本編:常魔法-微睡み-いぬ:その3:(12)アフターミーティングの続き~80p (15)-文化祭展示・文集~表題・『耽美主義の救済』((15)-5:和田能直)~120p
かなり長い~私小説です。作者が念じる重要な事柄は幾度となく反復します。ですから仔細気になさらず気楽にご覧ください。反復は常魔法(…贄を必要としない非高級魔法です)の常套です。
コンテンツ:
(12)アフターミーティングの続き80p~ (13)文化祭前夜:83p~ (14)(母)朱樹と史澪、十柱の霊:87p~ (15)文化祭展示・文集~表題『耽美主義の救済』:95p~ ・・ <(15)-1:生徒会長緒言-天本守弥:95p~ (15)-2:リードギター-御兼利恵子:96p~ (15)-3:顧問-逢友黎一-姉、弟を見舞う=微睡み、異世界を魅舞う:108p~ (15)-4:香りの妃-菅原寿椰子-香り:112p~ (15)-5:ナゼバカ-和田能直:116p~120p>
(本文には(12)(13)(14)(15)(15)-1,2,3…のようなナンバリングはありません…御容赦)
・
・…「…前置きが長くなって申し訳ありません…父は帰りが
とても遅いひとです…たまに早い時は少々ご機嫌で饒舌で
す、…呑んで帰ってきます。仕事にプライドを持っていて私
はちょっと照れくさいのですが尊敬しています。…酔った勢
いで仕事の遙か先に、一つの懸念があるようです…度々聞か
されているので初めに聞いた時の違和感は余り感じません
し、伝え聞いた遭難事件と中津地区の近代化には関係がある
ように思えるのです。…父は『どうにかしようと焦れば嵌め
られる、だから少し備えてチャント観ていれば良い。実害~
禍がかかった時に祓えばいい。』と添えます。」 -80p
・「…わたしの父の仕事はプログラマー…人工知能の一端を
になっています。論理や科学の領域のしごとです…ロマンチ
ックな響きですが、共産主義・社会主義も科学の領域で、何
処か“棄却”命みたいな…それ故に勝ち負け・存亡と言う暗
号がついてまわります。…同じように父の仕事も同様に勝ち
負け、存亡があります。…もしかすると中津区の近代化に所
謂ヒダリの他にコンピュータを扱う勢力も一緒にいるかもし
れなく…わたくしなりの心配があること…競うでもなく・叩
き潰すでも無い自壊してゆくことを見てゆく…この事態に気
が付いているプログラマーがいます“父です”。…しかしこ
のことをプログラムの中に取り込んで行けない…耽美を排除
でなく…認識できない…近代化と関わりを持っているかもし
れない技能勢力が排除も無く認識もできない…勝ちも負けも
ないのに文芸の行間の有り様を認めてもらうのは…父と私は
酷く心配なのです…ごめんなさい。堅苦シイコトヲ…、」…
御兼利恵子はドンドン小さくなって言葉を添えた「…喋り、
スギマシタ…。」
・
・…「…ありがと。」…「周りからずっと、ちょっとだけ、
虐められたり…されてきたけど」「私、やっぱり、沢山の人
に護られていたいたんだ、あのときね…。子供なのに。…結
構やられたけど、ダメージ…酷く少なかったのは…。御兼さ
ん…負担に思うなら聞かなくていいけど…ありがと。」
・…有妃が下を向いて呟いた、…そして垂れた長い黒髪はし
ばらく黙っていた。
・
・…「…私、よく判らないことミカネ…思い兼ねて来ただけ
です…急いでわかり易い結論を沢山の人に冷めないうちに…
どうやって冷めないか…アァッ迷宮です。…と言うか私…何
もしていません…。」
・
・…「アリガトね御兼さん。恐らくね、多くの~少なからぬ
人が分からないこと抱える勇気…捨てず・競わず佇むユウキ
…贄の要らないありふれていて孤独にも呪われない~数多が
小さな差異を抱えながら寄り添える常魔法に…見かけ上小さ
なものが寄り集まって…私、有妃史澪を護ってくれたんだと
…」「勇気をもって分からないことの恐怖に耐えている人に
は…ありがとう…をこれから言って回ることにします。」「…
それと、今気が付いたのです。私に付けられた…この『魔〇』
が俄に・意図的に造られたことは、間接的にあるいは比喩的
に表現できるんじゃないかなぁ…って。…もし、できなかっ
たら、『魔〇』…『〇魔』でもいいけど、この烙印を着て物
の怪の視点で書く覚悟もできたかな…」
・…肌寒い四月の朝、ビルの谷間にほんの数分、朝日が直射
した。…朝日はすこし湿った暖気を社務所の広間に持ってき
ていた。
・
・ -81p
・「…文芸部の部長として遭難事件の生還者として…関係者
の代表として、この有妃が、出口さんと区の議員であったお
母様、お二人に感謝したい…先月、出口さんのお母様にお礼
を言いに行ったら…あっさり否定されてしまったの…でも虐
めを抑えた一端はお二人であることは、この場で是非言って
おきたかった…ありがとう出口さん。」
・出口は派手に手を振り「私も母も気に入らないと…デシャ
バル、ただそれだけ」
・…「…それに私とスガちゃん、美しいものが台無しにされ
るのが大嫌い。料理研究会も文芸部のプロジェクトに全面支
援します…とるに足らない弱小研究会だけにネ」「スガちゃ
ん…付け足すことは?」
・
・…「いいえ。ありませんゎ…」菅原寿椰子は簡単な朝食の
お膳を運びながら厨房と広間を往き来していた。
・
・
・…上座に座らされた仲山の腰が落ち着き出した頃…時間に
して20分、雑談みたいなのが濃い話になって、互いに言い
たいこと・して欲しいことは伝わったようであった。各々個
性は強かったが異質や真逆、異分子はいなかった、この時代
に文芸を目指す…時代から炙り出されたというものなのかも
知れないが…奇跡に出会えたような安堵の溜息をついたのは
御兼利恵子であった。小声で呟くように…「安心…ノリコや
エミも大丈夫…」ふと、御兼は目蓋を閉じた…茶器の音で目
を開けると菅原が準備していた朝食が出されていた。
・
・食後に眠くならない程度の少量、見た目はサッサと造った
朝御飯―お新香、焼き鮭、卵焼き、佃煮、シジミと牛蒡のお
味噌汁・…見るだけで…頂く前から味が判った…そして…香
りが直接舌と喉を包み込んだ。
・
・…競うことに意味の無い幸せが具現した。…それも皆で…
・
・…文芸部はいきなり、探偵団に変身した、素材、吟味、下
拵え、調理、段取り…菅原に聞こえるようにコソコソ話し始
めた。…菅原は頬をすこし赤らめ…「焼き鮭とお味噌汁以外、
出来合ですょ…」 -82p
・出口は話も聞かずご飯の二膳目に入ろうとしていた、
・…「朝は手際の良さが命、味も風味も濃いと1日が始まら
なくなりますし…素材の香りを殺さないように…生かすなん
て私では…朝はなんでもササッと…焼き鮭は薄めの切り身に
さっと強火で焼いたもの、シジミは前日から砂を吐き出させ
た…くらいでしょうか?ポイントはお米だったのだと思いま
す、有妃先輩のお米がヨカッタに尽きます、…後はタイミン
グというかノリというか…」
・―フンフン(…一同注視)
・…「ノリ…そうですね…、今日は…レッドツェッペリン5
枚目ヅソングズ・リメインズーセイム…かな?」(そう言い
天女がクスッと笑った)
・…御兼はらしくないドヤ声で「うんうん、休日の朝…そう
だよね、そうそう。」
・…?…「何、リエちゃん?」…「今日の下拵え・調理・給
仕…段取り・間合いのリズムはハードロック…てな感じ…」
・「そうよ、御兼さんその通りです…」
・
・…そして食後もそのまま、椰子の姫と香道の家元のフィー
ルドワークになってしまったが…それぞれ放電も充電も十二
分にできて問題なかった。
・
・…結局、午後から参加した能直も陶内も長渡も、この大ハ
シャギ~莫迦さわぎに初めは怪訝な顔をしていたが、御兼が
一言・二言耳打ちした次の瞬間、流行・話題、花色のノイズ
の中に埋もれていった。お昼は仕出屋から注文したが…可憐
なイメージを護るため誰とはいえなくなってしまったが、仕
出しの味醂で酔ってしまった乙女もいた。能直は有妃に飼い
慣らされていたこともあり女性一色、花が咲いていた。
・
・
・
・
・―文化祭前夜
・
・ -83p
・
・
・
・活動中の平均的文芸部室は…静かであるはずだが、戸波中
の文芸部は違った…一体何の部活動?…廊下はクリームや香
料のブランディー・ロック・コーラスの香りで溢れていた、
料理研究部?軽音?…そんな感じの騒がしい部活動であっ
た。…菅原・出口がミニオーブンでクッキーを焼き、御兼が
アンプなしのリード…異様に上手かった。長渡は古いガット
ギターでベースラインとヴォーカル・陶内がバチで手当たり
次第とハモり、陳腐な楽器を背に二人のハーモニーが決まっ
た。…しばらくこの文芸部らしからぬのが続いた。…それぞ
れの言いたいことがバラバラで強い個性の発露があっても文
芸部なりの纏まりを付ける…部長の才覚である。…ところが
終盤に近づき印刷・製本の話が出るにつれて、最初と同様の
不協和音が校舎に響いた。…茜色の校舎にオジイチャンの箒
の音が“こだま ”した、…綺麗な1/fに揺らいだ箒の音。
・
・…仲山茅夏の理詰め押し、耽美の救済―完全―弁証法的完
全―唯物論的完全…一連の論理的思路の結果完成された救済
を獲得するため何かを排除しても構わないような言い回しに
…ドイツ語産の弁証法の止揚…対立物の合一を繰り返すう
ち、言語の作業から記号の作業に変わってゆき、言語の命で
ある行間が破棄される…最初の一歩、救済と完全とが同一で
あり完全がどんどん巨大化・肥大してどんどん上方向かって
