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本編:常魔法-微睡み-いぬ:その5:(17)有妃・卒業・消滅~冷黙の続き160p~ (22):疑問符~200p

知覚…嗅覚を廻る常魔法の私小説です。…どうやら能直クンフラれたようです…作者=羽仰は莫迦げていたり儚く微々たることでも、赤心をもって繰り返すと、赤心叶わぬとも…何らかの反応があったりするものとおもっています。…赤心叶うことも希にあるかもしれません。もちろん赤心に贄は有ってはなりません。贄の要らない常魔法ですから…気易く何度も繰り返すことができます…とはいえ…寝る食べる寛ぐの日常を浸食するのも贄ですから…ほどほどに…気軽に、本編の繰り返しを堪能ください。

コンテンツ:

(17):有妃・卒業・消滅~冷黙の続き160p~ (18):菅原宗家、重い石と大事な石、石とお笑い166p~ (19):史澪墜落180p~ (20):邂逅、息災、御兼利恵子・朱樹・史澪188p~ (21):バージンキラー194p~ (22):疑問符、魔類の変容、虚時間に隠れる(勉強しなさい-その2)197p~

御容赦。…本文には(17)(18)(19)…等のナンバリングはありません。

・「…ミオネエは死んじゃったの?僕が病室で微睡みと眠り

を繰り返していた時…あの時の別のミオネエ…雪か氷に押し

つぶされた誰か…だよ」

・…史澪は哀しく笑った。「違うよ。」…本当、の寂しさが

辺りに香った…絶望だった。

・遭難以降、能直の異能は遂に回復して来なかった、史澪は

その力を何かに押さえ込まれた様な気がしてならなかった…

同時に…それ以上に、それは史澪自身のから滲み出ていたも

のでもあった。                    -160p

・…

・能直は“あァ…魔女、に嗤われた…が嗤った ”

・…能直の直前の「別のミオネエ」の発言は…“滅びの辞

”…能直は自身でその封を切り戸を開いてしまった。

・…能直はもう取り返しがつかない…そう確信した。絶望。

…“本当に終わった…全てが消え去った ”誰かにかなり大

きなモノがついている、そう、憑依されのだった。

・…父は、干磯に戻り、朱樹と能直はマンションの階下の自

宅に戻った。…母と子は何も語らず深夜を迎えていた。

・「ナオ…何があったの?」

・…「女の人ってナンカ大変みたい…凄くさみしいけど…ボ

クの勘違いかもしれないけど、ボクは信じてみるよ母さん。」

…見るからに、空元気であった。「ナオ…あなたも偉いし、

史澪ちゃんも見透してあなたに賭けたの、二人とも偉いゎ。」

・「戦いながら、ナオを護って、それで恋して」…「ナオも、

戦いながら、史澪ちゃんを守って、幼いながらきちんと恋し

て…」

・…「まだ男に成り切っていないナオに女のホントに暗い部

分を…」…能直の頭を抱えて、「ナオ。あなたは凄く幼いと

ころと大人以上に醒めたところがあるからね、今すぐに・全

部解らなくてもいいの、」…「戦う・守る・恋する…これを

イッペンにするとその熱で人間って、蒸発してしまうのよ…

なにも残らないの―記憶の断片も誰かのデジャブ、この世に

いたことも。あなたが幼かったから二人とも無事だッたの」

…ガマンょ…「頑張って、勉強して、チャント男になったら、

彼女を奪いに行け!。…史澪ちゃんは待っている。」…似た

言葉を数ヶ月まえ、何処か…きっと学校で、篤い魔女みたい

なのから…聞いた様な言葉だった。

・…

・「う、ぅん」肯きはした、だが…母朱樹の言葉は死んでは

いなかったが…殆ど虚空の吸われたままになっていった…。

・…朱樹は思った…。                 -161p

・…“普通の男と女は共にこの種の暗い部分を抹殺し…すれ

違うだけ… ”

・…“二月二五日の早朝に顕れた史澪の影は死んでしまった

わけではなかったのね ”

・…“やはり死線を彷徨っていたナオが蘇ったのは一人の作

業じゃなかった… ”

・…“でも、奪還しないと影と本体はその実在も記憶も行為

の奇跡もデジャブに? ”

・…“ナオも史澪ちゃんも…実在を抹消されて誰かのデジャ

ブに?…データ消去? ”

・…“私と和田も誰かのデジャブに?”

・…“誰のデジャブ?…虚空? ”

・…(突然、女性の声が響く…)

「とうとう…賽は投げられたってことかしら? …頑張れナ

オ・ミオネエ…」

・朱樹はどんな結果になろうとも、何処かさっぱりとしてい

た。…それは、この世のルールからはみ出してはいなかった

し、無法な超越者からの攪乱も酷く小さく、二人には祓いう

るものであった所為もあった。…戸波や中津の無法な近代化

は誰もが知っている闘争~競争現場ではあったが、この有妃

家と和田家の奮闘は取り敢えず朱樹・史澪・能直・朱樹の

夫、以上の広がりを持ち得ぬものであった…からであった。

・…フトしたことで、あの刻の有妃の哀しい笑顔が能直の眼

の前に現れた、これまで能直が見たこともない…そして誰に

も見せたことのないもの…それは確信できた。       -162p

・何か分からないもの…が能直を否定し、全く同じものが能

直を肯定していた…もしかして能直自身が恐ろしく幼くおバ

カであるが故に、察知し得たものだったのかもしれない。

・有妃史澪…は能直の内の何を肯定し支えてきたのだろう

か?知識もそれを扱う叡智もない、抗う対象も分からず、そ

のとっかかりも、抗いかたも何も知らず・知らされず、唯々

幼い…にも拘わらず、ナニモノカ…を感じそれが能直を肯定

し・同時に否定もしている。…それを史澪は知っている…そ

れは史澪自身の魔性と深淵を通じて知っていた…。

・…だから、幻視野に、史澪が嗤った。

・…能直は考えてみた。

・…13年間の中で抗ってきたこととは何だったのか?いく

ら考えても答えは出なかった。ただ思い出されるのはドンド

ン好ましい結果が出なくなった。好きであっても・嫌いであ

っても年齢を重ねる度に好きであること・面白いと思ってし

まうことより、期待される答え~正解がドンドン凌駕されて

ゆくのにさみしさを感じた。…このことに違和感・異論があ

っても言えなかったしこれを言い表す言葉がなかった。

・国語の教科書は進度毎に漢字が増やされてきて、それはそ

れなりに辛かったが、区切られた文章の中に好きや面白いが

印刷された文字の中に潜んでいたのが分かって楽しかった。

・…作文は辛かった、作文の題を課されると楽しい事・不思

議だと思うことが湧いてでて、頭の中にも周りにも綿の様に

ふわふわ漂っているもので楽しいものだった、身体がふわふ

わとしてきて、極まってしまうと汗の塩分にもいい匂いを感

じた。不愉快なことも湧いてでたが不思議なもので、じきに

不快は萎んでいった。…幸せはここまでだった 、この幸せ

が“ひらがな”にもできなかった…だから総じて作文は嫌い

だった。                       -163p

・概ね国語は好きだった、だがこの“好き ”は密かなもの

…このことに気が付くのが幸か不幸かとても遅かった…この

“好き ”は期待される答えや正解とは違っていて、もっと

客観的に試されることになっていた…テストである。…テス

トはじきに客観の持つ属性―競いに占められてしまうことに

なってしまうだろう、心ある先生は競争にならないように配

慮を尽くした…しかし元より潜んでいる属性―競争は漏れ出

てしまっていた。概して心ある先生は恐く厳しい先生である

ことが多かったが、好き・嫌いでいえば、間違えなく好き。

あからさまに嫌悪と腐敗臭を感じてしまうのは、公平を謳い

露骨に競争を煽る教諭であった。

・…

・能直は、ふたたび史澪に嗤われた。

・…“ミオネエ…は同じようなことに悩んでいた。…”

・“…ミオネエは、この《好き》が密かなもの…に気が付く

のが早かった…”

・“この《好き》が期待される答えや正解とは違っていても

…”

