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毒草しか使えない変人と婚約破棄され国外追放されましたが、隣国では聖女と崇められています ~前世は薬剤師、万能ポーションで無双します~  作者: 月代
第四章 過去の影

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17話 リーゼの返答

 翌日、アルベルトは単独でもう一度施療院を訪れた。


 クローリアは宿で待っているという。リーゼは少し意外に思ったが、顔には出さなかった。


「昨日の話の続きがしたい」


「どうぞ」


 リーゼは作業場にアルベルトを通した。散らかった作業台と薬草の香り。以前なら「こんな場所で」と顔をしかめたかもしれない男が、今日は黙って椅子に座った。


「条件を変えよう」アルベルトが言った。「ヴェルディアに戻ることは条件にしない。製法も求めない。ただ、ヴェルディアの患者にもポーションを供給してほしい。商業的な取引として」


「商業的な取引」


「ポーション一本あたりの価格を設定して、ヴェルディアの薬師組合を通じて流通させる。利益の一部はここに還元する。お前の研究費用になる」


 リーゼは少し考えた。


 この条件は、昨日のものより現実的だ。アルベルトは一晩で条件を組み直してきた。交渉相手として、やはり優秀な男だ。


「一つ確認します。ヴェルディアで流通させた場合、誰が品質管理をしますか。私のポーションは配合が複雑で、粗悪な模倣品が出回るリスクがある」


「薬師組合が管理する」


「薬師組合は私を門前払いにした組合です。私のポーションの品質を正しく管理できると思いますか」


 アルベルトは少し沈黙した。


「……それは確かに問題だ」


「品質管理の体制が整うまでは、供給できません。それが整ったとしても、まずアルシェアの需要を優先します。ここにはまだ、治療を待っている人がいる」


「優先順位の問題か」


「そうです」


 アルベルトはしばらく考えていた。それから、別の角度から来た。


「リーゼ。正直に聞く。ヴェルディアに対して、今でも腹を立てているか」


 リーゼは少し間を置いた。


「……立てています」


「だからヴェルディアには協力しないのか」


「違います」


 リーゼははっきりと言った。


「私がヴェルディアに協力しない理由は、感情ではなく条件の問題です。冤罪が解決していない。品質管理の体制がない。アルシェアの需要が先にある。この三つが解決すれば、ヴェルディアの患者を後回しにする理由はない」


「……条件を整えれば、協力してくれるということか」


「はい。ただし、主導権はこちらにあります。薬師組合の指示には従いません」


 アルベルトは長い沈黙の後、息を吐いた。


「わかった。持ち帰る。冤罪の解決については、俺の権限の範囲で動いてみる」


「それは、期待しすぎない方がいいですか?」


 アルベルトは少し苦い顔をした。


「……正直に言えば、難しい。マーカス子息の件は、今でも公式には未解決のままだ。証人はクローリアで、彼女が証言を撤回しない限り、冤罪の証明は難しい」


「そうですか」


「ただ——俺は知っている。お前が何もしていないことを。あのとき、わかっていて見過ごした。それは俺の負い目だ」


 リーゼは静かに男を見た。


 アルベルトは変わっていない部分と、変わった部分がある。計算高く、体裁を重んじる部分は変わっていない。しかし——自分の誤りを認める言葉を、この男がこれほどはっきり言えるとは思っていなかった。


「負い目を感じる必要はありません。終わった話です」


「お前はそう思えるのか」


「思えます。ここに来てから、色々なものを得た。あの追放がなければ、師匠にも会えなかった。患者たちにも会えなかった。フェリクスにも」


 アルベルトが少し目を細めた。


「フェリクス。アルシェアの第二王子か」


「そうです」


「……親しいのか」


 リーゼは少し考えた。


「患者です。今は定期的に状態確認に来ています」


「それだけか?」


「それだけです」


 アルベルトはそれ以上聞かなかった。ただ、少し表情が変わった。後悔とも取れる、複雑な顔だ。


「……リーゼ。もし、ヴェルディアに戻る気持ちが生まれたら、俺に連絡してくれ。力になれることがある」


「はい」


 リーゼは答えた。戻る気はないが、言葉は受け取った。


 アルベルトが立ち上がり、帰り際に言った。


「クローリアのことを、許してやってくれ」


 リーゼは少し沈黙した。


「……それは、私が決めることではなく、クローリア自身が決めることです」


「そうか」


 男は静かに頷いて、出て行った。




 その夜遅く、施療院の扉をノックする者がいた。


 リーゼが開けると、そこにクローリアが一人で立っていた。


 宿の灯りから離れた暗い路地に、妹が立っている。昼間の完璧な化粧は少し崩れていた。それが、クローリアをずっと人間らしく見せていた。


「入りますか」


「……少しだけ」


 作業場に通した。夜の薬草の香りが漂う中、二人は向かい合って立った。椅子を勧めたが、クローリアは座らなかった。


「姉様」


「なに?」


「……私のしたことを、わかっていますか」


「わかっています」


「怒っていますか」


「怒っています」


 クローリアは一瞬、目を閉じた。


「……謝りに来ました」


 その言葉は、昼間のアルベルトの謝罪とは種類が違った。計算の匂いがしなかった。少なくとも、リーゼにはそう聞こえた。


「姉様が国を出てから、ずっと気になっていました。うまくいくかどうか、不安でした。でもここでの様子を見て……姉様はここで生きている。ここが本当の場所だと思いました」


「そう」


「私があのことをしなければ、姉様はヴェルディアに留まっていた。変人扱いされたまま、誰にも必要とされないまま」


「それはどうでしょう」リーゼは静かに言った。「私のポーションはいつか誰かの目に止まったかもしれない。あるいは一生、地下室で作り続けていたかもしれない。わからない」


「でも」


「でも、あなたがしたことは間違いでした。それは変わらない」


 クローリアは俯いた。


「……はい」


「謝罪は受け取ります。ただ、それで全てが消えるわけではない。あなたがしたことの責任は、あなたが引き受けてください」


「わかりました」


 クローリアは顔を上げた。その目が少し赤かった。


「姉様は、ここが好きですか」


 リーゼは少し考えた。


「好きです」


「そうですか」


 クローリアは静かに微笑んだ。今度は計算の入っていない、小さな笑みだった。


「よかった。……本当によかった」


 妹は深く頭を下げ、施療院を出て行った。


 扉が閉まった後、リーゼは少しの間そこに立っていた。


 怒りはまだあった。消えてはいない。でも——少し、軽くなった気がした。


 作業台に戻り、目の再生薬の検証を再開した。


 夜は静かで、薬草の香りが満ちていた。




——第四章 了

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