本編:常魔法-微睡み-いぬ:その2:(5)遭難、初めてではなくその向こうが…の途中~ (12)アフターミーティング~80p
長い~私小説です。作者が考える重要なテクストは何度となく出てきますので、気楽に・省エネでご覧ください…因みに何度も繰り返すのも常魔法(…贄の要らない魔法)の属性です。
コンテンツ:
(15)遭難、初めてではなく、その向こうが…の続き40p~ (6)遭難・吹雪…嶽下り:43p~ (7)愛着と背後…時を超えての支え、それは大きく深い反復:43p~ (8)干磯再会前夜・あのときから史澪は失速していた:59p~ (9)文芸部入部、昼下がりの文芸部:67p~ (10)新年度文芸部:66p~ (11)お題「耽美主義・救済」:69p~ (12)アフターミーティング73p~
(本文には(5)(6)(7)…の様なナンバリングはありません、御容赦のほど…)
・
:◎校長・古株教諭・地元小売商店・町工場…
=:Vs:= -40p
:◎全学年主任連合・新興マンション父兄・大型量販店・ビ
ルテナント会社…無勢だったが論調は変わりゆく時代の追い
風で、圧倒的財力差は無関係ではなかった。
・
・
・…若い教師は中立を決め込んでいた…
・
・…古くから住ノ江の家は…家の子にとっては、弾丸が飛ば
ない非武装地帯だった…あるいは針の蓆…緊張前から既に照
準は定められ固定されていた。
・
・…戦端は開かなかった。
・
・…首都の区部では何処でも同じで万一開いたら一斉蜂起だ
ったのかもしれない…喩えるなら旧来信仰と現代摂理との内
戦…だから地元はとことん戦端を回避し野良犬の如くしたた
かに逃げてまわって…来た…。
・
・このパワーゲームは校長ー地元ラインが圧倒的に劣勢だっ
た、それ故学内の論争は膠着しそれは生徒の情緒に響いた…
・そして、侵襲は弱いものから壊してゆく、…そして競いの
水面下で排除やら虐めが横行していた。二人ともこの種の攻
撃には史澪はやららかな抵抗と頂点に固執しないことで・和
田は弱いながら強かに集中的・常同的・半ば暴力的…『何
故?』で逃げ延びた、すでに学校側は潜在する危機を察知で
きなくなっていて、この二人の行動が過剰に認識されるのみ
だった。
・近代化にともない情報はどんどん巨大化し極分化し生来的
五感はゆっくりスルリと薄められて…来ていた。
・
・…イレギュラーは至る所ででていた、和田の同級で病弱を
理由に出口なる女生徒の保護者が林間学校の参加を辞退し
た。
・…林間学校にハナシを修正しよう。区立の林間学校にも、
恒例の行事でもあって大きな変更はなかった、…膠着した学
内論争の疲弊に幾許かの影響を受けた。 -41p
・…低気圧の襲来があっても恒例どおり…高々の標高が三〇
〇メートル、雨具の用意を事前に通達してはいたが、恒例ど
おり生徒は半分以上傘を持ってくる始末であった、それでも
登山用の雨具上下を持参した生徒は「大げさ」と揶揄された、
…“民主的”な多数決であった。初夏から頻繁な台風襲来に
よってコースが一部閉鎖され、迂回路が作られていた。だが
地図の上の迂回路も元々のクネクネ道の所為で見落とされ、
新たにできた崖の印は小さく森の印と重なっていた。
・市井~嗅覚土民の感性では最悪、エリートの感性では全く
の想定外のことがおこった、低気圧は風・雨の規模・威力は
大したことはなかった、だが予想される雨雲は線状降雨帯作
っていた。小山といえども山は山、別世界になった。ハイキ
ンググループの小パーティは雨具のグループと傘のグループ
に分かれてしまった、…傘のグループはほぼパニックの状態、
引率の教諭らは難所を越えた時点で山小屋に留まり、雨具の
生徒をしおりに従って目と鼻の先の林間本館へ単独下山させ
た。コースの変更はしおりには反映されていたが欄外にひっ
そり、コースが変更されていることを再度確認する余裕、雨
具の下山生徒に確認させるは引率教諭にはなかった。
・
・
・
・
・―遭難・吹雪…嶽下り
・
・
・
・
・
・…はぐれ彷徨った二人を吹雪が襲った。…雨はみぞれに霙
は粉雪の変わった。
…だれが入れたのだろうか?、有妃のリックの中には薄手
ではあるが大きいなビニールシートが入っていることを和田
が見つけた、シートは雨・雪・風の直撃は避けられたが、二
人とも靴は水没、上閉めのシートに包まる際、能直の属性の
所為で和田の雨具はチャックの開口部より泥水の侵入をしこ
たま受けた。…それでも水はシートの中に漏れ入ってきた。
…夜になり吹雪となり山の気温は更に下がった。 -42p
・…
・…「恥ずかしいよ…ミオ…、」「ダメ、そんなこといって
られないじゃない…ワダ。の身体どんどん冷たくなっている、
寝ちゃダメよ絶対」「…大丈夫、裸でぴったりは無理だけど
肌をしっかり密着…お腹だけでも、くっついて…恥ずかしい
っていっている場合じゃないでしょう!」「…でもミオネ…」
「ワダ。キミ危ない。わたしの手はまだ温かい…充分。登山
経験…修験経験のあるおじいさまがここを暖めるのが一番効
率がいいのですって」「でも、」史澪は和田のズボン中に手
を入れた、和田の内腿はヒンヤリ冷たかった…和田の抵抗は
殆どなかった…。
。…しばらくして、頬を微かに赤らめ…「あったかいよ…、
凄く、ミオネエ…」、「すごく…しあわ…」…「ぼく…ここ
にいる…ここにいて…い…の」
・…そこまで言いかけ、和田は史澪が揺すっても叩いても、
殴っても…目を覚まさなかった。
・
・
・ …それは、ほんの一晩の出来事だった。
・
・
・
・
・―愛着と背後…時を超えての支え、それは大きく深い反復
・
・
・
・
・
・… -43p
・:能直は集中治療室で“微睡み古い悪夢の狭間を彷徨う”。
・:史澪は病院へ向かうが“現実”…、集中治療室ブースに
入いれず何度となく引き返した…ブースに入ることが何らか
の不吉なゲームのトリガーの様に思えてならなかった。
・…生命がもつ自ずの執着愛着…まるで夢でも見ているかの
ように…その背後に遠い未来からの介入・支え・追憶…そし
て抗い。自我が彷徨い夢の様に反復する。それは…そこは病
室か自宅の寝床かも定かでない。…あるいは何処かの旅先で
の昼寝なのかもしれない…あるいは何時かの夢観…それは昏
睡あるいは亜昏睡…悪夢…
・
・能直の周りには、…不思議な人~人達はいた。…能直が微
睡んでいたのか、その不思議なヒトが年を重ね、その果てに
惚けていたのかも…分からない。…時の輪郭も惚けていた。
・不思議な人、微睡んでいなかったら、それは物の怪~だっ
たの~様に見えたのかも知れない。
・不思議な人、いつか見た夢、ずっと見てきた夢、何処かの
旅先で見た夢、その夢のさき~その夢なかでまた夢を見る、
そしてその夢の中の…その人たちは先が見えていた?…よう
な匂いが観えた、ローブ?白衣は着ていたみたいだが何処か
薄汚れていた、考えを辿ろうとすると和田は能直でなくなっ
ていて誰か~何ものかの目で能直自身を見下ろしていた…よ
うな気もして何かが只ただ、ゆっくり回っていた…そして霧
散し…突然右回りの回廊が発ち現れた…左周りでもよかった
のだが。
・…そんな不思議な人たち~能直の夢の回廊…、は、ずいぶ
ん前から回り続け語り合い感じていたようだった。…愛着?
…だがその語り合いはまるで魔法談義…白黒の区別がつかな
い…でも“贄の要る”魔法はハッキリしていた。
・
・
・
・…
・…「あの子、…終にやった。反旗は微々たるもの…時空連
続―プランク半径~プランク時間の刹那…反旗だったのか怪
しかった。この子彼の脳の何処か元まりはたった一つの…“
ヒトリボッチ”。…刹那の時空が抱えた“ナゼ”。…なにも
ないから何もない故、両価・両極が分離し、またすぐに元の
なにもない状態に戻る~纏まる―それゆえの実存。…だが~
だから、小さな反旗への圧力は惨めで卑劣だった。『どうし
て、出て来ない!参加しない!虚空に逃げる!』…と。…で
もやり遂げた―刹那に起こったことは既に消えてしまったの
で事実である論証はない。」 -44p
・「…だがじゃ、その刹那であっても抗いの我執は背後に数
多の支えもあったのだろう…安定し拡がりを持つ自我にまで
…やり遂げたのじゃ。みんなしらないだが “知る人ぞ知る
”…その波紋は瞬時に拡がる、光速どころではなく瞬時…何
故なら、宇宙はずっと同相で振動してきたから…瞬時の拡散
は充分説明がつかない。…でもやり遂げたのじゃ。…『ヒト
リボッチ』が周りの支えを曳きだし連鎖と反復…共鳴…」
・「みっともなくとも抗い…反旗は振り続けて欲しいかな。
…あの子の幸運・努力・奇跡は寂しい孤立をしつつ、不安を
抱えつ、境界の怪しいところに居続けたこと…そんなところ
は世間には存在しない、誰もが孤立はあっても無かったよう
に振る舞う、…摂理神でさえ…不安は誰もがあるがこれを皆
…省みない、境界が呆ける・時がブレるなど世間や合理の世
界は許さない…排中律というやつさ…不確定、音楽のロック
みたいな不確定は邪魔。…なんだろうょ。」
・「彼…、恐らく、あの子を構成する原子あるいは人工呼吸
器の回路のシリコン…“かれら”は、ささやかに抗い続けて
いる…。」…「そうですよね密かに…」…そして「ヒトリボ
ッチで。」「…退屈で無自覚な孤独と違い『ボッチ』と『ナ
ゼ?』は辛うじて自覚出来…周りはそこに気付く。…彼も気
付いた。…ワシ等も。」
・
・…会話は続いていた。
・
・
・
・「…いつの世でも」
・「…小学校に入るころになると…すこしずつ遊びは削除さ
れて競争へと変わってゆく…誰もが遊びを死守する・壊滅か
ら逃れようとする、でも、ガッコウと言うところを卒業する
頃には世間は遊びを許さなくなる。…あの子は往々にして危
ない側面を内包する遊び、これを見捨てていない。…継続で
きるかが問われる…ずっと危ない側面との対決を覚悟してい
るムキがある。…わたしは黙って見守るしかできないが…消
耗で大変な対決をすることになる、あの子の徳は他の人や他
者の生業を不承不承敬えること…見守るしかできないが…」
・
・ -45p
・
・…唐突 ! 『神はサイコロを振らない。』…ダレダ!
