本編:常魔法-微睡み-いぬ:その9:(35):史澪の沈黙:ヤツラの暗黙…イヌ発生の続き 320p~ (38):坩堝…と蟲 339p~
贄を拒絶する常魔法のハナシです。…史澪さんは、狼のように気配を消し、沈黙し、拉致を躱し…イヌとして…ひとり立ちしてしまったようです…、…傷心と動揺とふがいない能直クンを置いて。…一方、能直クンは家業を引き継ぐ準備をせざるをえないようです。…
コンテンツ:
(35):史澪の沈黙:ヤツラの暗黙…イヌの発生 の続き320p~ (36):異例の停滞前線…気候変化325p~ (37):実時間が飛ぶ、屍肉を喰らい…コンドルは飛び立つ330p~ (38):坩堝…と蟲【…御兼利恵子:「坩堝なんです!」。ドライバー天本が何か企んでいて御兼も天本も妙なテンションになってゆく…】…339p~
本文中には(35)(36)(37)…などのナンバリングはありません。御容赦のほど…
・
・「いいえ…単純に自滅でしょ。先生。観察者ですらない…
主任先生。」
・
・
・…「そう…ぇしょうかね?」
・
・
・…「じゃ、わたくし有妃史澪は…、拉致・保護・浄化にも
値しないだらけたモノの怪だ…末席を汚す~にごす・イヌと
でも何とでも呼んでくれ。…ヒトの摂理から外れてやる…ま
さにそう、…貴方等が忌み嫌いノリの悪い界賊だな…」
・
・
・
・…巡査がコソコソ~ボソボソと言い合う二人に割って入っ
た。…元主任の混乱は周到に根回ししていた警察が機能せず
…彼はありきたりの性犯罪になっていた。
・ -320p
・…「どういうことでしょうか?…本官の警邏中、悲鳴が聞
こえた。―現場には、衣類がおおかた破けボタンが散らばっ
ていて、はだけた有妃、史澪さんがいて、ボタンの一つは貴
方が持っていた。…そしてお二人を保護した。もう一人のお
方…御名前を…」
・…
・…「中学当時の教え子でして、優秀だったんですが…教師
と学生という以上、それは許されるまでもなく…元教師とな
ってそういう関係でなくなってからも…。ご覧になれば、分
かるではありませんか?、季節が変わる毎…年を追う毎に後
輩の男子に不埒な衝動を抱えながら、どんどん美しく変わっ
てゆく麗しき佳人をみて…劣情に負け…いえ、見かねて…」
・
・「わたしは可能であれば事を荒立てたく…。」
・
・…「被害者のあなたがそう言っても、衣服が酷く破損して
いて、ブツ…いえ物的証拠があってそれは決定的ではありま
せんが、示談というわけにはいかないのですが。…」
・
・「問題があればわたしが破ったということでは。」
・…「この状況や証拠ですが、…こんな辱めをこれ以上、事
細かに喋りたくありません。…それに先生、何が佳人です
か?」
・
・
・…「もう、いい。お二人とも止めなさい。すれ違い!。」
…見るからに草臥れた・平の巡査が入る…二人にアイソトニ
ックのドリンクを手渡した。
・
・
・「で…。」
・…「あんた名前!」
・
・…「S って程じゃない…とても可愛いけど線の濃い、ぶれ
もしない。これを色恋沙汰にするのも上の方針?…アア、…
スゲー。…キナ臭い。もう辺り一面!」
・…「で。名前!」元主任を軽く小突く…
・「ナ・マ・エ!」
・ -321p
・
・…現場を押さえた年季の入った巡査は続ける…
・
・…「摂理の意味合いが違う。支配・服従の意味もが違う。
末席を汚す…にごす…言葉が違うから…本来競いさえ成立し
ないのに、そこに組みいる―“末席を汚す ”―何と美しい
言葉だ…違いに罪はない、上下もない、意味も無い、差異の
み。」
・「言葉に暗号を吹き入れる西欧諸語…そして漢文化。他方、
ある種の真言―あるいは風や自然の翻訳~解読したポリネシ
アと海洋民ルートの日本語では本質的に違う…末席を汚すし
かない…末席を汚す事は愚かな行為ではあるが悪や邪悪とは
すれ違う、支配・服従とも無縁…だがある日、風で解読した
言葉が遥か遠い延長線で独り歩んでいたことに摂理は気が付
く…堅苦しく考える競争戦士は摂理に自滅という暗号を吹き
入れられる。」
・「風を読む海洋民は風を解読し、言葉を発し、自我と自身
と何故の自問を成し、摂理の被造物とは無縁の小さな理を機
織る―創る、…それが不幸にして、摂理の競争に転がり落ち
て理になる事だってある…だからもし自滅であっても新たな
暗号付与である可能性もある…独創一理…一つの理。だが暗
号と違うし、独創は摂理にはならない。」
・「この国であんたみたいなことしたら、スゴく匂うんだよ
臭いんだ。鉄が燃えたような匂いを水蒸気が運んでしまう…
おれの鼻が感じちまったから、オレは出世を諦めた。」
・
・…古びた巡査は深い溜息が溢れた。
・
・
・「…お嬢さん、有妃さんだったね?頑張ってきたんだね、
分かるよ…私も観察者でないが…もうじききっと答えがでる
ょ…あと一歩。」…「警察とは別次元で刀狩り・小銃・ラン
チャー狩りをする算段をドコゾが付けている…これはともか
く…あともう少しですょ。」
・
・
・「お巡りさん…なにを言ってい…それ違っ…」 -322p
・
・
・…「…あんた。名前!」…(コイツ黙秘か?今更?)…「そ
れに留置処遇準備。…ん、後輩くん…サッサと!」
・
・
・…「先輩、吉光巡査、先輩…また変な時間に単独で警邏な
んて…何度も、署の方針と…また謹慎に」
・「…定年間際の古老の独り語りだ…聴いてくれ…これも匂
うから聞き流してくれても構わない。…『減塩』は破竹の勢
いで身体に良いとされる、お医者の原理のようだが…。けど
このシーズンは熱中症で死んだり若者でも溺れたり身体が動
かなくなったりする…不思議なもんだ。お医者のなりわいが
…。…こう蒸すのが続くと頭もぼんやりする、曲がり角を間
違えたり…でもそれなりにしっかりした人は水分・塩分の必
要を感じる…ぼんやり頭の一方で、細かなことに拘り周辺が
昏くなる。もう一方で、お若い有妃史澪さんは若者らしから
ぬ込み入った叡智や覇道を重々承知されているような…まる
で憑いているような…でもどうしてなんでしょうね?この肌
がじっとりする長雨の後にコンビニに行く若者は沢山いるの
にどうして有妃さんだけ動けず憑いてしまったのでしょう?
…現場には数字の6に関するものが酷くこれでもかと沢山…
不自然な小物が増えていた、…良かったら教えてあげるけど。
分かりやすいのは、北を上にすると、有妃さんが自宅から行
こうとしていたコンビニまでは左周りで三回、“6 ”にも
見えます、6は時を顕す数、時が回り閉じるのも6ならでは。
ん、有妃さんの画数も…6と6…、史澪さんは5・16…違
うか。…このようなオアソビはよくよくある、赤心を込めて
旨くゆくとそれは美しい曼陀羅になるがそれは護符止まり
…、何らかの外力がないと…こんなどす黒い呪術は実働しな
いね、…経験から…所謂…魔術や謀略が実働する時は大金~
巨費も動く…イヤ~でも、ホント実働するんだね…。…何よ
りここ一帯はキナ臭い、上も下も、犯罪の臭いとは別格、謀
略の匂いがプンプン。私たちの上からも『雨の時期は視界不
良に因る交通事故の防止』…(公安まで出てきて他~ヨケイ
なことはするな…)といわんばかりの…あとはあまり言いた
くないよ。…何処もかしこもキナ臭…雨も臭かった…空気も
重かった…湿度の所為?…まさかね、上からのお達しも変に
力が入ってなかったかな?…後輩くん?…古参はそういうと
きは臨時の警邏を増やすものだよ…じき免職…そうでなくて
も定年。」 -323p
・
・
・
・
・…巨費・多くの贄…遠大な思惑で謀られてきた私的拉致は
回避された。
・
・
・
・…定年間近の跳ね返り巡査の界外の乱行逸脱~機転?によ
って一市民―有妃史澪は公的手続きにて保護され…父母が呼
び出された。
・
・…
・
・…「深夜にどうして彷徨くの…」とか「あなたは防備が甘
い、それに言いにくいけど、あなた暗い、もの静かで良いけ
ど…、邪気を払うだけの明るさがない、危ないわ。」…など
と、史澪は父母の叱責されながら…。急遽、派出所に俄に集
まりだした本署の責任者等々とすれ違い様に…、有妃家の人
達は派出所から出て行った。
・
・
・
・…誰にも聞こえない微かな声で…史澪は…
・
・“ワダ。…怖かっ…よ、ボクは…キミを呼…ずに済…だよ。
でも“カネミ…”みたいな複数…金属臭に阻害さ…たの…あ
ったかな。…恐…く…”
・
・
・ -324p
・…ホントに自由だと、まったりと、ナニモノも動かない。
・…制限を設けるとドンナものでもムズ動き出す。いつも自
由は意味を履き違えられてしまう。社共は科学・芸術に制限
がかけられている…名著―資本論こそ科学であり芸術の極
み、忠実・勤勉な社共員は有様・貌を変え、ムズ動き続けて
きた。
・加害者の家宅捜索から出てきた物はおびただしい肖像画で
あった、少女の肖像画で明らかに被害者を模したものであっ
た。同一人物の肖像画がここまで来ると似絵…呪詛の道具に
カテゴライズされてしまいかねなかった。古の法律では極刑
…現行法では呪詛は不道徳ながら罪にはあたらず、また、管
轄の署も予ねてからの圧力もあって立件しない方向で収束し
た…セクシャルハラスメントとして訴追可能ではあったが、
被害者有妃女史の心情を傷つけうるものとして署の権限で証
拠品の肖像画は密かに焼却処分となった。
・肖像画の制作法も盗撮とかではなくその証拠もなく、加害
者の劣情による「幻視ないし妄想」と帰結せざるを得なかっ
た。加害者はそう、…単独で、ムズ動いてしまったのである。
・
・…誰もがそう見えた。
・
・
・…管轄警察を通じ、示談とする事旨伝えた前夜、史澪は高
熱…高熱だけ出ていた…その翌朝は何事なかったように熱が
下がっていた。
・…明るい…史澪に、さらなる静けさ~沈黙が上書きされた
…能直に特化した冷たい有無を言わせない沈黙…
・…冷たく重い冬の気団が降りはじめている…。
・
・
・
・
・―異例の停滞前線…気候変化。ー
・
・
・
・ -325p
・
・…その数日後、天本にあった。有妃史澪は気候の所為もあ
って暑苦しく少しだけ頭が重かった、機嫌も少々。…酷い。
地下鉄に向かって人混み~華やいだ女の子の輪の中から太い
声が聞こえてきた。ホームに降り階段を昇ろうとした時、天
本が階上にいた。…高校時代のレイプ未遂事件からの立ち直
りに月日を要したものの、天本守弥は元通り完全復活してい
た。…“どうしてこの優等生はボクの不興を買うのが旨いん
だろう。上から目線のこの巨体…”と、…有妃はおおきな力
・謀意があったこと~動いたこと等など思い出していた、こ
のバージンキラーに会ったことで沸々涌いてくる怒りの箍が
とうとう外れた。…元主任の話でもこの天本も有妃を揺るが
すカード一枚、元主任に差し出しっていたからでもあった。
…魔女の狙いが和田能直であると言うジョーカーを…
・
・…「ヤァッ、有妃さん…大変、だったね。心配してたよ、
でも頑張ろうよ。」
・
・
・
・…「何が大変?…」
・…「?なにを?…『頑張ろう』って?そのトーンは?」
・
・
・「…『マゾッ子のキミはそれはそれ、保護下の方が幸せに
なれたと思うが…ともかく。』…」
・…
・…「『貴女はどうして頑張れない!…輪の中に入らない?』
…キミの“… ”なノイズ塗れの間合いからそう聞こえてく
るのはボクの幻聴だろうか?他の同窓生のみたいな労いとか
“一緒に頑張ろう ”みたいに響かないのはどうしてかな?