・“諦めようともしない大莫迦がミオネエの目の前に現れ

・“莫迦が楽しげにはしゃいでいた、ミオネエは救いを求め

つつ、…すれ違った…すれ違い続ける…だけ。”…“もしか

してすれ違わなければ崩壊~爆縮~…。”…と。

・―そう能直は思うことにした。

・…そう思い続けることで、史澪からさほど嗤われなくなっ

た気がしたが、…不可解さや、こころが折れてしまう虚しさ

になんら『変わらなかった。』

・母のいうこと…「ここを考え過ぎては前にすすめないのよ、

前に進んで初めて分かってくることもあるのよ。」…を信じ

仕方なく勉強した。もちろん、こういう《好き》が密かなも

のであること…に気が付いてしまった後悔とフラストレーシ

ョンは抱えたままであった、だからといって勉強ができない

のは全く『変わらなかった。』

・天本タイプの優等生への反感・嫌悪から気持ちの優しい奴

が奮起して名門校に旅立っていたが優越性と勝者に固執する

天本も『変わりなかった。』

・                           -164p

・塾仲間、甲斐田麻生と社会・共産主義の件でじゃれ合って

いたのも《好きになる》とっかかりや(笑い)を探していた、

能直は授業中でもこれを真剣に探し、中断する事さえもあっ

た、能直の『本質の中に笑いがある。』…という確信。熟練

の教諭は能直の潜在力―ボケをフルに駆使し―ツッコんだ、

皆が笑った、何よりも二中の笑いは荒んでゆく時代に皆が望

んだものであった。…この能力、オバカではあったが観る人

は、能直が単なる莫迦ではないという評価に『変わりなかっ

た。』

・この種の探査は優等生・劣等生・オタク・無関心・ヒッキ

ー・粗暴・不良・落ちこぼれ・不純異性交遊常習者を問わ

ず、彼らの中で繰り返されていた。…別に能直が始めたので

はなく誰とはなく自然発生していたようだった。…発端者が

いるとすると小学校の時の出口董子だと能直は記憶している

…この一見不穏な動き―探査が区立二中全体を爽やかで明る

いものにしていたのは、誰も否めぬものに『変わりはなかっ

た。』

・…そして史澪卒業以降、時に見せる生気のない能直に、残

された文芸部員たちは優しい笑顔と温かい眼差しで見守って

いた。…能直はそれからも【魔女のパートナー=笑魔】とし

て…摂理神ならぬ身…優等生に不可欠の贄として虐められる

ことはあったが、大方は未然に阻止~あっても能直にとって

は“からかわれた”程度ですんだ。文芸部員のネットワーク

はしっかり女社会と繋がっていて…優等生らは得体の知れな

い恐怖に取り込まれたのだろう。…彼女達の加護に『変わり

はなかったのだ。』

・…

・高校進学後、史澪が作る哀しい笑顔はしばしば、能直の思

考を長い期間停止させた、能直は次第に、この両価的でもあ

る・影のある亜空間のことを考えなくなっていた。そして潮

の満ち干のように舞い上がっては…褪め、無力感とともに何

かと引き換えに忘却していった。これは能直にとってどう変

わろうが酷く辛いことであることに何ら、『変わりはなかっ

た。』

・                          -165p

・…それでもあるいはそれ故、能直は意図してか…あるいは

無意識的にか、知恵とそれを駆使できる叡智を引き寄せた。

能直にとって、いつか…も誰か…も忘れてしまったが、誰か

を心からの笑顔にできる…そんな潜在性を秘めている学問を

見出していた…薬学であった。また、同時に、多忙な精神科

医の母から世界に流布している神話と英国の対象関係論を摘

まみ、家業のことは小さい頃からみていたし、嗅覚の洗練を

目的に…微かな好意も絡まって、菅原寿椰子と宗家菅原家と

の交流を継続する事ができた。密かで無私の《好き》は向こ

うの方から近寄ってきたのであった…ただ勉強が苦痛なのは

『全く変わらなかった。』

・…ただ能直の前では史澪は氷のように硬く冷たく“変わり

果てていた。”

・―菅原宗家、重い石と大事な石、石とお笑いー

・和田の学年が進級する頃には、文芸部でありGの御兼利恵

子は…谷田部泰、強豪剣道部の新主将・勉強も万能のがいた。

Dの陶内紀子には和田の親友の利久龍太、短距離のエースが

いて、BとVの長渡恵美にも親友の杵築孝多バレーボールの

アタッカーがいた。 …彼女たちはヒロインだった、そして

そのヒーロー達には分厚いファンクラブ~支持母体が入り組

んでいた。                       -166p

・ゆえ…そしてまた彼女達三人はバンドを組んでいた。御兼

がリーダー兼ギター、陶内がドラム・ボーカル、長渡はベー

ス・ボーカル…陶内のドラムはとても上手かった小柄な陶内

がバチを持ってセットのまえにすわると二回り大きくなって

いた…辺り一体…うねるようなグルーブ感がそうさせていた

と思われていた。長渡のベースとリードボーカル、二役を爽

やかにこなしていた。御兼がリーダなのはクラッシックギタ

ー仕込みのテクだった、ギターは軽く歪ませるクランチ、コ

ードとリードをかねていた、御兼が一人で弾いているとベー

スやドラムの幻音がしてくる…クランチの所為でサスティー

ンで音の引き延ばしができない裏腹でリズムを浮き彫りにさ

せてしまうからであった。バンドの結成は小学校六年の三学

期、極めて早熟。…だから文芸部は多忙でプライバシーのな

い彼女たちにとっての秘密の場所となっていた。入学後、瞬

く間にスターになっていった姫たちにはコアーで複雑な関係

が取り巻いていた。

・…だから授業中の騒がしさに対して自動的に、放課後は学

内の関係性で小柄で優しいだけ、インパクトの薄い…陰の淡

い鬼神じみた和田は異性としての扱いはされてこなかった。

・『耽美主義の救済』の熱病と有妃の卒業以降、散発的に生

じる笑魔―和田への言いがかり以外、能直は実にひっそりし

ていた…失意を感じ取る生徒は殆どいなかった。

・持ち込んだアールグレイを飲んでいても、能直だけは…ワ

ダ=アールグレイが香り発たなかった。部活動中の能直の草

稿を覗きみても単語がポツポツ並べられているだけで、一向

に文・文章にはなってこなかった。三人の姫は気がかりでは

あったが、何処かにとても重いテーマがありそうで…秘密の

場所でもある、文芸部でコトを起こせるような切掛はなかっ

た。

・…もう梅雨が始まりかけていた。

・                           -167p

・…何よりも、林間学校遭難事件の根の部分とそれから派生

してくるであろうコト・そしてその対処を、早熟で幼若な彼

女たちの想像力・直観力・感覚過敏・情念をモヤモヤさせな

がら書き揚げた。…そんな文集でもあったこと、やれること

はやった…はず、それぞれが思い出していた。「…やり遂げ

たよね私たち…」湿気て肌寒い雨が降り続いた。

・部室では活気のない和田に違和感を感じていていた新部長

の仲山、菅原、出口だったがどう切り出ししいいものやら全

く分からなかった。その分、2年のブランク補習は厳しかっ

た。…文芸部は例年の行事に追われていった。…押さえ込む

魔女呼称の有妃がいない分、新部長の文芸部の論調は過激で

軽やか…外観オーラルテロリスト、楽しくはあった。…脳筋

でなくても男子・女子とも近寄り難かった。

・…文芸部では『笑魔』能直が物静か~慎ましやかなのは変

わらなかった。

・…あの違和感~外見の緊張感は解消しないまま和田の学年

が卒業し、とうとう、…文芸部は廃部になってしまった。

・…二中卒業間際、和田は菅原と出口の二人から香道の宗家

が料理教室を開いたので見学参加の誘いが何度かあった。…

取り敢えず期日が離れていた所為もあり和田は不参加を匂わ

せつつ開講の曜日と時刻は憶えておいた。

・…中二の梅雨あたりから感じていた湿度がまだ、和田には

あった。…それは石のように重かった。

・…高校は授業が無意味に小難しくなると同時に競争が激化

した、試験の度に順位と得点が掲示された。正解しかない空

間と時間に従属される世界、能直は何処にも楽しい事を見い

だせなくなっていたが、…有妃が残した暗号…母が暗号解読

したもの…そして能直が触りうる表面「…頑張って、勉強し

て、チャント男になる…」が唯一の枷だったが、それも何処

か重かった。…「彼女を奪いに行け!。…史澪ちゃんは待っ

ている。」はその言葉の表面も触れられないようになってし

まっていた。                      -168p

・“あれは母さんのリップサービス…有妃先輩はそんなこと

一言も言っていなかった…。他の誰も。 ”…そう言い切れ

ない何かはあったが自分自身の妙なこだわりだろうと考え

た。

・…盛夏を前に湿気をはらんだ重たい空気が、常緑樹の古い

枝葉が落とすように能直の脱落、機能劣化がハラハラと進ん

だ。

・…ある日、小さな三毛猫がサッと…菅原邸から走り出て行

くのをみた。

・…“ナンダロウ…”…時が滲んだような…

・…それでも何故か、菅原の宗家が開く料理教室の日と時刻

は憶えていた。火曜が祝日の午前、縁日通りの端にある菅原

宗家をのぞいてみた…それは異世界だった。幅広い年齢層の

人がいたそれも女性・主婦…人混み、噎せ返る匂いに和田は

圧倒されていた。

・…喧噪。

・紙や古いハードカバとワックス、壁のペイント香る植物系

文芸部と違った違う世界。

・…肉食動物の香りがした、味醂と昆布だしで覆われていた

のがせめてもの救いだったのだろうか?。中学時代、菅原椰

子の姫、孤高のマドンナ…、椰子の姫のいるフロアーはハイ

ビスカスが微かに香る伝説…その本体を知った。「…そうか」

…“香道の大元は植物系…併せて研究している肉料理の微香

が植物系に伝播力を付ける…そうか、微かで遠くまで通るの

は肉の匂いだった。… ”

・…香りの…ベクトル放射…とは言え、菅原家の前で、肉食

系の匂いが放つ迷路に圧倒されていた。…梅雨の湿気は匂い

や香りの伝播力…破壊力も創造力も高めていた。

・…和田が放つ極めて淡いアールグレイ臭に寿椰子はすぐに

気が付いた。

・…                          -169p

・「ワダくん。料理教室じゃなくて…こっち、母屋に!」

・…界隈に漂うキツイ金属臭とも違う胡散臭さ~肉食臭がそ

の場を塞いでいる。能直が一番近い匂い体験は小学校の父兄

会…香水が重なり合いすぎ一面を覆う…閉塞感。

・…だが既に。…徒な肉食臭を払う…綺麗に払う…爽やかな

声…が通っていた。…それは、祓い。

・…華奢で柔らかな手が能直を引いていった。小さくはあっ

たが古風なたたずまい玄関を通され客間に案内された、…も

うそこは、料理教室の喧噪は聞こえなかった。

・…「すぐお茶をお出ししますが、実はぁ…父が和田君の嗅

覚力を惚れ込んでしまって…」

・…「ねこ?…三毛の?家から?知りませんわ、うちでは飼

っていません…し…」

・菅原は何処かもじもじしていた。「…それで、私の話では

分からないって父が言い出して…もうずっと…もちろん地元

ですから出口区議や有妃社とも懇意です、遭難事件からの復

活も学園祭のときにかけられた文芸部出展への中止圧力も大

事にならなかったのは嗅覚の能力・異能じゃなくて贄の要ら

ない常能力なのではないかっても疑がって…少なくとも父は

そう思って…。」…「それに、和田ク、愛用…アールグ…イ、

お茶…忘…ら…なく、て…」

・…

・「…や、初めまして、娘の寿椰子から色々と聞いていまし

た、ささ、寛いでくださいね、君が和田君ですね、…宗家の

菅原です。有妃さんのお嬢さんに香気武者とまで言わせた…

その有妃さんの危機を予見し彼女も文芸部も守った…こう言

うことを普通にって…なかなかできるものではない、酷い目

に合われましたが…それでもやり通した。それを誇示するで

もない・意識するでもない…そう、普通。あなたは秀でてい

る~抜きんじでる特別な人ではないようですね。…」

・…寿椰子の顔が曇った。何処か能直に石でも乗せたような

重さを感じていた様だった。

・そんな重さを能直自身も感じていた。

・「…大丈夫だよ菅原さん、“普通”は和田や有妃家にとっ

てかなりの褒め言葉。先生はきっと、俺に聞きたいことがあ

るだけだから…」

・菅原の宗家が続けた。                 -170p

・…「味覚に関しての問です、どんなものがあるとお考えで

すか?」

・…「甘い…甘味…」

・「生活に密着している言葉でいいですよ。」

・「…え、辛い、塩辛い、酸っぱい、苦い…うーん…、渋い。」

・「若いのに渋いがわかるのですね…」「いいえ渋いは嗅覚

や視覚でしょうか…渋いお茶は美味しい・旨い!」「そうで

すかウマミも味覚に容れましょうか?ウン。」肯きながら、

宗家の主の顔はすっかり緩んでいた。

・…「和田君、あなたはありのまま、…内側から涌いてでて

くるものを不自然に言葉で包んだりしない傾向が強くありま

せんか?」

・「…はい。…それでよくバカだと言われます、」

・…「男子大嫌いの寿椰子が我が家に誘ったりしてしまう訳

だ…もちろん女性の匂いもしないが盛りの男の匂いもしない

…さっきまでアールグレイ…今は土の香りかセイロン紅茶…

かな」

・…菅原女史が首を傾げた…“パパ、私、男嫌…じゃない…

よ… ”

