屋でも借りて、新しい生活でも始めたらどうですか?」

「金が無い」

「ああ」

 バーテンダーは笑った。

「2300年ではお金は必要ないんですよ。2200年ごろから段階的にではありますが、全ての通貨は廃止されてきましたから」

「はあ?」

 秋山は耳を疑った。お金が必要ない? 進んでいるように見えて、2300年は古きユートピアが復活した退廃的な世界なのか?

「秋山さん、順を追って説明しましょう。迫りくる地球存亡の危機に、21世紀初頭、人類は300年の計を立てました。それは、まず最初の百年に各国の全ての人、モノ、金、時間、あらゆる資源を投入し、これからの300年の計に備え、社会の仕組みを変えうるに耐えるだけの基礎となる科学技術を作り上げようと言うものでした。人工知能技術とアンドロイド技術による知的労働も含む全ての労働行為の代行、超高層ビル群による食物プラント建築技術、核融合や自然エネルギーへの移行の達成、これらは全て21世紀に行われたものです。それから22世紀、次に人類が取り組んだのは、全ての国境をなくすと言うことでした。これもまた、地球の存続のためには避けては通れない道でした。そこで、経済は巨大な再編を成し遂げ、世界の企業は統合され、幾つかの多国籍企業のみに集約されました。そして、23世紀、人類は、全ての通貨の廃止を行いました。全ての地球の人間は、全ての労働から解放され、思考すること、思考して各地域のコミュニティに参加すること、思考して過ごすこと、そうした知的行為が人間の役割となったのです。労働と呼ばれる行為は、全てアンドロイドが代行し、基礎技術の改善改良も全てアンドロイドたちが自分たちで行う循環システムを作り上げたのです。インフラは全て、アンドロイドたちが支えています。この300年の計によって、21世紀の行き詰っていた矛盾だらけの資本主義から、人類はようやく本当の意味で解放されたのです」

「でも……人間が働かずに……全部アンドロイドにやらせるなんて……」

 秋山はうめいた。

「もちろん私のように店を持ったりしている人も大勢いますよ。大きな会社を経営している人もいる。でも、働くことは、生きがいであって、お金を稼ぐのが目的ではないのです。全てのサービスは無償で提供されます。誰も見返りを求めたりはしません」

「そんなことが可能なのか……?」

「ですから、最初に申し上げたように、300年の計を立て、最初の百年で社会の仕組みを変えるに耐え得る科学技術の発展に、人類は21世紀に全てを注ぎこんだのです。これはユートピアでもアナーキズムでもありません。地球が生き残るために、人類は全ての力を注ぎこんだ結果、地球政府の樹立を成し遂げたのです。人間の精神性はいつの時代も不滅です。ですが、人間が動物と異なるのは何か? それは文明を持っているということです。人間は自分たちの社会の仕組みを科学によって作り変えることが出来るのです。ですから、地球政府には掌握すべきところは掌握する巨大な権限が与えられていますし、もちろん三権分立は機能しています。我々は、場当たり的な対応は止め、300年を掛けて、地球存続に成功したのですよ秋山さん」

「そ、そんな……」

 秋山は、日本酒を飲み干すと、ぐったりとカウンターに突っ伏した。


 …………。


「あなた! あなた!」

「う……う……うん?」

 秋山は目を覚ました。ここは?

 見慣れない部屋の天井が視界に入ってくる。だが傍には見なれた妻の顔。

「明子……」

 がばっと秋山は起き上った。

「明子! 今は何年だ!?」

「何言ってるの? 大丈夫? 凄くうなされてたわよ……」

「は……はは……夢……か……そうだよなあ……!」

 秋山は笑った。

「はっはっは! 馬鹿馬鹿しい! 何が2300年だ! ふざけるな! 俺を誰だと思って……」

 すでに朝だ。秋山は、窓の外にそびえ立つ、あの超高層ビル群に硬直した。さっと振り返る。

「明子!?」

 秋山は明子にしがみついた。

「明子だよな!?」

「あなたどうしちゃったの?」

「今……2014年じゃないのか?」

「そう、だけど……それがどうしたの?」

「あの……外のビル群は……何だ……?」

「あなたどうしたのよ。あんなもの珍しくないでしょう。食物プラントじゃない」

「2014年にそんなものないだろう!」

「ぎゃあぎゃあ喚かないでよ。どうしたのよあなた」

「なあ……まさかうちにアンドロイドとかいないよな?」

「アンドロイドなんて高価なものうちで買えるわけないでしょう! あなたの安月給で買えるわけないじゃない」

「安月給? この俺が? 俺は大企業の役員だぞ!」

「はあ?」

 明子は呆れたようにあくびした。

「そう言う寝言はやることやってからにしてよね。大企業の役員にお頼みして申し訳ないけど、今日ゴミの日だから宜しくね」

 明子は布団から出た。

「全く……私の稼ぎで食べてる癖に口だけは大きいんだから」

 明子はつーんとして台所へ消えていったが。

「今日は面接でしょう! スーツはクリーニングに出しておいたからね! びしっと決めてきてよ!」

 秋山はぽかーんとしていたが、異変に気付いた。これは……。

 秋山は自身の腕を見た。あの老いた腕はなく、たくましい筋肉の付いた若々しい肉体が見えた。

「一体どうなってんの? これが……パラレルワールドって奴か? もうわけ分からん!」

 とりあえず秋山は、若返ったことで良しとすることにした。


ちょっと前の方でも書きましたが、ユートピア的なものは考えてなくて、でもあんまりディストピア的なものも考えてなくて、続きを書くとしたらSFなんだけどB級グルメみたいな展開にしたいなあとか・・・。まあ、リアル世界はのんびり考えてる余裕などないですけどね~

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