…それに事件として立件されていないのに、どうしてボクが
大変だったとかをしっているのかな?それにその上から目線
…。」
・
・
・「…そうだね、輪かな?貴女は輪の外。…さ」 -326p
・
・
・…天本の背後の輪でもイタイ気な華々たちが尖っていた。
・
・…「天本クン…それは輪なのだろうか?…キミが優位に立
ててキミが得を得るような輪は有るのかも知れない…些細な
違い・立ち位置の差異は担保されて良いものだが、明らかに
背景に漂うはずの“対等 ”。これが欠如している。キミは
その輪の先に何があると思うの?…それは本当に輪なの?…
大体、ボクの警戒モード、ハザードは未だに消えていない、
そんなボクに未遂の前科…執行猶予のキミは御説教かいな?
モテモテイケメンくん。なに?『頑張ろう』って。」
・「…その『輪』だって、…未来予測かもしれない…極めて
身勝手な予定調和。でもその輪先に何かがある?、それはぼ
んやりわかる…良いことではきっとない。?まるで『動物的
って?』“有妃、動物的”みたいな…そんな怪訝な顔をしな
くて良い。」
・…天本はぎくりとした…内心、根拠のない“動物的勘 ”
と思っていたところだった。
・
・
・有妃はつづける。
・
・…「理知的キミは不確か故にその一切を排除するつもり?
…今、この瞬間も神経線維の興奮が脳に届くコンマ3秒先を
見込んでボク等は話している…少なくともボクはそうだ、こ
のハナシを為たらキミはどう理解するだろうか・どんな顔を
するのか見込んで…ボクは話している。『…“今 ”は、実
のところ未来なのだ。』…話し言葉の“今 ”はコンマ3秒
の未来なのさ、無意識や星回りではもっと跳躍できるさ。」
・「…きっと。」 -327p
・「輪の先が全ての終焉か?、輪の中に熱持つ異物が混じっ
て、優劣や順位・階層は収斂されず・連鎖して、…何時か火
の輪になるか?…抽象的ですまない、輪の未来からの幻視・
幻臭―金属が燃え始めようとしているカネミの匂いも混じっ
ている。だからボクは輪を躊躇しているところだ。…してい
たところだ。…これからきちんと躊躇しようとしている。今、
キミの前にいてコンマ3秒後の未来にもいるボクは、こう言
いたい…。『輪の中にいる可燃連鎖物―導火線―カネミワは
輪から吐き出される…何時かネ。』…」
・「…『輪は変わらない!。』…そうさ、変わらない。キミ
はそんな顔をしている…そこの音節はボクとキミとは同一
だ、…でも、キミのは、侵入された輪が変わらない…キミは
辛うじてその侵入物を認知しだしても、[変わらない]と信仰
している。」
・「…でもボクの『輪は変わらない…』には未来からの混ざ
り物が響いて来る…“異物は棲み分けられ…輪は変わらない
”…ってね。」
・「只ね。…末席を汚しながら…ネ。」
・「ボクは摂理世界の魔女ではない、…そんな烙印は負わな
いし、こうして烙印から逃げ切れた、でもボクは、常魔界の
鬼…未だ発火はしていないが董子さん…出口さんと同質なん
だ、精神の病理ではボクはココロの病だった…ボクが美形で
可愛いから…違う!。…そろそろボクは鬼の病理を識る…常
魔界…日常に潜み日常を守護する魔女、その魔女故、金属臭
や大規模魔法には敏感だ、ヤツラが日常のフリして輪の中に
いるのがよくよく判る。輪の外は怖いけど絶望でもないし独
りでもない。だってボクはマイノリティー、界賊…。末席を
汚すのみさ。」
・
・ -328p
・…「…でもまだ、ボクはまだ鬼で、目標が見えなかったワ
ケだ。根気や元気がないんだな…キミに『頑張ろう。』と言
われたところで、キミはまた頑張ろうとしたボクから…“上
前をハネようとする…”ピンハネはあきんどの重要な要件な
のだが、…わかるかな?徳は独占出来ない。わらしべ長者も
交渉相手は不幸にはなっていない。大所帯-天本商店の御曹
司―キミは未熟すぎる。高校時代もキミはボクの大事なもの
を掠め取ろうとした、謝罪もまだだ。今でもボクがキミとし
なかったことをボクの心懸けが至らないと思い続けているフ
シがあるよね、お客をモットモらしく煙にまいてラシク合理
的に誘導するだけで、あきんどの本質、長期に亘る安全を実
感してもらったり、安心してもらう・信用してもらおうとい
う魂胆も足りないし、約束・契約を守り、約束・契約に謀意
を盛らない…悪意・謀意が排除出来ないときは出来るだけ詳
らかに書き落とす事への気概も無い…励ましに可燃物や侵入
物を混ぜ込むのは如何なモノだろうか?…。盛りすぎ・危険
物満載。本質を欠いたまま覚醒して『頑張ろう・輪に入
れ』?」
・「キミはあきんど―“秋担い人”の本義―これっぽっちの
信用も売っていない。何故担うか?…“冬 ”の備えが出来
ていないし考えていない。…“冬 ”は多義だ。…もう少し
だけ、冬に備えられない―摂理には絶望して欲しいしその一
方で安心もして欲しいモノだ。…この大仕掛けな騒ぎでキミ
が侵入物に気が付いたのは大したもんだ。取り敢えずこの国
で暗躍する大国や重商主義者の商人の出張先ように巨大国
力、巨数や銃や核ミサイルを後ろ盾を専らにしないのも善い。
…否定も肯定もせず佇んでいるのが偉い、帰依もしていない
のが立派かな?その意味ではキミはもしかして、ヤクザな大
義の末席を汚す界賊の端くれかもしれない…ちょっとそれは
言いすぎた。」
・
・
・…「…でもまだボクは鬼とか魔女の類いで、…目標が見え
ない、無闇に藻掻いているだけ、でも頑張りも輪にも乗らな
い、…ボクは角も牙も磨いても研いでいないのだ、ボク自身
の不気味な内部に冷めて閉まったままなのだ。角・牙を研い
だとたん特定の誰かを殺めてしまうだろうから…」
・…「でもね、すこしだけキミのことは褒めてあげる。…じ
ゃーね。…コンドル。」
・…気圧の谷は動き出しもしなかった…
・
・
・…それでも、その悄気た長身のイケメンを、かいがいしく
囲む華のような女子等がいた。
・
・…可憐な輪がそこに咲いていた。
・
・
・
・ -329p
・―実時間が飛ぶ、屍肉を喰らい…コンドルは飛びたつー
…エルコンドル…パス
・
・
・
・
・
・…些少な確執…それは個々の実存…命の流れ…それはコン
ドルにとっては本当に些細な事であった。死骸を喰い、コン
ドルはまた、大きくなってゆく。
・…個々はバラバラ、でもそれは、変わる辺もなく大事なこ
と。コンドルは屍肉を喰らい飛んでゆくそれで終わる…変わ
る辺もない個々はバラバラ、でもそれは終わらない。…命の
流れは伝わってゆく、個々は刈り取られ屍肉は喰われる…で
も終わらない。
・…バラバラでも反復する~波の様に溶液のそれぞれは容易
く別けられる…。個々の飛沫たる実存でも繋がってゆく~飛
沫の実体はそう思えなくても考えられなくても思念できなく
ても理屈で答えがでなくても演算出来なくても…何処かで直
観し・感じることが出来る。情緒のルートは地熱、太陽のコ
アーで融合されるもの。
・…コンドルにさえ流れを止められない、コンドルは流れを
汲み上げたれない。大きくゆっくりした波。彼さえそんな溶
液を抱え込んでいるのだから…
・
・ -330p
・…能直の父は胃癌を告知されていた。長い間母と暮らして
いて疎遠の所為もあり能直が面会出来たのは退院間近であっ
た、胃癌であることには間違いなかったが、遠隔転移もなく
胃の所属リンパ節に転移はあったが所謂末期癌という範疇で
はなく、腫瘍が生息している生物反応―腫瘍のマーカーも正
常範囲に戻っていた。だが残された胃は小さくわりと大柄だ
った父は幾分スリムになっていた。元来の食欲はすぐに戻っ
たが「あまり入らない…ちょっとですぐ満腹になる…」と不
満そうにぼやいていた。概ね5年、あくまで癌は癌、再発し
なければ治癒と考えていいとのことだった。…『楽しいこと。
は NK 免疫細胞を元気にさせるから、しっかり追いかけ・堪
能するように。』とも…
・母朱樹との離婚や再婚、再び一緒に暮らすことなど能直が
切り出すことも出来なかったし、一緒に面会した母ともそん
な雰囲気では無かった、父と母はホントに久しぶりの様でよ
く話が弾んだ、だが夫婦…例えば有妃の父母の間に佇む阿吽
のような…間合いが、無かった。…ふるい恋人が再会した明
るさのような…そんな気配が目立っていた、二人とも変に弾
み上がったものだった。
・父は、シゴトを減らしたい…能直に神職をつがせる意志は
希薄だったが、少し遠い干磯の社の維持…と…風通しと人の
気配を刷り込んで欲しいと…、胃の不調を感じてから社の気
…気配全体が冷たくなっているの重たいのだと、気がかりだ
と謂う…、それより社の清気を自分が吸い取っている思いが
振り祓えないのだとも…。
・そのほかにも父には懸念があった、柚高原にあるお講の研
修道場、と言っても温泉を引いてある床板を敷いた土間付き
3DKの民家が朽ちようとしている。家は人気や風通しを必
要としている…父は検査や入院で滞っていたお講を継続する
ことは不可能だった。もっともお講といっても、父の先輩の
逢友黎一氏―前、二中の前清掃ボランティア・文芸部の顧問、
元、一中の校長…である師の二人で温泉つかって呑んでボヤ
