12 類は友を呼ぶ
「着いたぞ。ここが俺の御用達生産プレイヤーの店だ!」
連れてこられたのは大通りから外れた裏路地にある店。その立地で侮るなかれ、NPCの店ならともかく、多くの生産プレイヤーは資金不足で露店を開いている中、このタイミングで既に店を構えているとなると、相当な凄腕。別のゲームで名を馳せていて、ゲーム開始前から予約が殺到していないとこうはならない。すでに収入の見込みがあり、店を購入しているということである。
「もしかしなくても、とんでもない人を会わせようとしてます?」
「そこまでではあるまいよ。ただ、金と生産にご執着なオタクを紹介するだけだ。がはは」
「生産より先に金がくるんですね」
「本人曰く、金がなきゃ好き勝手やれないじゃない、だそうだぞ」
「なるほど、なんとなく理解しました」
扉を開け中に入っていく。目に飛び込んでくるは乱雑に積み上げられた武器や防具の山々。
口には出せないが、こう思ってしまった。うわ、きったな。
「おーい!ヴァル!きたぞ!」
返事がない。
「大方作業に没頭してるんだろう!返事をしろ!」
ロックさんの声量が上がる。変わらず返事はない。
「おおおおい!こっちにこないかあ!」
うるさいなぁ。鼓膜がキンキンしてきた。
「うるさああい!集中できないじゃない!少しは待つことを覚えなさいよ!このムキムキ坊主!」
うわ、あの声量に張りあえる人っているんだ。というかどっちもどっちでは?
「おう。やっときたか。客を連れてきたぞ!がはは」
「少しも悪びれないとか、上客じゃなきゃ出禁にしてたわよ!」
あ、違う。ロックさんは声量戻ったけど、この女性はデフォルトでこの感じなのか。これまた難物。
「で!ご新規さんはこの人ね!あたしはヴァルっての、よろしくね!」
「どうも、ケイナと言います」
「え?なんて言った?」
「ケイナです!よろしくお願いします!」
「ケイナ君ね!覚えたわ!」
こちら側も大声じゃないと通じないのか。うわぁ、大変。
「それでぇ、セイヤ君は何を買いに来たの!」
「ケイナ、です。覚えてないじゃないですか!」
「許してやってくれ。こいつは人の名前とか、無頓着なのだ!がはは」
「ごめんごめん。ケイナ君ね。希望は単体?一式?」
「一式で揃えてやってくれ。フルオーダーでなるべく良いものを、な!」
「オッケー。ってことは原石ちゃんズね!」
「僕抜きで話を進めないでくださいよ」
「ケイナよ、ここは任せておけ!」
「いや、僕そこまでお金もないですし」
「足りん分は俺が出す!」
「何言ってるんですか!」
ロックという男、PvP無敗ゆえに、大金持ちである。投資のためなら、全てが端金。
「というか原石ちゃんズってなんですか?」
「このムキダルマが連れてきた見込みのある子たちのことよ。君で三人目!」
「そうなんですね」
「ちなみに全員このお節介にお金出して貰っているから気にする必要ないわ。こいつバトルジャンキーなのよ!」
なんとなく、この人たちが分かってきたぞ。頭のおかしいタイプだ。
「それじゃ、メインの得物と戦闘スタイル、教えて頂戴。要望があればそれも聞くわ!」
一通りこちらの意見を述べる。流石はトッププレイヤー。二人もアドバイスをくれるのだが、
「一撃離脱のヒットアンドアウェイは長期戦に不利だが、そこを継続ダメージで補う。だとすれば対人で考えるべきは先手に回るスピードだな!AGIをあげるべきだ!」
「何言ってんのよ、じゃあ強化すべきは毒の威力向上と連射性、つまりはMPとINT、あとDEXもあるといいわね!」
「なら全部マシマシだ!折角ならSPとSTRも付けよう!一撃一撃の威力を上げるスピードアタッカーだな!がっはっは」
「高くつくわよ?」
「構わん。やれい!」
「あぁぁ、インスピレーションが降ってくるわぁ!」
「では完成したら取りに来るぞ!」
「早くどっか行きなさい!次邪魔したら本当にぶっ飛ばすわよ!」
「やれるもんならな!がはは。では帰るとしよう、いくぞケイナよ!」
それが白熱しすぎてほぼ二人が決めていったのだ。しかもPvPメインの仕様だし、装備製作の難易度は鬼。
気づいたら話はまとまり、店から追い出された。後半はほぼ聞いているだけだった。ひぇ。
「あ、ヴァルさんとフレンド登録するの忘れてました」
「なら俺としておこう。どうせ取りに行く時もついていくしな!がはは」
「それ、装備更新したら一番に戦いたいとかそういうのでしょう?」
「お、分かるか!」
「分かりたくないですけどね」
フレンド登録は初めてだったが、ロックさんが教えてくれた。ホント、初心者に優しいプレイヤーに擬態するのが上手だな。もう騙されん。
「今回の感じだと3日はかかるだろう、それまでに強くなっておいてくれ」
「瞬殺されないようには、頑張ります」
「がはは、ではまたな」
いやぁ、濃い出会いだった。俺もログアウトしよう。流石に疲れた。