見たことない、のに見たことある男
掲載日:2023/03/14
「見ない顔だな」
引っ越し後の片付けをしていると、隣の部屋から男が出てきてそう言った。
「今日、越して来ました」
「へぇ、この辺のことは知ってるのか」
「いえ、高校を卒業して上京したところで」
「一つ後輩か。よし、俺がこの街を教えてやるよ」
男はそう言ってバチッとウインクをキメた。少々アクの強い隣人を引き当ててしまった事に気がつくとともに、何か既視感を覚える。
「出かけるぞ」
「え、でも僕片付けがあるので……」
「バーガーを奢ってやるってんだ。腹減ってるだろ」
男はガチャガチャとブーツを鳴らして階段を降りていき、アパートの下に停めてあった自転車に飛び乗った。風変わりな帽子を傾けてこちらを見上げ、ニカっと笑う。何だろう、この強烈な既視感。
「早く来い。バーガーの後は三本行ったところの酒場だ。あの店は最高だぜ。未成年のようだから酒はダメだが、プレーリーオイスターも美味い。あ、ミルクは頼んじゃダメだぜ坊や、バカにされる」
「あ、分かった」
僕の荷物から落ちたらしいビニールの緩衝材が、砂埃と一緒にカサカサと飛んでいく。
「カウボーイだ……」
これから始まる新生活が、とんでもなくヘンテコなものになる予感しかしなくて、僕は思わず生欠伸をした。