・…「…失礼した…ツイ嬉しくてね、大丈夫だと思ったので

体臭の話になってしまった…普段体臭のハナシはしないのだ

が…賢い人は、言葉でラベルを貼り叡智を組み立てるタイプ

はこの話に過敏に反応する。…『差別』という枠組でね。」

・「…ええ、だいじょうぶですよ」

・「ですから、さっき普通とか・特別じゃないとか…失礼な

言葉で試したのは言葉で括りすぎる人間は味覚・嗅覚・触覚

が深化しない…普通じゃないでも普通の固執する寂しい奴

…。和田君はそうじゃない。」

・…「中学入学早々冷や汗をかくとアールグレイが香る子が

いる…聞いていたら男子みたいじゃないですか、…それは、

香道の人間として…」

・…「とても気になっていたのです。」          -171p

・…寿椰子は少し蒼い顔になって、「私、和田君のこと好き

じゃないよ全然。嫌いで…なぃ…ケ…ド」

・…「寿椰子。あなたはさっき、男嫌いじゃない…っていっ

たけど、あのヤリ手不動産屋の息子、優等生で生徒会長もや

っていた天本、あの男子は?…どういう評価なのですか?」

・…「男子?天本守弥が…守弥、あれ獣でしょ?エグイし、

オス丸出し、生臭い。男子って当てはまらないワ…オノコ

漢でもないし。」

・…「姪っ子たちのもっぱらの噂では、下級生女子には圧倒

的人気らしいよ、これに加えてバレー部にエース。…寿椰子、

残念だけど、世間ではああいうのを男らしいというのです

よ。」

・…「そうでしょうけど…エグイと別でしょ?」

・「まあ、そうですね…」

・…「先生、菅原さん…あの、エグイって…何ですか…なん

となく解りますが…」

・「二人に当家の感覚…嗅覚・味覚について少し話しましょ

う。…機密性はありませんが半ば非公開です。古来、当初か

ら魔術を誘い出す秘法として編み出されてきましたが、微妙

のところで有用性はなかったようです。…元々味覚や香りに

は人の気持ちを和ませるものです、これを魔術として特化し

ようとしたのですが、悪臭や負の味覚―不味さを含み容れ…

大系として組上げてみたところ、人を排除・非道な差別・味

や匂いのある毒物を隠す黒魔術と結びついてしまったため…

秘法の深化は停止させたままです。」

・「ですが、嗅覚・味覚をもっと識ることは、ハザード=注

意喚起の糸口になります。」

・「…難しくて申し訳ありません。ですが、この菅原には林

間学校遭難事件以降、かなり黒いのが動いているのを感じま

す。…下町で生業を細々継承していると自ずと身についてく

る常魔術です。」

・…                           -172p

・「甘い、~辛い、~塩辛い、~酸っぱい、~苦い。…古く

古史古伝の『ウエツフミ』ではオエミ―毒味というのもあり

ます、…最近ではフェニルチオカルバミドという化学物質を

苦みないし渋みとして日本人の多くが感じるようです…四元

素から辛いは外されていて第五番目になります概して北方の

人達は痛覚・寒さ感覚に鈍感で痛覚の味覚版が辛みであるこ

とに関係しています。」…「このほかにも…。表層で言語ラ

ベリングをする人には到達できないのもあり、極めて無意識

的です。」

・「…『アクミ』―料理にでる灰汁が由来です、真理と裏腹

の虚偽も同じ匂いがついています、うさんくささと新芽の匂

い…旧い真理でも、真理には常に新しさに包まれ新芽のよう

な生臭さ新々しさの匂いです、審美を常に嗅いで別けている

人の放つ匂いです、…大方の人はこれは異臭です。」

・「…『オエミ』―吐き気を催す毒…江戸期のウエツフミ解

釈ではオエミに毒味と当て字をしています。」

・「…『カネミ』―鉄や陽イオンが動いたときに感じる味覚

・嗅覚です。それとイオンの電位差から、微細粒子が舞い上

がりやすく…人混みの匂い・ウイルスや、悪霊から時にでる

匂いもそうです。」

・「…『エグミ』―酸味の延長にある饐えた不快臭や不味さ

で、触覚でもあります、利潤を常に嗅いで別けている人の匂

いでもあります。」

・「…『シブミ』―渋味ですシブミ、甘みと感じる人がいま

す…第六番目の味覚です。」

・…

・                           -173p

・…「匂いはその人の自我と密接しています、匂いがわずか

に違うだけで種族や群れから排除され…これに抵抗する個体

は殺傷されるのです…群れなす動物はそうです。香り・匂い

・臭気の発言はその人の自我や実存在に障ります。匂いで誰

かを差別する事もいけません、またこれを聞いたことも知り

得た知識も誰かが儲かることにはならないことも、誤解を避

けるために云っておきます…特にエグミを放つ人は誤解して

しまいます。…感性や美意識も時に…そしてかなりの頻度で

論理や日常から自由になっていたりしますが、決して、倫理

や日常を見失っている訳ではないのです。」

・…「菅原さん?こんな話お父様と?」

・…「いいえ初めてです、…」「じゃー、さきほど前の生徒

会長の“エグイ ”は?」

・「…私の造語です」…寿椰子はさりげなくいう。

・…「エッ?」

・「和田君…能直クン、このまま言葉でのラベリングせず、

御自分の感性を大切に育み迷わず“普通”になって下さい、

ありきたりでいてください。…林間学校の遭難でも、生物個

体―命が持つ普通の治癒力~ナゼを恐れず躊躇しない勇気を

大事にされたから無事に生還されたのでしょう。…」

・「…私はそう思っています。」

・…能直は色々思い出してか、芯の呆けた…「ええ…」

・「ただ、地元の有志たちの想定では、有妃さんや和田君に

降りかかった災難はもちろん。お二人が悪いわけではありま

せん。ここに住み寄しつあるものなら大体の察しが付くとお

もいます。首都の近代化です、船着き場の町中津…旧世代の

防衛では…とくに津波~高潮被害の防衛ができないのです。

…何処かでお聞きになっていると思うので詳細には…。」

・…「急進派の話です。…子供まで巻き込む…」       -174p

・「双方の主流派は波風が発たぬ様にしていますが、学校系

の急進派は地元の地上げ屋と接近してここ十年くらい活発に

行動しています、燻り出しの対象にされたのは有妃・和田の

お二人なのです、急進派の嗅覚は、有妃史澪さんの進学で一

度は小康となるでしょうが、和田君以上に急進派のエグサを

感じ、史澪さんの放つアクミ=審美の香り(明味…)、に深

いところで反応している、けれど嗅覚故、言葉にも認識・意

識にも上らない。…だが史澪さんが動けば周到で悪意~殲滅

対象の意味付与をし、お二人ばかりかこの地元にも襲いかか

る、…はずです。」

・…「ある意味で偶然・ある意味では必然。能直クンは私た

ちにとって極めて大事なこだわり=“ナニユエ? ”の所為

で彼らの競争・モノサシに触らないまま・測定できないまま

になっています。…競争やモノサシには固執するためさわれ

ません、…さわれないものは酷く無関心なのです。もし触れ

て・測れて…それが秀でたものであったなら彼らの中心の摂

理は酷く嫉妬します。幼なかりし素戔嗚の尊は競った末、正

統を獲得しました、ですがその嫉妬心は天照大神の肥沃な田

畑を妬み大暴れして高天原を追われたように。…また、摂理

が、信仰心も篤く裕福な読撫の長を妬んだように…そしてさ

われないモノに対して無関心であることの所為で第三者の企

みに簡単に嵌まります。…全知とはさわれないモノに対し無

関心であるが故、全知を誇り確信しているのですから…」

・…「…細かく判らなくても構いません、能直クンのこだわ

りが振り祓おうにも祓えない…大事なモノであることがずっ

と前から承知されているので充分なのです。…ナニユエは自

ずと競争とは無縁で、それ故当分の間能直クンは良くも悪く

も目立ちません。…大事なモノにこだわると同時に及第点を

保ってゆけばいいのです…この両立は難しいのですが…是非

頑張っていただきたいです。」

・…「摂理から嫉妬されなければいいのですが、ありきたり

“普通”…つね…“がいい”ではなく…“で!いい”

のです。法華、蓮の花はは汚泥の中から生まれる、虚空の類

比です世界は何もない虚から生まれる…汚泥の中から、御自

身の潜在力と合う~御自身がなりたい領域の教育を受けれる

だけの学力は時間をかけてでも構いません、何としても身に

つけて下さいね。…汚泥やそこから生まれるモノは窮屈な因

果律では嫉妬の対象になりません。」

・「能直クンの生来の感性・直観もありますが、ナニユエ?