・
・
・
・「?…なんだい?唐突に分け入ってきて。俺たち、寝間着
~古いローブで寛いでいるのに、古めかしい堅苦しいスーツ
着て。」
・
・
・…『神は遊ばない。』…『この子の運命はもう、決まって
いる…』
・…『そう、神はサイコロを振らない。…ここで微睡んでい
るこの子は死ぬ。…神の邪魔だから…参加しないから。』
・
・
・…「…何を根拠に言っているのじゃ?…その言葉だって、
まるで不確定性原理に対しての相対性原理―アインシュタイ
ンの反論でしょ?借用の主旨が酷くちがうんじゃ~?オマエ
さん?乱用だよ、…」スーツの老人と同年齢らしい開襟シャ
ツ?寝間着の人が言い返す。
・…スーツの男は返す、『この子は邪魔。私は時空を越え未
来から来ている、この集いは私の過去かも知れない。…参加
はすれど競おうとしない。競技の精神に対する邪魔。…誘お
うにも逃げてまわる。』…
・
・
・…“酷いなぁ…動作が遅いから移動や集合に間に合わない
だけ…なのに”…夢中の能直がぼやく
・
・…しずかな中傷は続いた。
・
・…能直は応えた「何でダョ。破壊・抗い微塵もないのに、
真っ当に参加していたいのに、締め切られる…酷いンじゃネ
ーの?」
・
・ -46p
・…「ならばじゃ。おまえさんが振りなさいょ。…三つ揃い
背広スーツのお方!。生きるか死ぬか・成るか成らぬか…賽
を振りなさい。」…「オヤオヤ。微睡んだり・夢見たりの子
が、とうとう、ここまで登って出てきたね。」また別のラフ
~小汚いユニフォームの出で立ちの人影に能直は…
・…「ラフな寝間着の皆さん入院の、かたじゃ…ない。じゃ、
きっと、オレの守護霊ですよね…。」
・…「いやいやそんなもんじゃ…」…ラフな人は少なくとも
三人はいたようであった。
・
・…
・「…オレ。…オレの夢?」
・…「硫黄の雨で燻り出されてきてしまいました、金属も燃
えていたような嫌な匂い」
・
・…「少し前にそんなボッチな夢、繰り返し観てきました…。
儚いけどきっと時を跨ぎ、書き手を含め、多くの人が繰り返
し観てきた…だから儚くも儚くない。」
・
・「…どうも硫黄の雨…雨…オレ…終末仕組まれたみたいな
覚醒?黄色い~ドス黒い空を呆然と仰ぎ見ていた。…」
・「そんな夢…」曳き続いてすぐ…「何故か何処からかオレ
の左脇から…バスケットボール?少し柔らかい…あらゆる球
体~球状体の危機が繰り込まれた…大人用?競技用?を持っ
て~誰かに示唆されてて持たされて…さっきそれに気が付い
て…促されたボールと“我執”どう関係する?の?でも…夢
の中で…“夢って ”…“気が付いて”…、“ヒトリデニ”。
それとも左脇の誰かの所為?…夢の中で…気が付くなんて元
めてなんで…バスケットボール?、訳分かりませんが大事そ
うなので、青い海あるいは紺空の色のボール…大事な誰か…
とても大事な…きっと同じボッチの彼方の“異性”を助ける
ため~仲良くなるためのボールのパス・トスの遊戯!:…切
羽詰まった競技?-生き死~終末に纏わる神託的競技?…。
まるでアステカのサッカー?…デナイ!違う!絶対違う!。
間違いなく遊戯!…。」 -47p
・「…でも、何処か遠いところで遊び心いっぱいで、…誰か
が…数多の子供が遊んでいる…だから違う、神託競技ではな
い。…取り敢えずボール持って抱えて…きっと彼方~誰かと
トスしたりドリブル遊びするため…。家を出て黄色い熱い雨
の中、町の区画を右回り…回廊の様にまわる…」…不可解…
折に触れ反復する…“雨のなかヒトリボッチだけどワクワク
…寂しくなかった…”…“虚空の彼方の思い人…実は虚しい
のかもしれない…じゃぁ、このワクワクはなんだ・ナゼだ!
”
・…「そんな夢~その夢の続きだったようで、“…コレ、夢
っ!”…て気がついたら…この病室…」
・
・「…そうですね、あなたは若い“ヒトリデ”、“ヒトリボッ
チ”で幼いのに頑張ってきましたね。…」「…というとは…
あなたは夢の中で『ヒトリボッチ』に気がついた…とも云え
ますね。…左?…過去の遠い誰かから延々続く夢~過去の更
なる果ての叡智?から促されたのかもしれませんが…ネ」
・…“ぅん…まあ…”
・
・…「おい、そこのスーツのおっさん。ここまで邪魔なオレ
を嵌めておいて…この部屋って生死の狭間の集中治療ユニッ
トだろ…生き死にの明暗~白黒~境界をオロオロ行ったり来
たり…まるで弄ばれている。白か黒なら黒…参加しない邪魔
色の黒?…。“違うのだ!反復・快感ゴォ~ラウンドゥ!”。
…肉のないスーツのあんたは弄ぶ…薄暗い集中治療ユニット
…スタッフの動線は何故か右回りだった。…ナースや先生や
他のスタッフは血眼なのに…。…あんたは。」
・
・
・…スーツの老人は答える、…『その私の名、この亜空間で
は…リューマ…アインシュタイン、名の意味は、流石振、火
打ち石のこと-リュイシフルとも呼ばれる。キミの反旗はス
ゴく評価している…だけど、ネ。神はサイコロを振らない。
ワタシはねぇ…競え!…と神託されている。』
・
・ -48p
・…「…何度も何度も。サイコロ振らない?だと、競わず
回廊を逃げ回っているない愚鈍の人の命サイコロで決めん
な!…匂うよ。…廻るの辞めたら時間が止まる…死神だって
そんなことはしない。大きなボールを差し出したのは死神様
だ!キット。オレのワクワク止めららねぇぞ、エネルギー枯
渇?あり得ない…?何故って?…遍く物象が持っている記憶
だから。“神はサイコロを振らない? ”…だと?競えだと?
ふざけんな。逃げても負けても貶されて…勝ったら、誰か…
きっと、アステカ人の夢…勝者は首から上バラされて賞賛さ
れつ笑われつ。…心臓は黒豹に咥えられ右回りの西周り…首
と胴がついたまま生き藻掻きこの不思議な回廊を廻っていた
い。」・「サイコロも振らず競いもしない球戯にウツツをぬか
しグルグル回りのこのオ莫迦、邪魔なら不満なら…スーツの
ヒト!アンタ!不確定が不満で振ってんじゃネーか!邪魔者
を追んだしたいから、不確定なこの世まで降りてきて…それ
自体賭けじゃん。…じゃ、おまえ~あんたが振れよ。…振っ
て…当てずっぽで正解してみろ。…遭難?ふざけたカード出
すな。…ノルカ!…無駄な林間学校潰したいんだろ…こんな
アホ行事、お勉強とやらの邪魔だし!ヒトリボッチも自覚で
きない孤高~孤独、自覚出来ないゆえの退屈、その上、生殖
性もつ霊魂。…オレも邪魔なんだろ。…オレの“何故が”!
