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毒草しか使えない変人と婚約破棄され国外追放されましたが、隣国では聖女と崇められています ~前世は薬剤師、万能ポーションで無双します~  作者: 月代
第三章 聖女と呼ばれた変人

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12話 王宮への招待

フェリクスの右腕が完全に回復したのは、治療開始から四十日後のことだった。


 最終確認の日、男は剣を持って処置室に入ってきた。今日は鞘から抜いた状態で持っていた。


「握ってみましょう」


 フェリクスは右手で剣を構えた。今度は震えがなかった。五本の指がしっかりと柄を包み、手首が安定していた。


「力を入れてみてください」


 男はゆっくりと、それから段々強く、剣を握り込んだ。指の関節が白くなる。完全な握力が戻っていた。


「問題なし、です」


 リーゼはノートに記録した。フェリクスはしばらく剣を握ったまま動かなかった。


「……どうですか」


「完璧だ」


 短い言葉だった。しかし声のトーンに、隠せないものがあった。


 男は剣を収め、リーゼを見た。


「礼をしたい」


「治療費はいただいています。それで十分です」


「違う、そういうことじゃない」


 フェリクスはわずかに眉をひそめた。


「お前には、相応の評価が必要だ。ガルト師のこの場所だけではなく、もっと多くの人間がお前のポーションを必要としている。国として、お前を支援する体制を整えたい」


 リーゼは少し考えた。


「……あなたは、何者ですか」


「フェリクスと名乗った」


「名前ではなく、立場を聞いています」


 フェリクスはわずかに間を置いた。


「アルシェア王国、第二王子だ」


 沈黙が落ちた。


 リーゼはしばらく男の顔を見た。護衛の様子、物腰、この国の事情に精通していること——言われてみれば、合点のいくことが多かった。しかし、


「……なぜ最初に言わなかったんですか」


「言ったら、対応が変わっただろう」


「変わりません」


「そうか?」


「患者は患者です。症状が同じなら、対応は同じです」


 フェリクスは少し目を細めた。それから、静かに笑った。今まで処置室で見た中で、一番自然な笑みだった。


「……やはり変わった人間だ」


「よく言われます」


「それは褒め言葉だと言ったはずだ」


 リーゼは少し黙ってから、言った。


「国の支援というのは、具体的にはどういうことですか」


「まず、この場所を正式な施療院として認める。原料の調達に王家のルートを使えるようにする。それから——お前自身の安全と、この国での立場を保証する」


 安全と立場。


 リーゼはその言葉を繰り返した。


 ヴェルディアを追放されたリーゼには、現在、この国での公的な立場がない。ガルト爺の店の弟子という立場はあるが、それは非公式のものだ。アルシェアとヴェルディアの関係が悪化すれば、ヴェルディア人であるリーゼは危うい立場になりうる。


「……わかりました」


 リーゼは頷いた。


「ただ、条件があります」


「聞こう」


「師匠のガルト爺を、この施療院の長として正式に認めてください。私はあくまで弟子です。それから、患者の選別は私がします。政治的な事情で優先順位を変えることはできません」


「……それだけか」


「それだけです」


 フェリクスはしばらく考えた。それから頷いた。


「ガルト師を長とすることは問題ない。患者の選別も、お前に任せる。ただ、一点だけ追加させてくれ」


「何でしょう」


「お前を王宮に招待したい。国王と会ってほしい。お前のポーションについて直接説明してほしいんだ」


 リーゼは少し眉をひそめた。王宮。国王。自分には縁遠い場所と人だ。


「……国王に会って、何か変わりますか」


「変わる。国が動く速度が、格段に変わる。原料の調達、施療院の拡大、他の地域への展開——国王の承認があれば、全てが早くなる」


「それがこの国の民のためになるなら」リーゼは言った。「行きます」


「決断が早いな」


「迷う理由がないので」


 フェリクスはまた静かに笑った。


「三日後に馬車を手配する。王都まで半日の旅だ」


「わかりました。師匠に話してきます」


 リーゼは立ち上がりかけて、ふと止まった。


「フェリクス様」


「フェリクスでいい」


「……フェリクス。腕の状態は、今後も確認が必要です。半年後に一度、診させてください」


「ああ」男は頷いた。「診てもらおう」


 それから、少し間を置いて付け加えた。


「半年後より前に、また来てもいいか」


「治療以外の理由で?」


「……まあ、そういうことだ」


 フェリクスは少し目を逸らした。それがこの男の照れ方なのだと、リーゼにはわかった。


「診察の予約は、師匠の受付で取ってください」


 リーゼは真顔でそう言って、部屋を出た。廊下に出たところで、少しだけ口元が動いた。


 笑っていた。



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