のお手伝いはこの菅原家が全力でします。…それに酷く旧い

本草学も…お伝えできるかもしれません。」

・…                          -175p

・…「ところで?寿椰子…。これはあなたの自由ですが、和

田君の代わりに有妃さんを守ってくれないか?…地元の総意

としてね、これを保障しておかないと和田君の深化が毒気で

滲んでしまう、とは言え能直クンが接近するのは先ほどいっ

たように…」

・「有妃さん和田君が接近すれば…彼らがまた」

・「…もちろんいいですけど…和田君辛くないの?」

・…すこし間をおいて「うん。」

・…「…そうしてくれるのであればボクは安心かな、会えな

いし話してもくれないのは寂しいけど…、辛そうにしている

ミオネ…有妃さんを支えてくれるのであれば、それはとても

いいこと、嬉しいです。」

・…「将来、何をされるもよいが、この地元で潰されてかか

っている職で、…神官とか香道とか特殊能も必要とする仕事

は、不毛な競争もなく、日陰で見えないところも多い、なる

までが大変だが…その後、競争がない分くだらないことが少

ない。時間をかけて内なるものを深め、育み・磨きなさい。

そのために最も消耗する…大好きな人に会えない・合ってく

れない・話せない苦境の手立てはしておくのがいいと、この

当主菅原はそう思います。…困っても~そうでなくても季節

の変わり目には、ここにいらっしゃい。是非。」

・…能直にとって、“大好き ”…は何処か前世の様な響き

を以て感じていた、…少なくとも季節が梅雨から変わり始め

ていたのは感じていた。

・                            -176p

・…「…遠い将来、資本力・人員の差で、町内会の一部はい

つかここを退去しよう…せざるを得ないかと…。…中津…区

議会は人の和の力で首都を守るのをやめようとしている勢力

が凌駕し始めています。…もっともそんな言葉はつかいませ

んが…コトバから起ち上がる香りがそう物語っています。

彼ら進歩派の敵意・殲滅の意志は本物です。旧来の首都防衛

はこの中津でなくてもこの地元が分社を残して遷都し遠方で

この首都をお守りさえできれば異存がないくらいまでの合意

が私たちにもできつつあります。…競うこと闘争することの

摂理を私たちは持っていないのです。…私たちの摂理…ある

とすれば共存や不戦や互いの存続です。有妃家と和田家の接

近は実はそこにあったのです。」

・…

・「料理教室もあるのでここで失礼します…教室の生徒さん

の成果ができあがる頃なので、ご賞味下さい…寿椰子も能直

クンと一緒に、…ここで失礼します。」

・…宗家―異能の芳香が通り抜けた…

・…

・「…?」

・「…菅原さん。大丈夫でした、出ていたオーラは俺の父を

凌ぐ恐ろしさを持っていましたが…隠れ蓑でした…無駄な闘

争に巻き込まれない蓑…」

・「…ウフフ」

・「…何?菅原さん…」

・…「…石がね、和田君の上に乗っていた石みたいに重たい

のが飛んでいった…」

・「…かな?」

・「うん、俺もナントナクね、重石じゃなくて大事な石かな

…」                          -177p

・…菅原は箸をおいて…「中一の頃の…おバカな笑い鬼…笑

魔、思い出していたの…。和田君よく下手な駄洒落や不意に

突飛なことを言い出して、…今から思うと微笑ましいけど、

授業が中断するくらい…みんなお腹を抱えて笑うほどのコト

だったのかしらね…高校程じゃないけど中学の授業ってそれ

なりにつまらなかった…別に箸が落ちても笑ったかも…ネ。」

・…「…別に笑わせたくっていったことじゃない…小学校で

勉強出来ないなりにあれだけ楽しかった頃の延長線がこんな

につまらないなんて…、それに勉強できる奴が次第に幅を利

かせれてくるなんてのがね。」「腹立たしかった…それに何

故…宗家先生の謂うナニユエを中学は妙な難しさや記憶量の

多さでで包み込まれた・瞞され続けた…、の方が正確かも…

それが腹立たしかった。…そんなとこ…」

・「分かるけど、男の子は過激よ。…ハラハラして楽しかっ

たけどネ、」「どの先生も『何故?と思うことが大事…』て言

うわ、高校でもね。…でも―:何故?:―って、物事の数✕

人の数でしょ?キリがない…。…和田君の“何故 ”は大事

なところで出てきている気がしている…私はそうよ…憶えな

ければいけないことが沢山あるから先生達はこの何故を端折

ろうとするの、それを和田君の“何故 ”はそこをツッコン

デ時代の喧噪や競争を緊急停止させる…思考停止かな、先生

はとボケるしかない…そこでみんな、私も笑ってしまったの

かな…」

・「…あんまり思い出せないな、何処かイラついていたのか

な?」

・…「…先生の何人かはイラついていたわ、ハラハラでした

よ…でも一回だけ和田君も、…」

・「…あ、あれ…」

・「…『先生。俺って何故がないと、憶えることが五個を超

えてしまうと全部忘れる!。』…て…」

・菅原は平たいハンバーグを咀嚼し呑み込んだ。「?…憶え

ていたんだ…じゃ、あれって?」

・…能直には躊躇があった、その長さに付け合わせの佃煮の

欠片を食んでいた。

・「うん…ホント。」能直の声は軽やかだった。

・…!。

・菅原は咀嚼中の佃煮を含んだまま、息を詰め顔を伏せた。

・…「和田…、…君、バ…カ…。」              -178p

・和田はいけないものでも見ている感があった。絶対マドン

ナ―椰子の姫が顔をくしゃくしゃにして悶えているのであ

る。…写真館にでも飾られていた美少女の大きな写真がギャ

グ漫画の落書きに変えられてしまったギャップである、彼女

が息もせず笑いをこらえている、マドンナの身体から一切の

音が出てこない、…しばらくして乱暴な嚥下音が聞こえ呼吸

を整っていった。

・…!。

・…「 “何故?…”はそれを抑えてくれる…だから俺みた

いなバカの事も忘れないで欲しい!…って。」

・…ふざけていたのではなく能直は場違いに大真面目であっ

た。菅原宗家の居間に青臭くも清々しい空気が充満していた、

箸が落ちても笑ってしまうような、笑いが馬鹿馬鹿しい競争

論理を綻ばせ・時を止めた。競争論理も笑いの引き金双方に

戯れはなかった。

・…「和田…バカ…」菅原は小さな腹を押さえながら言葉を

絞り出した、「…ホント。バカ。」

・走馬燈が回っていた、菅原の息の乱れがそれを顕示してい

た。

・…“おれ、笑魔とかいわれていたけど、皆を笑わせたとき、

この子笑っていなかった…かな ”…たしか。

・…あの場・あの顔…がフラッシュバックした。「和田クン、

やめて…オネガイ。」寿椰子はまた笑い出し…、脳みそがち

ぎれてしまうかと思うくらい笑い転げた…。

・…“文字を含め視覚・聴覚が様々なインターフェースを進

化させてきたが…味覚・嗅覚は技術と身体とを繋げるものが

ない…ヒトの夢もそうか…匂いで種や族・自他を決めている

動物もいるし、俺も匂いで排除…されかかったし…意図的に

人類はそこを避けて…胡散臭いヤツ多いし…”         -179p

・…梅雨の季節が変わったような気がした。馬鹿笑いが湿気

の質が変わっていた。菅原は忘れ去ろうとしていた何かを思

い出した気もしていた、…それに香りは香りの元の種類とそ

の濃淡だけではない複雑な相互作用系を抱えている…生命・

自他・存亡と密接に絡んだ…。二中にうさんくさくないのが

多いのは…何かワケがあるような気もしてきた。彼、和田能

直が分からなくても…有妃が人形の様になってしまった訳も

解った気もした。

・―史澪墜落ー

・辛くも進学校に入った有妃であったが、不幸にして極めつ

けの優等生、天本守弥と同学になっていた。

・…中学時代有妃に強かに何度も振られたのだがその程度で

諦める元二中生徒会長ではなかった、文芸部での立ち位置を

天本は誤解したままでもあったし、冷ややかな有妃を天本は

酷く気に入っていた。…高校でも変わらず生徒会の役職とか

を抱え幅を利かせていた。

・…有妃は実家には複数部在籍、学内は自称帰宅部を通した

が、いくつかの部に出入りししていた何れも正式な入部はせ

ずにいた、所在不明…半ばストーカ化していた天本への対策

だった。有妃は金属臭くも俗臭くもあった天本にうんざりし

ていたが、中学時代の魔女伝説や得体の知れない風評に関し

て防火壁の役割を演じている天本の言葉をそのまま信じ込ん

でもいた。…有妃は高校に入ってからも友達で悩むことはな

かった。クールで爽やか、聡明さも性格も容貌もとびきりだ

ったし有妃のクラスはどの年度も明るかった。…一応順風だ

った。

・                            -180p

・大学受験がラストスパートになり、文系か理系かという進

路調査最終確認などといった調査票を学期末に書く度に有妃

はどことなく…といっても大したことではない不安とも呼べ

ない、あるいは繰り返し思い出される…弟の様な男子、おバ

カを自称する不思議な近所の子…母同士は遠縁でもあったと

記憶している、有妃だけ、ワダ。と呼んでいた…吐き捨てる

ようにくっきり言霊で仕切り言い切るように“ワダ ”+読

点の “。 ”つけて呼んでいた…そんなちびっちゃい男の子

の事を思い出すのであった。…面倒見のいい有妃が特別扱い

するだけあって何でも酷く出来が悪かった…違ったかも知れ

ないがそんな記憶断片が鮮烈に残っている。

・… その日の夕方。能直は史澪と合ったところでどんな顔

をしていいか分からないまま…万一、合ったところでシカト

しようとも…考えるでもなく普段は嫌いな盛り場、騒音の中

を歩きたくなっていた…長い梅雨で外出しにくかったという

のもある。

・…大きな本屋の帰り、気が付くと史澪の高校の地元に来て

いた。殆どの名門校は地の利が優れていた、地政の利故に名

門になったのか、自浄努力故に地の利が変容したか、答えを

出すつもりはなかった。有妃の高校の近辺は賑やかというよ

り喧噪…それだけか?金属臭があった、菅原の父から、カネ

ミという深層嗅覚をおもいだしていた。

・…喧噪の街、人混みの紛れて…そこはカネミが能直の鼻に

つき嫌なにおい…もあった。振り返って見ると、梅雨明けを

感じたとき近所の物音に紛れて天本の声がして様な気がし

た。元々能直は縁起カツイダり、拘ったりをしない人間だっ

た、またこの種のゲンチョウは錯聴といって医学的には意味

の無い現象であることを幾度となく母から繰り返し言われて

きたのもあった。

・                            -181p

・能直が聴いた天本の錯聴には香り同様濃淡で色づけられた

方向があった、それにイントネーション…精霊や神がもちい

るモノトーンのノンバーバルコミュニケーションとは異なる

生臭く三倍音が強調されたカン高く刺激的なイントネーショ

ン。何処かで聞いた…ロクでもないモノを口八丁で売りつけ

ようとするあのトーン…イントネーションは甲斐田と共産主

義が要か不要かと、ふざけ合っていた時に乱入してきた…天

本の闇から垣間見、獲物を狙うトーン…暴力漏れでるのと何

処か似ていた。…自然と能直の足はより錯聴の声の大きい方

に向いていった。匂いはなかったと思うだが濃淡や方向性な

ど…匂いの属性を保持していた…、だが異様な雰囲気がその

場にはあった。

・…華やかな盛り場で、御説教の様な乾き埃っぽい声が聞こ

えた。…“一瞬”…それは盛り場の湿潤な騒音としては異質

だった、浮いて…尖っていて、その異和感は、人混みの中の

カネミ…“たたら場”…酸化剤なしで磁鉄鋼から加熱する古

代製鉄でもないのに…乾き埃舞う金属臭は強烈であった。…

だがその場は複数の嫌なにおいの上に胡散臭い乾いた御説教

のかん高い音声がその場には谺し・漂っていた。

・…“人混みなんてソンナモノ…”