…サイコロ振って消去してみろ。あんたが。」…
・
・…スーツと対峙的している人達が「…そうなんだよ、わし
等はこの子が可愛い…良い意味でも悪い意味でも愛着してい
る。…だからスーツのあんた、この子の競技だ…イヤ。この
子の夢。命の固執、切実な抗いだ…児戯じゃ。普遍遊戯。共
鳴…物象の証・記憶。少しは控えてくれまいか?…これはサ
イコロではない。」
・「だからあんたの『神はサイコロを振らない!…』をこれ
っぽちも否定していないのじゃょ。」
・
・
・…スーツの老人はいう…『控えるも何も…問題ないではな
いすか?スーツですから。…これが失礼なのですか?…それ
とも、わたしがサイコロを振ったと…私も神もサイコロは振
っていない…その人たちもキミ等も互いに邪魔というわけだ
ね…でも、誰かはともかく、サイコロを降る振らないで時が
動いた…』 -49p
・…
・
・
・「サイコロ振らないでも…夢は回廊を右周り、これ自体、
“ワクワク我執~自我”となり~入れ替わったり~微睡んだ
り、夢中で戯れ遊び回ることへの“安堵と愛着”を得る、廻
る行為自体によって“時そのもの”となりサイコロの代用と
も為るだろ!、右周りの”反復ゆえ、記憶”の孤高あるいは
流動部分が固着できたりする。…それでイイジャン!…ホン
ト、うるさいスーツ。」
・「で…ボールは?…どこ?まあいいか…サイコロでドリブ
ルは出来ないし現状、オレの手許にはないし…」
・「とにかく、スーツ、うるさい。」
・「そう…スーツ邪魔。スーツのあんた!」
・「そう…あんた邪魔。スーツのあんた!」
・「…あんたこそ邪魔。スーツのあんた!」
・「そう…あんたが邪魔!」・
・
・
・
・…今ここで干磯の浜で、反復される夢・あるいは微睡み、
現に寄る辺のない記憶断片・愛着…あのときだって
・
・
・
・
・…
・…仔細なことは二人とも忘れてしまっていた。…心奥と森
羅万象を周り共鳴する能直の悪夢:悪夢あるいはサイコロで
するクソゲー→リセットとなって欲しい史澪の現実…
・
・…凪の前曇り始めた干磯の浜辺の二人…
・
・
・
・ -50p
・…(思考途絶の“… ”~“…”の思考途絶)…亜昏睡~
微睡んだ所為でどこからかの記憶の断片が紛れこむ。…何時
の頃かも…定かでない。
・
・
・…和田の母、朱樹が所用や当直・出張で能直を有妃家で預
かったとき、だった。…史澪の部屋にあった高級な瓶入りの
ラムネを和田は食べた、一瓶まるごと―自然ものは風味が淡
泊だと和田は認識し、微妙な甘さを和田は悦に感じた…その
晩はなんともなかったが翌夕になっても通じがなかった、毎
日快便の和田が翌晩の遅く腹痛を少し憶えた、三日目、有妃
宅でたらふく御馳走になって丑三つ早朝、激痛で目が覚めた
が、和田は最早動けなかった、…それとなく異変を感じ部屋
を見回した史澪は声も出なかった、和田が瓶入り高級ラムネ
と思っていたものは乳酸菌製剤…医薬品整腸剤だった。史澪
は和田をトイレまで引きずりその嫌がる肛門に家の薬箱にあ
るだけの浣腸液を流し込んだ。まもなく通じは復活し出てき
たが、史澪は両親にこっぴどく叱られた。…しかるべき後、
二人きりのときに史澪は和田を自分がされたそれ以上に叱っ
た。小五とは言え、生理がすでに始まって体格も良かった史
澪は圧倒的な迫力・論理で四年生の小さな和田を抑え占有し
た。和田はその淡々とした迫力と恐怖でぽろぽろ泣いていた
が、史澪の目には和田が苦痛で泣いていたのでははない顔に
も見えていたし、…論破し占有するというより和田を所有し
ているという甘い快感が忘れられなかった。…和田が液を挿
肛されたり、ぐったりして汚れた臀部の始末されていた時、
口汚く罵られていても和田は泣きながらなんとも恥ずかしい
優しい目をしていたのを史澪は忘れられなかった。
・…以来、和田は年の差・体格差以上に史澪のいうことに絶
対服従した。…というより、宮繋がりで和田母子、能直が小
学校の一年の夏、中津の戸波町にきて…、逢ったときから史
澪は淡い独占欲感じていた。…何よりも当時は華奢で不思議
な中性的雰囲気の和田、おバカで優しい許容力を持つ和田が
気に入った。 -51p
・…遭難事故以後、意識の戻った和田が退院し同じ中学にき
たのであるが、和田を昏睡に加担したことへの呵責、そして
遭難時、和田の命が史澪の手の中にあった…得体の知れない
後ろめたさと呵責…彼、能直の独占、それらは複雑に絡み合
っていたが史澪は疎ましとも切り離したいとは思わなかっ
た。
・
・…能直のAライン(直接型動脈血モニター)の心拍・血圧
が上がった…
・
・
・
・…愛着その形、現の記憶断片…迷滅と反復
・
・
・
・…有妃の母も和田の母も旧姓は平田で秋田に実家があり母
たちは良く似ていた、同族かは確認できなかったが幾つも似
通っていた、不思議に家名は途絶えなかったが二人の母とも
…それに嫁いだ夫たちも親類が殆どいなかった。…何より二
人には兄弟がいなかった。史澪に独占的で嗜虐的なところが
全くない訳ではなかったが、女の子が年下の男子に可愛いい
たずらをするのは、後、能直が反動形成を獲得さえしなけれ
ば、それはとても可愛く微笑ましものだった…面倒見の良い
姉と華奢で可愛い弟…父似の能直は母とは似ていなかったが
何処か中性的で華奢で確かにフツウに可愛かった。能直の母
朱樹は父の悪い性癖が遺伝し開花する懸念もあったが、開花
しても史澪の器量でどうにでも変えてくれる…そんな安心感
を史澪はかもし出していた。この背も高く成熟の早い器量よ
しが、母の老婆心をそれなりに受け止めていたことに少々朱
樹はびっくりした。…当事者の史澪には悪いが…“フミオお
ばちゃん”という関係が一番馴染んでいた。
・和田の母子は宮家繋がりもあって、有妃家の居心地はとて
も良かった、戸波近隣は体格差から、7~8以上離れた姉弟
としか見ておらず、関心もなかった。 -52p
・…何より、能直がいないところでしがみつく対象もなく夜
間一人で黙々と仕事をしている母-朱樹を想像すると…能直
は史澪へ絶大な信頼を寄せる母を想うと…有妃家に預けられ
た能直は、ほろ酸っぱくも美味しい孝行だとも思っていた。
・…高学年にもなると、史澪は異性の関心に華が咲きはじめ、
絶対服従の和田が性差の観察資料になっていた、食べこぼす、
土いじりをして衣類を汚すと、和田が男の子のせいかすぐに
泥で汚れた。…かいがいしい姉は弟の衣類を剥ぎ取ってつぶ
さに観察した。…史澪にとって連れ回り全く同じことしてい
るのに、どうして能直は下着までも汚れてしまうのか不思議
だった。故、…異性への脱錯覚~脱幻想が早かったし…不自
然な理想化で苦しむことも殆どなかった。…一方、穏やかな
和田、和田が使用しない暴力―有無を言わさない男独特の暴
力は何時までたっても免疫がなかった。…それと引き換えに
…家系から来ると思われる幼いながらも和田の異様な国語力
・洞察力・分析力・統括力は史澪をトキメカセテいた。…ナ
ゼナゼバカのくせに…と。
・
・
・…愛着 寄る辺ない記憶の欠片…漂い反復されるモノ
・
・
・能直は乾いた砂場で夢中になっても汚れない男児であっ
た、他の同年齢の男児より何処か上品であった。
・…しかし土や泥、庭や生け垣の土の湿度が多いときの能直
の汚れ方は尋常ではなかった…三日前の雨でも公園の植木や
土は乾いていたにも拘わらず…泥土がズボンの中ばかりで無
くパンツの中からもボロボロ・ボトボトとこぼれ落ちた。…
いつものように…有妃家の風呂場でもじもじしている能直の
衣類を剥ぎ取った
・…
・「ミオネエ…僕、とっても恥ずかしい…だって。ミオネエ
になんだか分からない戸惑いがある…そんなものがなければ
苦しかったり・痛かったりをミオネエに委ねていれば大丈夫
なのに、…有妃叔父さん殆どいないし…ミオネエの回りで男
は僕だけだし…ミオネエが観察したい、それはそれでいいけ
ど、今日はなんかそれだけじゃ…ない…ン…じゃ…ない…か
な。いつもは、一緒に脱いで…オフロ…。…何処か分からな
いけど何か不自然…」 -53p
・「なぁに?…汚れているのはワダ。だけでしょ?わたしが
脱ぐ必要があるの?…それ自然でしょ、今まではそうしてい
たけど…お風呂とも違うの…お風呂は裸が自然…どっちも…
そうね…ワダ。だけ裸なのはちょっとエッチ。…それに…ワ
ダ。…なんか変よ。」…和田はうろたえたあげく、とうとう
裸で泥をまき散らし風呂場から大きな音をたてて出て行って
しまった…言うまでもなく即座に有妃に組み敷かれてしまっ
た。
・
・
・
・…母への追想、…干磯の浜辺で和田俊直の思考が途切れた
とき…あのとき…?…エッ、ドノトキ?
・
・
・
・…
・「?誰が思っていること?それともオレの夢?」
・
・能直が母、朱樹の普通の母親…中年らしからぬ体型に気が
付いたのはいつからだろうか?父の乱暴で別居するより大分
前からだっだと思う…性差に気付く遙か黎明、五才頃にはそ
んな記憶があった、、母は能直が一人で風呂に入らせず必ず
一緒に入った。…父と母が離てからも母は能直と一緒の布団
に入った…それは大学入学直前まで続いた。…些細ではある
が異変に気が付いたのは小学校の時、早熟の同級生で妙に不
思議がられた、男性雑誌やどういうルートで入手したか不明
の成人誌のグラビアやヌードに能直は大した反応がなかった
怪訝な能直の前に大胆なポーズのグラビアページを開き見せ
ても、ほぼ無反応だった…同級のませガキにとっては能直は
十分中性的…“変態だった”、…その反応を面白がった。…
後から考えると、この年代のませガキ(♂)は異性を追うの
ではなく…同性でひたすら群れる…、子どもが群れつどった、
すでに寄り合っていた女子とも異なる“異質な”能直を“弄
る”…群れの贄的目的で成人誌入手の理由にもなっていた。
・…能直は、たまに、懐かしそうに、そしてしばらく微かに
顔が紅くなることがあった、その時、能直は何やら空腹めい
たものも感じていた…。
・
・
・
・…母への追想…そういえば…あのときだって -54p
・
・
・
・…そういえば、図書や物の多い戸波の2DKマンションで
母子は南向き八畳間で布団二枚敷き詰め寝るのだが、朝、母
は能直の布団の中にいた、…父と別居し二人で暮らし始め…
その前からずっと…、気が付くと母は能直の自身の身体にし
がみついていた。初めて振り払ったのは小学校二年くらいだ
ったような記憶がある、…きっとあの小1の熱中症の時から
だったのかもしれない…かなりの力で振り払ったのは中二く
らいだったと憶えている。…寝ぼけながらとても哀しく寂し
く母は、あんなに嫌悪していた父の名を吐息とともに漏らし
た。…能直は、もうピクリとも出来なくなっていた。…そう
なってしまった。…撫るでもなく、唯々、ギュッと優しく抱
きしめられた。微かに父の名を呼びつつも、何処か息子であ
ることはそこはかと感じていたのか、肝心なところには触れ
ず護ってもくれていた。
・
・「ハナサナイ、ハナスモノデスカ。」
・
・…母は、悪夢にうなされて怯えきっている声であった。
・…勿論、遭難事故から退院して、中学に通い始めた頃も、
それは変わらなかった、…最初の夢精の夜も母にしっかり抱
きかかえられていた。能直はこの夜のことは憶えていた、羞
恥を超えた安堵・罪悪を超えた恍惚…事件としか言い様がな
かったことだが…それは、遭難による夢幻~昏睡の彷徨いと
も複雑に絡み合っていたし…寝言から想像するに母は悪夢に
抗ってもいた。母は何かから能直をつなぎ止めてきたように
感じていた。…正しい記憶…能直は認識や判断が正しいかど
うか?体験や思っていたことが現実なのか夢なのか?遭難以
降、酷く不安定であった。能直のその夜の記憶断片は、驚愕
のあと…浸み濡れたパンツとパジャマを着替えに寝床を離れ
た際だった、母は寝たふりをしていた、振りはあきらかだっ
た、母は泣いていたからだった。…でも、それは…、なんと
も言えない爽やかな笑顔だった。…ホントなのだろうか?
