表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/87

6話*コンディトラィ国*

あの話の後、教会のシスターさん達は皆、私の事を

伝説の乙女の生まれ変わりみたいな解釈をしているそうで、

私とすれ違うたびに「本物ッ!!」と喜びの声を上げる。

何だか思春期真っ只中の中学生男子が喜びそうな設定だが、

もうここが異世界というファンタジーの世界という時点で、

私は難しい事を考えるのをやめて、受け入れることにした。

そうだよ、私は『郷に入っては郷に従え』という言葉の存在する、

日出ずる、侍、忍者、腹切、富士山、芸者の国からやってきたんだ。

これから、異世界のルールでも仕来りでも何でも従おうじゃないか。


私は、シスターの提案で、この世界になれる為にアルバイトを

始めることにした。シスターの知り合いで、アルバイトを募集している

店があるらしいので、私はそこにお世話になることにした。


外に出るので、私はシスターの私服を貸してもらい、着替える。

水色のストライプシャツと白いワイドパンツの可愛らしい洋服だ。

この服だけ見てると、現世と対して変わらないように思える。


そうは思ったが街に出ると、あぁ異世界だなぁと実感した。

柔らかく足に負担が少ない歩き心地の良い石畳模様の道路に、

中世の趣が残る木組みやレンガ造りの建物。凝った彫像の水飲み場や

噴水のある路地裏の小さな休憩場所。

大通りにはアンティークな車や馬車が通っている。

今まで暮らしてきた日本の街並みとは違い、

どちらかと言えば、ヨーロッパの街並みに近い風景が広がっていた。

現実離れしたメルヘンな雰囲気に、私は心を奪われうっとりとする。


「すごい……何か童話の世界にいるみたい……」


「この国はいろんな国の人が住んでいるんですよ。

 なので、もう少し東の地区に行けば和風な街並みが

 広がっていますし、着ている服も少し違うんです」


シスターの説明を聞きながら、あちこちキョロキョロしてしまう。

どこを見ても絵になる風景で、素敵すぎて写真を撮りたくなってきた。

周りを見ていると、どこからか鼻腔をくすぐる香りが漂ってくる。


「何かそこらじゅうから甘い匂いがしますね」


よく見ると、ケーキ屋さんやパン屋さんカフェなど

お菓子系の店が多く並んでいるカフェ街に来ているようだ。

甘党の人にとっては天国のような通りだ。


「えぇ、気づきました?コンディトラィは『お菓子屋、ケーキ屋』って言う

 意味があるんですよ。なのでこの国にはカフェとかが多いんですよ」


一応商業高校在学中の私には「マーケティングが大変そうだ」

っと営業側の考えをしてしまった。

これだけの数があれば、客を寄せるのも大変だろうなぁ……。


「これだけ同じ店が多いと、客寄せも大変でしょうね」


「確かに大変でしょうね。ライバル店に負けないように

 いろいろと工夫しなければいけませんね……」


シスターと会話をしながら、いろんな店を見ていく。

美味しそうなオリジナルのお菓子を作っているお店もあれば

可愛いコスプレチックな制服を着た女の子がいるお店もある。

皆それぞれコンセプトを持って、経営しているようだ。


「そろそろ着くはずなんですけど……確か近くに噴水があって……」


「噴水?噴水ならあそこの広場のところにありますけど……」


教会近くの広場には、お金持ちの家にあるような豪華な噴水が

置かれており、近くで子供たちが水を掛け合って遊んでいた。

自分も昔、遥達と公園の噴水で遊んでたなぁ……。


「えーっと……あっ!鹿江さん!!あのお店ですよ!!」


少し離れた所に、淡い黄緑の外壁に煙突のある赤い屋根の

可愛らしい外観の喫茶店が見える。

近づくと、看板に『喫茶店~雪うさぎ~』と書かれていた。


しかし中にはお客どころか店員の姿すら見当たらない。


「本当にここであってるんですか……?」


「たっ、多分。お店の名前は間違っていないし、住所も大丈夫です!」


シスターと顔を見合わせて、再び店内を覗くが、

ガランとした静かな店内は、先ほどと何も変わってはいなかった。


「きっ、きっと今日はお休みなんですよ!

 だからお客さんも、店員さんもいなんですよ!そうですよ!!」


「そっ、そうですよね!今日はお休みなんですよね!

 じゃあ都合がいいですね!店長さんに会いましょうか!!」


私とシスターは、自分たちに言い聞かせるように都合のいい解釈をする。

シスターが扉に手をかけると、カランカランッと鈴の音が鳴った。

私は、よくカフェにあるベタな仕掛けに、小さく感動をした。


「あっあのー!ネロさーん!居ますかー!?

 私です!教会のシスターです!アルバイトの件できたのですがー!!」


静かな広い店内にシスターの可愛らしい声が響くが、

返事が帰ってくる気配はなかった。

店内は綺麗に清掃されて清潔が保たれており、

洒落たアンティーク調のテーブルや椅子、カウンターには

塵一つ落ちてはいない。落ちてはいないが……。


「シスター……このお店もしかして……」


「いっいえ!ちゃんと連絡したときは営業してましたよ!!」


シスターがそう叫ぶと、店の奥の方から足音が聞こえてきた。

だんだん、こちらに近づいてくる音なので、

きっとこの店の店長であろう。

しかし、扉を挟んだ向こうで、店長が何やらトラブっていた。

ダンボールを蹴るような物音や、壁か何かに思い切り頭をぶつけて、

「痛ってぇぇぇぇぇええッ!!!!」と叫ぶ若い声が聞こえてきたりした。


断末魔のあと、しばらくすると、突然、ガチャッと音を立てて

扉が勢いよく開く。

私とシスターはビクッと驚き、二人で寄り添い身構えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