夜空とみる夜空
「星を見に行こう?」
夜空はそう言って僕を連れ出す。
名前にあるからという理由でひどく星空を見上げるのが好きなやつではあるがここまで楽しそうにしているのは久しぶりに見たな……。
「牡羊と牡牛、双子に蟹。
獅子と乙女と天秤と蠍。
射手、山羊、水瓶、魚まで。
黄道12星座はこれだけだけで見えないものもあるけれど、それぞれに物語があるし、88星座との関係性も忘れちゃいけないし。
一年中見えてるものと、少しの間しか見られないもの、一年中どうやったって見えない星座までこの星空には無数の可能性があるんだよ。
それに星座なんて昔々の偉い人かなんかがそう決めただけでそれに従わなきゃいけないなんて事もないじゃん?
――だから星を繋げて遊ぶんだ。
都会の明るいところじゃ見える星も少なくてかくかくな星座になっちゃうけど、それでいいんだよ。
もしそれで何かが見えたら素敵だと思わない?」
だいぶ町の中心を離れて、木々が多くなってくる。
夜空は笑う。
「月もいいよ。
満月には兎が住むなんて言うし、国によって見え方が違うのもよく知られているけれど月の写真を回転させればまた何か思いつくかもしれないね。
月の満ち欠けはひと月周期で満ちていく姿と痩せていく姿、どちらを見てても楽しいし。
たまに赤かったりすると得した気分にならない?
夜の王とか不吉の象徴っていう言い方もあるけど、母性っていう言い方もあるし……。
結局どっちが正しいのかなんて分かんないけど、素人なら見てるだけでも楽しいからね。
ああでも、僕の一番のお気に入りは月でも星でもないなぁ」
夜空は一段高い段差に登って歩いている。
僕は夜空を見て笑いながら言う。
「じゃあ、一体何がお気に入りなんだ?」
夜空は誇らしげに胸を張りながら言う。
「それは……、
ああっ、流れ星――」
夜空は手をまっすぐ上に伸ばす。
僕はそれを見ようと空を見上げて、柔らかいものに口をふさがれた。
垂れる夜空の髪が顔にかかってくすぐったかった。
暗い中で顔が間近にあって、涙がまるで星のようだと、僕は思った。
でもそんなのはきっと後付けだった。
その瞬間、僕は何も感じる事が出来なかったし、夜空もそれは同じだっただろう。