くだけのお講である。たまに有妃の父も混じるお講である。
・「…それでな、ついさっきな。…逢友さんが来てな、彼が、
おまえに講を継いで欲しいと…」
・…「でも、父さん…お講っていっても…そんな難しい、」
・
・「…講の内容は、逢友さんはな、…中学の文芸部の内容を
繰り返しているだけです…って言っていたぞ。」 「そうな
の?父さん?…」 「そうみたいだ。」 「何で?顧問の部
長先生がボク等の中二病のバカみたいな拘りが、お講のテー
マに?」 -331p
・…「やってみたらどうだ?色んな支援はさせてもらうよ、
沢山乗れるワンボックスもあるしな。こんな身体で外科の先
生から仕事を減らせと言われているしな、…何だろうなぁ…
先輩はおまえたちにどうしても伝えておきたい事がある…っ
ても言っていたし…。それに道場の風通しも…」
・
・
・…そよ風の所為か病室のドアがノックした様に揺れた。
・空かさず父は…「あぁ、先輩…」
・「…あ~和田クン、やっぱり、能直クン。」
・…「以前からお父さんと話をしているとこですがね、蟲の
知らせなんでしょうな、仲山…茅夏さんがね、OG会~OB
会しませんか?って言ってきてね、最年少でも既に多くが社
会人1年目、…彼女たちは何処か思うところがあったのかも
知れません…て仲山さんがね。私は能直クンがきている気が
してね、念ったとおりだった。和田さん?…能直クンに―お
講―の話、してくれました?…」
・
・
・
・…
・
・…季節になく天候は不安定であった。…父から“お講 ”
を引き継いで以来、気もなって気がかりにもなっていた…奇
妙さだった。…それに巨きな焦臭さ~カネミ臭も動いていた。
・…ゆっくり、ゆ、うっ~くふり~ぃ…と…。だから誰もが
気が付けなかった。
・
・
・
・…柚高原に向かうワンボックスの運転席と助手席の狭間に
漂う空気も険悪なものだった。
・
・
・
・…混ざることにない空気…。コリオリの力で車中の冷気は
右下に寄った…
・
・…ワンボックスの中に溜まった夏の暑気と空気孔からでる
… -332p
・…異様に冷たいエアコン…の冷気は、白い霧となった。
・…暑気と混ざらずそれぞれが硬く凝縮したままだった…。
・…混ざり合い同化してゆくエントロピー?…一体、何処へ
やら…。
・…和田の周りの空気が硬かった、奇妙な空気に能直は眠気
に襲われていた。
・…そのせいか…?いやかなり前から…陰気と暑気は、はじ
かれあい遠ざかっていた。
・…有妃の冷気は和田をゆっくり後部へと掃き出した、
・…和田は一番暗い遮光窓の後部席に転がる様に座り堕ち、
・…
・…うたた寝始めた…。きっと悪い夢でも見ているのだろう
…、
・…肌は乾いて冷たく、眉間には薄らと縦皺が浮いていた…
暑いのに…。
・…
・…菅原は緩やかで微かなカネミ臭に被曝していて、陰気と
なっていた能直を案じ…
・…出口は、和田の今にも嘔吐しそうな陰気さに自分の病状
の前駆と累ね…、
・…二人は和田の両サイドを支え、三人して薄暗い後部席に
腰を落とした。
・…燻り出されるように。…悪い夢でも見ているかの和田の
両隣に…“大丈夫”言わない代わりに二人は手を握る…
・
・
・…
・!「…大体部員でもない貴方がどうして参加しているの?
天本さん?」
・「…いや~後輩、最後期の部誌に花を添えた…名誉副部長
…」
・「事実認定棄却!」
・「何処が花?優等生がスカシタ序文書いて、ダイナシ!」
ナビ席の仲山が溢す。
・「いやいや先生だけじゃ運転きついし、あってもペーパー
だろオマエ等、」「…それに渋っていた有妃さんはオレが説
得したのだし…オレもゆくから…って。」
・…“えっ?…”
・…“えぇ!…” -333p
・…“え~?…”…、… 一同顔を見合わせユニゾン…
・
・…「うぅん、…そうなんだ。」有妃が爽やかに答えるのを
観て、再び顔を見合わせていた。
・
・「…だろ?オレの努力とは言わないが有妃さんここまで無
気力…無機質…低体温…の…。」
・
・…「ヤメロ!バカモト!」
・「無礼千万。ひどいなぁ…何がバカモトだ。」
・
・「有妃さん、爬虫類みたいに獰猛のくせに普段はピクリと
も動かない、でもオレ天本守弥は有妃さんが大分リカバーし
たと思っていたのさ、留年繰り返し、取りこぼした単位も本
気で取ろうとね。」
・…「まあ、仲山さん。当の私、有妃自身もその通りだと思
う、…運転している天本くんの集中を削いではいけないよ、
それに、仲山さんのそこはナビ席なのだから…」
・
・…「ナカヤ?…おまえナカヤマ・チナツじゃなかった?」
・
・…「私はなかや・ちか…勝手に記憶の御加工遊ばされて。
あんたやっぱりバカモトだね。」
・
・「バカはないだろ、ナカッマ…ヤ、有妃さんの得体の知れ
ない風評…いいやスティグマは高校・大学に亘って蔓延って
いた…それに災いして有妃さん同化というか、次第に爬虫類
みたい…時々噛みつくし…輪にもはいらない。」
・
・「…ま。是非もないでしょ? こうして私―有妃がここに
来られたのだから。」 -334p
・…「スティグマは帳のように辺りを包み込む…辺り、の中
には当然この私も包み込まれている…包まれていた。…魔女、
響きはともかく、居心地よかったよ、何より放っとかれた…。
デモ、何にでも時効がある、早かったかな…、帳…トバリは
得体の知れない不快情念と一緒に皆それぞれを包み込んで…
ヒトリ一人孤独にさせようとする、…きっと皆のなかにもき
っと言い当てられない得体の知れない独りの感じ…」
・…
・…「有るんじゃないかと…そうしている内にもますます孤
独になってゆく。風評も一緒、互いに情報交換もしない、声
もかけない。…『風評はよくない』!偉い人はそう云う、言
ってきた。…でもそれは得体の知れないものに帳を掛ける…
だけ、祓うことにはならない…トバリは反って拍車を掛け、
それぞれがどんどん孤立・硬くなってゆく…守弥くんの度々
のセクハラだって『セクハラは良くない』といって払われて
いない…ね。それも変わっていないでしょ…。」
・
・…聞きカジッたドライバーの天本が肯き、他人事の様に割
り込む…、
・「…そうだよ。風評もセクハラも、よくないよ。」
・“アマ、モトォ”…
・“アマモト~ォ。”
・“天本さ~ん…”、
・“ア~マ…モト~ォ”… etc(滲みつつ…ハモる)
・
・…「…そうよ、天本くん。キミに感謝なんかしていない、
ホント余計なお世話・セクハラ。よい風に考えるとそう考え
ることも不可能じゃないカナ、くらいだからね。…でも、皆、
無知。無知は自分が無知であることも識らない、沢山の情報
に踊らされながら…そのうち独りの帳…檻…幾重もの帳につ
つまれて硬化してゆく。」
・
・?「…え?オレもこと?オレ孤独?」
・…「そう、ね…」
・…「そうかも…」
・…「…かもね…」
・…「オレ?」、「何でだよ。どうしてだよ…」
・
・「それはね、最高に固執しすぎるからだよ、有妃さんにセ
クハラするのも彼女の最高が陰っているからでしょ?…」
・「セクハラって言ったけど、酷くない?仲山?おれは有妃
さんのこと…」 -335p
・「全然!反省足りないよアマモト、全く。まだ時効でもな
いのよ。」…「アマモト。東京島民のくせにキミの頭は大陸
系だから解らないンだろうけど、マ~なんというか…何処の
大陸もそうだがアジア・アメリカ・ヨーロッパ…きわめて大
雑把にも拘わらず勝ち負けに固執…ロジックにもね。」
・
・
・
・…和田能直は数日前から重たい空気を感じた。
・…ゆっくり徐々に重畳されるため能直でもそれがカネミ臭
とは分からなかった。
・…その日も周りの空気は硬く、能直は眠気のようなものに
襲われた。
・…早々と閉じた。…目蓋の下で能直の目玉は夢見と同期し
た。
・…寝息はスヤスヤと…だが、眉間の皺が目立ってきている
…。
・…和田は呟いていた…「ドウシテ…」 “オレじゃなぃ ”
・…「俺じゃ…」 “オレ。…では、な、ぃい… ”「オレ悪
くない!…」…など…と…。
・
・…菅原と出口は、菅原は彼の匂い・出口は入院直前の体験
とを…累ね。
・…侵入した夢魔が強かな能直の自我に侵入し、微かな、微
かな自責の傷に嵌まった…
・…その自責の隙間に入り強引に押し広げて能直を苛んでい
ることを直観した。
・…二人は能直の夢見の傍らにいて、能直のじっとりした手
のひらをしっかり握った。
・
・
・「それの何処がいけないんだぃ?負けちゃ駄目でしょ。仲
山。」
・
・ -336p
・「あのね天本、」「…日々平穏ならね、そうであってもいつ
のまにか穏やかな平時に競争が生まれ、競争が闘争になって
しまうのが分からないんでしょ?バカだから。勝負バカ。一
端はじまっちゃうと、勝利以外見えなくなってしまう。勝ち
にいたるルールだけがクローズアップしてしまう、ルールに
は対戦や競争が円滑に始められるルールも、観客や応援・報
道やプレスとの関係を破綻させなくするルールもある…そし
て無事に怪我や諍いなく対戦・競争が終了に導くルールもあ
る。それぞれ…特に監督が中心となってルールを解釈し本番
に備え励む。…勿論、監督の個人差はある、細かいところは
