第98話 vsミノタウロス ②戦場転変
連続更新2話目になります!
(三人称視点)
迷宮、第20階層。
この階層は一つの巨大な部屋で成り立っている。
数百年も前の事、この階層で階層主として立ち塞がり、猛威を振るった魔物が居た。
【腸の怪物】と呼ばれたその魔物は、当時の勇者とSランク冒険者達と、七日七晩に渡る戦いを繰り広げ、両者相打ちという形で決着が着いた。
今でもこの階層には、腸の怪物が残した毒沼がそこら中に残っており、魔物も一切寄り付かない無人のエリアとなっている。
そんな20階層の天井をぶち抜いて、降りてくる二つの影が現れた。
一つはシテン、もう一つはミノタウロス。
両者共に、先ほどまで一つ上の19階層にて、激戦を繰り広げていた。
しかし。
(クソッ、岩盤をぶち抜いて下の階層に落とされた!! めちゃくちゃだコイツ!!)
空中で瓦礫を足場にし、なんとか20階層の床に着地したシテンは、天井に空いた大穴を見て悪態をついた。
同時に、豪快な音を立ててミノタウロスが着地する。
「うろたえている暇はないぞ! シテン!!」
間髪容れずに、ミノタウロスが溜めの動作に入る。
その動作は、たった今19階層の岩盤を崩壊させた時と同じものだった。
(またさっきのアレがくる!!)
直後、毒沼の滴る床が、シテンの左右を塞ぐようにせり上がり始める。
飛び越えられない程の高さ。シテンとミノタウロスを結ぶように、一本道が出来上がる。
「【迷宮操作】――【迷宮化】」
ミノタウロスの派生スキル、【迷宮化】。
先ほどまでの、押しつぶすための地形操作ではなく、逃げ道を塞ぐための地形操作。
そして、
「【死の一本道】」
迷宮の壁で作られた直進コースに沿って、ミノタウロスが突進してきた。
(尋常じゃない速度! 明らかに勇者の超速機動より早い!! まともに食らったら即死だ!)
常人ならば再生する左右の壁を壊すこともできず、為す術もなく轢き潰されるだろう。
回避不可能、防御不可能の即死攻撃。
「このっ」
予備動作を見たシテンは咄嗟に、【三獄堅手】の力で、電撃を地面に放っていた。
音速を超えるミノタウロスよりなお早く、毒沼を伝って流れた雷撃はミノタウロスの身体を一瞬、麻痺させた。
一瞬の隙を強引に生み出したシテンは、その間に足元の影に潜む。
直後、ミノタウロスが頭上を通り過ぎると、衝撃波で辺りの岩盤が根こそぎめくれ上がった。
遅れてやってくる爆音と、飛散した毒沼が、シャワーのように降り注ぐ。
「奴に隙を与えたらダメだ……迷宮操作には、一瞬の溜めが必要になる。絶え間なく攻撃を浴びせ続けて、迷宮操作を行う暇を与えないようにしないと」
シテンが地上に戻ると、20階層は毒の雨と瓦礫が降り注ぐ地獄のような光景となっていた。
ジュウジュウと、音を立てて両者の体表が溶けていく。
シテンは回復ポーションを口に含み、ミノタウロスは驚異的な再生能力で毒の雨をやり過ごす。
(……腸の怪物が残したという毒沼。もしかしたら、この戦いに活かせるかもしれない)
新たに切り替わった戦場で、シテンはミノタウロスを倒す戦術を組み立てていく。
(このまま長期戦になれば、僕の方が先に轢き潰される。そうなる前にミノタウロスを殺す。……殺して死なないなら、死ぬまで殺し続けるだけだ)




