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財布を開くと10円玉と500円玉が入っていた。美月は、少し迷ったものの500円玉を賽銭箱に入れ、二礼二拍手してぎゅっと目を閉じる。
『視線が消えますように。視線が消えますように。視線が消えますように』
美月は更に念押しするようにもう3回心の中で復唱すると、一礼して目を開けた。
誠明神社。
無坂市にある小さな神社である。
無坂市という名前の通り、ほとんどが平地の町なのだが、町外れに唯一小高い岡があり、この神社はそこに建てられている。
「ふぅ…」
少し疲れを感じて近くのベンチに腰掛ける。
この神社の存在は知っていたものの、まさかこんなに階段を登るとは思わなかった。帰りもあれを下りなければならないかと思うと、少し気持ちがげんなりする。
少し目を閉じると、急に眠気が押し寄せてくる。知る人ぞ知る厄除けスポットだと聞いて、文字通り神にもすがる思いでここへ来てみたが、どうやら嘘ではないらしい。
気のせいかもしれないが、ここへ来てからなんとなくいつもの視線を感じない気がする。自然と張り詰めていた気が緩んでいくようなそんな安心感がここにはあった。
「こんにちは」
「!?」
突然の声に、驚いた美月は飛び上がるように目を開ける。優しげに微笑む美女が肩が触れそうなほどの距離に腰掛けていた。
「こ、こんにちは…」
あまりにも唐突すぎる出来事に思わず声が上擦ってしまう。
20代中盤くらいだろうか。赤茶色のウルフカットにおっとりした雰囲気のタレ目のその美女は、優しげに微笑みながら美月を覗き込んだ。
「怖い?」
「え!?い、いえ、ちょっとびっくりしちゃって…」
あたふたする美月に、美女は更にグイッと詰め寄ってくる。
「嘘。何を怖がってるの?」
とても優しい声。その声に安心感を感じる一方で、美女の瞳の奥にある迫力に、美月は本能的な怖さを感じた。
「教えて?なんでここへ来たのか、何を恐れているのか」
優しく指が絡められる。
「占いましょう、あなたの災いを…」
そう耳元で囁くと、その美女は美月を社へと連れ込んでいった。