夢?母が同じ布団で寝ていたことが…。
・ -55p
・…
・
・
・
・「…エッ?夢?」
・
・
・
・
・…干磯の浜の爬虫類的美女が中学時代の大事な人と同一人
物であると照合しつつ、現住居―小さい頃ごく短期間住んで
干磯の和田神社の社務所の一室に、やむなく有妃史澪いやイ
ヌに部屋をつくっているときでもあった。
・
・
・
・「なんでしょうか?ワッだ、んな様…」「…何でもない先パ
…フミオ。」
・
・…「ハイ。だんな様。」
・
・
・
・
・…はて?何時思ったことだろう、叡智の源?どこから?…
それは反復していた。
・
・
・
・ -56p
・…母はとんでもないことを知っていた。特に風呂上がりは
饒舌だった…能直はずっと年の功と思っていた。そしてそれ
は、有史以前の鎮守さま達の経緯伝承と鎮守さま同志の不整
合・神話系譜の不整合がどんな経緯で生じたかも知ってい
た。能直はあれだけ楽しかった中学の歴史が高校進学以降全
く楽しくなかった。これは二中…社会科の伝統だけだったの
かも知れない…それ故母の昔話や神話はとてつもなく“寺子
屋”的で魅惑的だった。…母は詳しくは語らない、そのため
に病気になったことをシャンプーの残り香が匂わせていた。
・
・…それでも母は他の切り口できっぱりと言う。 …
・…
・「…神話や昔話を丹念に考えると頭が変なるから鎮守さま
廻りに止めておいた方がいいわ…でも、ナオみたいに歴史や
神話や昔話の方から入ってきてしまうのであれば…丹念に考
えないとダメなの。…夜にね、昼間、丹念のすると母さんみ
たいになっちゃうからね…。」
・「…昼間の時相…哲学・思想・イデオロギ・労働で神話を
洞察すると誰も彼も何物の対象をも分け隔てなく禁欲・不毛
・殲滅・破壊に走ってしまう、ナオくんおバカだけど“ナゼ
”と国語力はすごいから母さんね、とても心配なの。…行き
詰まる心配…」
・「…特に神話の役目は命を育み・繋ぐこと、…生物個体の
生もそうだけど、生殖の性も強く刺激するの…だから神話っ
てとてもエッチなんだょ…それに覇権暴力。昼間の覇権論理
から生まれるキシミ…それと我慢…とても危ないワ…」
・…
・「でもね」
・…「ナオに憑く~沸いて出るどんな欲望も受け容れなさい
…けど、自分で処理をするの。これは守ってちょうだい。…
ナオは大好きだけど、こっちに矛先を向けないで、難しい年
頃だし、女としての母さんなんて、吐きそうなほど嫌いでも、
誰の嫌がることも絶対にしないの。この母を拒否しないの、
我慢じゃなくて護るの…。違いは分かるでしょ?」
・…“何…かあさんハナシ話半分自分にいってない”と思う
と「はあ」…気のないため息が漏れてしまう。
・
・「…ナオ、一緒に消えたい…程可愛いの…、母として色々、
我慢し、護ってるんだからネ…」
・…
・…そう、凍りつくしかなかった…。
・… -57p
・…能直の沈黙・ため息には幾つもの“? ”があった。
・…あのときだって
・…能直にはいくつか飲み込めない事柄があった、父との相
克する感情~激情を母朱樹が抱えているのが何故、この様な
濃密な密着が発生するのか?…そんな顔をきっとしていたの
だと…そう能直は思った。
・「これはパパとの仕事でもあるの…」「パパ、神官でしょ?
でも、現代物理学にも関心があって…わかり易くいうと陽子
と電子、電荷で考えると瞬時に引き合ってくっついて崩壊し
て大爆発する…はずなのに…壊れない…数学的な点の美学が
すでに壊れて流動、すれ違っていたから…点ではなく波打つ
流動…だから大爆発的な壊れかたをしない。…みたいなこと
をパパの数学では説明出来ていないの。まるで好きの時空が
違う母さんとパパみたいに…まるで波と点…上手く言えない
けど…だからかな…」「崩壊しそうな接近は何かを伝え続け
ている…みたいなね。」「物理学ではこんな変な事は、陽子
と電子ばかりじゃないの…ほかの階層でもね…」
・
・
・
・…能直の脱落…母への追想~曇り…それは反復していた。
・
・
・
・…二中の…
・…勤勉を絵に描いたような学年主任は昼間の時相に従って
動いたに過ぎない、人故、脈々と蠢く大学イデオロギーの巣
窟に長居すればよほどの生命力がない限り、染まってゆくも
のである。…中二病、史澪の毒舌があったにせよ、殲滅の矛
先が史澪に向かった。 -58p
・…事件後の文芸部兼哲学研究会は史澪の卒業間際まで楽し
かった。何より美形、太めのグラマーだった有妃をまるで女
扱いしない能直は史澪にとって、能直の現代の国語力が史澪
にとって、替えがたい安楽椅子のようであった。史澪なりの
女帝臭もワダ。にとって不愉快なものでは無く、体温のある
楯・安全装置でもあったからである。…さて最後の文集はな
んだったんだろうか…史澪が卒業してからはそれなりの空虚
感はあったが、かといって死んでしまうような無間地獄でも
なかった。記憶は淡かったが途切れたり脱落していた訳でも
なかった、たいして面白くもない時間が流れていた…それだ
けであった。…そう。辛いといえば薬学部に入り一人暮らし
の空虚感は能直を酷く責め苛んでいた記憶はあった。…記憶
の濃霧は大学時代が顕著であった。
・
・…やはり母が…母に纏わる記憶の曇りがあった、その曇り
が史澪に及んだ。
・
・…何よりあの愛くるしい有妃史澪がどういう経緯で、この
こんな冷たい爬虫類になったのか…それを繋ぐ“…あのとき
から…”に纏わる記憶断片は出てこなかった。
・
・
・
・
・―干磯再会前夜・あのときから史澪は失速していた
・
・
・
・
・
・…史澪は大学に入る前から思っていた…だがこれは受験勉
強への集中力を酷く失うものであった、能直の保護者~姉の
様な荷を負ってきた所為で、ある種のテーマを巡って考える
ことが際疾いことを保護下の能直から直に学んでいた。
・能直はよくトラップに嵌まる、日常動作が遅れる…そして
しばらく一~二週間腑抜けみたいにボーッとする。 “今、
眼の前の、その先に何があるのか? ”…とかそんなことを
呟きながらしばしば呆然としてしまうのである。だからバカ
にされ、時によって競いの枠組からも外される。 -59p
・“何故… ”一見、学問を極める大事なキーワードのよう
に見えるのだが…能直はしばしばこのトラップに堕ち、その
度毎に史澪はそのトラップから能直を救済する…と言って
も、言葉の暴力で叩き潰し、論理と得点・稼点のルールの紐
で縛り上げ、能直を坩堝から引きずり出す、下劣で少々エロ
チック~支配的な手段で史澪が腐心してきたからである。…
史澪自身も“その先 ”や“何故に ”誘惑されるタイプでも
あった、…そんな経緯でこのトラップには嵌まらないように
この魅惑的キーワードに蓋をして来たのである、能直の深刻
なトラップがあったからこそ蓋ができたのである。
・
・…半べそをかきながら、トラップから引きずり出された能
直は…「母さんは…『ここを考えては前にすすめないのよ、
前に進んで初めて分かってくることもあるのよ。』…って。
…分かってるけど…ミオネエ…僕止まらない…自分で止めら
れないんだ…(鼻水)よ。」…を能直は繰り返してきた。
・
・…こうして、史澪はこの誘惑的キーワードに封をしてきた
…そうして、懸命に勉強して、そして、大学に入ったらこの
封を解いてみようとも思っていた。
・
・
・…もう一つ史澪を追い込むものがあった、史澪の聖女伝説
である、中三最後の文芸部の活動は魔女の烙印から解き放た
れたが、それと引き換えに憑いてきたのがデッチあげられた
聖女伝説である。…不自然で急進な進学校化は史澪の手柄と
され聖女になった。だが史澪にとって栄誉ある伝説は勝者の
景品でしか無かった、魔女に降格の選択肢もあったが、能直
がされてきたスケープゴート・迫害の再演でしか無かった。
故に高校では勉強が史澪を守る防火壁・防虫網であった。…
こんな無理は三年くらいは可能であった。 -60p
・…ところが、志望の大学に入って、溜め込んできた魅惑的
キーワードの封を切っても、子どもの頃の能直と全く一緒で
脱力するばかり、何故か虚しく空回りするだけだった。新し
い着想や発見の芽なども出てこなかった。脱力と同時に睡眠
と夢見が増えるだけ…まさに『浅き夢見し酔いもせず…』…
以降、史澪の成績はガタガタと下がっていった、…何処か、
輝かしい中学の文芸部時代にその外部にいた強者達、から復
讐されているような気もしていた。…幸い史澪なりの些細な
発見もあり元よりの才能もあって研究・研鑽はできたが、量
・質とも大学の専門の水準のものでは無かった、…愛好者の
レベル、質はそれなりに史澪は自負していたが…明らかに異
質…領域が明らかに違っていた。異世界。…大学入学以降、
微睡みも夢見も睡眠時間も多かった、留年を重ね、除籍がチ
ラつく頃には発見や着想の転換を暗示する夢など全く見なく
なった、不気味で背徳的…ほのかな独占欲がトリガーで小さ
い男の子が死ぬ・呪われる・生きたまま解体される浅い夢を
延々見させられる…夢のない睡眠であった、…小学生の頃の
幼気でおバカな能直が忘れた頃にちょろり出てくるのが救い
といえば救いだった。…失速といえば失速、狸寝入り・微睡
みの様、時の破綻といえば破綻…停止といえば停止、嗅覚特
化のイヌ、…回避?祓い?常魔法?いえいえ、そんなたいそ
うなのではないです、…“只のトンズラ犬”…。…一緒にい
たい人はいる。でもその人は呪われてしまう?…呪ってしま
う…“サイコロ-クソゲー”の匂いね、それがとても恐い…