目を瞑ることにもね、そんなのが積み重なってくると、大陸
的な勝ちにいたるルールが肥大・過剰化してくるものなのだ
よ。…文明や信用が蕩尽されてゆく。」
・
・…「…ナカヤ、それだと勝っちゃイケナイみたいじゃない
か?」
・
・「…そうは言っていない。…だが勝つだけではダメ、負け
が無価値だけでもない。」
・
・「点数とかクヲンティティー、ポイント・物量はとても大
事だし、一生懸命歯を食いしばって・何処かを諦めて日々精
進している戦士に失礼じゃないか?」
・
・…「悪かった、闘士バカモト、だから私は…“マ~なんと
謂うか…”といったの、この間合いを汲んで欲しかった。や
っぱりバカ。…細々と思えるノイズ・愚情報のなかに勝ちと
同じくらい重要な事柄、が散りばめられている。」
・
・「な~ナカヤ、『勝ちと同じくらい重要・大事なことが散
りばめられている』って、みたいな…同じくらいって他に喩
えられない?勝ちの確率が下がる?じゃ、どっちが何%勝っ
ているの?…それに、どうして重要なことなのに散りばめら
れているんだい?」
・
・
・…溜息…。…天本も溜息。
・
・ -337p
・「冷ややかな爬虫類―時々元気なボク―有妃が云うのも何
なんだが…、ボクの所作が鏡像のように二人をワクワク・ヒ
ートアップさせて申し訳無い。ダラダラしているボクが悪い
…でも二人はドライバーとナビ、」
・
・
・…「有妃先輩、謝るなんて…」
・…「無いですよ。」
・「無いですよ。」…
・
・「…とにかく、天本くんは悩まずに疑問は何でも言葉にす
る。…でも今はね、運転するしかないね、そっち系行ったん
でしょメディア系、守弥先輩。…仲山さん、ナビお願いしま
すね、この先、東名降りたらワンマン有料道路使わずに地道
をひたすら南下ね、先生の指示通りで…海岸に突き当たった
ら右折だけど、まだ先…」
・…「了解です、有妃先輩…。思考散乱・脱線しがちの優等
生ドライバーをナビします。」
・
・…川に沿って下ってゆく所為だろうか、道の先は穏やかな
海…穏やかさには何処か閉塞感があった…空気も重かった、
上昇志向の天本は次第に不機嫌、降り気味でもあった。道先
にある三笠湾が好天で、とても穏やかでそれは天本にも分か
った、だが重かった。穏やかであることが何処か行き場の無
い下ってゆくだけ…老いというかゆっくり燃え落ちる、広々
とし、緩やかな下り勾配した道は…落下の様にも天本には思
えた。静かな時の鬼みたいなものも感じていた。
・
・
・…まるで出口のない…袋小路?誘導されるよう…空気も硬
かった。
・…能直は眠気様の何かに襲われ、お講のハナシ持ち上がっ
て以来、ヤンワリ詰んでくる居心地悪い異和感。
・…襲いかかる悪意~空気も能直の夢見も何処か手詰まりの
色~匂いがあった。
・…眉間の皺が深くなり匂いと陰気が濃くなっていた。ふた
りは手を強く握った。 -338p
・
・…眉間の皺も笑って…
・…喋った…「二笑…」、「…相竦み」、「うふ…。」…「手詰
まり…」…少し、気味悪かった。
・…悪夢に憑かれているはずの能直が笑った。この世のもの
とは思えない笑み…
・…夢見の寝言だったが、眉間の皺が苦笑いしながら声を出
している。
・…様に見えた。
・
・
・…眼前、南、道の先には高層マンションが壁のように道を
阻み・たちはだかる、静かに。
・何処か…、変だった、奇異…逢魔が相応しい車窓風景。
・気が付くと…中座席の御兼が、居心地悪そうに身悶えする
…
・
・
・
・…「そう…坩堝…。」「です、」
・
・
・
・
・―坩堝…と蟲ー
・
・
・
・
・
・「坩堝!。」
・…「坩堝なんです。」…“行きすぎた袋小路は、戻ればで
られる…対照的に…戻れば…”
・…「…でも坩堝は対照でないんです。…出られない。」
・
・
・… -339p
・「御兼さん…坩堝って?僕は分からないし見たことない。」
・「天本さん、わたしにだって見えませんよ、…でも…」
・「…、感じるよ。」
・「…、感じるよ…、」
・「…、感じます。」
・「感じるよ、ウ~ン。」…多くが御兼に寄り添った。
・…
・…「坩堝と窯門…坩堝は高熱に耐えられる窯、物質の溶融
などの合成・均質化に使われる窯…溶融と云っても喰うか食
われるか、喰ったところで最終的に、ドロドロに解けてしま
う…均質は、種々のプロセスの最終結果…天本さんの謂う勝
利みたいなものです。ですが、坩堝だけでは坩堝は成り立た
ないのです、。高温が必要…加熱装置である竃門も坩堝同様
に熱でも壊れないことをしっかり守るのが窯門です。勿論、
坩堝の中身は大事です、でも坩堝と窯門も壊れないのも大事
です、現実にはそうあるものではありませんが、中身やポイ
ントに固執するあまり、周りを喰い坩堝も窯門も壊すような
固執は、天本さん危ないです。」
・…「御兼ちゃん、オレは何もそこまで…それに坩堝が壊れ
るってあり得るの?」
・「先輩、…イメージ貧困。勝ち組は汎化出来ない様ですね、
熱が足りないと言って坩堝に多くのクヲンティティーを投入
し臨界してしまいそうじゃないですか。」
・…「勝とう・勝ち抜こうとして…」
・「…御兼ちゃん、臨界って?…勝つ為の努力が悪い?勝て
ば良いって悪いこと?」
・「私が天本さんを否定していると思っているんですか?や
はり孤独なんですね。」…「熱~熱量が足りないからと云っ
て放射性ウランを坩堝に入れると熱くなりますが、熱ければ
良いものではありません…臨界ですよ…核分裂の連鎖です
よ。…その臨界という汎化です、受験テクでは応用です。そ
ういう大陸的アバウトさに仲山先輩は…『マ~なんと謂うか』
ってお茶をにごしたのですよ。」
・
・
・…和田の周りの空気は硬かった。 -340p
・…能直は睡魔に襲われ…いや、夢魔。居場所無しだった。
・…能直の手から汐が吹いたように汗が垂れた。
・…出口はそのまま、菅原はハイビスカス香るハンカチで手
を握った。
・…彼女たちも手に汗を握っていた。
・
・
・…「何だそうか、応用…って俺、まるでバカじゃん。」
・「やっと分かったのか、丁寧に代弁してくれてアリガトね
御兼さん。」
・「いぇ、」…「それに坩堝に嵌まると周りの環境…窯門や
作業プロセス全体が見えない…特に勝ち組は。…坩堝に嵌ま
っちゃって、勝ち焦る人に…『我に返れ、元の破綻のないプ
ロセスに戻れ』といっても神様に逆らうくらい難しいですよ。
…勝ち焦りのひとは大概、孤独ですから聴き耳のないのです
から。…坩堝もその中身も手段で目的ではありません。この
辺りの旨い例えが殆どないので…坩堝と窯門を曳いてきまし
た。」
・「世の秀美を集め融合して最高の1つからもう一つの視点
を拡げるのに坩堝と窯門の例えは機能し得るかも知れませ
ん。」 -341p
・…「それと巨きなものが転がり落ちる時、最弱・最小の者
でも努力する価値があるのです。坩堝と窯門の喩えです。坩
堝しか視ないものは巨きくなれます、大小の大きいでは無く
巨人・ギガントの巨きくです、一見勝敗と関係なさそうなも
のを排除しての即戦力です、…ですが絶望や落胆には脆弱で
す、なにせ負けを知らず突っ走ってきたわけですから。不出
来でもなく・抗うことさえ知らぬ似たもの同士寄り添って…
勝って勝ち抜いて、不出来なものは毀れてゆき・抗わないま
でも異議の色を持つものは潰し…勝者となって摂理の膝元に
辿り着く…そして摂理の審判を待つ…でも天本さん、競う相
手がいなくなったら…そう言う意味でも孤独なんじゃないで
すか?摂理の内心もそんなものでしょう…普通無駄で邪魔で
すからそんな不敬なことは考えない。…幸い天本さんは最頂
点ではないだから先ほど『孤独を感じてない』みたいな発言
がありましたよね、最頂点ではないからです…ですが…きっ
と“ひしひし”とは感じないでしょうが同士の輪でも作りた
いとか?…」
・
・「…あっ…」
・…天本は、先だって地下鉄で『輪』と言う切り口で有妃を
励まし、切り替えされ、悄気込んでしまったことを思い出し
ていた。…有妃が後部座席で苦笑いしていた…あのとき、お
付きの秀才美少女たちに励まされたのを思い出したかの苦笑
いであったのはだれも知らなかった。
・「先輩…“あ ”はともかく何を思い出してかは知りませ
んが、絶望的孤独は摂理が抱える自然帰結です。」…「巨き
なものや摂理が転げ落ちるときは、一人ではイヤなので、道
連れを巻き込みます。…だから仲山先輩は『マ~なんと謂う
か…』と、キワモノの所作を鑑みてのことなんでしょう…」
・「いいよ。リエチャンその通り…続けて御兼さん。」
・「…坩堝で考えているからです。全体を考えると個人では
容量オーバーになりますが、坩堝に固執しがちな脳も、それ
以外の窯門の例えが思考にブレーキをかけられながら話を進
めてゆく選択肢もありでは?…」「天本先輩ゴメンナサイ…
こんな莫迦なハナシを、勝ち組人種で出来そうな人…ってそ
ういません、…私御兼は、会社で話の通じない勝ち組の輩に
散々ヤラレているので…。」…「まあ運転手である所為で先
輩が話し半分なのが良かったのか…悪かったのか…ピンと来
ておらなさそうなので…」
・
・「…これは完全に御兼利恵子…私の個人的な妄想です。で