・…能直はそう言い聞かせた。

・学生街の香り高いコーヒー屋のまえを過ぎた。コーヒーの

芳香は街の空気…盛り場の場を澄んだものにさせていた。…

豆はキリマンジャロ。香りは能直を曳きこんだ…引っかかっ

ていた錯綜嗅覚は浮いたまま変わりなかったのだが…。

・…

・…自ず。能直の足はとまっていた。止まったまま。

・店内に見覚えのある人物が二人、店の中にいた~聞き覚え

の声が“みえた”。…喧噪を掻き分ける乾いたダミ声…それ

と小声でも優しく爽やか、スゥーっと…遠くまでも透る高原

のキリマンジャロ・コーヒー…。

・紛うことない。

・…何年か前…氷結前のミオネエ…有妃史澪の声だった。

・                           -182p

・…天本守弥と有妃史澪…それと学生らしい男子数名…がテ

ーブルを囲んでいた。有妃に違いなかった、とてもきれいな

…前にも増して…史澪だった…だが全く可愛くなかった。

・…「参った。…居ても知らんぷりするつもりなのに…」

嗅脳発…、事件のハザード、注意喚起…が、能直の脳を巡

っていた、脳は中一の文化祭前日のものと一緒だった。有妃

の危機・ムズムズ脚の向かった先…わずか、能直一五年の歴

史はどんな説明も受け付けなかった。天本守弥へ向いた不快

な感情…史澪をきれいに変えたのはこいつではないか?、胸

が一瞬で焼け焦げた、息も乱れていた。その乱れは能直の全

く識らないリズムであった。…気が、付く…と、学生達の席

に背を向けたカウンターでBブレンドを注文していた。

・…コーヒー専門店の中は少し騒がしかった、背中で聞く学

生達の会話は、ほぼ全教科に亘る有妃の成績下落であった、

何よりも名門進学校でも上位を保っていた有妃が陰ったので

あると言う、トーンは「有妃頑張れ…悩んでいるなら…力を

貸そう…手伝う…」などであった。集まっていた男子生徒は

各教科のトップか教え上手…既に有妃の弱点・問題点を解析

を終えていたらしい。漏れ出ている行間は金属臭がかったフ

ェロモンであった。

・天本守弥は変わっていなかった。こいつは人の落ち度など

元来、無関心。…他人の落ち度はこいつのこころを平安にさ

せる。こう言う接近は奴の暴力発動である。中一の文化祭の

あと、ふざけながら共産主義の是非を巡って甲斐田と討論し

ていたのを見て奴は暴力を発動した。状況は酷く違っていた

が、奴の行動原理にブレは無い、和田のほぼ全体…深層核は

そう判断した。

・能直は頭を掻きながら天本に近づいていった。…間近に耳

打ちした。「失礼、よろしいかな?」意外にも天本はフリー

ズしていた。

・                            -183p

・…「天本(…そう呼び捨てていた)、久しぶり、あんた変

わっていないな。簡単に正当化出来るヨカラヌこと企んでは

いまいな。俺とバレー部の後輩甲斐田との喧嘩の深層は二中

の教員全員、条件付きであんたの高校にも伝わっている。こ

こ、あんたの実力で補欠は不思議に思わなかったのか?…あ

の当時急進派の学年主任があんたにオブラートで包みまくっ

たこといっていなかったっけ…あんたの謀、二回は無いから

…文芸部顧問ー元一中校長の逢友黎一先生と出口区議が動い

たのも添えておくよ。」

・…空気が軽かった…能直の掻いた手…動物磁気は既に天本

の径髄を射程に入れていた…そのうえ能直がアタッカーの長

い腕・硬い肘の死角の隙間に入っていることを含め、…全て

を悟った。…瞬発暴力の行使をさせない能直の配慮、行使さ

せずいいたいことが出来る位置に能直は入り込めていた。

・「和田クン。それで何だというんだ。」天本の息が荒く熱

かった。

・「へこんでいる有妃にレイプなぞ企むな。ということだ…」

・声変わり、背も高く痩せこけた風体…聴き耳を発て耳打ち

の断片から、それが誰か、気が付いた。…嗅覚愚者のオーラ

が滲む。…息を呑みハッと有妃が起ち上がった、「…和田。

どういうこと?」

・能直や天本をしばらく見ていた。「天本…くん」天本の目

を見た。

・何故かこの時だけは、天本の目は誠実だった。

・…有妃史澪はじきに進行中の謀を察知した。

・「失礼しました、初めまして、先輩方。実家の縁で有妃と

義姉弟になっている和田能直というものです、この天本先輩

にもお世話になっています。…義姉の困難状況にご配慮いた

だき感謝の極みです…お騒がせいたしました、これにて失礼

いたします。」

・                           -184p

・…能直はとても恐かったのである。ここに居続けること、

あの時の有妃の冷たい目…時さえ止まってしまう様な邪視…

に遭遇してしまうのではないかと、やっと到達したこのささ

やかな低空飛行…小康…平穏、それを絶望の振り出しに戻さ

れる恐怖…納得した有妃の声は冷たい響きではなかった、…

それでもひと目で何もかもかき消されてしまう邪視レベルの

瞳を見ることがどうしても・何を自分に言い聞かせてもそれ

は…出来なかった。“…ミオネエの目は以前のものかも知れ

ない…”そんな視線を感じないでもなかった。でも恐くて近

辺をスキャンすることも出来なかった。

・…「無事でよかった、有妃さんまたね、俺…、俺も払って

も祓っても嫌なことが次々…、でも、オレ、出口探し諦めて

いないよ…。またね。」

・能直は自身、天本と同じくらい毒気を噴いているのが痛い

くらい分かった、飲みかけのBブレンド飲んで店を出ていっ

た。

・…ただ空は真っ暗で恐ろしく時間が経っていた…。

・…そうだった。道すがら能直は自身に独語していた。…色

んな人に色んな匂いに酔い疲れていた…独語も…所有物本来

の在りさまに復るのが自然…ものの道、然るべき道、「…大

事にしなければならないのは俺の気持ちじゃない。」…ミオ

ネエの気持ち、所有者の意志、触りたくなるまで所有物はそ

のまま…

・…それでいいんじゃないか?…そうそれがいい。パーッと

気持ちが晴れていった。

・…でもどうして聡明なミオネエの成績が下がった?…莫迦

な俺が嵌まった“何故 ”のトラップを最終的に引きずり出

してくれたのは母親の力よりミオネエだった。“何故 ”の

トラップはまだ健在…でも何故ミオネエは俺を引きずり出せ

た?…心裏内の“何故 ”のトラップがあると前に進めない

のはミオネエ…も同じ、俺みたいに成績に直接響かないだけ

にかえって深刻、眼の前に出来の悪い俺がトラップでウロウ

ロしているのを救済しなければならないとき、ミオネエ…自

身のトラップに蓋をして手本を示し、俺を引きずりだした…

まだ俺自身トラップが解決したわけでは無い…だから今まで

もこれからも、ミオネエ…は“何故 ”のトラップに俺以上

の頑丈な蓋をしなければならないということ…。俺のトラッ

プより深刻だ。                     -185p

・…「だから、真際に、出口探し…なんて言葉が…」能直自

身の不可解な発音に合点していた。「…何時か、必ず、この

何故を武器にして超えてやる。飼い主より先に超莫迦、なっ

てやる。」

・…こんな風に、立ち直るのに多くの月日・助力を費やし~

その間、飼い主の笑顔も忘れてしまうのも…「…問題。…」

・「…というか、この時間跳躍は一体何だ?…コーヒー屋の

前で息が乱れた、…乱れたのでは無いあいつ天本の情念に同

期した、野心も呼吸もカネミもエグミも操作するあいつのフ

ェロモンに俺にあいつの同質を持っていた…だから次に何を

言い…次の一息後何を言うか分かった。予想は大きく外れた

が音程と要となる言葉は半分は当たった…俺の莫迦も手伝っ

てくれた…やつの意図・プランは分かった…運動機能・全身