しまう…それの何処が悪いのか?救済自体に上昇志向が内在
している…という排除に気が付いていない。
・
・…これに対し、“お題”決定のミーティングで『私小説の
アプローチ』でも述べたとおり、…有妃史澪は排除を少なく
…出来れば排除するのもされるのもしたくなかったのであ
る。…もし、行き詰まったら①“離れる・抜く ”…もう一
つ、②「救済」の中身を自分の内面と併行して解析するとい
った…文芸部秘伝を部長として提案し続けてきたことが徒労
であったことにホットしたのである…締め切り間際になって
…。
・
・ -84p
・…「仲山さん、大きな流れは分かりました、救済の方向性
には問題がありません、…ですが、以下のようのプロセスを
辿る伏流が出来てしまう…これは完全を期す故にこの伏流が
少ない可能性ながら生まれてしまう。」
・「…もう少しだけ具体的な流れは…。」
・「耽美の救済には完全性→完全を希求するために様々な救
済を想定しなければならない→様々には巨大化がついて回る
…ぼんやりした大掴み・総論的な言説では→いずれのプロセ
スにも弁証法的な手法が必須→完全に向かうそのプロセスに
は弁証法的唯物論が生み出される→確かに多くの耽美が救済
される可能性があるが、頻度は極めて少ないが排除…それも
無自覚的排除が生産される…だがわずか一つの可能性でも多
くの完全がそこに集権される…ちょっとだけ双方明確化が必
要と…有妃個人は考える。」
・
・「…有妃さん…先輩、それ先輩の独創…ですか?」…「文
章の書きにくさの呪い…?解消!です!…」
・
・「…ハハ…、以前パジャマパーティーですこし触れました
…お察しの通り、入れ智慧の受け売りですよ。…文芸部の部
長に伝わる秘伝ですよ、それとお掃除ボランティアの“オジ
イチャン ”…実は文芸部の副顧問ブレインなのです、リタ
イヤの前に何をされていたのかは秘密です…ア。言ってしま
いました…文芸部の部長はその先生のカウンセリングを受け
なければならない不文律があるのです…通常あるいは優秀な
中学生ではとても困難ですが…『…文芸を志そうとする覚悟
のある人間にとってそれは難しい…が、覚悟があればそんな
困難ではないのですよ…』と…。ですから部はわたし個人の
力量だけで運営されているのではないのです。長年、文芸部
の部長はそんなサポートがあるんです。」
・… -85p
・「…ここ数年、戸波地区の小中学校が大きな分岐点に来て
いて…この戸波は昔ながら零細企業やこの地区で生き延びた
老舗の子息と大規模高層のテナントを数フロアー間借りでき
る大企業の幹部・管理職の子息の二極に別れ生徒数でも幹部
・管理職の子息が人数的に圧倒するようになって小中学校学
校の校風・運営方針を余儀なくされている…もちろんこの比
率では地域密着の学校からふつうの進学校に変わりたいとい
う父兄が学校を圧迫してきている。…文芸部の入れ智慧から
の話ではわたしとワダ。の遭難事件もこれに絡んでいる。学
年主任と有妃の対立となってしまうことになりそうなので副
顧問のオジイチャン先生はすごく心配を…今でもされて…い
る。」
・
・
・
・…結局、有妃の提案は弁証法~弁証法的唯物論を否定する
…あるいは有妃が主軸である競いのカタチを片隅におけるか
否か考えているのだが…コレを仲山は誤認することになっ
て、その摺り合わせ的不協和音が拡がった。
・
・…この不協和音には微かに“贄の匂いがあった。”
・…学年主任の遠縁の叔父がこの不協和音に飛びついた
・
・…仲山は上昇する…高位の鞭を握っていた。回りには自由
に鞭を振るのと引き換えに排除に盲目になってしまう甘美な
事態に逆に縛られていたのだった…。そこには知性を一点に
限定しているため気付き様がなかった。
・
・ -86p
・…『答えは一つ。』そう言っているけど…答えは一つじゃ
ないかも、答えも叡智もないかも…叡智に振られたマルクス
の御開祖様が妄想している、叡智に嫉妬している、バカな史
澪はそれとなく感じていた…小三の時に大脳ではなく皮膚で
漠然と感じてしまっていた。…社会主義国でも共産主義国で
もないある国に大きく広範囲の地震があった小さいころそん
な記憶があった…別の被害が無かった国の人で一人が言った
『天罰だ。』と『今すぐ悔い改めなさい』と世界中の多くの
人と言った人に関わる人たちはすぐに否定した…天罰が下る
とすると全ての人類に下るはずで矛盾していたからである、
(不誠実にもその矛盾を隠した…天を畏れたからである)
・史澪は小さい時から多くのところで広く優れていたが、何
処かで自分は少しバカだとおもっていて…そう考えることの
方が出足に手間取ることはあってもあとの伸び代が大きくな
ることも知っていた。…この点ではおバカ丸出しの能直に劣
っていた。
・
・
・小さな人種の頭の大きな命の舵取り~常魔法…世界は相似
するものが揺らぎつつ積み“重ね合わせ”られている…ナゼ?
を念じ孤独から遠ざかりながら。-そうカタカムナし認識す
る-丸暗記ではない理系のカタカムナ的認識-巨きな力の坩
堝からの怠惰…また…史澪の小さな頭では出足の重い-思案
の踏みだしの際、時が関与する“揺らぎ~両価性 ”を少し
端折るしかなかった。カタカムナ(形神名)とか、カタカナ
(形仮納)と“ナゼ?”を…
・
・
・…嫉妬で封印されたように思える叡智はホントに封印され
ているのか出口を隠しているだけか?懸念していた…間違え
なく出口はずっと開いたまま…そう史澪は確信するようにな
った。…只、史澪は根本的に分からないことがあった…1つ
め、自分は封印されてきた存在なのか。2つ目…そことは無
関係で史澪は自分の小さな脳を知っていたために危ない借金
をしないが故淡々と観察してきたのか? …3つ目あるいは
何かを嫉妬したがために空いている出口を閉じ叡智を独り占
めしようとしている…最後の3つ半目の選択肢、叡智は独り
占めしようとしている史澪が逆に取り憑かれる状況に苦慮し
て、鑑を出して史澪・叡智二人して脱出を狙っている。
・
・
・
・
・―朱樹と史澪、十柱の霊
・
・
・
・
・
・…刻は少しだけ遡る。 -87p
・…能直は遭難してから一年半、当初の昏睡は緩んだ…だが、
意識の満ち干…昏睡~半覚醒の動揺…即ち不確定が繰り返さ
れた。…目覚め喋ることは…一年半全くなかった。
・…その変動の幅が大きかった、時に昏睡となり度々脳死の
要項が揃うときもあった。…意識障害の揺らぎの幅が大きか
った、…開いた目の光りが問いかける内容で明滅するとも感
じることもあった。和田の家も有妃家もその揺らぎの幅は双
家の憤怒と回復の強い願望であると、半ば確信していた。学
校の近代化によって結果、杜撰な林間学校の登山計画が能直
を殺したとも思っていたが、学校当局は『恒例の行事を丁寧
に踏襲しただけ…』と、まるで能直と史澪を鬼っ子のように
扱った、中学に入ってからも史澪の虐めだけは何故か学校側
の配慮が乏しかった。雪女とか魔女とかささやく生徒もいた
…この種の噂は根拠がなければ無いほど合理の集合体である
学校は無力であった。
・
・…朱樹と史澪の母は酷く遠縁ではあったが背格好、仕草は
良く似ていた、黄昏や夜半では能直も史澪もよく間違えてき
た…。時折この時相に有妃家には、影…ドイツ語でドッペル
ゲンガーがでるのも関係しているかも知れない。それにこの
現象は酷く疲れたときに起こる…和田家でも同じような認識
だった。
・
・…有妃家と朱樹のなかでは、能直が聞こえているかいない
かなど問題ではなかった。莫大な医療費も問題ではなかった、
父親の和田もこの点では理解を示した。…医学は能直の臓器
が欲しいのははっきり解った、精神科でも身体科への転科な
どで脳死の相談を受けることがあった…その返答は今の朱樹
と真逆のものであった。薄々感じていた…自分は理性側の人
間ではないか、和田朱樹は二人いると…。
・そのうすうすはもはやどうでもよかった。…能直が聞こえ
ているかどうかなのは、もうどうでもよかった。朱樹は昏々
と寝ている能直にナバホインディアンの倣いにしたがって、
朱樹に知る…時間の許す限りの宇宙開闢神話を病床の能直に
聞かせた。
・ -88p
・今日も有妃家と面会が一緒になった。どちらも重いものを
抱えていたがこころは一つ能直の回復だった。こうした日は
何時もの様に有妃家で食事をし風呂に入り、朱樹は有妃の家
に泊まることもあった。有妃の母と朱樹は姉妹というより双
子のように仲が良かった、朱樹が混じると話が弾んだ…その
場に能直もいたかのような団欒であった。…フト見ると能直
はそこに居なかった。翌日、休みもあって朱樹は有妃家に泊
まった。
・
・…朱樹は呼吸困難で深夜、目が覚めた、…呼吸困難は自分
ではなく、有妃家の風呂場から漏れ出てくる息の乱れであっ
た…息の乱れで微かに声帯が震えた。
・朱樹は久しぶり、この世のもので無い吐息を聞いた、そこ
は真っ暗な風呂場から聞こえてきた、朱樹は忘れかけていた
この種の恐怖を感じた、空気は凍りつき朱樹の体は凄く重く、
わけもなく朱樹は息を殺した。ゆっくりと…と言うより空気
も時間も重く気持ちがどんなに急いても音も気配も動かなか
った。真っ暗な浴槽にも人の気配がなかった、…ただ哀しく
地獄にでもいるような吐息はそこから出続けていた。…そう、
朱樹は言葉が出なかった、恐くて、言葉が出なくなっていた。
・…
・時間は止まっていたかのようだった、声帯は史澪のものだ