すが私たちがゆっくり相州川の西端を下って遠目には凪いで
見える海に向かって南下している事実と少しばかり関係があ
るようです、この川に沿っての南下はエネルギー消費の先の
熱死を私たちの内部に心象させるようです、きっと先輩もそ
れで御機嫌が…」
・「…『少しばかり関係…』ってどのくらい?何%…」
・「さぁ…実数だけでは無いのかも…」
・…? -342p
・「…まぁ聞いてください、ですからリエの妄想ですゥ、先
輩。…何億年か先太陽はとても大きくなるようです、きっと
私たちはこんな姿をしていないのだと想います、もっと簡単
な造りの生物かも知れませんし、もっと複雑で寿命も長いイ
キモノになっているかも知れません…それがわたし御兼の意
志を継ぐものであれば、きっと摂理と酷く縁遠いはずです。
…そんな今と酷く異なる状況でも、きっと摂理は “いる ”
のだと思います。…信仰が足りないので“いる”にどんな敬
称表記をしていいか分かりませんしどんな敬称をすべきかも
ワカリマセン、どんな宗教でも気温200℃の環境下でも単
純・複雑問わず霊長種~霊長に纏わる神性情報は不滅…そう
思うのだと思います。八百万は無神論かもしれません、そん
なリエでも…摂理ってそんなヤワなものではないしとても大
きな意味で不滅でしょう…恐らくキット。摂理と坩堝や競争
が密接ですがこの蜜月だけでは太刀打ち出来ないのです。…
坩堝や競争を否定するつもりはありません。窯門や環境のこ
とも慮るときも必要なのです。」
・「…御兼くん…そういうのを否認とか自閉って謂って…開
祖様…」
・「黙れバカモト!」
・「黙れ!」
・「黙れバカモト。」
・「黙れ!」…「黙って運転していろ。ホントに。」
・
・
・…
・…空気は相変わらず硬かった、車外の空気も詰まり感があ
った。天本は赤信号で時折携帯をちらちら見ている…
・…能直は夢魔に襲われていたままだが。…スヤスヤには安
堵感が息吹いていた。…変な混ざらない空気…
・…そう、拮抗。車を包囲する異様な圧力・カネミ臭、能直
の気味の悪い皺と笑顔。
・…外の包囲の内部・意図・戦略は知る由もないが、能直が
放つ不気味と、拮抗して…。
・…戦局の拮抗のようなものは伝わってきた。
・
・ -343p
・…「…リエはもっと理筋を欠いた話もします。私たちの有
り様・形…微細構造も含めて、思考・意志表現・継承~保存
の有り様、新陳代謝・炭素がもつの静川のような燃焼…4つ
の炭素原子の結合手~結合力~まるで4つの手足のような潜
在力・火と道具・生産形態・衣食住~医療-情報-安全、それ
から夢~あるいは象徴力~あるいは汎化力~あるいはトンネ
ル効果―ですから先ほど実数だけではないと。…これだけ複
雑怪奇なのはリエたち人類・生物・有機物がヒトリで…一人
勝ちしてやり遂げたのではないのかと思います。…確かに弱
肉強食・勝ち負けも存在したのもみとめますが…弱肉強食だ
けで決まったのでしょうか?…リエは小さい時から理科が苦
手なままですが、ワクワク感の動くものがありました。…地
球史とか生物史とか云う領域のものです。…いつだったか?
フト思いました子供の頃図鑑を見ていた時から思っていたの
かも知れません…生物はとても強運です…少なくとも現存種
はそうですが、…では、既滅種は薄運だったのでしょうか?
現存種が運を吸い取った?…?…違います?現存種に運を託
したのです。明滅する運を感じあう方向にも触手を延ばし継
ぎ足したのです。」
・「…特に炭素化合物は顕著にリエは思います…それにリエ
はじゃんけんの時これと似た何かを昔っから感じます。」
・「リエチャン。…あのね、神聖な競いとじゃんけんと一緒
では…」
・「いいえ。天本さん、競争もじゃんけんも手数・手の内・
カードは酷く限定的です。…試験なんかは複合されたシステ
ムとは言え(グー・チョキ・パー)の三種でなく(正・誤~勝
ち・負け)の二種です。」 …「それに、炭素もそうですが、
水素・重水素・三重水素以外、の中~重元素は、重力の坩堝
―恒星の中心超高温・超高圧・ブラックホールにならないく
らいの高密度…の環境下でしか融合・想像出来ません…一体
何をしたらリエの中の炭素は重力が作る超高音・超高圧の“
坩堝 ”から出てこられるのでしょうか?」
・…「坩堝まで壊して…坩堝に圧し潰されるのでもなく」
・…
・「リエチャン。やっぱり分からないのか…なぁ…」
・
・…「リエはへこみかけています…でも、」 -344p
・「坩堝は既滅種の様に、中~重元素に運命を託したのです。
…じゃんけんに勝ち負けはありますが絶対的強者はいません
…そんな感じの託し方です…が、勝ち負けが決まると勝ち負
けの結果が残り…時間の絡んだプロセスは次第に霧散してゆ
きます。…」
・
・「…リエチャン?仲山が思うに…、その時間の絡んだプロ
セスは勝ち負けから遠のいて観てみると何処かにある?」
・
・「なんだいそれ。」
・
・「天本は分からなくていい。」
・「天本は分からなくていいのよ」
・「あんた分からなくていい。」
・…「あんた、勝ちカードを死守していればいいでしょ。」
・「…だからリエチャンのハナシがツマラナイ、あんたは面
白くない、だから解らない」
・「分かる?天本?」
・「リエチャン…オレちょっと、酷く難しい。」
・
・…「…でも。スッゴく面白いょ!」
・「…スッゴ~く面白い!」
・「…でも。スッゴイよ、面白いょ!」
・「…でもね。スッゴく面白いょ!」
・
・…滲むこそすれ彼女達がユニゾンする…
・「それなりに難解なところはあるよ…でも天本…勝ち負け
のみに固執している限り、永久に分からない…天本の思考空
間~坩堝世界の中ではジョーカのカードとかサタン・ルシフ
ェルみたいなトリックスターみたいな外在種・外道に唯々引
っかき回されるだけでしょ…黙って運転していなさいな。得
体の知れない外道に怯えるより、今の道路状況の恐怖しなさ
い。」「…で、リエチャン、ハナシ続けて…」
・
・「…勝ち負けのハナシに転化されたくないのですが…私達
を構成している炭素他諸々の中~重原子は坩堝から何かを託
されて古い恒星の核から出てきたのです。…それもリエは炭
素につい、つい目がいってしまうのです…。」
・
・ -345p
・…「ここで終わりではないです。リエの妄想街道爆走中つ
づきます。」
・「…摂理が自然数だけのゲームに飽き始めているかもしれ
ない…準備…天本さん?」
・「勿論、勝つための準備じゃないですよ…天本さん。」
・
・…「何言っているんだリエチャン!…神様はそんなこと考
えない!絶対。」
・「天本…ナビから言わせてくれないか、…だっからねぇ~、
わかんなくたっていいの、前提が呑み込めないおオリコウさ
んは参加せず、得体が知れないんだから、運転に集中!集
中。」
・
・…「摂理御本体はともかく、ジョーカーのような神格級の
取り巻きが唆す…かも…でしょ?リエチャン?…ゲームやそ
の退屈さはともかく、炭素や境界…坩堝でも竃門でもそんな
環境下で炭素や境界~その集成体や集合体各々はどんな振る
まいをするの~するとリエチャンは念うの?。」
・
・
・…「元々、二中の文芸部はそこに…坩堝が壊れる?摂理が
自然数のカードゲームに飽きそう?、当時の文集『耽美主義
の救済』を装った耽美主義殲滅?…言い換えると“地元を破
壊する耽美主義の殲滅?耽美主義を敵視する改革主義・重商
主義・社会主義・共産主義…皆巨きな資金資本の上で踊って
いる諸々に対する絶対服従?、元々貨幣は命や耽美を繋ぐた
めのもの財布や金庫で寝ているあいだにどうしたらあんな変
な覚醒が出来るのか…え?、…サイコロも、…ふらない?」
・「通常は思ってもいない~思っちゃイケナイ疑問を抱えた
ひとたち…そんな知る人ぞ知る…」「参加と違います。みん
な各…ぉ~」
・
・「各々が、集った。」
・「だから各々が、集った!。」
・「各々が、集ったってこと。」
・「各々が…、」
・「各々が、集った!。」
・「各々が、集ったのよ。」
・「…。…集った!。」 -346p
・
・
・…「集うって…」
・…「…それってリエが考えたこと?」「リエだけ?」「リ
エの炭素が考えて…」「リエだけの炭素が考えたこと?」「み
んなの炭素?」「この世の炭素の考え、集う?」…「この世
の炭素って」…「炭素原子だってトンネル効果の夢だって観
るのでは?それを私たちに委ね託して…?」「…『アンドロ
イドは電気羊の夢をみる?』…」「炭素に限らず全部、原子
の境界表面で起こっていることではないですか?トンネル効
果も原子核から遠く離れた…外部との境界で生じています。」
・「…『境界は常に~普通に、複雑なのです。』…by:御
兼利恵子、惑星の表面でも気相・液相・固相が混じり合う表
面が一番フクザツです…遠隔の肉眼や弱拡大では境界はほぼ
見えてきません、…ですが倍率を上げてくるとものの影像は
境界がどれだけ複雑怪奇かを示してくれます。影像はその濃
淡の境界で、私達の脳に“線 ”をイメージさせるからでも
あります。…そこに濃淡の境がある…ことだけ眼の網膜に影
像をもたらします、…ですがそこで…その境界近辺で何が?
