表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

92/126

第92話 勇者、シテンと再会する(勇者視点)

連続更新3話目です!


(三人称視点)


「へへ……逃げ切ってやったぜ」


 イカロスは背後を振り返り、ミノタウロスの姿が無いことを確認すると安堵の声を上げた。

 少し遅れて、ヴィルダ、チタ、ルチアの残りの勇者パーティーも集結する。


「ヤバいニャ、他の冒険者を置き去りにして逃げちゃったニャ……ヤバいニャ」


「し、仕方ないでしょ!? イカロスまでやられたんだから、どうあがいても勝ち目なんてないじゃない! アイツらが死ぬより私達が死ぬ方が大問題でしょ!?」


「……残念ながら、ウリエル様とシアを同時に運ぶことはできませんでした。彼女の身体能力では、私達には追い付けなかったでしょう」


 ルチアは相変わらず何の表情も浮かべず呟いたが、どこか声が沈んでいるように聞こえた。

 数少ない同胞である聖女を見捨てたという事実は、ルチアも思うところがあったらしい。


「冒険者共の事はどうでもいい。勝手についてきて勝手に死んだだけだからな。何が起きても自己責任。それが冒険者ってものだろ? むしろ、俺のために死ねるんだから本望だろ」


 他の三人と違って、勇者イカロスだけは全く悪びれた様子を見せていなかった。

 彼は、他人の命を何とも思っていない。


「さっさと地上に戻るぞ。……言っとくが、ミノタウロスが倒せなかったのは俺のせいじゃない。ウリエルの加護を貰ってなかったからだ! あんな牛野郎、ウリエルの加護を貰えば瞬殺だ!!」


 二度目の敗北を喫したイカロスは、しかしまだ自分の実力不足を認めていなかった。

 実力差を理解していない彼は、次こそは勝つ、と息巻いていたが。



 イカロスに、『次』の機会は訪れない。




「…………あ?」



 気付けば、目の前に人影があった。

 黒髪黒目。背丈が少し低いくらいで、これといって特徴のない平凡な少年。

 その身には闇のような外套と、肉と骨が混じったように見えるグロテスクな籠手をつけている。

 少年は、石膏を塗り固めたような無機質な表情で、イカロスを見ていた。


 イカロスは、彼の事をよく知っていた。



「シィィィテェェェンンンン!!! 会いたかったぜぇぇ!!!??」



かつてイカロスが探し求めた、シテンの姿が目の前にあった。



「ニャッ!? シテン!?」


「は? なんでアイツがここに居るのよ?」


「…………」


 ヴィルダ、チタが困惑の表情を見せる中、ルチアだけは何かを察したようだった。

 そして、彼女の予感は的中する。それも最悪の形で。



「シアを捜しに来たんだ」


「あ?」


「大切な家族を、捜しに来た。……シアは何処に居る」



 シテンはゆっくりと、短剣を前に構えた。



「お前たちと同行していたと聞いた。沢山の冒険者も。けれど今は、どちらも居ない。……もう一度聞く。シアを何処へやった?」




「ハッ、急に何を言い出すかと思えば……テメエには関係ない話だぜ。それより俺から奪った金を返してもらおうか!!」


置き去りにしたのか?(・・・・・・・・・・)


「ッ!?」


 イカロスが図星を突かれて、一瞬動揺の気配を見せる。

 それだけで十分だった。シテンには勇者達がどんな所業を行ったのか、想像できてしまった。

 シテンも、元勇者パーティーの一員だ。彼らの考えそうなことはよく分かる。



「か、関係ねぇって言ってんだろ!! 俺の話を無視するんじゃねぇ! とにかく金を――」


「――僕が間違っていた」



 シテンは、イカロスの喚きなど耳に入れていない。

 強く、覚悟を決めるように、己に言い聞かせるように呟く。


「目の前の障害から、避け続けていた。関わらないようにしていれば、いずれ僕らの下を通り過ぎる、嵐の様なものだと思っていた。……僕の考えが甘かった。家族や仲間に不幸をもたらす障害は、積極的に取り除く(・・・・・・・・)べきだった(・・・・・)



 自己に対する戒め。

 勇者という騒動の種を、駆除するのではなく避け続けていた事で、起きてしまった悲劇。



「もう迷わない。目の前に立ちふさがる障害は、この手で全て解体してやる」


 シテンの瞳には、覚悟の光が宿っていた。

 目的のためには手段を選ばないという、昏い覚悟の光が。



「ヴィルダ、チタ、ルチア、イカロス。……僕の質問に答えろ。さもなければ、お前たちを殺す」


 【解体】スキルが、シテンの殺意と覚悟を糧に、唸りを上げる。

 目の前の敵を、バラバラにしろ、と。



皆様の応援が励みになります。よければブックマークへの登録と、↓の☆☆☆☆☆から評価をお願いします。


また作品の感想だけでなく、気になる点や質問などがあれば感想覧に書いてくださって大丈夫です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