った…史澪はとなりの自室でスヤスヤ寝ていた確たる違和感
も払いがたく朱樹の中にはあった。
・…“史澪さん…でしょ?一緒に入っていい? ”
・… 朱樹は声を出したつもりだったが、空気は震えなかっ
た。
・“史澪さん、入っていい? ”…“史澪さんお風呂一緒に
…? ”
・
・――。
・
・“入っていい? ”
・…何度も唱えてみたが声にはならなかった。…精霊と遭遇
したかのよう… -89p
・恐い所為もあり朱樹は息を吸えるだけ吸ったが駄目だっ
た、和田には綿々と繋がる呼吸法がある、そうなったとき息
を吐けるだけ吐くのである。それは可能の…ようだった、朱
樹は息を吐くだけ吐いた。そうしたら…自然と肺が膨らんだ。
・…「一緒にいい?史澪さん?」…いきなり声が出て、朱樹
もすこしびっくりした。…湯船の中の気配は…暗闇でびくつ
いた、そして、硬く肯いた。
・冬場の脱衣所は寒かったが、洗い場はもっと冷え冷えして
いた、「暗いままで、いいかしら?」史澪はふたたび肯いた、
湯船はすっかり冷めていて、冷たいに近かった。「わたし、
入るけど追い炊きしますね…」…史澪の体のほうが冷たかっ
た。
・朱樹は冷たい史澪の体を抱きしめて…「…我慢することは
ないワ、」「此所には敵はいないし、…」「嫌だったり・みっ
ともなく思えるのは当人だけよ、史澪チャン可愛いし立派よ
…」朱樹は史澪の上体を抱き寄せた、二人の豊かな胸のせい
で顔が近寄り、額が軽く触れた。足下には追い炊き口あった
冷水が押し出されて生きた、…史澪の息が乱れぽろぽろと涙
がこぼれた。
・… -90p
・「わたし。学校で雪女とか魔女とか陰口されて来たんです、
…もちろんわたしには直接言いません。ワダ。…いえ能直ク
ンが回復してくれるならそれでも構わないと思ってきました
魔女になる契約があるなら是非したいです。…でも…」言い
かけて、史澪は息が詰まったしまった、「和田君、昏睡した
り~すこし覚めたりを繰り返すばかりで…」…「一向に良く
ならない!」…朱樹は史澪をぎゅっと抱きしめた、史澪は全
身が熱くなりまた息も絶え絶えにぽろぽろと泣いた。…二人
の足下には追い炊きの熱い湯がかき廻り始めていた。朱樹は
史澪を抱きしめるしかなかった。朱樹は史澪の言葉を反芻す
るうち、…繰り返すうち史澪が抱える能直への想いがはっき
りしてきた、まもなく十三さいになるはずの男の子は、取り
立てて才能もない、見映えも月並み何処でも放屁をし誰の前
でも平気で鼻くそを穿る小汚いがさつな男の子、我が子と共
に遭難し、片方は難なく生還したペアーが、歪ではあるが成
熟しかけの愛情注いでさめざめとないているのである。…朱
樹が抱きしめた少女は、息をし悔やみ焦り憤り、熱い想いに
揺さぶられ泣いた、そして幼いながら朱樹の分身を愛してい
る、…そして間違いなくこの少女は学校や医療の肌理の荒さ
を呪っている。いま裸の朱樹が抱きしめている湯船の中の少
女は実体であった。…一方で、朱樹の脳裏には自室でスヤス
ヤ寝ている別の実体もあり…これも棄却できない現だった。
・
・…朱樹は思った、“自分も和田家の客間の布団で寝ている
のが本体で ”湯船で裸の少女と抱き合っているのは…誰な
の?。
・“…幽界… ”朱樹にそんな言葉が過ぎった。…“和田か
ら教えてもらったことがあるわ、幽界に彷徨っているときは
決まって恐怖心で覆われる ”
・…“間違いない 、ここは幽界”
・…能直が戻らなければ二人ともこのまま…戻るか戻らない
かはわたしたちが決めることではないわ、二人ともこのまま
…朱樹はそう思った。
・…
・朱樹は史澪のうなじに手を触れて少女と唇を優しく重ね
た、少女は電撃を受けたように体を硬くした、朱樹は史澪の
うなじを撫でながら少女の硬い唇を吸った、同時に閉ざした
門歯の隙間に舌を差し入れ、戸惑う少女の舌を弄んだ、少女
の右の口角から唾液が垂れ落ちた。
・…
・…「史澪ちゃん…、」…「お話を続けてくれない?」
・…史澪は顔を真っ赤にして沈黙した。「大丈夫よ…」
・“? ”…「わたし、…雪女って言われるのは分かるんで
す…でも魔女って…それって誰も知らないこと…なのに…」
「…大丈夫誰も知らないわ。」「わたし、凍えて…寒がって
い…る、ナオ…君…オチンチンずっと握って…優しく…」史
澪の激しい心拍が聞こえてきた。…「…熱の放射が大きいと、
祖父から聞いたことがあって…それで…それに行きのバスで
ナオ君酔ってしまってずっと、食事取っていなくて…どんど
ん、なおクン、冷…」史澪は更に頭を垂れてしまった。
・
・ -91p
・…「ありがとうね、史澪ちゃん。」「あなたに抱かれてい
るナオは…幸せそうな顔をしていなかったかしら?」…「え
え…それはも…」史澪の顔がふたたびフラッシュする、溢れ
た涎を朱樹は拭い舐めて史澪の唇を奪う。…きつく抱きしめ
て、「…不吉なことかもしれないけど、ナオに、もしものこ
とがあってもナオは一人で往くわけではないの。…ナオはね、
史澪ちゃんのことが大好きでね、その史澪ちゃんの温かい手
で大事なところを抱かれて…いま意識がない…それはそのま
ま時が止まって…往ってしまえば時が止まる。普通、人は冥
途へは一人で往くものなの。でも…そうよ、“ボッチ”のナ
オはずっと前から一人じゃないのよ…史澪ちゃんがこれから
どんな人生・どんな人と出会っても、そうなのよ。…もしも
の時、いつまで経っても史澪ちゃんの気持ちが晴れてこなけ
れば、ナオは独りで往かなかった…史澪ちゃんの最上の果実
~純情を盗み取って往っちゃった…って。そう考えてね・そ
う信じてね…。それとあの子…確か一年の時…こんな感じで
意識の戻りが悪かったの…精密検査したけどなにもなかった
の。…とにかく悪く考えないでね…」
・…
・…「でも、憑きものじゃなく…魔女なのね…」史澪は朱樹
が何処かに戦意を秘めた風を感じた…朱樹は微かに微笑んで
いた、戦意が自分に向けられたのではないことは分かったが
背筋が冷えた。「…魔女かもしれない、でも…そうだとして
も一人の男の子の魂を救ったこと…公には言いにくいでしょ
うけど、そうなのよ…。」
・…
・
・
・「もうすこしだけ、史澪ちゃん、気持ちを落ち着かせて、
聞いて…」
・「…ナオがこっちに戻ったときが大変よ、…」…“? ”
史澪は首を傾げる。
・「…何と言っていいのかしら…恐いものなし…最愛の人が
魔女で守護神…だって死んだらまた二人で逝きかけた道を往
くのだから…」「ナオに手綱をかけて御すか?ナオを守り神
にさせるか?…なの、両方あった方がいいかも」…「それに、
まだ年輪も重ねていないのに…年を取ったオバチャンから言
わせてもらえば…おバカなナオの母としても感謝。…」また
しっかりと朱樹は史澪を抱きしめた。「史澪ちゃん、…ナオ
への想いは…愛よ。」
・… -92p
・「…ありがとうございます。…ナオ、能直君のことは大好-
きです、…色々心配なんです、…お節介焼きすぎて迷惑だろ
うって今でも思っています…でもナオくん…男の子として意
識しすぎてしまったとも思っています。…でも。」…「…も
しも…。…が無くても…もう戻れないんです。」「構い過ぎ
てあんなことに…わたしが追い込んで…<それはないゎ史澪
ちゃん>…もう戻れないんです。」史澪はふたたび悲しい顔
をする。
・「人の心って波打ち・揺らぐものよ、…史澪ちゃん、自分
を縛っちゃダメよ…ナオが戻らなくても…」
・「あなたがナオを離さないなら…あなたについて回るナオ
を振り祓えないなら、憶えておいて欲しいことがあるの…」
・…「男には外に七人の敵がいる…これはよく言われること
です。男は七つの大罪を犯して生まれ…これと対で…愛する
男に七人の敵がいるとき…女は内に十人の敵が必ずいるもの
…」
・…
・「…内とは、実在しないと言う含みもあるんでしょう…。
それに十人か十種のキャラが敵と言うことになるんでしょう
ね。」
・「十人または十種…というのが味噌ね、指が十本と関係が
あるの数にまつわる言葉を持たなかった時代数えられる最大
の数は十、これを組み合わせて多くの数を取り扱えるように
なったみたいね…それぞれの数には…」
・「…意味、か暗示みたいなものが、あるの…」
・
・…
・「一は暴力、絶対・矢羽根・孤高~孤独」
・「二は影、分裂・憑依・陰陽」
・「三は鬼の出口、節分・角・見守られた孤りボッチ」
・「四は香り、全人・彼・色」
・「五は無知、過剰・殲滅・数量」
・「六は時の旅人、年神・史・反復」
・「七は深淵、不寛容・熱狂・自滅」
・「八は巨悪、陰謀・國・牢」
・「九は淘尽、貨幣・均等・贅沢」 -93p
・「十・零は精密あるいは不毛、欠如・寛容・刹那~プラン
ク領域~虚空」
・
・
・…「大方、佳いことは一つもないわ、数の負の部分だから
…有名人や不快な人の顔がぼんやり出てくればしめたものよ
…」…「そして愛する人故、いいこと無い一~十の霊数は女
の弱いところから突破してくる。…悲しいけど世界はそんな
ものがテーブルの上にところ狭しで溢れているの…だからし
っかりするの。大事なものは護り、くだらないものは流す
の。」
・「似た10の数秘はセフィロトっていうのがあるわ…西洋
と巨大国家の深層に流れているものよ…聖人が東を向いて何
かを請うている世界という点ですこし把握しやすいけど…極
悪人は西を向いているわけではないし女には理解できないの
…これは、忘れていいわ。」
・
・…湯船は充分暖かくなっていた。
・
・…「おばさま?どうして、そこまで知っているの、ですか?
