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毒草しか使えない変人と婚約破棄され国外追放されましたが、隣国では聖女と崇められています ~前世は薬剤師、万能ポーションで無双します~  作者: 月代
第四章 過去の影

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16話 接触を図る使者

ヴェルディアからの一行が施療院を訪れたのは、穏やかな秋の午後だった。


 リーゼは作業場で新しい試作品の検証をしていた。目の再生薬の第三改良版だ。前回より視神経への作用を精密化した配合で、理論上は完全回復が見込めるはずだった。


「お嬢さん、来客です」


 補助者の一人が顔を出した。


「今少し手が離せないので、師匠に——」


「ガルト師は今日の午後、往診です。それと……ヴェルディアからの方が見えています」


 リーゼは手を止めた。


「ヴェルディアから?」


「はい。クロイツ侯爵子息と……ヴァルトハイム伯爵令嬢、とのことです」


 静かな午後に、その名前が落ちた。


 リーゼは薬草を置いた。手を洗い、作業着の上から清潔な上着を羽織った。鏡は見なかった。見た目を整える気にはならなかった。


 待合室に入ると、二人はすでに座っていた。


 アルベルトは三ヶ月前と変わらない、端整で隙のない顔をしていた。旅装もきっちりと整えられており、貴族子息の余裕が全身から漂っている。


 クローリアは——相変わらず美しかった。栗色の巻き毛、大きな瞳、花のような笑顔。施療院の質素な待合室に、場違いなほど華やかな存在感があった。


 二人がリーゼを見た。


 一瞬の沈黙があった。


「……久しぶりですね、姉様」


 クローリアが先に口を開いた。柔らかい声。困ったような、しかし安堵したような表情。完璧な「心配していた妹」の顔だ。


「久しぶり」


 リーゼは素直に答えた。動揺はなかった。あるいは、動揺する準備を、どこかでしていたのかもしれない。


「お元気そうで、よかった。噂は聞いていました。活躍されているようで」


「おかげさまで」


 リーゼはアルベルトに目を向けた。男は立ち上がり、軽く頭を下げた。


「リーゼ。会いに来た」


「見てのとおりです。元気にしています」


「それだけ言いに来たわけじゃない」


 アルベルトは率直に言った。


「お前のポーションについて話したい。ヴェルディアでの活動を検討してほしい」


「ヴェルディアでの活動」


「そうだ。お前のポーションは本物だった。俺が間違っていた。今からでも——」


「アルベルト様」


 リーゼは静かに遮った。


「座ってください。お茶を用意します。話は聞きます」


 二人を奥の小部屋に案内した。リーゼ自身が茶を淹れた。薬草茶ではなく、普通の茶を。


 向かい合って座ると、アルベルトが続きを話した。


「ヴェルディアの薬師組合が、お前のポーションに興味を持っている。独占契約ではなく、技術提供の形で。報酬は相応のものを用意する。ヴェルディアに戻ることが条件だが、名誉回復も——」


「お断りします」


 アルベルトが眉を上げた。


「理由を聞かせてくれ」


「いくつかあります」リーゼは静かに言った。「まず、私はすでにアルシェア王国の施療師として国の庇護を受けています。ここを離れる理由がない。次に、ヴェルディアで私を追放した理由はまだ解決していない。冤罪の証明なしに戻ることは、同じことが繰り返されるリスクがある」


「名誉回復は——」


「アルベルト様が決められることではないはずです。誰がどの権限で私の名誉を回復するのか、具体的な話があるなら聞きます。ただ……」


 リーゼはアルベルトをまっすぐ見た。


「私はヴェルディアに未練がありません。そこが一番の理由です」


 沈黙が落ちた。


 アルベルトは少し目を細めた。交渉が難しい相手だということは、表情でわかった。しかし諦めた顔でもない。まだ何かを考えている目だ。


「……ポーションの製法だけでも」


「製法はアルシェアの施療院の財産です。私一人の判断で外に出せるものではない」


「リーゼ。俺は謝りたい」


 アルベルトが、少し声のトーンを変えた。


「あのとき、お前の言葉を信じなかった。冤罪だとわかっていながら、体裁を優先した。それは間違いだった」


 リーゼはしばらく黙っていた。


 謝罪を受け入れるべきか、どうか。


 ——正直に言えば、今更だと思っていた。しかし謝罪を拒絶することに意味もなかった。


「わかりました。謝罪は受け取ります。ただ、アルシェアに来ることも、製法を渡すことも、お断りします。それは変わりません」


 アルベルトは目を伏せた。それから頷いた。


「……わかった」


 クローリアはずっと黙っていた。リーゼは視線を向けた。


 妹は微笑んでいた。しかしその目の奥に、何かがあった。安堵なのか、計算なのか、あるいは——別の何かか。


「姉様」


「なに?」


「お元気そうで、本当によかった。ここが合っているみたいで」


「そうね」


「……戻る気はないんですね」


「ない」


 クローリアは頷いた。ゆっくりと、一度だけ。


 その動作に、何かが決まった気がした。

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