の破壊力・狡猾もあらかじめ窺い知ることが出来た。…だか

ら阻止出来た…そうか?」

・オーゥ…「ナオッ!」いきなり抱きつかれた…「私も帰る

ところ…夕飯は熱いしめんどくさいので外食にしよう、クー

ラーに効いた店で焼き肉にしよう…」「かーさんが、肉?」

「そうよ、それからお風呂よ…ナンカあったの?…汗臭い…」

母はねっとりと密着させて…「カネミ、エグミの匂いもする

…たまには肉、毒で毒の解毒もいいわね…」…「かーさん…

識っているの?」「はーん、あなたも分かる様になったんだ

…嬉しいわ」

・「…なるほどね…先々の目途もたったのかな?…ナゼの呪

いが通常版白魔法―日常…力に?…イ…イヤま……ダ早…

…」

・…たまにしか食べない母が別人のように肉をほおばり貪っ

て店を出た。…母は能直の吹っ切れた表情以上に、匂いが気

になるらしく、多感な我が子の拒否も意に返さず一緒に風呂

に入り込んできた。

・…

・                            -186p

・「…?、記憶が飛んでいる…ちぐはぐ?気持ちがなんとな

く?…匂いが分かると先が分かる?…あアッ、分かったワカ

ッタ。…そうネ、だったら勉強しなさい。“ナゼ”は1日 30

分✕ 2 電車の中だけ。…もちろん順位は望まないわ、…失点

は繰り返しやり直して出来るようになればいいの、赤点取ら

なければいいだけだよ、あの非情なスパルタ学校でね…ふ…。

欠席・遅刻・早退…居眠りもダメよ」

・…乱入した莫迦の所為で天本の謀は停止した、有妃の成績

復活作戦…なども解散となった。男子の学友達は漫ろに解散

した。そのテーブルの凍った時間が緩み始めた。

・…史澪も能直と似たように混乱したり、思路の箍が緩んで

いた。有妃はポツリポツリと独り言を零していた。

・天本守弥は混乱した有妃が心配ではあったが、加害未遂の

張本人が送ることも出来ず席を発とうとしていた。そこに有

妃は低く通る声で言った。

・…「ボクなんか好きにならなくていい…危ないから…凄

く。」…「…」“ボクはネ、愛を感じてしまうとその人を殺し

てしまいたくなる”…「…」“…衝動を我慢していると死ん

でしまう様なことに巻き込んでしまう”…「…」

・…網膜の奥が黒く光り続ける有妃の邪視は、そう語ってい

た。

・鈍くて強引でもそれなりの好意・誠意を抱く天本にも何か

感じるものがあった、…エロモードの優等生は脈絡も無く、

わけもなく、過去の林間学校遭難事件の事を思い出していた。

「…遭難、彼、死にかけてた…ね」…唐突に天本は呟きなが

ら背筋は真冬の様に凍りつき固まっていた。

・史澪の空想―スピーチバルーンはふわふわと続いていた。

・…摂理は仄めかす、誰かが消えなければ…と。でも…誰も

消えてはいけない。天本も…猥雑ではあるがそれがこの世の

最も美しい有り様、誰も消えないという美しさ。…何もしな

ければ、自分も消えてしまう…がこれも駄目かな…      -187p

・…“学の王道=何故 ”を封じてきた史澪に、果ての無い

素朴な疑問が襲いかかった、…有妃の勉学ニチジョウを“

ナゼ ”が本格的に壊し始めた、ひたすら得点を稼いでいれ

ばいいというハナシでもなく、自分が何になりたいかも稼点

に組み込まなければならなかったからである。有妃は以前か

らなんとなく女性故神職は不向きで実家の神社に関連する仕

事に就きたいと考えていた。高校入学以降、教師と天本から

執拗に理系を勧められてきて三年のクラス編成では理科クラ

スを選択させられた頃から本格的な墜落が始まった。

・もう一つの墜落は有妃家血筋が持つ寛容さ―天然で、執拗

について回る天本守弥を好ましく思わなかったが、そこは天

本、破滅的NGを出さなかった。今回のコーヒー屋の件も有

妃の聞き違いと凶暴野人和田能直を沈静させる方便辺りで嫌

疑をかわす算段はつけていた。

・有妃も突っ込まれない程度…魔女伝説復活とならない程度

に、さりげなくカウンターを与えた。…“ナゼ ”の賜物と

天然の所為で、愛と殺意が重なってしまうのに気が付いてし

まった―その狂気の片鱗を見せてその場の天本を酷くフリー

ズさせたが…鈍チン天本が今後どうでるかは有妃にも想像で

きなかった。

・―邂逅、息災、御兼利恵子・朱樹・史澪ー

・                           -188p

・…それは御兼・長渡・陶内が高一になってバンド再始動を

記念するライブであった。困難は積み上がっていたままであ

ったがバンドは再始動した。造詣故に夢中になれるジャンル

・人がいるからこそそれぞれの技量~盗みの業は凄かった。

・…哀しきかな東京人達、それぞれがメンバーを立てすぎて

しまうきらいがあった。見かねた長渡が曲のリズム・グルー

ヴ・ノリで主導権をとる…とらざるを得ない、この役はベー

スに課されることが多い。- 188

・じわりじわりとGの御兼が走る、オカズの度にDの陶内が

ノリ速る、Bの長渡はベースラインにビブラートを噛ませる、

ミュートせず引き摺る、メクバセでテンポを抑え…時に更に

上げる…また緩むと、御兼が走り出し・陶内が乗る。…陶内

の強い意向でメトロノームを使用しないことになり独特のう

ねり…喩えれば在来線のガタゴト…聴き手にとってリズムラ

インの方向性は間違いはなかった、何より肩の力が抜け、何

処か気持ちが晴れていた。

・…会場は打ち上げ中、事後の事務手続きでリーダの御兼は

最上階の有妃家にいた、店長は有妃母、以前からも御兼は手

続きが済んでも打ち上げ会場となっているライブハウスには

降りようとしなかった。陶内や長渡の何処か猟奇を匂わせる

振る舞いと違って、物静かな御兼にはストーカが憑きやすか

った。今回はいなかったが用心は欠かさず、来てくれていた

史澪・朱樹と世間話にハナシが弾んでいた、あの文集でも能

直の母朱樹からの援助はとても大きかった、あれからきちん

としたお礼が言えていなかったことに利恵子は後ろめたく思

っていた、というのもあった。…それに文集以降、ストーカ

が減っていった種明かしもして欲しくもあった。能直が居な

い日は有妃家にいることが多かった、この日も、能直はスパ

ルタ進学校で補修を受けてライブにも顔を出せていなかっ

た。

・…有妃母は事務処理が終わると社務所に行き、有妃家には

御兼利恵子・朱樹・史澪の三人が残った。意外にも、そして

珍しく朱樹がいきなり仕事のハナシ…を、それも憤慨まみれ

の、ほぼ愚痴、を溢し始めた。

・                            -189p

・…若い医者が古い叡智を大事にしない様な愚痴だったが、

利恵子と史澪への眼差しは大事なハナシの前置きの様な言い

方で話していた。

・「…データー重視。患者さんを見ない・触らない、話もし

ないって訳じゃないのだけれどネエ、今の人は診察で…例え

ば頭が痛いとき、何時・何処・誰…もちろん患者さん・何が

~何を・どうなった~どんな風・何故…これは患者さんに負

担をかけるのであまり聞かないけど…出来事の基本―6Wか

ら聞いてゆくんだけど、最近のお医者さんはどうなったかは

聞くのだけど…、どんな風を詳しく聞かないの。」

・「この“どんな風か? ”これを聞くことはあまり科学的

じゃない…若い人はどちらかと言うと魔術的と思い違いをし

ているフシがあるみたいなの…」

・「頭がズキズキ痛い…ズキズキは拍動性を言い当てようと

する擬態語と医療は考えています。」

・「同じように、頭がドーンと痛い…は頭や首周りの筋肉が

緊張して筋肉に運ぶ血管が抑えられているときに“ドーン”

が擬態語として取り交わされるの。…何らかの理由で頭の中

の圧力が高くなっても血流が減るから同じような“ドーン”