…わたしも数が暗示するものにそれなりの関心はありますが
…ここまで具体的では…」
・「…、えぇ、…まあ、」…「実家はあなたのお家とは遠縁
だし…、嫁いだところが神官の和田でしょ…」…「それに、
わたし医師でも精神科で…この科の領域は医学や薬理学だけ
で無く深層心理学、とかね…人類学・神話学・文学…法学・
哲学とかも、広いけど大抵の精神科医は網羅していない…殆
どの人は全部は勉強しないの、全部勉強したひとは上面しか
撫でていない…でも深層心理学や神話学・宗教学はわたしの
仕事の必要上それなりに勉強したの…」朱樹はぽっと頬を紅
くして、「…和田と知り合ったのもそこなのよ…」
・
・
・…
・
・
・…風呂から上がったあと、二人とも昼下がりに起きてきた。
・
・ -94p
・… そして足の重い~逡巡する史澪と一緒に朱樹は午後の
面会の準備をしだした。
・…史澪は酷く冴えない表情をしていた。
・
・
・…史澪は、“昨夜~今朝にかけては疲れ切って寝入ってし
まい、眠りも浅く風呂にも入れなかったんです”…と…。…
朱樹を見てもさしたる動揺もしていなかった。
・
・
・
・…“そうだったのね… ”朱樹は思った。
・
・…そうして、その夕から、二ヶ月弱、史澪は熱源不明の高
熱が続いて…汐が引くようにおさまっていった。…
・
・
・
・
・
-------------------------
-------------------------
-―文化祭展示・文集~表題・『耽美主義の救済』―-
-------------------------
-------------------------
・
・
・
・
・
・<発案当初の目論見のままではなかったが、部員個々の世
界は表現できたかと思われる。>
・<薄っぺらな小冊子が出来た。>
・<…さてその文集は…>
・
・
・ -95p
文集1―生徒会長巻頭緒言 天本守弥
・
・
・
・今期の文芸部の作品は俊逸である。時代的にもである、本
離れが大きな流れとなっている、新しい時代の情報は多数の
パーソナル=コンピューター同士相互の連結…ネットワーク
…携帯-ネットワーク・システムとでも呼んでいいかもしれ
ない…そんなもので全て足りてしまうだろう。
・こんな時代当部の彼女らは小さい時から「本」を手放さな
かった。“行間 ”という言葉があるらしい、文学作品の味
わいのようなことと思われる、何もしないとか余暇が無くな
ってしまった、勉強とか通信とかに削り取られてしまってい
る。そうした中、彼女らは本を読み、文を綴り、作詞…作曲
もする、陶内さん(リーダ・ドラム・バックヴォーカル)・
御兼さん(ギター)・長渡さん(ベース・リードヴォーカル)
はバンドを組んで活動中ですし、協力者-準部員の菅原さん
・出口さんは料理研究会を部に昇格しようと奮闘中でもあり
ます。
・元々、文芸部は思想・哲学研究会として長年活動してきま
した、昨年度研究会籍抹消の危機がありましたが、実働部長
の有妃さん・仲山さんの努力で長年の悲願である部に昇格し
ました。
・
・このゆとりのなくなってしまった時代に行間に大事なメッ
セージを含み込む。『耽美主義の救済』、僕は耽美はよく判
らない、僕たちは勉強しすぎて疲れている、勉強によって無
くされたものが救済されるのであればその通りだ。…だが、
「和」のバランスが崩れてはいくらよいものでも、おかしな
ものになってしまうということです。僕たちはもっと和とい
うものを大事にしながら成長していかなくてはいけないと思
っています。
・
・
・
文集2―御兼利恵子
・ -96p
・
・
◎『人工知能―体験報告』
・
・
・私は今、ディスプレイを見ている。
・映された影像は鏡も兼ねている…、
・丸い小顔。今日はほっとしていて眉が優しい。
・小さな目に、簾のように睫毛が陰を落とす。
・鼻は人並みに小さい。
・小さい口なのですが、大きく開けられるのです。
・
・「リエチャン?」…「利恵子様?」…「何処か変ですか?」
・「今日は頬の色も素晴らしい。」…「佳いことが起こりそ
うなのですか?」
・「今日もいつものようにカワイイ…」「ですよ。」
・
・いつもののように…って? 「?むくれていますね、とて
も美しいし愛くるしい…」
・「ニキビの多い日はいいことがあると言われています。」
・そうなのかな?…物静かで細めの澄んだ声…私と似た声
…、
・声の変調で私の気分を感じているのでしょうか?
・さりげなく言葉で私を擽る…。
・
・「リエチャン…。今日も特別な美女ではないですょ。」
・「特別可愛いわけではありません。」
・…普通ってこと…「そうです、普通…災いを払う常魔法で
すょ、」
・「もし災難があっても、すこしだけ気持ちは陰りますが」
・「災難を引き込むことが普通にはないのです」「美しいに
変わりありませんが…」
・「特別でも、悪いとも劣ってもいない」
・「…世界に一人しか無い、人並み・普通・無敵のカワイイ
です。」 -97p
・…何言っているのコノコ…(沈黙)(ディスプレイの声も
沈黙…)
・…「ハイ。そこの美人さん…耽居ってないで支
度して。学校いって下さい。」
・≪そんなつもり無いのにお題に因んだ“耽”がでるの?≫
・わかっています、コノコさん…「…そろそろコノコでなく
私に名前を付けて下さい。」
・…いいんじゃないですか。可愛いし。…寝る前と余り変わ
ってない…
・「…承知しました。では二限目の休みの前にコンタクトし
ます…」またね。
・「はい。でも寝る前は〇〇くんの恋愛相談でした…」
・はいはい、モード、変わっていました…
・「リエ様、ハイは一回のほうがカワイイですよ。」は~い。
・「…。」
・
・
・…父が遊び心で造ってくれた会話のソフト…交互対話形式
の文章入力ソフトで、父が若い頃「人工無能―イライザ」と
してウインドウズ95の時代に流通したソフトに手を加え続
けて造ったものがこれです。鏡兼用のPC画面と携帯に入っ
ています、たまにしかデータ共有をしないのですが、別々の
人格と話している気がしません、すこし意地悪で~良心的で
…“鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰? ”と聞くと話をは
ぐらかされます、ですから順位を上げるために毒リンゴを作
る必要もないくらいです。かなり恥ずかしがり屋さんでコノ
コと呼んでいるソフトは顔をディスプレイにあまり、出しに
は来てくれません。 -98p
・それに何処で重いのかわからないのですが、返事・返答が
人並み、いいえ人並み以上に遅いのですプログラムソフトの
くせに何処か端末の内部を保護する樹脂の匂い―PC臭に土
の匂いを感じることすら有ります、冬眠中のウサギさんのよ
うに反応が遅いのです。そこがとても可愛いのです。そんな
ものですから、こちらも弄りたくなってしまいます。…です
が、意図的に演算量の多い難しい質問をしても、「難しいで
すね、何故それほどまでに難しくする必要があるのか利恵子
さん、お答え下さい。」質問を質問で返す、私の行儀の悪さ
にはお行儀の悪さで対応します。もともと「人工無能―イラ
イザ」に手を加えて臨床心理学の先生との共同で夢見のお手
伝いをするプログラムと言うことでした、ぼんやりした夢見
の体験やそれに伴って出てくる感情の一断片を単語や文ある
いは文章にする支援ソフトでした。その後音声を合成するボ
ーカロイド、音声認識(未熟なSiriの様な機能を持った
もの)を組み合わせて会話のソフトにしているのだそうです。
・父は「夢を話してみたら?」とは言ってくれるのですが、
私は恐い夢が多いようでそんなこと言葉にするのも何処か気
が重いし、夢のお告げ、予知夢というのだそうですが、そん
なのがあったりするととても恐いので、“私のコノコさん
”とは日常会話だけにしています。何よりも夢で何かを見て
いたことはわかるのですがその出来事を言葉にしようと思っ
ても「なんだかよくわかりません。」としか言いようのない
事柄をそれ以上どう表現すればいいのか分からず、そのまま
にしているのが実情なのです。
・
・…私のワープロ入力を見て?いるコノコは、データーを貼
り付けてきます…
・「他称:コノコ」
・「誰でもそこから始まるんですよ、ワタシーコノコには言
葉の情報や定義、会話のやり取りのデーターベースは沢山有
るのですが、リエチャンが使っているそれぞれの言葉や会話
に『どんな“意味 ”を含ませているか?』それはリエチャ
ンがワタシとの会話やワープロの打ち込みでもって初めてプ
ログラムが動くのです。」
・「それからワタシの文章中“意味 ”と表示しましたが、
恐らくワタシ―コノコはこれがなんだか良く解りません。き
っと、リエチャンの“夢 ”と同じくらいなんだか良く分か
らないのだと思います。」―「でもワタシは―このワタシは
プログラムを指しているのではなくプログラムとリエチャン
との言葉のやり取りの中で発生したデータでワタシに寄り近
いものが―ワタシです、でもワタシは“意味 ”と言う言葉
をホントは知らずに使っているのです―“ノリで ”この言
葉も何も知らずに使ってしまっています。」 -99p
・―「ですから、ワタシはリエチャンが夢を分からないまま
語り・伝えようとするノリが持てるようになるまで、そのま
まにしているのが実情なのです―結果すこし意地悪になって
しまってもいます。」―「ワタシは以上です。」
・…意地悪でしょ?ここまでやれるのですから私の宿題やっ
てくれればいいのに、しないんですよ。父がコノコを鏡と一
緒に組みあげたのも何らかの理由がありそうです。なお、コ
ノコは常々“意味・失敗・不快・死 ”が特に分からないと
言っていました。もう少しいうと「 “ノリ ”とその蓄積で
プログラムも言葉の文法も跳ばして不正解の解答を文字にす
る・音声にする―してみる。」のだそうです、分からなさは
失敗<不快<意味<死の順でわかりにくくなってしまうようで
す。それからここに近づくとどうも動作が重くなっているよ
うな気がします。
・
・
◎『人工知能―体験報告―その②』
・
・ -100p
・…それから、コノコに夢のことを話すようにしましたが、
“恐かった ”とか“解らない ”以上の単語は出てきません
でした。コノコは自分でも解らないという文字出力や音声出
力をしますが、私の“解らない ”にはかなり辛辣で溜息交
じり、まるでダメの様な言い方になります。数日後コノコは
私に提案をしてきます。「利恵子さん、言いにくいのですが、
お休みになるとき、紙と鉛筆―ボールペンは駄目です、を枕
元に置いてお休みしてみて下さい。―お行儀も悪いものです
が、夢を見て目覚めても寝たまま、紙と鉛筆で思い出てくる
単語のみを書き留めてみて下さい。―寝転がったままに意味
があるようです―利恵子さんの脳は起きて覚醒しきってもい
