第15章:氷の女帝が溶けるとき
結城陽向の、魂からの告白。
その真っ直ぐな言葉は、凛が必死に築き上げてきた心の壁を、いとも容易く、そして完全に崩れ落とした。
好き。
その一言が、凛の心に深く、温かく染み渡っていく。
もう、意地を張っている意味なんてなかった。羞恥も、プライドも、どうでもよくなった。それよりも、彼に会いたい、彼と話したいという気持ちが、嵐のように全てを押し流していく。
凛の瞳から、こらえきれなかった涙が、大粒の雫となって次々と頬を伝った。
「……バカ」
しゃくりあげながら、凛はかろうじてそう呟いた。
「なんで……もっと早く、言わないのよ……っ」
それは、紛れもない肯定の言葉だった。怒っているようで、その声は甘く震えている。ずっと寂しかった。ずっと、彼に会いたかった。
その言葉を聞いて、陽向の表情が、安堵と喜びにふわりと和らいだ。彼は、そっと腕を伸ばし、泣きじゃくる凛の華奢な体を、優しく抱きしめた。
凛の肩が、びくりと震える。しかし、彼女は抵抗しなかった。それどころか、彼の背中に、おそるおそる腕を回した。彼の胸に顔をうずめると、落ち着く匂いと、速い鼓動が伝わってくる。
「ごめんなさい、凛さん。怖くて、言えなかった」
陽向が、耳元で囁く。
「ううん……」
凛は、首を振った。
「ありがとう……結城くん。私のこと、見つけてくれて。支えてくれて、ありがとう」
今まで誰にも見せなかった、本当の自分。弱くて、脆くて、寂しがりな自分。その全てを、彼は知った上で、丸ごと受け止めてくれた。抱きしめてくれた。
その事実が、どれほど彼女を救ったことか。
氷の女帝が、完全に溶けて、ただの恋する女性に戻った瞬間だった。
「これからは、もうチャットじゃなくて……直接、俺に愚痴ってください。いくらでも聞きますから」
「……うん」
「辛い時は、俺の前で泣いてください。ずっと、そばにいますから」
「……うん」
涙でぐしゃぐしゃの顔を、彼の胸に押し付けたまま、凛は何度も頷いた。
長かったすれ違いの日々が、終わりを告げる。ようやく、現実の世界で、二人の心は確かに通じ合った。会議室の大きな窓の外に広がる無数の光が、まるで二人だけの未来を祝福しているかのように、きらきらと輝いて見えた。




