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犬又になりたい!  作者: 石橋渡
新たな世界へ
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憎い人間達を許さない!アタシは犬又になって復讐してやる!

第1話 新たな世界へ①



寒々とした青い月。人里から離れた裏山に立つ粗末な小屋の中に繁殖用の犬が入れられたケージが所狭しと積まれている。


青い月明かりに照らされ、一番上に積まれたケージの中にいた一匹のメスのチワワが寒さと空腹で体を震わせた。


頭から首、肩までは白、耳と肩から下はミルクティー色をしたそのチワワは愛らしい顔をしていたがバサバサの毛並み。


糞尿の臭いがする、あまり掃除のされないケージには汚物がところどころ残り、どの犬も同じだが、そのチワワの体にも汚物がついて、毛先がいくつも固まっていた。


お腹いっぱいエサをもらうことはなく、ケージの大きさは最低限。生まれてからずっとこのケージだけがこのチワワに与えられた世界であった。


「おや、目が覚めたのかい?」

年取った茶色のトイプードルのおばさんが声をかけて来た。おばさんは今やこの小屋の犬達の長老。


今までたくさんのかわいい子犬を産んできたおばさんはもうそろそろ子供を産めない年になってきて、時折り、理不尽に叩かれたりと白髪頭のブリーダーの男から辛く当たられていた。


「おばさん、昨日、じいさんが言ってたよね、朝になったらみんなどっか行くって。保健所ってところにアタシ達行くの?」

「たぶん。この間、じいさんのところに来ていた若い男がみんなを連れていくんだろうね。」


少し前にブリーダーの男が知らない若い男を連れて来た。知らない男を見て何頭かの犬が吠えた。

「黙れ!クソ犬ども」

近くの若いチワワのケージをブリーダーの男は蹴った。


それを見て、他の犬達は怯えたが蹴られたケージのチワワは負けじと牙を向いてブリーダーの男に唸った。

「お前、殴られたいみたいだな。」

ブリーダーの男は戸口に置いた棒に手をかけた。


「すみません、奥の方もみたいんで、来てもらえますか?」

見知らぬ若い男が声をかけたのでブリーダーの男は舌打ちして棒を置いた。


男はにこやかに話をした後、腰をかがめ、傍のケージにいたチワワのメスに小さく声をかけた。

「もうちょっとや。待っててな。」



男の顔を思い出しながらミルクティー色のチワワが聞いた。

「保健所に行ったらどうなるの?」

「さあねえ。ただ今まで保健所に連れて行かれた奴で戻ってきたのはいないよね。」

「…うん。」

チワワは恐ろしくなり身震いをした。


「怖い?でも、ここに居てもねえ。」

おばさんは毛が絡まってモジャモジャになった前足を軽く何度もかんだ。

「さあ、もう寝た方がいいよ。起きてたらますますお腹が空いてくる。」


トイプードルのおばさんは汚物でカピカピに固まった足先に毛玉のようになった

頭を乗せて静かに応えた。二人の会話を聞いていた他の犬達も再び目を閉じた。



月が真上から小屋を照らす頃、時折りおばさんが咳き込むのが聞こえた。

「大丈夫?」

上の方から太い声が聞こえた。うつらうつらとしていたミルクティー色のチワワが声の方を見ると窓辺に誰かの影がうつっていた。


「ああ、大丈夫。久しぶり。来てくれてありがとう、シロガネ。」

ストンと音がして、窓の隙間から入って来たのか1匹の白い猫がおばさんの向かいのケージの上に座った。月の光に照らされたわけでもないのにその猫の体は白く光っていた。


「アンタ、その咳、ただの風邪じゃないね。」

「うん、たぶん体のどこかが悪いのかも。でも、もう終わるから。」

おばさんは辛そうな顔をした。その返事にシロガネと呼ばれた猫は、怪訝な顔をした。


「リル、終わる?どういう事?」

「明日、保健所に連れて行かれるの。ここのみんなと。」

「保健所って、なにそれ?」

「保健所に行って戻って来たのは居ないの。じいさん、もう年だからブリーダー辞めたいって言ってた。殺されるのかな?」

「殺す?アンタを?許さない。」


シロガネの体は大きくなり、白い炎に包まれたように輝いた。

「じいさんがアンタを殺す前にアタシがじいさんを殺す。」

シロガネは銀色の目を怪しく光らせ、牙を剥いた。


「あ、あのアナタは普通の猫じゃないんですか?」

一部始終を見ていたミルクティー色のチワワが恐る恐る声をあげた。


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