どんな出来事が?…起こっているか?…起きようとしている
か…起こっていたか?…私達の脳の理性回路<…きっと0・1
の論理回路…>はその膨大な疑問点を端折り…“線あるいは面
がある~見える…”あるいは境界を強調する大脳の連合野も
あって…そのように判断するのです。」「…ではもっと倍率
を上げると単純だった線~面は実に複雑な様相をしてきます
…。」
・…「リエチャン。様相ではなく、…複雑な構造…の間違
いでは?」
・「ごめんなさい、先輩、…“構造 ”って言うと合目的な
仕組みに加えて言葉や摂理的意味・象徴で纏め束ねられる定
めを負うもの…という含意を持ってくるので…“様相 ”の
ほうが無難かなぁ~と思って…つい。」 -347p
・「御兼…続けます。…もう少し拡大が必要な場合は電子顕
微鏡とかがあります、さらに細かな影像が欲しい場合は…結
晶…粒子同士の位置関係が均一な…例えば金属などに限定さ
れるのですが辛うじて見る…というより識る~占えることが
出来ます…。」
・「…私達の眼も脳も、“境界のイメージ ”には、ある巾あ
る厚さ~微小な二点間の位置を必要とします。」
・「…私達は。紙と鉛筆で“鉛筆を使って紙の上に境界を作
りなさい…”といわれたら…紙面の端から端まで線を描いて
済ますのが多いのではないかと思います。」
・「もう一つの正解として、境界線を曳かず、片方を無色と
もう片方を鉛筆で強くても淡くても良いのですが、塗り分け
…境界線を描かないのも正解でしょう…精確には後者です
が、時間・労力の面で通常一本の巾のある線も正解としてい
ます。…もっとも鉛筆図画ですから元々正解なんてないので
すが。」
・…
・…「ところがです…さらにもっと小さいサイズでは…」
・
・
・…車外~南関東全体の空気は硬く手詰まっていた。
・…車内外、辺りを占める混じり合わない奇妙さに~硬さに
能直は寝返りをうった。
・…まるで苦し紛れ。
・
・…
・「出口…チャチャ入れます…その小さいサイズプランク領
域あるいは所謂『不確定性原理』って言われるのです…。」
…後部座席から爽やかな声がピィ~ンと通った。
・「アリガト…董子さん…」
・
・…ずーっと、出口は右手の親指と人差し指を少しずつ狭め
ながら…左手は和田の手を握っていた。
・…「リエチャン。少しいい?…チャチャ続けます。…量る
ものは原子とか結晶構造の金属とか限られた観察対象限定な
んだけど、観察対象が何処にあるか…精度を上げるために二
点間の差をどんどん狭めてゆけば…そうして最後に“0”に
すれば観察対象が何処にあるか私達は識ることが出来る…」
・
・今度は握った左手を離し、親指・人差し指をくっつけたま
ま自分の顔前に出し… -348p
・…「…ところがこの“0”が成り立たない…二点間の距離
と、観察対象の運動量<重さX速度>の誤差との、掛け算があ
る値より小さく出来ない。」
・…右の指のあいだを狭めながらも、左の殆ど閉じた指に隙
間を作り拡げてゆく。
・「これと対…根っこは同じ実験系から得られたもので、そ
の出来事が起こった時間巾と、エネルギーの測定誤差との掛
け算がある値<これをプランク定数といい>これより小さく出
来ない…この値は非常に小さいので実生活には全く問題が起
きない。」
・…
・…出口は右手に出来た輪を拡げだし・同時に左指先同士を
ますます狭めてゆく、…2輪のかけ算がプランク定数…
・…今度は逆の相になり、
・…左手に出来かけた輪を拡げだし・同時に右指先同士をま
すます狭めてゆく、
・…これを延々繰り返す、…右と左は互いに逆相で揺らぐ。
・
・「…リエチャンが喩えた、境界を例えた鉛筆の線~鉛筆の
黒い条痕色の巾と同じようなこと~不確定さの巾が物理の実
験室でも起こっていてナンチャラという物理学者が当初『不
確定性理論』としたのだが…どうも実験室の測定に纏わるこ
の“鉛筆の線の幅”みたいな不確定さは実験室に限った話で
はなく…“ドウモ、何処ニデモ起コッテイル…”…ことから
『不確定性原理』と呼び慣わされている…」
・
・…「で。」―と、右手を下ろし左手の親指と人差し指を狭
め輪をつくって…
・…OKのサインをつくる。
・ -349p
・…「この鉛筆が作る境界線の幅…その境界…鉛筆の条痕色
で作られる幅の部分ではかなり不可思議なコトになっている
…。それが色々な出来事の結果を揺らがせている…例えば…
リエちゃんが考えたこと…も、リエちゃんの中の炭素の作る
狭間が考えたこと…も、…それはこの世の炭素の考えたこと
…も、炭素原子だってトンネル効果…鉛筆の条痕に夢だって
観ること…も、それの夢は私たちに委ね託されているかもし
れないこと…も、炭素だけではありません珪素―シリコンだ
って・鉄だって・アルミだって・銅や貴金属だって・紙のセ
ルロースだって…SF作家フィリKイック作…『アンド
ロイドは電気羊の夢をみるか?』…、無機物が鉱山で寝てい
るあいだでも、精錬され精度・純度を上げられ・漉かれ・加
工されるそこはほぼ全部、表面・境界面…。その表面~境界
面に付けられたインクのシミやら、ケガキ傷やら、刻印、回
路図をエッチングされ、烙印され…資材庫や書庫・金庫でや
ら寝ているあいだ…『加工ロイドは蹂躙羊の夢を見る!』…
悪夢の一つは巨きなものとも【繋げられてしまう】…こと…
も。」
・…
・「…炭素は半導体や紙ばかりではないのです。生体内部の
表面―細胞膜の境や細胞膜に点在するホルモンや神経伝達物
質と結合するにも境界を持ってしまう…“レセプター”と言
われるのところも…、全部原子の境界表面で起こって鉛筆の
条痕幅の内側で揺らいでいることが幾重にも重なった夢を
見、結果…夢の断片をリエチャンは正夢として包括するので
す…だから…。『…そう、リエ(チャン)は“考えた ”』の
です…この場合に限り境界の例えとしての鉛筆の条痕幅はリ
エチャンの思案と発言を以て実生活に影響するかもしれなく
なってきています。あるいは巨きなものに組み敷かれる蹂躙
羊も現実に存在するかもしれません、『理性脳も蹂躙羊の夢
をみている』かもしれません、勿論、トンネル効果や所謂電
子の雲の例えも、原子核から遠く離れた…外部との境界で生
じています。」
・
・…
・「わたし・出口の親指と人差し指のあいだを近づけても垢
とゴミはコネ合わされるだけでこの様なことは起きません、
神経伝達物質とレセプターの様な鉛筆の条痕幅で起こる結合
のような半永久的~時間の次元も関与するような不可逆的な
出来事は起こりません…。鉛筆の条痕幅で起こるようなこと
はあっても可逆で親指と人差し指が離れれば元に戻り、…せ
いぜい垢とゴミがコネ合わされた結果が残るくらいでしょ
う。」
・ -350p
・「私達は実験室に限らず、不確定で本質的に見ることも測
ること出来ないことでも…、理性脳回路の<0・1~正しく
ない・正しい・>0でも1でもない揺らぐ事象から<1として
あるいは正しい>を識ることが出来る…」
・…「理性脳だけで考えると絶望的に難しいけど、左右の指
先と運動野は事もなげに出来てしまうワケです。」
・
・…
・
・「意図せず、喩えとしての鉛筆の条痕幅で起こる生化学~
内分泌~神経科学の結合のような半永久的~時間の次元も関
与するような不可逆的な出来事と、結果、指先の垢とゴミが
コネ合わされるだけの鉛筆の条痕幅で起こる可逆的な出来事
の二種類がありそうで…観察出来るのは前者の不可逆に近い
反応に限定されそうです…、不可逆だと鉛筆の条痕幅での記
憶とか状態保存…それに時間が絡んで来ますと振動・周期・
波長とか共鳴とか和声…とか…」
・
・…「その通りです、ありがとう董子さん出口さん。続けた
いのですが…」
・「…でも。」
・「リエは頭がパンクしそうなのでもう少し…お休み…させ、
てください…。」
・
・
・
・…ドライバーの天本は何か言いたそうである…
・…なにせ、地雷少女たちの意味不明・根拠不明なハナシが
遙かな縁でつなぎ止められ…。
・彼…、天本守弥の価値観を切り下げてくるのである…。勝
ち組守弥の思考ツールがほぼほぼ使えなかった…だから、眠
くなる…ハナシへ加まないと眠くなってくる…切実。
・…
・ -351p
・「…天本守弥、キミは解らない。言いたい魂胆はわかる。
…鉛筆は正解を描く道具―としかきみ考えないから分からな
い。…大体キミが消しゴム使ったことみたことがない。…何
故なら、キミは解る~解らない=正しい~正しくない…だけ
で考え、の狭間の鉛筆に条痕幅の内側ことが解らない…それ
に…その条痕色の狭間の関係性に悩めるリエチャンに嫉妬し
てはいないか?健気でカワイイ、リエチャンが欲しくなって
いないか?…う・わ・き・も・の!」
・
