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「え、えっと…」
謎の美女の妖艶な圧に推されてついてきてしまったことを後悔する。
社内は薄暗く、灯りと言えば小窓から差し込む夕日と何本かの蝋燭のみで、おもむきある社が更に雰囲気を出していた。
「お名前は?」
赤毛の女はどうぞと、座布団を美月に用意する。走って逃げ出したいのは山々だが、その勇気はない。美月は小さく会釈すると、恐る恐るそこへ腰を下ろした。
「は、林美月…です」
言ってから後悔する。万が一のためにも偽名を言うべきだった。
そんな彼女の心境察してか、女は美月ちゃんねと優しげに微笑んでみせた。
「あ、あなたは…神社の方…ですか…?」
「私?ううん、勝手に住み着いてるだけ」
ニコニコとした表情を崩さぬまま、女は続ける。
「久しぶりに里帰りしたんだけど、家がなくてね。たまたま空き家だったからここに居座ってるの」
つまり不法占拠者ではないか。しかも神社で…。
美月はぎゅっとカバンを盾にするように抱きしめる。
「わ、私帰ります!お邪魔しました!」
そう言って立ちあがろうとした美月だったが、違和感に気づく。足が座布団から離れない。立ちあがろうにも立ち上がれない。
「だめ、美月ちゃんはもうちょっと私とおしゃべりするの。いいでしょ?私、ひろくんがくるまで暇だし」
相変わらず声色も表情も変わらない。
美月は恐怖に震え始めているというのに、女はなぜか楽しそうである。
「ねえ、美月ちゃん、私って何者に見える?」
まるでコンパの席で職業当ててみてとでも言ってるかのような口ぶり。
「え?…えっと…モデルさん…とか…?」
半分本心。女の整った顔立ちや、170cm弱はあるであろうスラッとしたスタイルを考えれば、モデルと言われても誰も疑問に思わないだろう。それが怪しい不法占拠者じゃなければ、の話だが…。
すると、女は実に嬉しそうにくしゃっとした可愛らしい笑顔を見せる。
「きゃー、すっごい嬉しいかも!そんなに私、綺麗?」
「き、綺麗です…」
「うれし!ありがと!」
そう言って、美月の頭をくしゃくしゃと撫でると、女はぐっと顔を近づけて瞳を覗き込む。
「美月ちゃんも可愛いよ」
「ッ…!?」
そう女が囁いた瞬間、本能的な恐怖が美月の身体を支配した。
別に何かが、起こったわけでも変わったわけでもない。ただ女に瞳を覗き込まれているだけ。ただそれだけなのに、体がガタガタと震え始めるのがわかった。
「美月ちゃんってさ、こんなに可愛いのにまだ処女でしょ?そういう匂いがする」
女は、美月の頬を撫でながら、優しい猫撫で声で耳打ちする。
「いいね、可愛くて、若くて、健康的で、生娘で…美月ちゃんってほんと…」
頬を撫でていた指で優しく唇をなぞると、改めて瞳を覗き込んで囁いた。
「美味しそう」
あ、死んだ。
瞬間、美月はそう思った。
瞳には涙がたまり、叫びたくても声が出ず、口がパクパクと震えるように動く。きっと、肉食獣に食われる寸前の草食獣というのはこう言う気持ちなのだろう。これから食べられるのを覚悟を決まらないまま、ただ待つだけの…。
「ごめんごめん!」
「え…?」
美月の瞳から涙がこぼれ落ちた瞬間、女はまたくしゃっとした笑顔になると美月に抱きついた。
「美月ちゃんがあんまりにも可愛いからついいじめたくなっちゃった」
女は、ごめんねと上目遣いで可愛らしく謝る。
その姿に先ほどまでの圧力は全く感じない。
美月は震える唇から声を絞り出しながら尋ねた。
「あなたは…なんなんですか…?」
その問いに、私?と聞き返すと、女は少し自慢げに笑って見せた。
「私は阿部晴香。正義の占い師だよ」




