1-1山道にて
遠くに見える街並みを目指して山道を下っていく。
師はあまり人付き合いが好きではなかったので辺鄙な場所に居を構えていた。買い物などは街の御用聞がきっちりと仕事をしていてくれたので買い物などに不便を感じることはなかった。
師は様々な国からの依頼をこなして報酬を得ていた。
途中からは師から仕事を与えられ私がこなすことも増えていたが、厄介ごとは全て師が対応していた。
ここ2、3年は年に一度師が働くぐらいでそれ以外は私が対応していたので成長していたと思う。
師から離れたくなくて仕事を渋るのが常になっていたが。
「さて、師はどこにいったやら。」
山道をのんびりと歩きながら思いを巡らせる。
昨晩からあまり時間は経っていないが、師には空間転移する呪もあれば空を飛ぶ使役獣を呼ぶ術もある。
となるとこの世界のどこにいても不思議ではない。
幸いなことに世界情勢は安定しているし、そもそも最強の一角に数えられる師であるから身の安全など杞憂である。
「しっかりと力の残滓や痕跡まで消してらっしゃる。
さすが師。」
右目の前に両手で輪っかを作り周辺を探査するも師が行動したと思しき痕跡は見つからなかった。
「となると、とりあえずあの人のところへ顔出してからだな」
街の中で唯一師が好んで話をしに行く人がいる。
まずはそこに行って師から何か聞いていないかを確かめよう。
最初の目的地が決まると不思議と足取り軽く、心も軽くなる。
師から離れている時間は苦痛ではあるが、卒業試験とのことなので真剣に取り組まねばならない。
卒業したくないから探さないという手もあるにはあるが、師から探しに来ることは絶対ないため一生師に会えない。
それは困る。
なので真剣に探して、最短で見つけて、近くで独立する。具体的には敷地内に居を構える。
独立という師からの指示をこなしつつ毎日師の下に通える最高の選択といえる。
なぜこの考えにもっと早く至らなかったのか悔しくてならない。
と色々考えつつ山道を街に向かってすすんでいると前方に魔獣の気配がする。
「珍しい。ヘビの気配か?しかもわりと大きい」
ぶつぶつ言いながら上着の内側から短杖を取り出す。
いつでも魔術を放てるように身体の中の回路を動かす。
力が巡る独特の感覚を感じつつ身体からその力が空中に霧散していかないよう留める。
5分ほど歩いたところ、山道を防ぐように赤と紫の鱗を持つ大蛇がこちらを睨みつけながら立ち塞がっていた。
「赤紫蛇なんて珍しい。もっと東だろうに生息地は」
目の前で舌を出しながら威嚇してくる蛇を見ながらそう呟く。
赤紫蛇は自らの間合いに私が入ってくるのを待つようだ。それはそうだろう。力が回路以外に漏れていないため蛇からしたらなんの害もない旅人にしか見えないはずだ。
「縛れ!氷の蔦よ!」
明らかに油断している蛇に向かって短杖を向けて力ある言葉を放つ。
杖の先と蛇の足元に複雑な魔法陣が出現したかと思うと、そこから出てきた無数の氷の蔦が蛇を絡めとる。
なんとかしようとして少しもがいたかにみえたが、一瞬にして蛇の氷像が完成した。
「…これ売って行くか」
倒した相手をどうするか少し考えた結果、浮遊の術式で浮かしながら街まで運ぶことにした。
無傷で倒しているのと、凍らせているので劣化もないため高く売れるだろう。
そう考えながら空中に浮いている蛇を引っ張りながら歩いていく。
師を探す旅はまだ始まったばかりだ。