・「…な、なにを言っているんだ…ナ、カヤ!」…解らない
ハナシが続くナカ、天本はしっかり“嫉妬 ”のキーワード
に掛かった。
・
・…仲山がニッコリして天本の左肩をたたく…
・
・「いいかな?…天本く~ん? 突飛なハナシに眠くなった
りはしてないよね?。ボク等はキミに命預けているのだょ…
拉致されたみたいに…(ナゼカ天本はギクリとしていた。…)
携帯チラチラ~“ヨケイナコト!!”に加わらず運転に集中
して欲しい。ここ、…突き当たり…突き当たりなのだよ。そ
こを右ね…後は全部道沿い…左側三笠湾・右は山…だから。
迷ったら太い道、有料バイパスもあるし迷いようがないわ。
運転!…。頼むわよ。」
・湘州川と併行して南下していたバスが右折・西を向く、三
笠湾を左、右に湘州平野になる。
・
・
・…「正直、鉛筆の条痕巾はよく分からない…リエチャンに、
フ~ッ、…関心を持つのも認めるよ。」
・「でもナカヤ、条痕巾とさっきの“坩堝 ”とどういう関
係なんだい?」
・
・
・…南関東全体の空気が硬かった…。
・…奇妙な空気に能直は眠気?夢魔?に襲われていたのだが
…。
・…車外の詰み方は停滞しだし…車内には美しい不協和音、
ゆとりらしいのが生まれた。
・…眉間の皺も…「二笑…」「…相竦み」「うふ…。」「手詰
まり。」そう言いきり…
・…そのまま…。 -352p
・…そのまま、和田能直は深く寝入っていた。…顔色もカネ
ミ臭にやられた陰気もなく、
・…手汗は引き汐、息も脈も穏やかだった。
・
・
・…
・「…マァ、そう急くものじゃない、天本。」…仲山はそう
言い、チラリ、顧問に感謝の会釈をする。…分かる~分から
ないの狭間は運転にとって極めてアブナイ―そこのナビは必
要、…彼は良くも悪くもでしゃばり…また理性脳だけでの浅
薄なコメントはハナシが弾む。
・…乗車の際「ウン…。運転は天本クンがい良いね…」と、
顧問の瞳や間合いにがあったことを含め、改めての感謝の会
釈をした。…というか、天本がいつも以上に胡散臭かった…
キーの声高…
・
・
・…互いに、ヒートアップ~クールダウンを繰り返してきた
御兼と天本の間に、後部座席の先頭に坐っていた有妃が介入
ってきた。
・「少しハナシを戻しますよ…。イヤすこし話題がズレるか
も…けど、側方支援にはなると思います。」
・…「鉄や炭素酸素はメイドイン太陽じゃない…の、現太陽
生成以前に超新星内部で水素原子から重水素→三重水素→ヘ
リウム…炭素…酸素…鉄…以降、融合合成のため炉心のエネ
ルギーは消費され―冷やされ炉心は=圧力が減る&原子の数
も減る<炭素原子1個作るのに水素原子12個必要で…>=炉
心が空洞化する→空洞が崩落する=恒星内の圧力・熱バラン
スが崩れる&崩落・落下の際各々の原子は運動エネルギーを
貯め込む=恒星爆発あるいは超新星爆発…超爆発しないと水
素を元手に作られる中~重原子は太陽の核芯から出てこれな
い。…それと私達や物理学者が知る限り、宇宙の何処でも太
陽みたいな恒星の核芯以外で中~重原子は出来ない… 作られ
ない・核融合は起こり得ない。…ということは…」 -353p
・「…私達の体内の水素以外の原子は、メイドイン太陽では
ないのです。私たちのからだの原子はそこから…炭素・酸素
・鉄は、…水素とヘリウム以外の多くの元素も超新星内部―
超絶重力が作るその坩堝を“自らが ”破壊して生まれてき
た…、一種の罪業…。」
・「…その罪業は陽子・中性子・電子は単独ではきっと知り
得ない…ですがこの陽子・中性子・電子の集合体―原子…そ
の辺縁=真空との境界、もっとも電子はその高温故に陽子の
引力・呪縛を振り切って原子の貌の有り様は不整形…ですか
ら、その“原子各々の表面 ”は極めて複雑な有り様以外持
って居るのかもしれない、…陽子・中性子で構成される原子
核だって実はその表面はフクザツ…水素原子から次々融合・
合成され作られる水素以外の軽あるいは中~重<密度>原子
も、所謂トンネル効果がないと陽子と陽子・陽子と中性子・
中性子と中性子がひっつく事が出来ない様です…私は詳しい
ことはとても複雑で分かりきれなかったので原子核内のトン
ネル効果のハナシはしません、ハナシの中心は原子核を巡っ
ている核外電子のトンネル効果にほぼ限定します。」…有妃
は少しずつ体温が上がってくるのを感じていた。
・「…トンネル効果の名前由来ですが、山体貫く水平のトン
ネルのイメージです、原子核内の陽子は+に荷電しています、
マイナスに荷電している電子は引き寄せられ普段はそこから
離れることが出来ません…一方、隕石クレータのセントラル
ピークの様に~外輪山で囲われる盆地の中央火山の様に、近
づき過ぎることも原子核内の構造で出来ないので…電子はま
るで原子核が作る“盆地 ”の平坦な(…一つでは無い様で
飛び飛びに高さの違う平坦な回廊もあるようですが…、)そ
このところを巡っているわけです…私の身体が温まってくる
ように、“何らか… ”の理由で暖まると=電子の運動量が
増えて盆地の斜面を登ってゆきます。…電子が暖まり過ぎる
と終には原子核の+の荷電からの呪縛を振り切って出て行っ
てしまいます…。盆地の斜面を登ってゆくときは実時間~時
計の針が指し示す実時刻に支配され…電子は登るにつれて運
動量、エネルギーが減ります、総エネルギーは保存されます
=エネルギー保存の法則です。」 -354p
・「…ですが、トンネル効果中(トンネル内の水平移動)で
は実時間に支配されないようです。…これは盆地の底にある
平坦面や、内周りにある高低差のない平坦な回廊でも同じよ
うに実時間に支配されないようです。実時間が消費されない
ので虚時間扱いされたり、エネルギー消費もなく、想定上永
遠に電子は周り続けられることを示唆しています。…ですか
ら+に荷電している原子核がつくる盆地の斜面を登ることは
実時間に沿ってエネルギーが消費されます、…ということは
電子の運動エネルギーが充分でない電子は+荷電の原子核か
らの呪縛を振り切ることが出来ないのです。…これはトンネ
ル効果を説明する前座です。」
・…
・…「ところが、エネルギーも殆ど無いのに、時折、電子が
呪縛を振り切って“ひょっこり ”顕れることがあったりす
るのです…エネルギー保存をヒックリ返すことも出来ず…そ
れをわたし…物理学者達はトンネル効果と呼んでいます。」
・「トンネル効果中はエネルギーの帳尻を考えるとトンネル
内は水平移動=上下の移動がないので実時間ではなく…わた
…ボクはここで初めて新しい言葉を曳き出しますー“虚時間
”…上下の移動がないので虚時間…トンネル効果最中は上
下の移動がないので虚時間なのです。」
・「虚数…二乗するとマイナスの不思議数ですが、虚時間で
すので四乗すると実時間がそのトンネル効果の振る舞いを定
めているとされています。…鉛筆の条痕幅―境界の境目はこ
のサイズでは出来事が起こった時間巾と、エネルギーの測定
誤差巾…時間とエネルギー異質の次元を関係付け・数学的帳
尻を合わすために虚数が便宜上使われる…のですが…夫重要
なのは…実時間との関係です、いましがた四乗すると実時間
と言いましたが、波打つもの全て…波動と言っても良いのか
も知れませんが、波の不思議を謂い顕そうとするとき虚数は
見事にあの…果てもなく・寄せては退く波の本質を語ってい
ます。」
・
・「…、もう一つ虚数と実数との関わりは振動数です。…ま、
長渡さんからの入れ智慧ですが、リエチャンからの発熱も頂
きました…イヤ…共鳴かな?。」
・…有妃の青白い顔は人肌の白に戻っていた。
・ -355p
・「途中“何らか…”と言いました。…そのトンネル効果中
の虚時間は、何処か別の虚時間…振動数を介して…共鳴~連
動~各々集うかして…何処がの…あるいはだれの夢観の中心
か解らない罪業夢の中に漂っている…という空想…トンネル
効果中の空想は棄却できない。…生物~物理学の多岐に亘っ
てこれまで説明が出来なかった事柄がトンネル効果最中だけ
は説明出来る様になったのでしょう…ですが、文系を専らに
しているボク等の生体組織はトンネル効果内では重すぎる・
かさばり過ぎる~多すぎる…電子や原子ではない…ましてク
オークや超弦でものだから…。」
・
・?ェ…
・
・「有妃さんまで…俺を裏切るの?」
・…「輪から外れて、まるで外道の破滅魔法問答!…」「滅
びのコトバ…深淵の修辞法」…「虚時間って?」
・…「なに?」
・「…だから。天本、キミは神レベル的に孤独なのだと、裏
切ってなどしていない、熱いキミを冷血が冷やしているだけ
…しっかり運転してくれないか?」…「大人数でカーブも外
に膨らみ易いし西笠バイパスでもブレーキが甘くなっている
…。キミが熱いままだと事故などされてそれこそ事故死して