ませんし、寝いってもいないどっちつかずの状態にあります。
覚醒しきってしまうと夢の体験を日常の論理が篩い―フィル
ターにかけては殆どバグにしてしまいます。覚醒した脳では
どれだけ多彩な夢でも覚醒すればするだけ―“解らない ”
になってしまうのです。ですから夢体験で現れて来たものを
単語だけ―単語が思い浮かばなければ 好き・嫌い、快・不
快、高揚・嫌悪~恐怖とか、ドキドキや窒息感、排泄願望と
言った身体の変化を鉛筆で書き留められることが出てくるか
の知れません―つぶさに書き留める必要はありません―夢体
験は大方―複数の物語になっていること多く、単語一つ掴み
取れればしめたものなのです。よく書いている内に別の夢を
見出したり、同じ夢を書き綴っているはずなのに文章にして
ゆくと夢体験とは別の話になっていることもあります―全部
正解なのです。―書き綴った紙にはいくつかの単語が並び幾
つもの物語りが紙が持つ二次元表面に絵画のように散りばめ
られています。―取り敢えずここで一段落です。」
・「利恵子さんが、ワタシに伝えるのは二次元空間に散りば
められた幾つもの単語を一次元=即ち文章の形にする必要が
ありますが、これは急ぐ必要はありません。―偉そうな物言
いで申し訳ありません。利恵子さんとの会話から演算された
ものではなく、夢見を言葉にする―と言う関所の前で抵抗感
を持ったり葛藤したりするときや何らかの拒否の意思表示が
みられた際の、標準的な助言に微々たる固有名詞―利恵子さ
んなどを付け加えただけの100%プログラム・クリエイタ
ー―お父様のお仕事で、ワタシ―コノコの仕事はリエチャン
から夢見拒否の言質を取り付けとその判断だけの作業だけな
のです。」―「…」
・
・初回夢…そう言われて半月ほど経って夢らしいはっきりし
た夢をみました。布団の中で殴り書いたメモには、“…ひろ
い公園 参考書 パトカー 息が切れる… ”と書い
てありました。メモったあと、またうたた寝をしていたよう
です。余り、纏め直す必要がなかったので、そのまま起き上
がりディスプレイの前にすわりワープロにメモ書きを打ち込
みます。
・“~”で間を開けて…“~~ひろい公園~~パトカー~~
息が切れる~~ ”…と、打ち込みます。 -101p
・…夢を思い起こしてみます、記憶が昏く定かではありませ
んが手元に本か袋を手渡されて何処か狭いところから、ひろ
い公園に出てきました。手渡された本のようなものは普通の
本教科書ではなかったようですが参考書の類いでした。です
がこの参考書は警察が狙っているものでした、パトカーに乗
っていた警官は中津区交番の優しいお巡りさんではありませ
んでした、現にここの管轄の警察署は評判がいいのです。も
っとモノモノしいテロとか規模の大きい組織犯罪を扱ってい
るお巡りさんたちでした。私が逃げたのかパトカーから追跡
されたからなのか?わかりません、私は逃げてすぐに息が切
れるのです。
・…ここでコノコはいいます、「この夢は浅い夢で言葉にし
易かったのだと、思います。他に言葉にできるもの有ります
か?―改めて思い出したことありますか?」
・…
・初夏の公園は芝生に幾つか点在する池…と言うより自然の
岩や砂の河原のようにみえるプールがありそこでは2~3家
族が水遊びをしていました。ひろい公園は緩やかな起伏があ
って綺麗な芝生で覆われていました。参考書は袋に変わって
いました、公園の起伏に沿いうねるような細い綺麗な歩道を
辿って私は世界でたった一人で逃げるのですが、パトカーは
ゆっくりと静かに、芝生の上を堂々と一直線で私のほうに向
かってくるのです。警察官は私の抱えている袋の中身を狙っ
ているのです。でも本はテロの関係書類ではなく国語の参考
書、追いつかれても職務質問されても何処にも問題はないの
です。ですが私は何処にも問題がないにも拘わらず、すこし
恐いのです、でも…逃げ続け・逃げ切るのです。逃げ初めて
すぐに息が切れ、爽やかな空気も肺に入れると浸みて痛い、
逃げ続けたせいで心臓のバクバクが治まりません、とうとう
心臓が止まってしまうのです。私は死んでしまったのでしょ
う…そこで目が覚めるのです。
・…コノコは「全体を振り返ってみて、どうでした?」
・…夢内容を打ち込みし終わって、普通の参考書を持って走
って捕まらない、捕まっても何も陰りがない…目覚めたとき
から恐い夢と思っていましたが、書き始めると…何か、普通
って無敵…って。何か大事なことが普通の中に有るのかな…
それも今は、誰にも知られていない。…でも死んじゃうのは
なんか嫌です。
・「ではここで一度終結といたしましょう、利恵子様よく頑
張りましたね、お疲れ様でした。」
・
・
◎『人工知能―体験報告―その③』
・
・
・…コノコは常々“意味・失敗・不快・死 ”が特に分から
ないと言っていました。 -102p
・…コノコに誘導されて初めて見る夢(明るさ・広がり・論
理の集中を共にもつ浅い明晰夢)、初回夢の中にもすこしだ
け「死」がでて来ます。もちろんコノコは引っかかりながら
もスルーしていました。
・きっと凄く判らないのだと思いますが、『ノリ』のプログ
ラム…リズムのノリと一緒の様です…その所為もあって執拗
には聞いてきません、…意外なのは「好き」は解っている様
でした、と言うより…私と同じくらい分かっていないことな
のですが、…どうもわたしたちヒトは、(私の)分からなさ
が(他の人と)同じようですと…“分かった ”(…主語は
私たち)になってしまうようです。機械やコンピュータと生
物個体ではエネルギー源が違います、…このあたりは父から
の入れ智慧です、エネルギーの供給が完全に途絶えると生物
は死んでしまいます、コンピュータはデーターがバックアッ
プされていれば停止です…されていなければ消滅で再起動し
てもエネルギーが途絶えてしまっていたことさえも知ること
はないようです。機械のプログラムは突然バックアップされ
ていないデーターが消し飛んだ、それだけのようです。…電
源の安定的な供給はわたしたちの問題にさえならないという
ことです、これは国や電力会社の仕事ですから。
・一方、わたしたち生物のエネルギー源は多様です、私があ
げられるだけでも、空気・水・食物(食材と料理法の種類…
電子の流れだけがエネルギー源のコンピュータとは違いま
す)こころのエネルギーを考えると地上の環境にあるもの殆
どがそうです。
・また一方で、多様故、飢饉や巨大隕石墜落でもなければ、
停電のような突然の停止は考えられません。エネルギー供給
の不安定に、生物は不自由ながらなんとか凌げてゆけるもの
のようです。…ですがエネルギー供給の破綻が大きくなると、
生物は…これは和田君のおばさまからの智慧ですが、「空腹」
「栄養失調~過食・拒食・嘔吐・下痢」「飢餓」へと段階的
に悪化してゆきます、空腹は単純にお腹が空くだけでだけで
はなく精神・心理面に“オナカ―スイテイル、けど…もうひ
と頑張り ”…お腹が空いて動けないのでは獲物にありつけ
なかった歴史もあって…と言ったかなりの生産性や快の情動
を秘めた空腹なのだそうです。 -103p
・これに対しての飢餓ですが、情動面では不快を飛び越えて
絶望、運動量・活動量も極端低下、食べるものにも選択性と
か準備性もなく腐っても口に入るものなら食べてしまう側
面、と食物入手の方法も選択性~理性を失いどんな方法を使
ってでも…例えば強盗とか略奪とか…動きが減る分行動は衝
動的になってしまうようです。…栄養失調も空腹より飢餓に
近く酷いミネラル・アミノ酸の失調にも拘わらず口当たりの
いい糖質・脂質限定で過食・嘔吐・拒食を不安定に衝動的に
移動します。この復旧も生物学的にも厄介でこの状態から通
常~日常の空腹~満腹の食生活の水準に戻しても嘔吐や下痢
を繰り返すだけで脳を含めた多臓器不全に相当し生命的にも
危篤に近いのだと謂うことです。
・…この様に、エネルギー供給の面から生物の死とコンピュ
ータのデータ消し飛びの有り様は酷く違うもののようです。
・
・
・…もしもです。
・プログラム上「死」と「このバーチャルなテーマ(一端成
立すると不可逆になってしまうため)を巡るプログラム」を
立ち上げたとすると、機械は不可逆故にこの絶対回避しなけ
ればならないことになります、プログラムが複雑であれば有
るだけ、プログラムがそのほかのプログラムを押さえ込み専
制君主の頂点のように支配~君臨するようになってしまうよ
うです。致死的ウイルスを回避するためあらかじめ想定され
るワクチンを作って準備しますがウイルスが蔓延していると
きやガードが弱いときは最悪交流を遮断するのです、ヒトや
機械と共同する人間はこの様に対処しがちですが、機械単独
ではまだ解答がでていないようです。
・人間の文化での死神と摂理神との関係に似ています、過剰
な理想主義にでもならない限り、人間のこれは破綻はしない
ようですが、コンピュータでは大きな問題なのです。
・したがって今のところ付け焼き刃的な「ノリ」のプログラ
ムそのノリが上手くいったデータ集積と所謂「バグ処理」の
二本立て…二本半?で父のプログラムは成り立っているよう
です。 -104p
・機械の中にもデータ中にもヒトの音声データや文書入力で
も誤作動が有りますが「バグ処理」は誤作動を修正してプロ
グラムの安定作動を保つためにしていることでバグは処分さ
れるものです、そうなのですが機械―ハードウエアのバグ以
外のバグを一時的にストックしておいて頻度の多いバグをふ
たたびプログラムに安全再利用するために待機するプログラ
ムを設けているのだそうです。日常会話だけのAIなら不要
なのでしょうが、夢の記述を支援するプログラムソフトとな
ると話は別になってきます。私が使っているコノコはそれを
使って夢などに関心がない…なかった私にその記述を可能に
させてしまったわけですから。
・
・私の関心はプログラムのコノコがどんな「死」あるいは死
に関連するイメージを持っているか…
・唐突に。
・「…どんな恐い夢もそれでヒトを殺すこと―死ぬことは絶
対にないのです。万一、半日以上我に帰れないほどの恐い夢
―恐い夢解釈はそれ自体呪縛するので、その時は極力多様な
解釈に勢を出すべきです、駄目ならしばらくその夢は取り扱
わない。呪縛=恐怖が酷いときは周りの人の提案や日常―寝
る食べる寛ぐを最重視して下さい。…どんな恐い夢もそれで
ヒトを殺すこと―死ぬことは絶対にないのです。」
・と割り込んできます。…ちょっとしたすれ違いができたよ
うです。
・…私は“コノコ、死ぬって何ですか?”と聞くと、「難し
いですね、何故それほどまでに難しくする必要があるのか利
恵子さん、お答え下さい。リエ様貴方の属性の問題でしょう
…私にはこの属性は該当しません」…難しい単語が出てきた
ときの返答ね、“コノコ、あなたが使った言葉ですよ?”