とても。胸の奥…胃から下半分、沈黙臓器…、副腎“三つ”
二対と左胸のと…腎臓が疼く。…連鎖~伝染・感染の匂い。
…中三の時から、だから遠ざける、気配も消して。…幾重に
も繰り返されて来た…から。
・
・
・
・
・―文芸部入部、昼下がりの文芸部
・
・
・
・
・
・…「中学に入ったら文芸部に入ること。」「ワダ。入部し
ないと廃部になる!」…といつものように有無も言わせない
有妃の命令が入学前からあった。…入学の週の放課後、入部
手続を済ませ担任に部室の所在を聞き、能直はそこに向かっ
た。入ろうとしたその部屋には遠くまで届く異様な緊迫感が
あった。…織機のスピンドル油が微かに香る…見るからに新
入部員と思われる女子三人も部室に入れずドアの前で固まっ
ていた。
・ -61p
・…部室のドアの向こうからは、恐らく二人、静かなやり取
りがなされていた。言葉遣いや語気は柔らかで淡々としてい
た、ただ二人とも語尾のトーンは少しだけ硬くぎこちなかっ
たかもしれない…部屋に拡がる紋切り型語調の余韻・微かな
フラッター・エコーだけは異様だった。
・…入りかけた新入部員の女子はドアの取っ手に手をかけた
まま凍りついていた、ドアの微かな隙間から単語のはし端が
聞こえた、…エコーに紛れて聴き手の重い溜息も累った。…
フラッターの響きは、開戦するしないで…二人とも開戦した
いが血は流したくない…、小国の女王と女首相との不毛、結
論の出ないバトルの様にも聞こえた。…
・「…ナカヤさん…仲山さん?あなたは文芸部を思想研究部
にしたいの?思想研究。」…放課後のグランドからは爽やか
な声やノイズが聞こえる、
・「ですから。…というより部長だって関心の中心は哲学や
現代思想ではないですか?看板に偽りはないですか?」
・「仲山さん、その通りですが純文学に…文芸に敬意を払わ
ないことにはわたくしは反対。…芸術の芸の字が消え失せる
のは…それもわたしの代。…でね」…野球場から安打の快音
が冴え渡る。
・「…そうです部長、ですから、芸の字が部の方向性を見失
わすのです。部には共同での作業が必要なのです…部活動の
存続には五名以上の部員が必要なのです、ですが芸の一字が
個人の方向性をバラバラにさせてきました…歴代ずっと。」
・「部員の大半は卒業してしまって、今はわたくしとは仲山
さんだけ。万一部員が来なかったら、廃部。」
・有妃は続けた…
・…「…人が集まるようなセンセーショナル、知性をくすぐ
るような、文学少女だからこそできる評論…そんな共同作業
が出来るような…たとえば、『“耽美主義の救済”』…みたい
な評論…硬いけど、ちゃんとした文学少女は飛びつくと思い
ます。…“もちろん逆説ですよ”。…文学少女はいるのです。
少なからず。看板は自ずと、彼女たちが決るのでは?」…
・「仲山さん。…逆説であっても、そうでなくても…危ない
ですね。…わたくしたち二人はともかく新入部員や、対外的
にも危ない匂いがします。…それは懸念すべき伏兵・潜在課
題です。」 -62p
・…また野球場が沸いた。仲山は暖かい息を吐いた…
・…「この仲山、部員の底上げやサポートは有妃部長以上に
力を尽くします」
・
・「部長のわたしとして…危ないばかりも言っていられませ
んし…その線で部員を集めて見ましょう。…人が集まらなく
っても、廃部になっても、何もかも干上がった渚に…過剰な
確かさで干上がってしまった此所に命の花が開くのは大事な
ことの様な気がします…が…瀬戸際のフラグも立ちました。」
・
・…
・
・…フワーッとその場が和んだ、サッカーコートからの声援
で文芸部室の時間も溶けた…。
・廊下側…ドアの取っ手に緊張をかけたまま凍りついていた
美少女の時はいきなり融解し…軋んでいたドアが勢いよく撥
ねた。顔も見えず後ろ姿だけでしかなかったが、仕草・制服
の着こなし・髪のつや・少し緊張した指先などからして誰の
目にもそれは顕かだった。…後姿の美少女
・…後姿…時間の溶けた美少女は、室内の溶けた緊張…崩れ
かけたバランスを補償するように…心理ベクトルのままに、
文芸部室内に数歩入ってしまった、…そしてまた時が、固ま
りだした。
・…異様なテンションの会話から想像しうるビジョンは、古
い王政の執務室では無かった、近代与党の錬れた女性大臣と
死線を越えてきた野党の女性党首のディベートであったが、
なだれ込んだ後ろ姿の美少女の見たものは、自分ら以上の可
憐な上級生―副部長仲山茅夏ともう一人、自分らと同質の容
姿…華のある…、部長の有妃史澪であった。
・
・…「…あ…、あの、白熱した討論に聞き惚れてつい、入っ
てしまい申し訳ありません。…」…文芸部の二人は大好きな
喧嘩を止められてしまった江戸っ子みたいに、割って入った
人物に摑みかかりそうなバツの悪い雰囲気になっていた。
・ -63p
・「…入部希望の…わたくし、長渡恵美と申します。宜しく
お願いいたします…。」ヒョイと頭を下げ廊下にいた二人の
女子の方を見た、爽やかに微笑んだ花があとの二人も部室に
誘った。
・「聞こえてしまいました、興味深いテーマだと思います、
御兼利恵子です…」
・「すえうち…陶内紀子と申します。リエコと同じく…もう
決めました。」
・
・
・
・…さっきまで熾烈な論争をしていた部長の有妃と副部長の
仲山茅夏は雰囲気、全くの別人になっていた。「…人も今期
のテーマも決まりね!」優しい部長の目は…文芸部の存続も
確定したのだから…。
・
・…有妃は廊下にもう一つ黒い陰があるのに気が付いた、ワ
ダ。だった。中一の能直は華奢で小さかった、同級の三人の
乙女より小さかった、男子の学ランは濃い藍色、小さな能直
は陰としか言い様がなかった。
・戸波の二中の女子五人は灰色のブレザーであったが、“花
たち”がそれを羽織るとブレザーは放課後の陽差しでほのか
なシャンペンゴールドに輝く。
・
・…花の中心が、“朦朧回廊”を巡る能直を呼んだ、
・
・史澪は自分の席を空け視線で能直を誘導した、小声で「宜
しくお願い、いたします。」楚々とドアを閉め史澪の指し示
す椅子に座った、「長年、わたしの影武者…ガーディアン、
ワダ。能直だ、…と或る事故以来、国語力が開花した逸材だ。
元々の学力・国語力も良かったがね、…その上でのバカだ。」
・…有妃部長はワダ。の首に抱きついてきた。「ワダ。入部
手続きは?」「…済ませたよミオネエ」…「ミオネエ?…ま、
いっか。」「…ワダ。ここでは、部長でもいいんだョ。」能直
の首に史澪の腕が巻き付いていた、花々に囲まれてか?、首
に軽い圧力がかかったか?…能直は頬が紅かった。
・
・ -64p
・…時が経っても、有妃と能直の距離は異様に近いままだっ
た。…会議の議題はしばらく学園祭の文集作成だったテーマ
はほぼ決定だった。…「有妃先輩…なかなか睦まじい光景で
すが…『耽美主義の救済』…残念ですが、ガーディアン、男
子とは言え華奢、それもイケメン無縁の普通男子、ゴメンネ、
謂難クインダケド…和田君はあまりにも冴えなさ過ぎ…耽美
が涸れてしまいません?…守れるポテンシャル?疑問です。」
・
・…「うん。…もっともだ。病み上がりだし…」…と、
・…史澪は鞄から口紅とアイブローだけ出した。…「ワダ。
そこにすわっていて…」史澪は手際よくワダ。の唇に紅を落
とし睫毛を伸ばした。林間学校に遭難以降足かけ2年…出没
していた昏睡で肉は落ち、肌は湿潤していた、普通の彫り・
ありきたり普通の貌・普通のさりげない小さな眼…に史澪は
ササッと化粧を施した。…史澪にされるがまま、…見る間に、
きらびやかさこそない月並み。だが、浅く淡泊で凡庸な彫り
が童女を強調した、目の光の柔らかな可憐な依り童が舞い降
りた。…「…ここで影武者をして貰うワ…構わないよな。ワ
ダ。」
・
・有妃の腕が能直に再び絡みつく…
・「…~ぃぃけど、ミオネエが望むなら…別にいいよ。」・…
擦れた声が響いた。
・
・…されるまま、感情の起伏も殆どない、声変わりもしてい
ない、…そんな能直の応答に、同級の女子たちは眩しそうに
見たり・はにかんだ頬に手をあてたり・可愛い小口をポッと
明けたり…それは、それは表情の万華鏡だった…女闘士―仲
山茅夏だけは終始、眼を細め濡れた唇をフワッと微かに開い
たまま、固まったまま、まるで有妃から能直を瞬時に奪って
キスするどこからかのキューを待っていたようだった。
・…と、…それぞれが眩暈した。
・
・
…ボランティア・作業服のオジイチャンがいつもの様に手
際よく廊下を掃くささやかなノイズ音が校舎を包んでいた。
・ -65p
・…人畜無害、文芸大食、ワダ。…和田能直の濡れた唇から
飲みかけのアールグレイ、汗腺から微かな中性少年の汗とア
ールグレイ-土、薫る茶葉のカリウムとベルガモットの臭い。
「…春先、戸波公園の土の匂い」思わず有妃は呟いた…。そ
こでまた、実時間は澱んでしまった。
・…匂いはベクトルを持つ、だが必ずしも発生源から放射す
るだけとは限らない…少年の精神性発汗は何と言ったらいい
のだろう……そう、うさんくさくなかったし悪くもなかった。
…それは少年から出てきたのでもあったが、学舎の吹溜り…
機織のスピンドル油と乙女たちのシャンプーの香りが吹溜っ
ていた古い文化系倶楽部棟の全体からの匂いが重ね合わさっ
ていた。…だから時が澱み育んで来たと言ってもいいだろう。
…
・
・
・…「この倶楽部棟に響く谺や香りの混ざり合いが防護と拡
散・害意固定になる、…華奢だがこのはとこみたいな遠縁の、
和田能直、力になれる…根拠はないけどネ。ン、家訓みたい