しまう。…この先、柚ヶ原の先はクネクネ道が増えてくる…
はず。」
・…「稼点に関係ないけど、数学には複素数=実数+虚数と
いうジャンルがある…いずれ高校の数学に復活するんじゃ
ないかな?」
・…「キミ天本守弥くんは…」
・「稼点と関係が親密な実数しか知らない…虚数が含み置く
行間を知る由もない…だから坩堝の中から出られないその喩
えが分からない…竃門が分からない…竃門は坩堝を支えこそ
すれ脅かさないのも分からない…実数の視点しかない。特に
キミは自然数が得意だよネ、1から始まり果てなく増える小
数点以下のないもの…特に1…過去の全国模試で1位ではなか
ったが一桁が結構あったよネ…ぁ。一回だけ英語と世界史
1番…あったね。キミの1は勝者…」
・「…有妃先輩…昔?模試の話ですか?…えぇ。参加しま
したよ…不承不承。」 -356p
・「…ナビさん・仲山さん。ゴメンナサイ。えぇ、私も参加
しましたイヤイヤ…でも末席を濁すのみで、遠い将来も首位
を脅かしは為得ない…」
・「それと同じ、です。…有妃史澪が虚数を知ったところで
ドライバーの天本くんを脅かしているはずがないのに…で
も、キミは運転そっちのけで優位に立とうする、…ぁ模試全
国一位あったね。…勝者で・運転手、…公転秒速30㎞地表
こそ限定だが、太陽を原点とする宇宙船のコックピットにキ
ミはいる…」
・…「キャプテン・モォリヤ…。何が御不満?…」
・
・「…何も太陽の中心を原点にしなくても…」
・
・「いぃや天本くん…今はほぼ太陽の核芯のハナシ。先代~
先々代の太陽の坩堝を壊し産まれいでた炭素・酸素・窒素…
それから赤血球の鉄たちが集い、自戒を込めて、壊さず・愚
直をに参加すると言っているのに…末席を濁し汚し参加し輪
に入ってきたのにどうして『輪に入ろう!』…なんだぃ?…」
・
・「いやぁ…あのね、そ、それは…」
・
・
・…クールダウンしつつ、仮眠をとっていた御兼利恵子が、
目をつむったまま…
・「先輩の守護神?…摂理が実数~自然数のゲームに飽きて
…」
・「新しいカードを欲しがっている…」
・…
・「でも最近…ゲットしたのはジョーカとかサタン・ルシフ
ェルみたいなカード」
・「虚数同様に、これらのカードを実数的にコントロールし
たい…のでは?」
・「私達だって、知れば知るほど虚数がコントロール為がた
いことを識る…」
・「…でも先輩はコントロール出来ない…実数や坩堝のみの
視点では…」
・「この虚数や境界巾に関連した不鮮明さが、インチキ臭く
映る」 -357p
・「ですから、私達の不精確盛りだくさんの疑問・妄想をイ
ンチキを潰す正義漢…」
・「…みたいに振る舞う。」
・
・…「いや~だってインチキ臭い~胡散臭い。」
・「はぁ…実際、そうかも知れません…し…」
・…「…リエチャン。…そうでしょ?」…容貌に比べてドヤ
声が目立つ天本が言う。
・
・…「スカシッペ。…天本。」ナビ仲山が言う。
・…「言い出すやつに限って火元だったりする。―陰謀論序
説」
・「インチキを内包するのが多いと外在化する…他人のイン
チキが気になる…」
・「ケチンボほど人のケチが気になる。」
・…「これ、境界が不鮮明―黄昏時に起こる…共鳴。…ボク
が曳いた共鳴。」
・「悔い改めよ…?これ。自身に言い聴かせている…共鳴・
鏡像関係ョね。」
・「省みることに帳を張り…抑うつに成らない為れない・陥
らない・…秘技。
・
・「…でもなんで孤独?…」
・
・「…一番だからでは?…」
・「…一番だから、よ!…」…「そうね…」
・
・…
・「だからナビ提言…そろそろ休むか、運転、代わってくれ
ない?誰かと…」
・
・
・
・「… 坩堝 境界 集い~共鳴 辺り…大体纏まったかな…」
・「リエチャンは和音や歌のコード進行のこと話したいみた
いだけど…」
・「雑音源対策がね…」
・「ナビさん。そのようですね…ありがとう。」 -358p
・
・
・…車の内外の空気が硬く、その奇妙な空気に能直は夢魔に
襲われていた…
・…のだが、
・…いつからか自然な午睡も往き来していた。
・
・
・… 一行はトイレ休憩をとることにした。…道の両端に十
台ほどの駐車スペースから三笠湾が眺望出来た、黄昏は爽や
かな涼風を運んできた、山際にはトイレと自販機、干物の土
産店があった、お店のラジオからは、動物園から逃げたコン
ドルはまだ発見されていない…なんていうのも耳をかすめ
た。…黄昏れてはいたが空は明るかった、トンビ…恐らく番、
が輪を描いていた…鳴き声は澄んで美しかったが…それはい
つもの様に悲しく辺りに谺した。…フト気が付くとアブラゼ
ミがジージーと鳴いていた。車の通過音も何処か物憂げで…
ノイズは静けさを強調…いや。…静けさと美しさを引き寄せ
ていた。…黄昏は美しかった。だが空気は硬かった。
・…天本はしきりにディスプレーを弄りつつ、死んだように
寝ていた和田能直を呼んだ、…が、天本は運転を代わる気な
ど無い様であった…車はナビが入っていたのであった、能直
に合宿所の住所を入力させていた…和田はまたすぐ寝た。…
三々五々戻ってきたOGに向かって「…悪いけど、君たちう
るさい。…仲山さんも後ろに。ナビ席は先生で、お願いしま
す。」
・
・…ノイジーなのは天本守弥の方だったので、仲山も有妃も
快諾した。
・
・
・…車が動き出す頃には、能直は既に深く寝ていた。
・…隣り合って天本に聞こえないように、有妃と仲山の似通
った声色が交互に話す。
・…後ろも座席からは独り言の様に錯覚する。 -359p
・「天本くん私達のこと邪魔みたいね…でも彼なりの腹づも
り・意図・魂胆持っているのよネ、でも彼、東京っ子。でも
彼は異物…」
・「よね…」
・「東京って…不思議な坩堝、ふつう坩堝が壊れるまで永遠
に坩堝のまま…」
・「壊れない竃門みたいに…坩堝の煮詰まり方も…」
・「…竃門の火加減も」
・「…知る人ぞ知る限定だけど…坩堝から竃門全体を窺い知
ることが出来る様になる。」
・…
・「一旗揚げるはずが…ここ東京で何代か暮らすうちにどす
黒い競争心が消えてしまう、…不思議だよね。…イエ・ムラ
が群れクニになる―その時、護るは人草と富、原動力は概ね
暴力~乃至過剰に蓄積したもの…。クニの首都はムラが崩壊
したりイエが破綻したときの緩衝帯の機能をもつ…持たざる
を得ない…あるいは暴力故だろうか…そこに辿り着く者は不
幸にして~往々にして心痛んでいる…だが不思議なことが起
こる。住み馴染むと…、」
・「…喰い合うのを怠けはじめる。…互助―結びつきが生ま
れ出る。」
・「…どの時代、何処の首都もトップは競い合い食い合いつ
つ…」
・「何処にもみられない、黒ずんだ平民の互助が生まれる。」
・「ドス黒くても、黒は…裏切る黒ではない…その黒さに裏
切りはない―そんな匂いもない。贄にもされず、ずっと裏切
られて…きた人が、…備える。…それが東京の奇跡。」
・「東京の匂い。」「瀕死の黒の匂い…」
・…「…恐らく?…感染症―成人T細胞白血病?で縄文人の
人口がその末期に劇変する、西関東・東北で三分の二になる
…ペストでもそんな酷い減りではなかった…東京近辺は十分
の1…ですから9割がいなくなる。」
・「ある時期、京の雅人はこの地に『穢土』の字をあててい
た。冬は乾燥するものの比較的暖かい、富士山の火山活動が
穏やかでさえあれば、風水的にも地政学的にも水運・農業的
にも恵まれ、傷ついた棄農の人々を支える、黒はそう言う色
合いの黒…雅人は黒に感染あるいは人口著減…あるいは不毛
を重ね合わせる。」 -360p
・…有妃らしき声が言う…「黒色に濡れ衣されたこの地の真-
価を見出したのは、平安時代の平将門・戦国時代の太田道灌
…秀吉に敗流を言い渡されて、初めてここの地の利に気が付
いた徳川家康…恐らく知っていたのが頼朝帰京を諫めた北条
氏・板東武者…」
・「黒は縄文人にとってもっとも高貴で命に溢れた色…」
・…「だけど、黒は濡れ衣を着る。」…声には憤りが内藏さ
れていた…
・…自身も濡れ衣を着ているかのような…「邪魔色の黒。」
・
・…有妃らしからぬ声―仲山茅夏らしい声が言う…「白に呪
詛されない黒…」
・「史実・時間軸での確証はないまま、歴史文学では将門と
陰陽道の開祖安倍晴明との接点・密な交流を支持している作
者が多い…」
・
・
・…能直は深く寝ていた。
・
・
・…「だから!」…ハナシにドラマー陶内紀子が介入る。
・「だから、呪詛の際、この国独特のルールが出来てしまう
ことになるんです。…」
・「呪詛の際、大きな制約となってしまうのですが、」
・「坩堝の中から~もしかして坩堝の端~坩堝の辺縁から竃
門全体を見渡せる立ち位置に立ちやすい…」
次巻、(38):坩堝…と蟲 の続きからです。