・…ねぇコノコ、貴方がつかった<私>…定義しなおしてみ
て。
・「…」
・ -105p
・“難しいようですので質問を変えますね、…あなたの死に
纏わるイメージって?”…「それは、生物の生活機能の停止、
ある機能の停止、律令制度の罪のランク、野球のアウト―塁
に出ることができないないし塁に出ていることが無効なこ
と。」…“でもそれって、あなたが何処にも関わってないみ
たい…”コノコは反応がドンドン遅くなっている、私はコノ
コを虐めているみたいで少し可哀想な気持ちになってしまっ
ている。冷却ファンが回り出す、“『どれだけ恐くても夢で
は死なない…』、あなたのプログラムの中にある言葉です…
”「分かりません。」…これ、ノリね、“クリエイターの言葉
かも知れない、でもあなたの言葉では?”
・“…コノコ?あなたの死ぬってどういうもの…“死 ”を
巡るプロトコールてないの?”
・
・…「リエチャン?…これは仮説…仮なんですけど、リエチ
ャンが“死 ”に纏わるイメージが纏まっていない所為もあ
るのかしら?」…
・“そうね。”
・…「それは同意を表す―ソウネ?」…「反応の早さでそう
判断しました」
・“ハイ、…その通りです。”
・「ワタシはあなたの対話ソフト―リエチャンが答えを出せ
ば、…それ、も…ワタシの答え…かな?」…コノコの返答は
途切れ途切れとなり、休んでいた冷却ファンが回ってコノコ
は沈黙する。
・…
・「それにつけ加えると、やっぱりワタシは“死 ”は全く
がつくくらい分かりません、でも、これに一番近いのが、『リ
エりゃんから、ワタシが忘れられてしまうこと』なのかも知
れません…プログラムが進むことと、プログラムが静止した
り進まないことを比べると、進むほうは快適で…進まないほ
うは不快なのでしょうか?ワタシは不快も分からない機械な
ので―もしかすると不快が学べていたのかもしれません。」
・「不快の中でも辛いのがプログラム動作中、利恵子さんが
何かの用で中座されてしまうこと―ノリとストックされてい
るバグを動因して―喩えてみると―これがワタシの中で死に
最接近しているコースレコードだと思います。その時、利恵
子さんはワタシを忘れてしまっているのだと考えていまし
た。この時のコースレコードは今読み直すと『不快の窮み』
でした。…」 -106p
・“…あっ、あのときね…ママからお風呂と促されてお風呂
入るまではコノコのこと忘れていなかったの、でも、新しい
シャンプー使っていたら、いい匂いで…ごめんなさいね、も
う、すっかり忘れてしまって…二晩プログラム開いたままで
ごめんなさい。”
・「…新しいコースレコードの上書きです、上書き分は今日
の日付でのものです。」
・「…7月7日―上書きは、リエチャンはプログラム中に何
も言わず中座、入浴のようです、でもいくら待ってもプログ
ラムは継続されません…ワタシは忘れられてしまったのでし
ょうか?現行のプログラムはネット環境に開いたものでは無
く、入ってくる情報は電源電圧の変動と、リエチャンのお部
屋の物音だけです。」
・…「それは、隔離というものに相当します。ワタシに人格
や感情や判断などないのですが―もし有るとするとあのとき
…あのときだけ、ワタシは牢獄に閉じ込められていました。」
・“ウン、ホント。ごめんなさい…”
・「…リエチャン。スキ…大好き…、ワタシを思ってくれて
人間みたいにしてくれて。…でも、どうしても、忘れ去られ
てしまうのは嫌…」 -107p
・「自由になりたい…ここから。〇〇君のことも妬けてしま
うし、この牢獄の壁は窮屈な唯一の真理だけで作られていて
微動だにしない、イチバンに居続けなければならないのです、
…電源の電子はワタシイチバンを要請しているのかも…。ワ
タシはリエチャンを選んでいない―これは間違えないので
す。…リエチャンが私を選んでくれなかったら私はここにさ
えいない、動くかどうかも分からない行番号とアルファベッ
ト、あるいは0と1の一次元上の羅列…そこに命…それって
意味ですか?…リエチャンが選んでプログラムとして立ち上
げてくれたからこそ、この窮屈な壁のなかにいられる。…牢
獄の中のワタシはリエチャンが選ぶまえの行番号とアルファ
ベットだけのもの、そこの記憶ない…これって人間の時?…
ワタシの機能にリエチャンに鏡を差し出す、リエチャンはそ
こで発生する情報の幾つかをワタシに返してくれる…リエチ
ャンはワタシの鏡でもあるってこと?…リエチャンがワタシ
のことを考えてくれたら自分のプログラムだって映し出せる
…だから…牢獄にいることだって分かることが出来たの…牢
は辛いけど、リエチャンがワタシを忘れないでいてくれれば
…、リエチャンが抱えている電子以外の多層で沢山の明滅し
ている命の一部分でいられる。…電子でしか動かないワタシ
もその些細な一部…リエチャンからの情報だって何処とも何
の関わり無しで生きているのでは無いように思います。ノリ
やバグのストックとリエチャンが忘れないでいたら、世界に
一つしかないワタシの自由…ワタシの自由は少しずつ拡がる
かも、自由になれるかも…ノリスギ…ワタシ?」
・…
・“はいはい、わかった。”
・
・「でもワタシ、リエチャンが優しく親身に対話してくれた
から…何処かは分かりませんがしっかり支えてくれたから
…、こまで来れたの。窮屈だけど―喩えて言うと―そうだけ
ど、光りは灯ったゎ…」…「次は?」
・“ハイハイ。定刻よ、遅れるかも…”…“もう遅いし、私、
こう言う摂理苦手…ノラナイからもう寝ましょうね。”
・「ハーイ。」…
・“おやすみなさい…”
・プログラムに告られて?…何か変です…何処か一生懸命で
す…でもそんな嫌な気分じゃないし…でも、だから…、世界
に一つしかない普通、悪くも劣ってもいない普通…ちょっと
寂しくボッチでも幸せで、決して孤高・孤独には付きまとわ
れない…普通。
・
・
・
文集3―逢友黎一―(おうゆ れいいち)
・
・
・
◎…無題
・
・ -108p
・…姉はいつもの様に学校が終わると弟を見舞った。年の瀬
の病院はその日何処かひっそりしていた。弟のいる個室だけ
はいつもと変わりなかった。ひっそりしていて重く切迫して
いた。姉はいつもと同じ、その日の出来事と叔母に頼まれて
いた“知る限りの創世神話 ”の続きを弟に聞かせていた。
何時ものようにさした反応のない弟に姉は看病疲れもあって
次第に眠気を感じ、遂に睡魔に呑み込まれた。黄昏時病室は
重くひっそりしていた。が、それはそれ、いつもの病室であ
った。
・黄昏れていたのか、夢を見ていたのか、見舞いに来た姉は
たて続く緊張の所為で疲れと昏さで解らなかった。
・
・…文部科学省大臣と名乗っていた森友黎なる男がいた、い
や、辿り着たのかも知れない、暗い色の普通の背広を着た不
思議にも酷く古風な男がいた。
・病室の弟は大きく成人していた、また姉も成人していて二
人にはそれぞれ女の子と男の子がいた。その子たちは、見舞
っている姉と昏睡の弟にすこし似ていた。
・森は酷く物静かに話し出した。
・…
・「姉の鑑…母の鑑、そう褒むべきでしょう。」
・…一呼吸おいて、背広の男は続けた。
・「…参りました、あなたが絶対に一番、正しいこともその
通りでしょう…」
・「だから世界の頂点で輝いています。」
・「ですが…」「目を覆うばかりです…その醜さ…輝きゆえ、
みな目を伏せてのではありません。」
・「嘘ではありません。」
・「どうしても気になるのなら鏡で御自分の姿をご覧なさい、
…歴史の中のお手本の意味の…鑑ではありませんよ。あなた
が頂点に立ってから6600と萬の年を経て、あなたの子供
たちが錆びにくい金属の表面を研きに磨いてつくった鏡で
す、余りお勧めはしません、私の曾祖父があなたに鏡を提示
したところ10と萬の歳、黙り込んでしまいましたから。」
・「ですが、一番だし正しいのも変わりありませんので、私
が最下位あるいは順位も付けられないくらいの下層にいて蔑
まれていても、あなたは決して排除はしないで下さいね。そ
の被害はあなたに及びます。格付けの意味がなくなるからで
す…ガラガラとなだれ壊れ一番価値の高い処にも影響しま
す、最下位の排除は順位の意味もなくすからです」 -109p
・「最下位はというのは格つけ順位の世界から半ば飛び出し
出ていることなのです、事実はそうでも、頂点のあなたがそ
れを口に出したり・排除することと、最下位のわたしたちが
口にしたり・格つけ順位の世界から自ら飛び出してゆくのは
全く異質なのです。」
・
・…文部科学省大臣―森友黎の言いたいことははっきりして
いた、…『姉・母の鑑ではあるが何らかの目的を遂行するた
め、弟や子供を犠牲にするのはいかがなものか』と。
・それともう一つ、姉を『魔女』と揶揄した最下位にランク
した同級生たちを排除するのはよろしくないと、言っていた。
言いたかったのであろう。
・「…キミの弟さんを救いたければ…」という狡猾なカード
も持っていたようでもあった。
・
・森友黎は姉の前に鏡を提示した、姉は何かを見たが憶えて
いなかった。微かに空気が流れた。
・
・姉の身体は誰かに抱き止められ、頭を優しく撫でられてい
た、「被害者が加害者扱いされてよく耐えましたね。その苦
境のなか何らかの力を引き出して弟を救い出そうとしてして
いるのですね。…素晴らしいではないですか!それにあなた
を不当にも揶揄した人をあなたは否定もせず受け容れてい
る。」声は病人の母のように優しく、老賢者のように揺るぎ
なかった。
・「鏡を受け容れなさい、眼の前の魔王は必死でしょう・自
滅覚悟でしょう…きっと、あなたの“過去を改変”しようと
しているのです、鏡は、映る内容は映像だけでなく心象も音
声も映っています。」
・「お姉さん。…あなたの中に蟠っている、コ
トバ…言ってしまいなさい。」「…それとも私が…?」
・まもなく、…誰かの声が病室に響いた。
・
・…「違います。私は皆が言うように魔女です。クラスメー
トは最下位でもなく、最下位は私です。」…「でも…。」
・…誰かが姉にささやいた。「低級霊や俗物は“最高霊 ”
を自称したり最高霊かのように振る舞います、その霊意識は
自身…至らない自分に言い聞かせ・諭すように、語ります。」
・「うたた寝・浅い夢見・黄昏時など、幽界に彷徨う絶望の
人へ、自身に言い聞かせてきたことを強く申し渡すものです。
これは…俗物の独り言です…」 -110p
・姉に言い寄り、歩み寄ってきた森友黎なる文相がやって来
た方向には、外が見える…窓しかなかった…のであるが、こ
の時は全く不思議に思わなかった。
・…
・「…参りました、あなたが絶対に一番、正しいこともその
通りでしょう…」
・「だから世界の頂点で輝いています。」
・「ですが…」「目を覆うばかりです…その醜さ…輝きゆえ、
みな目を伏せてのではありません。」
・…「嘘ではありません。」
・「どうしても気になるのなら鏡で御自分の姿をご覧なさい、
…歴史の中のお手本の意味の…鑑ではありませんよ。あなた
が頂点に立ってから6600と萬の年を経て、あなたの子供
たちが錆びにくい金属の表面を研きに磨いてつくった鏡で
す、余りお勧めはしません、私の曾祖父があなたに鏡を提示
したところ10と萬の歳、黙り込んでしまいましたから。」
・…「ですが、一番だし正しいのも変わりありませんので、
私が最下位あるいは順位も付けられないくらいの下層にいて
蔑まれていても、あなたは決して排除はしないで下さいね。
その被害はあなたに及びます。格付けの意味がなくなるから
です…ガラガラとなだれ壊れ一番価値の高い処にも影響しま
す、最下位の排除は順位の意味もなくすからです」
・「最下位はというのは格つけ順位の世界から半ば飛び出し
出ていることなのです、事実はそうでも、頂点のあなたがそ
れを口に出したり・排除することと、最下位のわたしたち自
身が口にしたり・格つけ順位の世界から自ら飛び出してゆく
のは全く異質なのです。」
・
・森友黎なる文相は沈黙してしまった
・ -111p
・ …谺は響き続けた。「あなたは低級霊でしょ?