なのよ。」

・「頭が割れんばかり~引き裂かれんばかりに痛い…のはネ、

脳の中を栄養している血管が出血などの急な塊が出来て不自

然に引っ張られた時の様態を言い表す語句なの。」

・…「時代が変わった所為もあるわ、若い患者さんが心臓の

拍動に違和感を感じるとき“心臓がバクバク”ていうの、言

い出した瞬間は分からないけど6Wを聞くとすぐ“ドキドキ

”のことかすぐ分かるの…最近のあなたがた、もう…バクバ

クも使わないわね…。」

・「非論理的な擬態語…最近では比喩・暗喩の表現も何処か

魔術的に響くのかしら。…」

・「二人に聞くわ…『脳がグズグズと崩れてゆく…』この言

葉が何を喩えているか…喩えようとしているかわかる?…」

・御兼・史澪、顔を見合わせた、史澪が「分かりません、」

といいそれを見ながら御兼はしばらく首を傾げていたが「…

ウーン、やっぱり分かりません。」

・…「よかったわ、二人とも想像力…思いやる力あるから『分

かります!』…なんて言い出すかとハラハラしたんだ。」

・「…『腐った豆腐がグズグズ崩れた。』なんて擬態表現は

使われると思います。でも、…『脳がグズグズ』を発信して

も受けきれない、有形・無形のダメージを受けたり、寝る・

食べる・寛ぐ~出すといった日常と現実との折り合いを見失

なわされてしまった人、とか統合失調症の人なんかは、私た

ち捉えきれないSOSを発信してくるの…」

・                            -190p

・「…ごめんなさいね、脱線しちゃって…でも能直で慣れっ

こよね…発信・受信とも相互交流できる擬態語や比喩・暗喩

の表現でも最近のお医者さんはこれより検査データ~数値化

された心象を重んじる…ここに競争や摂理…原理…何でもか

んでもこれ一つで説明しようする、キリスト教の“神”・イ

スラム教の“アッラー”・仏教では“大日如来”。ヒンドゥ

ー教には原理なんてなくて…そうであっても、唯一・最高は

摂理~説明原理とは異質だったの…原理主義や摂理が最も強

いのがキリスト教のプロテスタンティズム…宗教なんて原理

がないのが普通…。…思いやりの教え。原理と表裏関係の排

除やお裁きは、為政者のお仕事…」

・…「ナオクンママ?…普通ってとても凄いことでは?」…

史澪も当たり前の様に聞いている。

・ 「そうなの、リエチャン。最高がハバを効かしているけ

ど、土が香る普通の方が格上なの、それも俗人の普通…でも

当分この場だけの話…ネ、最高が妬むから…」

・「そう…戻って、競争や摂理が絡んでくると…医療も競争

の部分があるのよ…雅やかな大学病院なんてのは特にね…。

競争の原理が組み込まれるとほぼ定義のない擬態語や比喩・

暗喩の表現は疎まれてくるの。…理解しにくいこともね…秀

でているのも混じってはいるけど不確定でダメダメも多い、

競争に執着すると見る目をすぐ、失ってしまう。」

・「だから忌み嫌われる…秀でているのも混じっているから

嫉妬もされがち…競争の枠から押しだそうとする。…ノネき

っと」

・「…不揃い・異端児・B級・個性派・オタク・鼻つまみ・

天然・多動・アンチマニュアル・変わり者・老害・アウトロ

ー・脱線王・バカ…魔の付くもの全て…鬼・海賊・天才・カ

リスマ・カミ…でも当て字は鬼と書いてカミね。…独裁者・

獣・暴君・デストロイヤー・大狸・ゴジラ」

・「ごめんなさいね…止めどもないわ…罵られてきたのは…」

・「誤診しても取り返しの付かないことさえしなければいい

の…失敗は失敗でないの『誤診がなければ取り返し付かない

は無い。』…何処かそんなところにしがみついて…そこにし

がみついてないと高度の競争では駄目みたい。…いっても大

学人に鼻であしらわれた。」                -191p

・…「疑義・揺らぎ・すれ違い・失敗を無闇に恐れる狐達…

ゴブリン?は、私が丹念に患者さんと擬態語で『ズキジキ…

ドーン…バクバク…』妖しげな言葉ですれ違っていると怪し

い魔物に見えるのかしらね…、その怪しさを乗り越えるとそ

の人を発見出来るの…でも、端から見るとそれは、凄く危な

っかしく観える…それは臆病な観察者の内面を映しただけ、

だから、初め、観察者の位置にいて競争にしがみついている

人は、高飛車に指導する…次第に迫害…諦めると今度は干す

~蚊帳の外。…」

・「単純な劣等とは思わない…だから次第に負の含意の混じ

った神性やら魔性のある言葉を使いがちなの…」「小さな失

敗・すれ違い・揺らぎ・疑義を起こすものの長年の経過で、

取り返しの付かない失敗が桁違いに少ないことを無冠のババ

ァ医者が具現化すると、狐…ゴブリンどもはかなり恐いもの

みたいで…小さな失敗もないから…怖がる、経験値も増えな

い…かな。じき静かになって、干す・蚊帳の外に変わってく

る。…」

・「最悪、付け焼き刃、狐・ゴブリンとか迫害者には、恐さ

や身の危険を匂わせれば…そういう距離をとって、我が道…

出来れば競争と関係ない異世界を行くのが王道…嫉妬させな

いこと。最近ワカッタ…かな」

・「有名コンクールより、名も無い発表会のほうが面白いわ

…」

・「…暗喩でごめんなさい、お二人なら…ねえ…」

・「妖しいながら意思疎通がとれたとき、俗人の言葉は普通

で最善のマジックなの…問題は最高やら競争の方ね…」…「疑

義をピクリとも拡げない…プロパガンダ、競争も摂理も同じ

ね…嵌まらないコト。」

・…朱樹がクールダウンし始めた。若い二人とも朱樹の熱意

を感じるも真意が何処にあるのか?しばらく分からず聞いた

言葉やそれぞれの思路を巡らしていた。

・…「あの文集。…読む人によっては捉えどころも無く…怖

かった?…能直クンを笑鬼と笑い蔑んでいたのではなく怖が

っていた?」「…そういうことナオクンママ?」       -192p

・「そうね…、」…「それに、奇しくも影みたいなAIと話

せるリエチャンも。」

・「バカとハサミ・恐い鬼は使いよう…ストーカーに屈する

ことなく、切り取ってしまえば?リエチャン?我が道を行っ

たら?…って、あの演奏見ていたら、根深いのは感じられな

かったワ。…あのノリ、暴君よ・ロックよ…影が蠢いていた

のリズムが滲んでいるとしかいいようのない、だれも知らな

い影…、所有したいなんて思わない…。」

・!…御兼は頭をさげる。

・「バカは莫迦なり悩んで…鼻もバカだったみたいだったけ

ど、最近匂いに目覚めた?」

・「どお?…フミオちゃん?…」…「じき自分で解けるョそ

れまでは…」

・「はい、ええ…前みたいに困ったときにそこに…」…史澪

は訳も無く息が乱れた。

・…「ウン。よかったわ、…あの子マダ。…“和田のバカど

も”…大バカだから、もう少し虐めて悩ませないと、深化し

ないから…“所有者”の責任で…ネ。」

・…史澪は赤面の別人になってしまって…「おばさま、から

かわないで下さい…オネ…イ…」

・?…

・…和田のバカども?…“所有者?”…

・若い二人は顔を見合わせた…。

・「…相談の解答には程遠いけど…ごめんなさいね。でもじ

きョ」

・「…これにて…マジコリ俗人通常息災魔法談義―最高と無

縁のカタカムナ…贄不要の常魔法…小休止。」

・「ごめんなさい…能直母は皆さんの相談を餌に、自分のコ

コロだけを、お掃除をしてしまいました。ありがとうね…(テ

ヘペロ)。」

・「いえ、こちらこそ、…ありがとうございました。」

・「ぃぃえ、こっちこそ、有り難うございました。」     -193p

・有妃と御兼は頭を垂れ爽やかな息をしていた。

・―バージンキラーー

・…喫茶店の醜態もまるでなかったような天本であった。辻

褄が通っているのは願望や欲望だけ、忘却、あとは天才的・

瞬間芸的な屁理屈のパッチワークだった。自称、友達以上・

恋人未満風の思い込みと珍妙なテンションで…有妃の成績急

落回復と同じ母校の名誉回復~あるいは檄…の相談を生徒会

室でしたい。…と有無を言わさない空気と乾燥で有妃の教室

を満たし、そう言い放って出ていった。だが、この暴君を追

跡する影があった。教室外の空気はジットリ湿っていた。

・放課後、有妃は一人生徒会室に向かった。いつも人でごっ

た返しているはずの生徒会室はひっそり、天本しかいなかっ

た。生徒会室の天本はデカかった、態度が…、高三である天

本の身長は183㎝…コートでは小柄なアタッカーなのだ

が、ここでは不自然に大きかった。…何を話したのだろう…

クダラナイ世間話だった、きっと…、気がつくと…有妃は応

接セットに坐らされ巨漢に後ろをとられていた。有妃に耳打

ちするような体勢で天本守弥は語り始めた。

・…「本校の統計でも自分個人の経験でも、成績下落は性愛

によるフラストレーション、萌え、麗しき優等生であればな

おさら、好奇心もみな尋常ではない。… 誰でも初めは酷く

嫌がるが、イク処までイッテしまえばそれ以上でも・それ以

下でもない、僕は優しい、…とても。美しく賢い人であるほ

どその気付きも苦難の解消も速い、成績も戻った後も上がり

続ける聡明ならなおさら…例外は無い。」          -194p

・…ほぼ身動き出来ない―後をとった体勢から腕は抑えられ

たまま左周りに有妃の唇を覆い被さる様に…奪うように…天

本は接近した。

・…湿気。有妃は初めから抵抗もしなかった…天本は時間を

かけて、長い腕が蛇のように史澪へ纏わり付けてきた…左胸

の痣も擦れたシャツのうえから薄ら透けて見えた。…痣が疼

いた。…有妃の痣―迷入副腎は俄に血圧を上げ、次第に史澪

は焦点も意識もぼんやりして目を閉じかけた。

・「…別に構わないョ。」…

・天本の口に、有妃の冷たい唾液の噴霧が舞った…

・…

・「…オス丸出しのキミに美人とか聡明とか、女への美辞麗

句いわれても…ねえ…」

・「…同性だから判る、彼女たち…成績が上がった被害者女

性達は間違いなくずっと前からキミが大好き…だという基本

的な前提をキミは気が付かない気付きようもない、受け容れ

もしない…これは性格とか無意識に属するもの…そう、中学

時代、稼点のみに特化した感性…ボクと同じようにキミにも

二つ風評がある…」

・「…“バカチン ”と…“鈍痴ン ”!」

・「クリスチャンでもないボクのバージンは奪っても構わな

いが、その前にキミの命や精神は大丈夫だろうか?愛という

が…キミのそれって本当の愛だろうか? フーン、萌え?だ

って言うの?ボクの成績下落をキミはそう分析するんだ…」

・「ボクが動けば死に相当することになる、はた迷惑な風評

だったが、事実無根かどうか?、試してみましょうか?…魔

女と風評される女を…火のない処に煙はたたない、ボクが和

田。を愛してしまったから彼は死に損なった…少なくとも2

度…」

・「恐らく、キミのバックにいる人達の変死…しらないの?」

・…既に天本は凍りついていた、冷たい汗が有妃の頚に垂れ

落ち伝っていた。                     -195p

・…「幼気な好意じゃなくて愛…あの駄目ガキに…?何故?」

・「…イケメン優等生…非のうちどころも無い、だがキミに

は愛も感じない、好きでもない男にヤラレて、慎ましくこの

ボクが健気に内部の衝動…原初の殲滅衝動…の沈黙を守ると

でも?…キミの大きな性欲―バカチンでこの動かし様も無い

嫌気を、愛とやらに高める自身があるならやってみるとい

い。」…「ボクの謂っている意味、キミは分かっているのだ

ろうか?…」

・「ェ?」

・…辺りが騒々しくなった。

・…腕章を付けた学生数名が生徒会室に入ってきた。

・「二人ともそこまで。」

・「風紀委員長―仲山茅夏はここに通告します。天本守弥、

有妃史澪への校外・校内での接触禁止を命じます。違約時に

は当生徒会並びに当学園の最高の罰を科します、また風紀委

員会が入手、伏せられてきた個人情報は保護に値しなくなり

ます。あらたに刑事罰が科されるかも知れません。…有妃史

澪、あなたも天本守弥を挑発した、不適切な行為があるため

同様とし天本守弥への接触を禁止します。違約した場合、悪

質な天本と異なり違法行為や隠蔽などのものはありません

が、この場で起こったことに纏わる個人情報は保護されませ

ん。」

・「以上 後日正式書面を追って通知します」

・「キミはずっと誤解してきたが、何度でもいう、判りやす

くいういうよ、ボクはキミが嫌いだ。…“大 ”を付けると、

キミは逆の解釈をしかねない…我が家の家訓の…不快な隣人

でも排除しない…それとキミの隣人愛は根本的に違うんだ。

…それに、悪魔・魔女の類いは隣人ですら、ない…それを愛

そうするならキミの精神は壊れないのか?」

・…

・「もういい…終わりだ。…風紀委員好きにしてくれ。」

・…

・「生徒会室の施錠は当風紀委員がします。」        -196p

・…静けさと、風紀委員らと有妃が残っていた。

・…

・「史澪部長…アレでよかったのですか…あんな過激で。」・

「…部長?、中学一緒…。」

・「ありがとナカヤ、彼は自分の非を忘却・抹消できるタフ

なヤツだ、ボクにかかった科でヤツにはボクへの負い目が、

真っ当な抑止力が出来た、これでやっと人並みにヤツを抑制

出来る。…やっと。」…「ナカヤさんありがとうね、一ヶ月

前にヤツが危ないって言ってくれたときはさっぱり判らなか

った。彼はボクが真剣嫌っているのは重々承知していると思

っていた…ヨ。」

…「ということは何故、ボクたちが天本を嫌っているかも分

かってないまま、」

・「そうです、戸波の地に天本商店は江戸・安政期に来まし

たが、先代が不動産に手を出してから様変わりしてしまった

ようです…地元への裏切り・背徳にも近いものです…でも。」

・「部長…はホント天然です、気は許さないで下さい、天本

…きっと悪魔並みに不滅・強かです…」

・「全問正解の優等生が“駄目ガキ ”に劣る初めての失点

…そればかりかその優等生に何故の疑問符を発見…とは言

え、御慢心されぬように。」

・「ウン、疑問符発見は恐いかな…。ありがとうね…チカ副

部長…」

・―疑問符、魔類の変容、虚時間に隠れる(勉強しなさい)