な…」…と。
・
・
・…有妃部長は淡々と小声で続ける…「言葉にしたらとても
グロいし…アロマといい換えてもエロすぎ…」「文才・洞察
もさることながら隠された…エロスは…彼の汗腺とわたした
ちの嗅覚で目覚める…家系の所為みたいです、…それを感じ
ちゃう女のエロスは耽美と言い換え可能です、…ですから単
にライターでなく“香気武者 ”…影武者なのです…即戦力
はありません…けれど…香りは女のアンテナ-コトバ…この
特殊言語は融通の利く鎧なの…。力任せ・数任せ・カラ元気
・贄などを返上する勇気さえあれば誰にだって…ま、贄の要
らない常魔法?…」…「筆でも何でも、行き詰まったら、ち
ょっとだけ”ワダ。”をからかってみて…少し勇気がいるの
ですがそれなりの答えは出て来ます。…」
・…「それから、ワダ。…ここでは部長。」
・「ぅ。は、はい…」
・
・
・
・ -66p
・―新年度文芸部
・
・
・
・
・
・…一時退部した三年部員が復帰した、といっても二人とも
新年度の活動~内申を見込んでの復帰、受験メインの完全幽
霊部員…したがって対外的なポストは部長と副部長を独占す
る。実働の部長は…三年の有妃史澪、正式なポストは会計、
実働の副部長は仲山茅夏が二年、一年は書記
・雑務の和田能直、他、御兼利恵子、陶内紀子、
長渡恵美の計八人。…ま、実働6人
・それから、有妃と仲山との論争の騒ぎでオブザーバー役を
買って出てくれた二人がいた、…総勢8。…料理研究部の部
長菅原寿椰子香道の家元のサラブレッド―至高の
絶対マドンナ…とか椰子の姫とも言われている。当人、スー
パーで売っている370円のシャンプーしか使っていないと
いうのに、椰子の姫のいるフロアー一体はハイビスカスが微
かに香る…したがって彼女の周りの時間は和んでゆったりと
流れているような異空間を従えていた。ホリの浅い大和撫子
だがそれぞれのバランスがいい…どのアングルでも絵にな
る。 -67p
・…もう一人の仲良し…出口董子超個性異能美女、
小六、年初の時学年主任と壮絶なディベートの末、大柄の男
性学年主任に首根っこつかまれても言い負かした女闘士、仲
山茅夏に比べるとやや理詰めが弱いが直観と情念の粘着で…
そしてリズムで、駆け引きなく押し切る、…相手が呆れて絶
句したところで最後は太い理屈で抑え込む、…その小六の一
件も目撃者も非常に少ない故、女闘士の陰は薄い、和田が伝
え聞いたディベートの内容は戸波小の進学校化に纏わるもの
だという、容貌では菅原寿椰子より目鼻立ちクッキリとし眉
は細いが濃く…そして美しい、その眉のイメージ通り言行は
辛辣でもの静かなマドンナの要素は皆無…エスニック。男女
とも幅広くバランスよく交友をもつのは菅原の方だが、辛辣
な言行に鈍感な能直とは出口の方が距離は近かった、能直は
出口のその毒舌を逆手にとって遊ぶ出口の数少ない男友達で
あった。
・…料理研は文芸部との部室の距離は離れていたが、二人と
もテレパス的聴覚で文芸部から発する「耽美」に反応、有妃
・仲山の騒ぎに駆けつけていて事後、二人にはオブザーバー
役と文芸部の活動に一肌脱いでくれるということのようだっ
た。
・
・…文芸部の3人の一年女子たちも戸波小では有名だった。
皆、かなりの容貌だったがそれ以上に性格的にも活動的・多
動的で好意を込め“三バカ”の愛称が罷り通っていた。…能
直にしてみるとさほど異性を意識することがなかった、多動
のヨシミもあったのかもしれない…明るく爽やかな“三バカ
”は戸波小から名を馳せていた、戸波小のマドンナという要
素も多かった。…静かな香りと佇まいのマドンナ-菅原寿椰
子と違い三人は活動的・能動的であった。…御兼利恵子は能
直の級友…御兼の信奉者-谷田部泰。その谷田部によると、
クラシック・プログレロック大好き…“和声志向”、運動万
能の谷田部とは好対照であった。…陶内紀子は、
短距離選手の利久龍太が仰ぐマドンナ、J ポップ・ヒップホ
ップ、それと何故かの童歌…“リリックをとても大事に”し
ていた。…長渡恵美は親友、杵築孝多バレー部アタッカーの
マドンナ、古いハードロックや日本語のロック・呪文の様に
反復する“リズムが大好きでその中に秘められた数学や言語
”を感じていた。…結びついているかどうか分からない、中
津区の近代化と背中合わせの様にも思う…長渡は叔母と一緒
にバックロードホーンスピーカーを作り込んでいた。長渡が
言うにはバックロードホーンには神社に詣でる際の“柏手”
と同等の神聖な相互の浄化作用があるとか…そんな所為もあ
ったかもしれないし偶然かもしれない…。…クラスも違った
し、戸波小から三人は好みもバラバラだったが…他者尊重…
古いコトバで個人主義的で、志向の違いを基本的にリスペク
トしあえ自然引力…三つ巴の複雑な相互作用と調和が発生し
…互いに感性や技の盗み合い~波の様な重ね合わせ…昂じて
小5の末にはバンドを組むようになっていた。 -68p
・…この仲良し三バカをマドンナと仰ぐ信者達の距離は気に
なる所だろうが、中性変態の能直は頓着しなかった。
・
・…新年度文芸部の活動は幽霊部員を除くと実働八人で初秋
の学園祭までに『耽美主義の救済』をテーマとした部誌の発
行がほぼ決定しかけていた。
・
・
・
・
・―お題、「耽美主義・救済」:初回ミーティング
・
・
・
・
・
・…
・…「…さて、十九世紀~真実や道徳ではなく、美を最高の
価値、人生最大の目的であるとする芸術、生活上の立場…耽
美主義とはそう言われています。…ですが、道徳や真実を忘
れていいのか?…耽美主義は道徳や真実で救済されなければ
ならない。…そうではないでしょうか?」
・…その日は朝から雲が厚く~重く、放課後は今にも雨が降
り出しそうであった…副部長・闘志・仲山茅夏は力強く続け
る。
・
・…「時の変わり目に神話が動くのかもしれません」
・…「寒い冬の“膠着”を祓う、そんな春のようです。」
・
・…「耽美は…とても魅惑的、そのため誘惑的、水面に映っ
た自身の姿に魅了され水に取り込まれてしまったギリシャ神
話のナルシスのように破壊的。…そして耽美にはもう一つ、
豊穣と春の女神アフロディーテのように自身が属性として持
つ愛・憧れ・欲望ゆえ、この多情の女神は幼少時より数多の
神々を翻弄し、…そして、美少年アドニスを執拗に庇護し魅
了し束縛する。」 -69p
・…「そのアフロディーテの多情と対のナルシスを取り込む
水面の破壊性は“安定膠着のパルテノン世界”を酷く不安定
にさせます。…耽美主義を“真に全うするため”、道徳や真
実の取込みを疎かにすると…、耽美は、内に秘めた深淵の破
滅衝動を静かに取込み染み込み、周りの安定膠着に拡がり浸
食し…ついには全てを破綻する。耽美主義の静かな表層が、
瞬間の衝動と化し翻る…それは醜い、余りに…。」
・…
・「“耽美”…美を希求する運動は、単に十九世紀に開花し
たものでは無く、名前・有り様を変えながらギリシャの太古
からあったもの…、消長し充ち・欠けを永劫回帰してきた、
だから昇華救済して充ちも欠けもさせない…技・生活上の立
場・信条…それが耽美。」
・…「だから!」
・「正しくかつ陰らない完全を取込む、それが耽美…」「耽
美の陰りを救済するためには『膠着しがちな道徳や真実につ
いても、正確に理解しなおす』必要があると思います。…」
・
・「…それと…」息を整えている仲山茅夏…
・早熟で賢いとは言え中学生の脳は多大な酸素を要した。
・そのナカヤ・チカに有妃は…
・
・…「チカさん、長くなりそうだし此所で、休止…。私には
難しいけど…纏めると、耽美には恒久的な救済が必要で、そ
のために耽美が抱える内的衝動を均衡させるために、硬くな
りがちな道徳や真実を知らなければならない…のですね。」
・…史澪の省エネ脳はノォ~ンビリ稼働している所為でゆっ
くり深く優しい息を吐いている…
・
・「…有妃部長、そこはちょっと…違います。」「…耽美が不
完全だといっているのです、均衡をとれたとしても満ち欠け
のように揺り戻されるとも言ったのはそういうことです。」
・
・…「茅夏さん、仲山さん…、気持ちは理解します。…それ
でも、この“お題”でやれそうな気がするのですょ…違いは
あってもそこから、伴に正解を導き出せるかもしれません…
私とチカさんとが違っていても『間違い』として互いに排除
しない“ある種の正解”。」 -70p
・
・「…然したる根拠はありません、私、今、息も頭もゆるく
て…。排除のすえの孤高の正解は先鋭化の末、その自重(重
力)で崩壊するはずです…崩壊~破壊属性を持つ耽美が何故、
太古から生き永がらえているのでしょうか?…正解に魅了さ
れない強かな日常が…淡々とご飯を作るナデシコの様な日常
が、あるいは魅了されても束縛・呪縛を振り祓える…耽美主
義には“そんなの”が組み込まれていそうなきがするのです
…根拠…そんなのナイですけど…。」
・…サラリと部員を有妃は見渡し…
・…「…が、ここは弁論部ではないのですが、このお題で部
員の皆さんの筆が進むか?なめらかになるか?…これも部長
の有妃は考えています。…今年度の部誌お題・学園祭のテー
マ『耽美主義の救済』…個人的にはちょっと硬いと思います
すが、…同時に、筆を進める上で、皆さんならではのテーマ
が拡げやすいかとも思っています。…お題は部長である有妃
の独断でコレに決定しようかと思います。」
・…「さて、」
・…「論説風に仕上げようとするなら、…分かるでしょうか?
