はじめましては波乱の予感?!
三大悪魔。それは、魔界でも特に力の強い三人の悪魔のことだ。
それぞれが持つ強力な魔法道具から付いた異名は、灼熱のダダ・オボルト、凍結のシニョン・サー、そして、闇のキル・ゴッド。その力の強さゆえに、同じ悪魔でさえも恐れているという。
一方で、一般人がその姿を目にすることは皆無に等しい。普段は人が足を踏み入れることのない魔界の奥地、ギョボボク大陸で生活しているためだ。
凶悪な悪魔や、多くの魔物が巣くう森がある危険なところ。
その三大悪魔が、今、目の前にいる。
ツバキは普通ならありえない状況が起こっていることを実感して、背筋が凍る思いだった。
「キル・ゴッド様、お初にお目にかかります」
「ぴぴぴい、ぴぴぴぴいぴ」
「ハクハク、ハクハククク」
サポート悪魔の大合唱が教室に響くと、静かにたたずむ容姿端麗な男……キルは口の端をつりあげて不敵に笑った。
「そうか、お前たちのような低俗な下級悪魔が俺に会うのは初めてだな。人の言葉もしゃべれないとは、道理で知能が低いわけだ」
(信じられない。なんてこと言うの……!)
小馬鹿にした物言いにツバキは自分のことでなくてもかちんときた。低俗な下級悪魔と言われたサポート悪魔たちは顔を伏せたまま黙ってその屈辱に耐えている。
「お言葉ですがっ」
「……何だ?」
「ほかの悪魔を馬鹿にするのはどうかと思います。誰かを思いやる心というのはないんですか!」
「ははは、そんなことか」
キルは必死に訴えるツバキをおかしそうに見たかと思うと急に元の冷淡な顔に戻った。
「力の弱い悪魔は力の強い悪魔に従うのが俺たちの決まりだ。例外は許されない。……所詮見習い魔女ごときが口答えするな」
(す、すごい迫力……)
ツバキが思わず身を引いてしまうほどの緊張が走る。しかし、あきらめるわけにはいかない。
「悪魔の決まりがあるとしても、ばかにするような言い方は避けるべきです!あなたの一言でたくさんの人が傷ついているのに。それがよくないことだと自分でわかりませんか?
もしそうだとしたら私には理解できません。三大悪魔だからって偉そうにしないで!」
はあ、はあと息を切らすツバキはキルの反応をうかがった。体をこわばらせて身構える。
(怖い……でも、言いたいことは言えた!)
一方、キルは自分をにらみつける小さな少女に興味深い視線を向けていた。
__まだ子どもだが、度胸がある。それに、偶然だが俺を召喚した。……面白い。
「おい」
「ひゃ、ひゃい!」
「ツバキ、お前のサポート悪魔になってもいい。……ただし、条件がある」
「え!ほんとですか!サポート悪魔に?!」
思いがけない言葉に、ツバキは耳を疑った。串焼きより、丸焼きのほうが痛くなさそうだなあと殺され方を考えていた矢先の出来事である。
(だって、思いっきり反論しちゃったし、この人顔がすっごく怖いんだもん。もー、何考えてるのかわからないよお)
ちなみに、串焼きも丸焼きも、今の悪魔が人間相手にやることはない。悪魔にも流行というものがあるようで、彼らに言わせればもっといい方法があるとのことだ。
なにはどうであれ、キルがサポート悪魔になることを了承してくれた。そのままほっと胸をなでおろそうとしたツバキは、すぐに周りの何とも言えない視線に気づいた。
(ちょっと待って、条件って何?)
ようやくそのことに思い当たったツバキに、キルがなんの前置きなくサポート悪魔になる「条件」を告げる。
「魔力の泉を探すのを手伝ってくれ」