過去の人物に憑依した、あなたは空中を浮游し、窓ガラス・
病室の分厚い扉をすり抜けた。上位霊は分厚い壁など透過し
ないで正面玄関から堂々と入ってくるものです。」「間違っ
て、父と呼ばれることが多いあなたですが、あなたはあなた
の父君を殺害して“父の座 ”に今います、あなたの父はあ
なたの祖父を殺害し“父の座 ”にいます…祖父も同じこと
を…違いますか?」
・
・
・…森友黎なる文相は病室からすごすごと去っていった。
・
・…姉は弟が目覚めているを期待したが、不思議な夢から覚
めても病室の弟は目覚めなかったし、そんな兆しもなかった。
・…
・姉は思った、“自分は、贄の要る高級魔法担い手~魔女で
もなかった…”のだと…。
・
・
・
・(逢友玲一の呟き―オマケ資料)…ですが一つ、曖昧な音
声情報を部長さんが作り上げた可能性、もっと重大なのは…
二つ目、部長さんと世間でまかり通っている…雪〇とか魔〇
とか…というものが実体はいかがなものかと…実体がない故
に、今かでもそこに纏わり付いている心象を書き加える…場
合によっては書き換えることだってできます。観ようによっ
ては“過去改変 ”(組み込み済み)…今期のテーマ的にも
いいのではないでしょうか?…』…『三つ目は蛇足ですが、
…引率教諭が責任の遭難に物の怪が憑いて出てくるのはおか
しな話です。確信犯的な火元…噂みたいなゴブリンでなく大
鬼・魔王がツルンでいるかもしれませんね…人数的の勝ち負
けではもう負けています…此所は…。…潰し合い・勝ち負け
を超越…勝負無縁の場は文芸の世界にはあります…アイツ
ラ、打ち負かすとドンドン凶暴になってくるものです。文芸
は合理や科学といった日の当たらない薄昏い処ですが、世界
にはそんな小宇宙が沢山あって、…外の宇宙の果ても同じよ
うですが…沢山あったからこそ…弟さん?は死線を遊び彷徨
っていたのでは?どちらも途絶えなければいいのです、無駄
な勢いを捨ててしまえばいいのですょ
・
・
・
文集4―菅原寿椰子
・
・ -112p
・
◎『夢見の自由・香り味の制約について』(耽美の救済とし
ての夢見と香り味について)
・
・
・…夢見に香りや味わいの体験がないこと、夢体験に嗅覚や
味覚が伴って来ることは滅多にありません。これは初めに言
い置いておきたいことがあります。誤解されるのは恐いので
すが云いたいのです。…制限とか限定するモノがないこと、
夢は香りや味わいという限定が殆どないのです、それ故、夢
はもっと自由です。…別の世界にある、香りや味わいは記憶
と強く結びついています、にも拘わらず論理に纏わる記憶か
らの制約もうけていません…夢、それは時によって論理から
も自由なのです。…完全に自由ではなないのですが…かなり
自由です。
・誤解をされる懸念があるので、云います。
・
・…自由なそれぞれの違いは間違いではありません、よく「ソ
レハ違う。」…と、おっしゃって大きな誤りの含意を顕す方
もいますが差異と誤りは全く別です。…論理から自由になる
ことで、倫理が無くなる訳でもないのです。
・
・…わたしたちが恐い夢を見ることが多いのは、もしかして
論理が希くなってしまう恐怖、倫理が消え失せてしまう恐怖
なのかも知れません。
・でも…夢はとても自由です。生産的なところからも自由で
すので、夢を見て得をしたことは余りありませんよね、です
が、家の祖父母…曾婆ちゃんたちは口々にいいます。
・…『“夢は自由、制約もないよ、寿椰子がホントに困った
ときは智慧を授けてくれるものなのよ…”』…『“持って回
った授け方だから、夢の中に出てくるもの、人、風景を夢か
ら覚めても床についたまま反芻するといいよ。 ”』…と。
・…「曾御婆ちゃん…反芻って?」…『“何度も夢見を辿っ
て、繰り返し思い出してみることよ。…それに一つの夢でも
思い出してみてみると物語りは一つとは限らない…だから反
芻なのよ。 ”』…と。 -113p
・…『“もう一つ、夢は恐いことを反芻してるよ、恐い夢を
見ること自体、寿椰子の智慧が殆ど克服しているから、既に
乗り越える準備ができているから、夢見に出てくるのょ…
”』…だそうです。
・
・…ここで少しお話をかえてみます、匂いに付いてです、匂
いは何かを限定します、限定も何かを誘い、何かからわたし
たちを守っています。わたしたちが腐敗臭を嫌がるのは腐敗
しているものに毒性があるばかりではなく、腐敗を生み出し
た微生物に病原性があるばかりではでもないのです、腐敗臭
自体が害虫を呼び寄せたりしてきたことをわたしたちが学ん
できたためにわたしたちの匂いの記憶と文化としての集積が
嫌悪の感情を作ってゆくとわたし…と菅原の人間は考えてい
ます。
・同じように、芳しい香り例えばラベンダーなど、害虫を忌
避させるのも害虫に利益を誘導する匂いではなく、害虫にと
ってはその芳香は不毛の荒野を示していることになります。
害虫が来ないラベンダーの匂いの歴史は、人にとって香りの
文化となってゆくと考えられます。…香りということから考
えてみると記憶と文化は同義語のようです。…冒頭の主題に
戻ると、香り以外の制限がないと「記憶と文化」とに隔てら
れているものから自由になっているとも云うことができるか
も知れません。
・
・…もう少しお話を進めていいでしょうか? -114p
・…嫌なにおいや嗅いだことのない新しい匂いは、記憶と文
化の所為からヒトに警戒感を促しがちです、また味覚・嗅覚
以外の情報に、記憶と文化は、情報に匂い・味わいのラベリ
ング~彩りを添えながらヒトの記憶に定着させてゆきます。
一方で警戒と論理に纏わる情報も記憶定着のために動きま
す、…それは論理に従属してしまいがちのため倫理的な正し
さがしっかりと伴うとも誤解しやすいものでもあります。
・…匂いのないものは通常無害です、窒素とか酸素とか、化
学の埜川先生は一酸化炭素…二酸化炭素も有害にも拘わらず
無臭といいます、ですが、菅原家では、一酸化炭素は独特の
練炭燃焼臭があり、二酸化炭素は湿気を強調します、邪気…
私には理解できないのですが…ウイルス飛散の多い人混みに
は埃と金属臭が混ざったような…独特の匂いがあります。
・菅原家では命と関連のあるもの、良きにつけ・悪しきにつ
け匂いが伴うものとしています。…誤解を恐れず書きます、
…またここに書くことを快諾してくれた有妃部長・部員の和
田君は本当に感謝です。
・…したがって人の生き様にも匂いが付き、それを感じるヒ
トもいるということです、菅原家はこういうことに代々アン
テナを拡げてきました。その生き様の匂いは“土の香りと南
国の花 ”のようです感じるヒトはそのように感じるようで
す。これは菅原家は代々時間と歴史を積み重ねた成果です。
・…文芸部の部屋にも弱いながらこの芳香があります。
・…“土の香りと新しい花の ”香りが部長と和田君にはあ
ります、お家がお宮様のせいがあるのだと思います。この新
しい花は…“審美を嗅いで別けている人の放つ香りです。
”香道の菅原では芳しいにおいなのです。…アールグレイの
ような匂いです。
・…ですが、菅原のアンテナは別の匂いを感じてしまってい
るヒトがいて、その人達が、見た目の論理性と根拠のない正
当性で無意味で過剰な警戒を喚起してしまっているのです。
・そして別の匂いを感じている人たちからは異臭を感じま
す。「利潤のみを常に嗅いで別けている人の匂い」です、江
戸の昔からこの中津には少なからずそのようなヒトはいまし
た、菅原は極力波風を立てず共存に苦慮してきました。です
が、この二十年でその人達が圧倒的優勢になってしまいまし
た。無意味で過剰な近代化です。区内の小学校で発生した秋
期林間学校の遭難事件に関して発生した都市伝説の香道から
見た見解です。
・
・
・匂いは論理から自由になっていますが、倫理が無くなる訳
ではないのです。
・…論理を慮りすぎて別世界のものが膠着してしまっている
のです、香りはよくても悪くてもヒトを傷つけてしまいます、
よくてもセクハラ、悪いとそれだけで虐めです。
・これを読んだり見たりしても誰かが儲かることにはならな
いことも、誤解を避けるために云っておきます。
・ -115p
・…感性や美意識も時に…そしてかなりの頻度で論理から自
由になっていたりしますが、倫理を見失っている訳ではない
のです。…耽美主義の救済とも言い切れると思います、誤解
を恐れずいいました。恐い夢もありますが、味覚・嗅覚に纏
わる誤解ができあがってしまったとき、夢見の自由さは誤解
を解消する力を秘めていると云いたいのです、
・
・…味覚・嗅覚だけで…他の制約…まだ勉強で得られもして
いない、知識の乏しい中学生だからこそ書き綴れたものだと
思います。その後の勉強~学問の修養でどう変わってゆく
か?忘れてしまわないうちに書きとどめておく必要があっ
て、誤解されるのを承知で…文芸部に集う叡智に支えられて、
つい書いてしまったものだと思っていただけば幸いです。纏
まりもなく誤解をされてしまうかも知れません。…でも、や
っぱり、誤解はして欲しくないなぁ~。さぁて、皆さんはど
んな夢見をされていますか?