チカさん…仲山さんのように正解をイメージし、探りながら
筆を進める。…論説ではこれが王道です。」…「…私小説風
なアプローチを取るなら、登場人物の設定を出来るだけ細か
くする事、家族構成、稼業の職種、生育歴、世界観、好きな
情景とか忘れがたい風景とか…その人となりにに至ったと考
えられる出来事・事件・時代の設定、…一見バカみたいに思
える作業をやればやるだけ・記述すればするだけ、…その設
定人物は、物語上の状況・状況でそれぞれのキャラが活き生
きと表情豊かに語ってくれます。…時に書き手となる皆さん
の意思・意向に反した運びになることもあります…そのズレ
は逆に皆さんが本当は何が語りたかったかをはっきりしてく
れます。…ある意味チカさんの『膠着しがちな道徳や真理を
理解しなおす』はある意味、“設定”の練り上げなのです。」
・…淡々とすらすら物語る有妃は、息継ぎもせず、 -71p
・「私小説のアプローチではもう一つ。…今回のお題の中に
ある“救済 ”の言葉ですが“耽美主義 ”との言葉の関係で
真理、道徳…有妃個人の内側ではもっと重たく巨大な完全や、
絶対…みたいな言葉を引き寄せてしまうようです。…この場
合、物語や言いたいことが簡単に行き詰まったりします。こ
の様なときは“離レル ~ハナレ”とか、“抜く ”―手を抜
くとか…当該のキャラの情景なり風景や自生的に想起される
かもしれない事件とかを曳いてきて行き詰まった状況から離
れる・抜くことも裏技として試してみるのもいいかもしれま
せん。」
・…
・「…随筆風に仕上げようとするなら、主語的な“耽美主義
”から“ハナレ”、それよりも述語的な成分である“救済
”…あるいは“耽美-ダケ”に力を注ぐ方がいいのでは?と
思います。…力の注ぎ方は主語的耽美が外側や社会通念から
攻めるのに対し、救済への力の注ぎ方は皆さんが持つ救済と
いう言葉が皆さんの個人的内面にどんな風に働いているか?
を考えて…というか、わたしは随筆風に接近したいので、そ
んな風に思っていますが…きっと挫折すそうなので私小説的
に、救済を廻り複数のキャラの心象風景を渡り歩く…なんか
と…考えています。」
・…
・「…司会、兼部長の特権を乱用し…もちろん皆さんの意見
意向を尊重しますが、…このお題で、皆さんの目の色が変わ
ったので…それなりの心積もりを持たれているいるのではと
思います。…もしそれが言葉になるのであれば、お聞きした
いのです…。」
・…部長は仲山の論説を受け止めつつも、そこには微妙な距
離があった。
・
・部長―有妃史澪はしっかりした腹づもりを持っている様だ
った、また溺愛するワダ。…能直が何故、あんな長い間…ま
るで呪いのような昏睡~亜昏睡~半覚醒を繰り返して来たの
か…史澪自身の逡巡…自身内部に潜在し自身さえよく分から
ない魔性?…とも累なっていた。…密かに何かと競うか~抗
うか~そして備えるか?…も、…心の片隅にこびりついてい
た。…それは廃部が回避されてからも変わりなく…。
・…史澪の懸念…それは忘れかけていた今日の春の重たい雲
が、何よりも物語っていた。
・
・
・ -72p
・
・―アフターミーティング
・
・
・
・
・
・…すでに、地べたは固まっていた所為だろうか…。…先日
の重たい雲はとうとう雨を呼ぶことなく、…今朝は気圧も高
く晴れていた。微かに残った湿気は天女の羽衣の様に光を散
乱させ、クリーム色の朝日は明るく優しく…散乱光で陰は淡
く…光は物陰さえも遍く照らした。…陰…贄を作らないこの
国の常魔法的日常風景…。
・…朝早くから、戸波の有妃の社務所に、有妃史澪、仲山茅
夏、御兼利恵子、菅原寿椰子、出口董子の影があった。…金
曜の夜、翌朝の朝飯前、集まれる有志は集まると俄に決まっ
た。
・能直は母との所用で欠席、陶内紀子、長渡恵美は午後参加
の予定であった。幽霊部員らは午後参加予定だが来そうにな
かった。全員寝間着、有妃はパジャマにカーディガン、仲山、
御兼はジャージ、菅原は古着ジーンズに割烹着、出口はパジ
ャマに加え玄関まわりの掃除用具一式持参していた、いつも
の様に自宅周りの玄関掃除をしていたら仲山に声をかけられ
そのまま有妃の社務所に連れてこられた。 -73p
・菅原は有妃ともに簡単な朝食の準備のため社務所の大広間
と厨房を往き来している二人とも忙しないが楽しげに来訪者
をもてなす。…来訪者たちの出で立ちは朝のパジャマパーテ
ィー、ほぼ寝間着の…極めてラフな姿と中学女児の温かく柔
らかい真皮・貧相な皮下脂肪は表皮が発光しているかの様だ
った、パジャマが包む身体オーラは髪の美しい能動美少女…
(訂正:妖鬼…)達が粛々と無邪気に巧んでいる、…有紀の
社の社務所はそんな妖しくも可憐な光と空気が溢れていた…
解像度の高い正面の黄斑で見る限り、何処にでもありそうな
風景だが…視線を斜に構え視野の辺縁で見ると妖鬼たちのパ
ジャマには蜻蛉の羽根が延びゆらりゆらり羽ばたき湿気を創
っていた。…贄の要らない常魔法である。
・…山の様に巨きくなったアフロディーテの拉致をかいくぐ
る美少年アドニスの様・太母アフロディーテに魅了されない
・束縛をかいくぐるナデシコ…未熟さの中には少女の暴力フ
ェロモンが潤沢に残されていた。到着が一番遅かったのは仲
山で、上座に座らされた、掛け軸には富嶽参詣曼荼羅…すで
に一年生達から「チカさま」とあだ名された先輩はとても居
心地が悪そうに…新しいお店・流行・話題、花色のノイズの
中で、独り言のようにしゃべり出す…「この席は、…で司会
…?」皆がウン・ウン肯いた。
・菅原の出すほうじ茶が香った…
・「…ここは有妃さんが言い出すことなのでしょう…でも先
輩忙しいし、対立していた私が喋ったほうがいいでしょう。
…今年度の此所は『逆説』なのだと私は思います…これは飽
くまで私の作戦です。参考してもいいし反面教師にしてもい
いのかなとおもいます。…さて私の―逆説―ですが、『耽美』
を多方面から叩き・攻撃してゆきます。…そうしながら攻撃
しているのは私の内面ではありますが、『実の根っこは外に
ありました…』迫害してゆくもの―迫害主体を観察してゆき
迫害しているが自壊していることを明らかにすることで『耽
美』を救済する…危なっかしさはあるけど、…そんな作戦…」
・「…ありがとう仲山さん、人員の面で廃部は免れましたが、
学校当局は…活動内容如何で取り潰す腹づもりみたいです。」
・「…つゆ知らず…先日、有妃先輩とぶち当たったのは私の
『逆説』と先輩の“逆説のイメージ ”が違ったこと、と…、
内面を晒す危なさ・迫害主体が壊れなかったときの危なさ…
は相互の理解は得られたと私は思っています。」
・
・ -74p
・「大事なホネは、キミたちの思うように書いてください。
只…、皆さんすでにお感じのように、書いてゆくうちにどん
どん書きにくく…書いてゆくテーマが呆けたり、同時に巨き
くなってくるときが有ると思います。…書きにくいことは書
かないでいいのです…当たり前ですが…論理は刻に書きにく
いことを『書くように…』と誘導したり強要しがちです。…
文自体に詩的な要素や視点が揺らぎ過ぎているときの論理
は、楯です。が…書きにくくなったその時の対処は…数学の
未知数あるいは代数〈X〉のように数値=言葉や文字…を置
かず、そのものでは無く未知数に類似し近辺にある事柄でわ
かり易いことを明確にはっきりしてゆく…そうしてゆく中、
勇気を持って自分自身の気持ちを少しずつ乗せてゆく…で
も、無理はしなくていいの…」
・「…此所まで、誰もが併せ持っている~持って居ていてい
いことでしょうか?、…ここからは私的なこと…ずっと引っ
掛かっているのは二年ほど前の、秋の林間学校の遭難事件で
す。みんな知っていると思います。…私は無事で和田君は二
年弱生死を彷徨っていました…和田君も私も―当事者―と言
われてきました…裏で“代数的”に、私は雪〇とか魔〇とか
言われていたようです。…私の言いにくく書きにくいことは」
…
・…「…『わたしたちは当事者ではない…ワッ。…ワ和田君
は弟の様な感性で好きです、でも雪〇や魔〇や耽美の住民で
もない只の生活者~汗かアールグレイ臭がせいぜいです、…
雪〇や魔〇みたいな代数<X>の機能~負の属性~匂いを漏
らす当事者は他にいるのです。…私の周りに。…その当事者
と繋がり深い人々がこの中学にも居て、戸波小学校と同じよ
うなことをしている…企てようとしているかもしれない…。
有妃や和田も、寺子屋から進学校になるため3泊4日も無駄
にする林間学校“も”邪魔。』…ということです。」
・
・…
・「…やはり、そうだったのですね…あの件以来、有妃先輩、
とても静かにされていたので…逆に心配でした…。よくご無
事で…本心が…聞け、て…」一年の御兼利恵子が…
・
・「私が知り・感じる範囲では皆さんそれぞれの…」
・…
・「頑張って書いてみようと思いますが…文芸から離れてし
まうようなら作品の提示は諦めようとも思っていますがメモ
の類いは此所の場だけでも開示できたらと思います…3つカ
ナ…“一つ目はブレーン”カナ…」
・
・
・有妃が口を開く。 -75p
・「…私、密室はできるだけ少ない方がいいと思っています
…というか、すでに文芸部そのものが密室のようになってい
ますし、秘め事は少ないほうがいいし、わたくしは気楽なの
がいいのです。…お察しのとおり実務上の部長にはブレーン
というか黒幕というか共犯者というか…智慧を授けてくれた
り、舵取りを手伝ってくれたりする人がいます、“文芸部歴
代から引き継いできた暗号~黒幕 ”とか言われている方の
ことです。ここの正式な職員ではありませんが…」即座、そ
れぞれの眼が交う…「…現役では校長先生をされていたよう
です…世間的には著名な方ではないのですが小説をプライベ
ートで書き続けています。…ブレーンはここまで公にするこ
とを許容してくれました。なお、文芸部顧問の磐佐先生は外
圧を案じた上で全て承知しています。ブレーンは、…危ない
