悪魔の召喚
ツバキが新しい杖をもらって席に戻ると、エリナはサポート悪魔と初めましての挨拶をしているところだった。それを見たツバキは、一瞬言葉を失った。
簡単に説明すると……召喚された悪魔は、目が四つあり、体を覆っている緑の毛は動物のようにモフモフしていた。口には鋭い牙が生え、二本足で立って話す姿は不気味でしかない。
「あなた、ミクシィっていうの?」
「きい。きき、きききい」
「ふんふん、お肉が好きなのね~。私は果物が好き!」
笑顔でうなずくエリナ。楽しそうに会話を続ける様子にツバキは度肝を抜かれた。
(言葉が分かるの!?どういうこと!)
ツバキが思うのも無理はない。実際、周りの生徒のサポート悪魔も似たような感じだ。きいきい、ぴいん、ハクハクといった意味不明の言葉があちこちから聞こえてくる。
力の弱い悪魔の場合、自分を呼び出した人物にだけ意味が伝わる不思議な言葉を話すことがあると父から聞いていたが、まさかこんなに独特な言葉だとは思っていなかった。
(あはは、何とも言えない気分……)
ツバキは、なにげなく周りを見て苦笑いした。
先ほどのミマンダのような、人に近い悪魔は半分もいないのが見て分かる。
今、当のミマンダは教室の外に行ってしまった。久しぶりの学校を観察したいらしく、本当に自由である。ツバキは、授業参観の保護者じゃないんだからとハリソン先生があきれていたのを思い出した。
……それはともかく、早くサポート悪魔を召喚しなければみんなから遅れてしまう。
(ええい、もうやるしかないよね!)
どんな悪魔が現れたとしても受け入れよう。うん、受け入れるしかない。
ある種の覚悟を決めたツバキは、杖を手に持ち呪文を唱えた。
「優しく光る太陽よ……我に悪魔を授けよ!」
意識を集中させ、杖に全身の魔力を込め……
その瞬間、ものすごい量の魔力が美しく透き通った水晶に吸い出されるのを感じた。
成功したかも、と一瞬期待する。
……が、魔法を発動した名残である光は次第に収まり、代わりに異様な空気が漂いだした。
重々しく、息がしづらい。
苦しい、といった声が教室のあちこちで聞こえてくる。異変に気付いたハリソン先生が真っ先に駆け寄ってきた。
「ツバキさんっ、何をしたの!」
「あの、普通に呪文を唱えただけで」
「とんでもないものを呼び出してしまったかもしれないわ。魔力の加減を間違えたのかも。ああ、先生がもっと丁寧に説明すればよかった!」
早口でまくしたてるハリソン先生。
混沌とした教室に、靄が広がった。
黒い、靄。
めったに見ない色に誰かがごくりと唾をのむ音がした。
……その時。
靄の中から長身のシルエットが浮かび上がった。
ザッ
「えっ」
突然教室中のサポート悪魔が床にひれ伏したので、ツバキはびっくりしてしまった。顔を伏せてじっとその体勢で固まっている。
ああ、という声が聞こえた。
「ここは、どこだ……」
ぞっとするほど冷たい声。
目鼻立ちの整った人間離れした顔に、漆黒のローブ。手にはなぜか、魔法使いが持つ杖と似た銀の装飾が施された漆黒のステッキ。
とても悪魔には見えない、若い銀髪の男だった。
それを見て、ツバキは小さいころ父から聞いた話を思い出した。強力な力を持つ悪魔は見た目を人間そっくりに変えることができると。
男はまぶしそうに目を細めてぽかぽかと暖かい日差しが降り注ぐ教室を見渡した後、自分を呼び出した本人、ツバキに目を向けた。
「呼び出したのは、お前か」
「わ、私です!」
答えながら、ツバキの心臓がどくどくと音を立てる。
(なにこれ……すごく嫌な気分……)
何もしていないのに立っていることすらつらい。なにより男と向き合うだけで思わず目をそらしたくなる。
普通はあり得ないほどの威圧感。そんなツバキをよそに、男は静かに尋ねた。
「そうか……お前の名は?」
「ツバキ、です」
「ほう。ツバキか……俺は、キル・ゴッドだ」
ざわっ
男の名が告げられると同時に、教室にどよめきが走った。隣で黙ってやり取りを見ていたハリソン先生がはっと口を押さえてつぶやく。
「キル・ゴッドは魔界の三大悪魔の一人よ……」