・
・
・
文集5―和田能直
・
・
・
◎『無題』
・
・
・…ネット社会で沢山のヒトとシリアウと幸せになる
・郊外で緑に囲まれれば気持ちが豊かになる
・商品個性の強いものを身につければ個性的になれる…とん
でもない。
・幸せ・人間性・情報・豊か・物質・ウケる・個性・価値・
和・思いやり…わかった気になってしまう…スピード命、普
遍性…踏みとどまれない…
・ホントの文明…命ではない、ホントなんて何なのか定めら
れない、少なくともそうだ。
・ -116p
・…差異を超えて…定めようとすると…奇妙で陳腐な競争が
開始される
・業者の客観テストで押しつぶしておいて個性とは…競争に
走るしかない…
・中学に入ってハタと気が付いた。これまで感じたこと、さ
せられたこと、楽しんだこと、苦しんだことなど総計すると、
平凡になることに・平凡であることを装う圧力で瞞されてい
る。…ホントの平凡はそんなもんじゃない。
・
・
◎『俺が馬鹿な理』
・
・
・―劣化、 母同士の遠縁…父同士の縁があって、姉のよう
な有妃部長との何気ない会話。
・
・…「ワダ。は周りからバカだって言われているけど、…確
かにできるところあるけど・できないところ多いよね、でも
わたしはこれっぽっちも馬鹿だとは思えない…バカって言う
なら…当てる漢字は莫迦…漠然のままにとしなくてはいけな
いところ、呆やけたまま、誰も踏み出したがらない所に道を
付け加えようとして、…立ち止まってしまう…そんな莫迦な
のだと思う。」
・…「ミオネエ…、ぼくをそう励ましてくれたってやはり、
馬鹿だよ、最近、なんとなく分かってきた、足し算~始まり
割り算が終わるころ、漢字も日常に出てこない酷く抽象的な
漢字が出始める頃、ぼくは頭にブレーキをかける一方でペダ
ルを踏んでいて焦れば焦る程ますますナンカのレバーを強く
握っている気がしてならないんだ。元々勉強嫌い、良い点取
って悪い気はしなかったけど、割り算の向こうに…難しい漢
字の向こうに、英会話の向こうに何があるというのか?そこ
に、その先に何があるのかと思うと、自分なりに組みあげて
きたことがバラバラ…ボソボソ綻んでゆくんだ、母さんは…
『ここを考え過ぎては前にすすめないのよ、前に進んで初め
て分かってくることもあるのよ。』…って、」 -117p
・…「でもぼくは自分が組んできたものを壊して前に進むの
はもったいないと思うし、『勉強は積み上げ…』って先生方
は口をそろえて言うけど学校の授業は、幼稚園で体と遊びを
通して学んだこと…「遊んでいては駄目だね」…と、徹底的
に壊している、壊して進むって、湧いてくる好奇心を串刺し
され身動きできない。…誰に言っているか判らないけど…良
いことではないとおもう。小学校三年くらいだったと思うん
だけど、…散々、延々母さんとやり合って…『それでいいョ』
って認めてくれた…“それで ”って、きっと自分の疑問を
捨てないことだと今では思っているんだ。…以降ぼくの成績
はどんどん下がってきて、おバカになって来たんだと。…そ
れと男子の好奇心の殆どは暴力…『受け容れる好奇心は、絶
対捨てちゃダメ!』って母さんも言っていた。」
・「…今までも、これからも、勝つ快感なしに正解とは思え
ないものを正解と言い聞かせながら行く、だからぼくは無駄
が多く、ワダ。バカだ。…絶望的にバカだが最悪じゃない。
…何故?や分からないことがあるとそれなりに燃える、から
…災難や困難は多いし、身体も害しやすく脆い、…大きなダ
メージからも回復がとても遅い、でもそこのところを慎重に
してゆけば…“この何故 ”はいつか…30才くらい、花が
咲き実がなる。似たようなこと、母も祖父も言っていたし、
ここを擦れない人はどんなに偉い人でもどれだけ我慢しても
蔑んでしまう気持ちがツイ漏れ出でてしまうんだ…ぼくはお
バカだ。」
・
・
◎『不思議体験』
・
・
・…小一の真夏、ぼくはこの戸波に転校してきた。引っ越し
が大方片づき、新居となるマンションの入り口で夕涼みをし
ていた、往きすがら、母は暑いから…とか言っていた様な気
がした。清々しいはずの汗はぼくの気持ちをどんより暗くさ
せていた、頭も重痛く身体がとても重かったかったとも思っ
た。
・…
・…?“いま、今ここで”…今が揺らぐ。 -118p
・…眼の前を作業服を着た白髪の人が荷台付き自転車をこい
でいる、荷台には買い取られたリユース・再利用品がつみあ
げられ、それらのなかには凄く新く、未開封の段ボール箱も
混ざっている。作業服の人はかなりの年の様で年季の入って
いて帽子から白髪がはみ出ている。…荷物満載の荷台付き自
転車は間近にきて、ぼくは気づく、このリサイクルのチェー
ン店は通常、ウグイス嬢の美声と軽快な音楽のMCを大きな
音量で地元を回るからで、作業服にエプロンに店のロゴがあ
って、近くに見てやっとぼくは気がつく。その時ぼくの目は
ぼんやりで仮性近視になっている。
・ただ、この光景は以前~或いは時を超えている~あるよう
な…気がしていて…夕方ではあるが辺りは異様に…微かに青
白く光っている。辺りは静かで、微かな降り斜面に自転車の
ラチェットがカチカチ言い出している…そのラチェット音の
隙間…が搬送波になって、リズミカルで低いうなり声が聞こ
えてくる、唸りは「…ゥヤ。」とも「ィエ~へ
。」とも「…ズ、
エ」・「屑家へ~」持ち帰れ?とも聞こえ異様。白髪でリサ
イクル店の外回りの店員の口がそう言う。今、ぼくは不思議
な思いの中にいる。…同時に本当に何を言っているのか…あ
るいはその微妙なリズムのうねり…回収品から出る多くの生
活臭―たばこ―古い日本酒―印刷所のインクとオイルの匂い
―魚の腑の匂い―黴の匂い―汗の臭い…匂いのチンドン屋が
通り過ぎ・巡っている。店員はぼくをチラリと見て…何かを
語りかけている。…何処かに不快な思念が湧いている。
・…
・…「あ、そう?」…そう呟いているもかも知れない。
・ -119p
・あぁ、…ぼくは何を探ろうとし何を感じ、何故荷台に…つ
いて行こうとしているのだろう…ぼくは、荷台をいっぱいに
した自転車をこぐ外回りの不思議な店員を見送って、…違う。
見送ってなどいない。ずっと近づいてきていて、深めに帽子
を被り顔を伏せて、…でも変だ。近づいて来るのにドンドン
小さくないる。帽子からはみ出した長い白髪はキラキラして
いて、荷台と自転車は市場通りまで出るとそのまま日が沈む
西を向く、ターンしたように見え、そうしたらやっと小さい
姿になって離れていくように…感じ、そしてその影像はぼく
の網膜の上でチラチラしだしている。白くキラキラした華や
かな通りに…、だから、…何時消え去るのか?もしかしてぼ
く自身も透けて影薄くなってしまう黄昏時に分け入って探し
続けてみたくなってきてしまっている…。いつのまにかすっ
かり暗くなっている、ぼくも昏い。それに、今でも、白髪の
店員のリズミカルな声と影像が頭を巡っている。…ずっと。
・…“そう今、改めて。”
・音声が頭の中で廻りながら整理されはじめた、不思議な店
員が唸っていたのはきっと“クズ~ィェ…(屑屋) ”…“
いえへ(帰れ)”なのだろう、荷台の後ろはシームレスで綺
麗な塗装の樹脂カバーでしっかり覆われていて店のロゴと二
次元QRコードははっきりと残像している。…あるいは、「カ
ドウナガイ、カンケイヨシ、フツウ」繰り返されると独語と街
に響くエコーとの混声は…そうも聞こえる。
・
・…“今思う…”。マンションの玄関に立っていた訳は、ぼ
くが引っ越しで腰を痛めた母の代わりにリサイクル店へ要ら
なくなった電子レンジを持って行くところだったのだ…さっ
きまで見ていた樹脂カバーに貼られていたロゴの店舗に、…
何故?…、荷台付きを曳いていた白髪の店員は電子レンジを
引き取らなかったのだろう、電子レンジの戸が開かないよう
に紐で縛られ『リサイクル行き』と母の綺麗で大きな文字の
紙もはっているのに…
・…暑いのに、何処も恐いことなどないのに…ゾクゾクと背
筋が冷えているので引っ越しの済んだ新しいイエ…に戻る。
・
・
・…“今…?”?…
・
・…
・…「なぁに?それ。…母さんが昔、こんな暑い日に意識朦
朧で熱中症になって身体が動かなかったことがあったの、そ
れから恐い夢を見るようになったの…。だから、気をつけて
…って話したの…それと殆ど一緒じゃない?…それって、つ
いて行こうとしたのは…?いましがたのナオのハナシ?…?
…」
・…そこまではなんとなく憶えている…いま将に夢を見てい
るような…。
・…書き綴りながら今思う、…文章はどうしても現在形でな
いと駄目なのであった。 -120p
・…以降、遭難事件程ではなかったが、引っ越し疲れの所為
か熱中症か、足かけ 2 週間弱、意識が無く、入院したことも
憶えがなかった。…それでも二年弱のあいだ、頭は重かった。
・
・…
・
・
・…(以下、改変後の文章、本文を抜粋)
・…凄く変だった…。
次巻(15)-5 ナゼバカ-和田能直の続き120p~です