ことがないように・壊しすぎることの無いように、そこは勝
ち負けではない世界、見守っています。…とのことです。」
・「…それと私とって意外でしたのは、ブレーンの知る限り
最も危ないのは辛口の茅夏さん…陰~当たり障りのない優等
生ではなく…この有妃史澪なのだというのです…繋がりの薄
い個性的ボッチ…清濁を吸引する便利な聖女、この私が最も
“スケープゴート”をデッチあげ・烙印しやすい…というの
です。」
・…有妃は顔を真っ赤にして…
・…「セクハラ…です。…まぁ私もへこみましたが、…あの
林間学校事件の人間が無事でしかも渦中の人そのものと知り
…いきなり抱きしめられ頭をナデナデされながら…『被害者
が加害者扱いされてよく耐えましたね。その苦境のなか何ら
かの力を引き出して弟さん?を救い出したのですね。…素晴
らしいではないですか!』と。…有妃の内面の無事を愛で…」
・…「…なんって…いいながら」
・…「一番危ないのが…私、『雪〇や魔〇の烙印背負わされ
たのですから』とか…言って…酷い…PNPの原則:褒めの
P→指摘~貶しのN→褒めのPにしたがって父親からもされ
てこなかったことも…頭のナデナデ…なんだかとても。…放
課後とはいえ校舎内で…」
・…「それと…噎せ返るような護摩…甘い葉巻の加齢臭がエ
ッチ…正式な教員なら葉巻臭の近接、それだけで死刑…デ
ス。」 -76p
・
・…憤慨なのか戸惑いなのか?…側で聞いていた安定情緒の
女王、菅原…椰子の姫は耳まで真っ赤になってフリーズした
ままになっていた。…暫し可憐な香道の宗家の姫耳に注目し
ていた、姫は頬に両手を当てたまま何も言えず唯々紅くさせ
ていた。…まるで護摩を焚く老人と陰ろう羽の妖女…とても
“美つ奇しい”ものを見たかのように、…
・…唯々、沈黙。…
・
・…有妃は色香で締め、メモをチラ見て…さらに時を進めた。
・
・…「今、少し思い出しました…その1つ目のテーマだった
=ブレーンは私に物語ります…。」
・
・…「…『雪〇とか魔〇とかを伝え聞いた事実は変えがたい
ものです。』…と。『ですが一つ、曖昧な音声情報を部長さ
んが作り上げた可能性、』」
・「…ブレインはいいます、『もっと重大なのは…“二つ目
”、…部長さんと世間でまかり通っている…雪〇とか魔〇と
か…というものが実体はいかがなものかと…“実体がない故
に、今でもそこに纏わり付いている心象を書き加える”…場
合によっては書き換えることだってできます。観ようによっ
ては“過去改変 ”…今期のテーマ的にもいいのではないで
しょうか?…』。」
・
・…微かな湿気は醸造…醤油・味醂の匂いを喚んでいる様だ
った
・ -77p
・「…『“三つ目”は難しくて蛇足としたいです、…引率教
諭が責任の遭難と一緒に雪女や魔女などの物の怪が憑いて出
てくるのはおかしな話です。確信犯的な火元~胡散臭い匂い
…風の噂みたいな数多なもの…でなく…火元にドーォンン。
と大鬼・魔王とかが独り坐し構えているかもしれませんね…
操られる人数の勝ち負け、テーマの単純さではもう負けてい
ますネ…此所は…。…潰し合い・勝ち負け、そして頂の勝者
を襲う呪いのような孤独を傍らにおくシカト…。…そんな勝
負だけの世界とは無縁の場…自生する視点の多様性、競いと
は無縁の個性が花開く花園…は文芸の世界にはあります。…
そ、それに、アイツラ、は、打ち負かすと善悪関係なくドン
ドン凶暴…勝利こそ命…になってくるものです。』…」
・「…『文芸は…、合理や頂点志向の科学~つねに犠牲を伴
う競いといったのとは(…→)無縁の日の当たらない薄昏い
処が文芸ですが、世界にはそんなあまり陽の当たらない小宇
宙…大きな宇宙の方にもですが…沢山あって、沢山の視点~
数多の散乱光があったからこそ直射光が作る真っ暗な陰でな
く、(…→)遍く淡く、境界を際立たせるカタカムナとでも
言うべき数多な視点。それが故…弟さん?は死線を遊び彷徨
っていたのでは?…多くの参加者を容れるシンプルな勝ち負
け~単純なゲームではなく、(…→)只ただボッチの夢中~
恐らくそれは不思議で楽しい“ナゼナゼ”の堂々めぐり~数
多な散乱光~複合の視点…それが弟の能直クンが生きて戻れ
た遠因ではないですか?』…と。」
・「…『多様なボッチの堂々めぐり“も”:シンプルで分か
り易さが多くの人を憑依“も”…人の社会からどちらも途絶
えなければいいのです。文芸は…無駄な勢い・クウォンティ
ティーを捨ててしまえばいいのですょ。…捨てるのは意外に
難しいし…棄却にも不思議に“競い”が自動的に発生してく
るから…競いには大勢で出来るためのルール、単純化が要り、
そのプロセスがルール~プログラムを創ったモノにしか辿れ
ず意識化出来ない、古いWd-95 というOSは利用者がプロ
グラム検索(…ある種のカタカムナが…)できた…不幸にし
てウイルスが比較的簡単に作れたのでWd-98 に変わり辿れ
なくなった…ですから“競いの中に排除が紛れ込んでしまっ
ても”参加者は誰も判らない。だから、排除はしない…くみ、
…与しないかな…、…。』…って。…でも、私の中にナンカ
引っかかっていて…冷水につかったような体も心も冷えてい
て何か問い返したような…。…ナンカ何処かで聞いたような
~聞いたことも無いようなホンワカ温かい言葉と女性の様な
手で優しくナデナデされて…“ボク”~果てを知りたがるボ
クは…ほぅ、呆ぅけてしまって…包まれた匂いもシャンプ
ー?…で、…変ですよねぇ…細かく憶えていません…恥ずか
しながら…」
・
・ -78p
・…辺りは既に陰を造らない光に遍く照らされ、味噌汁の具
の牛蒡?土の精の香りで敷き詰められていた。
・何よりその場は和んでいた。
・一同、頷きつつも…、宙を観、史澪の“ボク?”に首を傾
げる。…そして…その次に史澪がなにをいいだすか解ってい
るかのように、有妃をみる。…
・
・
・…「私の内側の昏い部分はともかく、私も皆さんも何処か
…あらゆる競いに小さくても何らかの抵抗感もっていますよ
ね…。この和みですから…。単純な原始嗅覚のネットワーク
~脳の嗅覚連合野で識っています。…これを感じると“こち
らは”冷感を…圧倒的参加者達は孤独に襲われシラケて来る
のが憑いてくる…みたいな…。」
・
・
・…「と…。」
・
・
・「…先輩方、話の筋をねじ曲げてしまいそうで恐いのです
が…ごめんなさいさっきの未知数〈X〉の話です、ただ、先
ほどの…数学と違いこのプログラムにさえゆとりがあればそ
の数値は共に矛盾したり不確定で流動する“生もの ”を数
値として導入でき…る…の」
・…エレキギターがないと、とても物静かで淑やかな御兼が
口を挟んで…「です…か?」と…。
・…ゆっくり息継ぎを御兼利恵子はした、「先読みの、しま
違いをしたら、申し訳ありません。競うでもなく・叩き潰す
でも無く自壊してゆくのを観察する対象は…伝統社会を耽美
―烙印として壊してゆく改革勢力と言うことでしょうか?」
・
・「ありがとうね…御兼さん」…「わたしたちが言い続ける
と…部の私物化だからね…」有妃と仲山が交互に言った。
・ -79p
・…小さな声で御兼は語る、「こちらこそありがとうござい
ます…外に表されている改革勢力は自身が正しいことを歌い
ながら勢力を拡げてゆきますが…内心はどうなのでしょう?
いつ潰され・抹消させられるか?…そうなら相手もろとも消
滅させてしまおうとは思わないのでしょうか?科学や合理の
中にはこの種の勝ち負けが内臓されているように私は思えて
ならないのです。…父の資料によれば、人間性を奪われた労
働者の処遇を解消するためヨーロッパの各地で社会主義運動
が起こりますが、ドイツはここに遅れを取ってしまいます、
…ドイツのマルクスは競いの棄却~共産主義を立ち上げるこ
とは有名ですが、…ですが棄却の競いが…新たな贄~敗者を
喰らう同種の孤独…絶望に呪われた孤高となってしまうので
す…当初マルクスは自分の理念を科学的社会主義といい社会
主義運動の競争に参加するのです…科学という言葉の中には
競争が内蔵されている…また活動を拡大するにつれて弾圧さ
れる恐怖に苛まれる…突飛かもしれませんが酷く突飛なもの
ではないのかと思います。」
・
・…「…前置きが長くなって申し訳ありません…父は帰りが
とても遅いひとです…たまに早い時は少々ご機嫌で饒舌で
す、…呑んで帰ってきます。仕事にプライドを持っていて私
はちょっと照れくさいのですが尊敬しています。…酔った勢
いで仕事の遙か先に、一つの懸念があるようです…度々聞か
されているので初めに聞いた時の違和感は余り感じません
し、伝え聞いた遭難事件と中津地区の近代化には関係がある
ように思えるのです。…父は『どうにかしようと焦れば嵌め
られる、だから少し備えてチャント観ていれば良い。実害~
禍がかかった時に祓えばいい。』と添えます。」 -80p
・「…わたしの父の仕事はプログラマー…人工知能の一端を
になっています。論理や科学の領域のしごとです…ロマンチ
ックな響きですが、共産主義・社会主義も科学の領域で、何
処か“棄却”命みたいな…それ故に勝ち負け・存亡と言う暗
号がついてまわります。…同じように父の仕事も同様に勝ち
負け、存亡があります。…もしかすると中津区の近代化に所
謂ヒダリの他にコンピュータを扱う勢力も一緒にいるかもし
れなく…わたくしなりの心配があること…競うでもなく・叩
き潰すでも無い自壊してゆくことを見てゆく…この事態に気
が付いているプログラマーがいます“父です”。…しかしこ
のことをプログラムの中に取り込んで行けない…耽美を排除
でなく…認識できない…近代化と関わりを持っているかもし
れない技能勢力が排除も無く認識もできない…勝ちも負けも
ないのに文芸の行間の有り様を認めてもらうのは…父と私は
酷く心配なのです…ごめんなさい。堅苦シイコトヲ…、」…
御兼利恵子はドンドン小さくなって言葉を添えた「…喋り、
スギマシタ…。」
・
・
次巻…は(12)アフターミーティング80p~の続きです。




