『災難』
大学に通い始めて何だか友達を作るのが億劫になり、あっという間に孤立してしまった。何処かのサークルに所属すれば良かったものだが、どうにも上手くいかない。馴染めないなあ、というのが正直な感想だった。
そんな中でだんだんとひきこもるようになり、私は両親からアパートと生活費の仕送りを送られながらも、大学に籍を置きつつ不登校生活を送る、という何とも親不孝な状態に陥ってしまっていた。
そんな中、私のアパートの扉をどんどんと叩く者がいる。
彼女の名前は絵里南。
正直、面倒臭い大学の同級生だった。
「文薫。いるんでしょう? いるの分かっているんだからね」
私は三、四日程、お風呂に入っていない。
「何? 一体」
私は抗議する。
「ねえ。夏なんだから、一緒にビーチに行ってみない?」
「えっ。嫌だよ、人多いだろうし。それにみんなで集団行動するのも嫌だし」
「私と二人だけならいいでしょ? ねえ、行こうよ」
何となく逆らえなかった。
そう言われて、私は半ば強制的に明日、絵里南と一緒にビーチに行く事になった。
そして、私は水着が無いので、半袖のTシャツと半ズボンで行く事になった。
絵里南は、うきうきで水着を持ってきたと言っていた。
そして、電車に揺られて一時間半程して、私達二人はビーチに着いた。
正直、私は泳ぐのは面倒臭くて、日陰で飲み物を買ってビーチの方を見ているだけで充分だった。そんな私に対して、絵里南は一人、楽しそうにしていた。
その日は、災難だった。
私達と同じくらいの女子大生が溺れた、という話で持ち切りだった。
しかも、その女子大生の周りには、沢山の海藻などが絡まっていたらしい。女子大生は帰らぬ人となったという。
私と絵里南は、人の集まっている場所へと行った。
女子大生の死体と眼があった。
その死体は、まるで恨めしく、こちらを見ているかのように思えた。脚の方も見てしまった。ワカメが絡み合って…………人間の腕が大量に絡み合っているように見えた。いや、確かにそれらは人間だった。老若男女、色々な者達が、女子大生の脚を握り締めていた。
私と絵里南は、とてつもなく不気味に思って、海水浴場から帰る事にした。
そして、あれから何も無いような日常が起きると思っていた。けれども、それは間違っていた。
私の部屋に、べったりと、海の潮の臭いがこびり付いていた。
窓には、手形が付いている。
手形は塩水によって濡れていた。
絵里南も同じような怪奇現象に苛まれているのだと言う。
彼女はお寺や神社で御札や御守りを買って壁に貼り付けたが、どうしても、潮の臭いが取れないのだという。更に言うと、お祓いをしたけれども、効果が無かったというラインのメッセージもあった。
なんだか、絵里南は霊を刺激したのかどうか知らないが、私にとってはまるで疫病神だった。正直な話、そもそも、私はビーチに行きたくなかったし、そこであんなものなんて見たくなかったのだ。そう、そもそもの発端は彼女にある。私は彼女からのラインをブロックして、彼女からの電話も着信拒否に設定した。
それから、私はしばらく、また引き篭もる事にした。
ゴミ捨てとコンビニに弁当を買いに行く時、親からの仕送りを引き出す為にATMに行く時以外はまともに外に出る事が出来なかった。そんな事もあってなのか、次第に、霊からの悪意のようなものは私に向かなくなった。
夏が過ぎ、秋に近付こうとする頃、絵里南は何も無い場所で溺れて亡くなった、という知らせが来た。正直、とてつもない怪奇現象にあって、ありとあらゆる事を彼女は試したらしかったのだが、霊からの怒りは半端なく彼女を襲ったらしい。
正直、理不尽極まり無い事もあるのだなあと思いながら、私はまたひきこもる事にした。私に対しての霊障は気付けば無くなっていた。