・                            -197p

・容姿端麗、甘いマスク、スポーツ万能、現バレー部部長兼

生徒会会長、二年と足かけ半年全科首位…裏ではバージンキ

ラーの異名をとる天本守弥がヒヤヒヤしていたのは、この事

件が公になって処罰されることだった、キラーは麗しき被害

者全てを虜にしていて彼女らの内戦・陰謀戦の勃発も天本を

ヒヤヒヤさせていたのだったが…それはどちらも、なかった。

・天本は既に捜査を始めていた、試験のヤマをかけるより簡

単だった。頂点である天本の不祥事が公にしないことが分か

ってきた。それ故か、そして何故か、燃えたぎる熱血闘士は

どこか、冴えなかった。内々のファンクラブが起ち上がって

以来…天本はまるで好々爺…密かに熱を上げる麗しき虜たち

に、恋人未満の等距離という綱渡りをせざるを得なかった、

きっとこの等距離の表層―ペルソナが好々爺なのであろうか

…。そして好々爺の内側は頂点維持、と駄目ガキに対しての

何故、と有妃への思いで満たされていた。その煩悶に・その

反復の所為で実時間は停止し始めていた。

・見目秀麗、クールな笑顔に不思議な熱気を秘めた美少女、

ただ異性や能直が接近すると冷血爬虫類…史澪は自身の未熟

さをよく知っていた―愛故に、その殺傷力も…。

・史澪は二つ、稼点と何故の二つ、その何故も答えがほぼ全

滅の何故に苦心してもいた。苦心は大方、虚時間に取り込ま

れた…キモチが移ろっていた。実時間に顔を出す有妃史澪は、

クラスの女子たちに爽やかな笑顔を振りまく可憐な花そのも

のだった。

・若い力に知恵を授けてきた壮々そうたる精霊たちはそれぞ

れ、自身の『死後―即ち』―『実時間…現世に何を残せるか

~残すべきか?』をそれぞれありったけの叡智・想像力・汎

化力・妄想力を駆使して没頭し実時間の滞在時間は年を追う

毎に短くなっていた。

・                             -198p

・能直の無芸大食は変わらなかった。高校に入ると末端の進

学校で男子校の所為か学校生活は実時間―稼点原則の実世で

占められ、虚時間に繋がりその窓口になる反復でさえも、実

世では苦痛・必須事項の反復に挿げ代わり誰もが行き来出来

る道ではなくなってしまった。…入学直後、笑魔―躁魔とも

言われていた、能直であったが、高校生活はつまらなく感じ

はじめていた、…きっとワクワクする様なことがあっても、

自分が気付かないだけだと、だがワクワクの種になる“何故

…”を発動した途端、高校生活が静止はじめる、場合によっ

ては突然に途絶される、帰宅しても同じであった。史澪との

約束…男いや人として成熟しなければならないことも薄らし

てきた。…モチベーションを確認したり上げようとして合い

にいっても史澪の危機でもない限りそれは決して叶わなかっ

た。

・時は進まず勉学も進まなかった、押さえ込んだはずのナゼ

はもそもそと動いた、能直には競う勉強のチャンネルはほぼ

皆無だった…能直の疑問符は興奮と快楽、好奇心ソノモノだ

った。疑問符と小さな正解と新たな疑問符その反復に驚喜し

た、反復は実時間ではなかった。能直は一人が好きではなか

ったが実時間では白けていた…彼が白けていたのではなく実

時間に蹂躙された学友たちが白けてそれが投影されただけの

過ぎなかった…ちょっと寂しかったが躊躇なく虚時間に佇め

ていた。

・造化からの“借金 ”で実時間で競うのは無駄とか虚しい

とか造化から瞞されているぐらいにしか…直線的宇宙みたい

な…なんとなくだがそう思っていた。

・史澪とすれ違っていたとき、能動維持のため、常に借金を

し能動的覚醒し、…その返済に追われていたような…そんな

徒労感があった。…周りがうるさいのでしかなく勉強してい

た。空しい実時間だった。

・疑問符と小正解で反復される楽しい虚時間ではあったが、

ずっと一人かというとそれは違っていた。能直と似たような

幻影が寄り添い・離れ、寄り添い・離れしていた、そして間

違えなくそんな幻影たちは白け霞んではいたが間違いなく反

復を繰り還すこと自体を楽しんでいた。類似の周期の中に漂

うモノの悦、もし彼ら幻影の主が楽しく過ごしていなかった

ら、能直もまた楽しい自閉ではなかったはず…だからだ。

・…                           -199p

・下校時、山進高校の庭園に人型の幻影があった。…今まで

気が付かなかった、そして幽鬼に充ちた影は何やら楽しそう

であった。…「この学校にもそんな物の怪がいるンだ…」そ

う思って足を庭園まえで止めた…。空は明るかったが、昼下

がりの庭園は蔭が長く庭園の中で作業服で庭弄りの人物が人

なのか物の怪なのか判然としなかった…所謂、遭魔の刻には

早かったのだが、それだけ奇妙であった、能直は少しだけ恐

かった。人であって欲しい影は一呼吸して…、「物の怪とは

失礼だぞ、和田、」…思っただけでなく能直は声に出してい

た。「ァ…」

・庭園の蔭から日焼けした顔が出てきた、隣のクラスの担任、

物理を教えていた教師、森…確か下の名はテツオ…哲和だっ

たろうか?下校時、アプローチに突然立ち止まる一年生を他

の下校生は怪訝に見つつ帰って行った。「おまえも庭弄り分

かるのか?楽しいぞ…」物理の教師は白やら黒に変色したり

ブツブツと疣の様に腫れた葉っぱやら蔓を両手にしっかりと

抱えていた。「となりの、名前は能直だったか?和田能直?」

…「はい、」「…先生は何をされていたのですか?」

・「この学校の庭園は広くもなく狭くもない、だが庭園の中

に入ってしまうと、木々の緑一色で囲まれてしまう。」

・「囲い込んで木々は俺に言ってきた、『余計なこと…』っ

て、『異物は君自身…光合成も出来ない寄生体…』だと…緑

の中でそう感じる、妙に変だったが、その時…庭掃除が酷く

楽しいものに思えてきたのさ。そしたら緑の外におまえがい

た…。」「おまえ庭弄り解るのか?」

・…「いいえ、先生、楽しいようにはみえました。」

・「嘘つけ!」森はニヤリと笑う。

・「はい。」能直はニタリとだろうか、微笑んでいたのだろ

う、しばらく頬が緩んでいた、 …久しぶりに笑った気がし

た。

・「ちょうどいい、一番奥に雑草が集めてある、それを焼却

炉に入れてきてくれないか?」

・…頼み…? 「サッサとしろ。」…仕方なく刈り取られた

雑草をかたづけた。                    -200p

・「和田、おまえは“庭弄り”解ると言った、何処かで緑に

囲い込まれたことは?」

・「小さい頃周りに小さな山があってそこで…でもあまり記

憶に残っていません、ただ方向音痴が森の中では酷くなるの

で、ほんの子供でしたし、なかなか家の外には出してもらえ

ませんでした。迷子と違い恐くなかったと…方向音痴だけに、

少し楽しかったような、あまり思い出せません。」

・「恐くなかった?そうか、山道が分からなくなったときは

なかったのかな?」

・「街の近くに山はありましたし、人が入っていましたので

庭みたいな感じで、何処でも道。…今から思うと人に踏み荒

らされても森が死なないなんてそちらの方が不思議に思えて

きました。」

・…「先生それとですね…今、当たり前なんですが、ヒトっ

て光合成が出来ませんよね。草食動物とも違い草を食べても

エネルギーに出来ませんよね。…恒星のエネルギーを自分の

生命エネルギーに使えないなんて、とんでもない欠落です。

…でも肉なんか食べなくても生命エネルギーは植物から得ら

れますよね…なぜヒトは生態って言うんですか?その頂点に

いながら何で過剰なんですか?」

・「凄いというかバカと言うか、今気が付いたならバカ、小

さい頃の体験から手繰れたなら凄い。俺の『余計や異物』に

近いものを感じ取っていたんだな。」

・…「それと和田、園芸部に入れ。うちは実世に生きる幽霊

しかいないから困っている。」

・「第一、おまえのナゼ?多すぎる―多様。学業の邪魔だ、

授業中は考えるな、ナゼは園芸部できちんと考えてみろ。」

・「考えるお題は、今、与えてやる。大体三つの言葉からな

るパズル、正解は恐らく10個10種の解。―過剰・淘尽

・欠落―動物・植物・菌~雑と怪―癌・有性生殖対

・免疫―終末・常住・穴(命を担うトンネル効果も穴だ

…古い神道では穴は特別な神聖がある)、取り敢えずそんな

ところだ。」

・「入部考えとけ。手伝ってくれてありがとう。遅いからも

う下校しろ。」「失礼します。」「…ン」教師は肯いた。

・                           -201p

次巻は(22)疑問符200pの続きからです。

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