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第6話 解体スキルの裏技


「た、倒せた……」


 地面には真っ二つになった精霊核が転がっている。念のため警戒を緩めずにいたが、動き出す気配はない。どうやら本当に死んだようだ。


「はは……意外と、やれるもんだな」


 緊張が解けたせいか、一気に脱力して座り込んでしまった。

 ソロでは初めてのボスモンスターとの戦闘だったが、なんとか勝利を収めることが出来た。

 これで確信できた。やっぱり、解体スキルは戦闘面でも十分に有用だ。もっと実力を付ければ、冒険者として十分に活動できる、かもしれない。


 ……いや、慢心はよくないな。

 今回は相手が良かったと考えるべきだ。たまたま精霊核という明確な弱点があったからこそ、戦闘が長引かずに倒せたのだ。

 戦闘が長期化していたら、スタミナ切れで僕が負けていただろう。

 それに相手が知性のない魔物だったことも運が良かった。

 魔物の中には人間と遜色ない知性を持つものも居る。相手がもう少し賢い魔物だったら、目潰し作戦は効かなかったかもしれない。

 総じて運が良かったと言えるだろう。次は同じように行かないかもしれない。

 自分の身を守るためにも、もっと実力を付けなければ。


「これからは自分の力でやっていかなきゃだもんな。よし、反省会終わり」


 休息を終えた僕は、他の魔物が来ないうちに迷宮を脱出することにした。

 走り回ったせいで、流石に疲労が溜まっている。それにさっき、砂煙をまき散らすときに飛んできた岩の破片が、体中を掠めていた。おかげで全身傷だらけだ。


「あ、そういえば。死体の処理どうしようかな」


 地面を見やると、二つになった狂精霊の核がまだ転がっていた。

 どうやら解体スキルの影響で、死体のまま肉体が固定されているようだ。解除すればすぐにでもドロップアイテムに変換されるだろうが……


「確か狂精霊って、碌なドロップ品がなかったよな」


 そう、この狂精霊は、ボスモンスターのくせにドロップアイテムがしょぼいことである意味有名な魔物なのだ。

 『魔物のドロップリストを見ることが出来るスキル』によって、大抵の魔物はドロップリストが既に判明、共有されている。

 狂精霊の場合は確か、狂精霊の塵というアイテム一種類のみだったはずだ。これは魔法触媒などに使われるが、効力は低い。ロクな値段が付かない代物だった。

 せっかく苦労して倒した初めてのボスモンスターなのに、入手出来るのがしょぼいアイテムだなんて……


 いや、待てよ?


「この精霊核、そのままの状態なら売れるかな?」


 思いついたのは、さっきコボルトを狩っていた時に考えていた、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を手に入れるという、もう一つの裏技を使うことだった。

 簡単に言うと、ドロップアイテムに変換せずにこのままの状態を保持するという方法だ。


 詳しく解説するにあたり、コボルトを例にしよう。まずコボルトの死体を、コボルトの肉と、コボルトの骨に解体する。

 コボルトの肉という素材アイテムはドロップアイテムとして入手出来る。だがコボルトの骨というアイテムは、そもそもドロップしない。

 コボルトのドロップアイテムのリストは全て解明されているのだが、その中にコボルトの骨というアイテムは存在しないのだ。

 迷宮の外とは異なり、魔物の死体は消えてしまうため、直接素材を剥ぎ取って持って帰るという方法が使えない。

 よって魔物の素材の入手方法は、基本的にドロップアイテムのみに限られる。

 つまり、ドロップリストに無い、コボルトの骨というアイテムを入手する事は、通常は不可能なのだ。


 そんな通常では入手できない素材を、解体スキルなら簡単に手に入れることが出来る。

 ドロップアイテムも死体の消失も無視して、死体を解体して直接骨を取り出せば、あとは好きなように扱えるし、迷宮の外にも持ち出せるのだ。


 先ほどのコボルトを解体した時には、この裏技を使わなかった。

 コボルトの骨は僕にしか入手できない貴重な素材だが、それが売れるかどうかはまた別の話だからだ。

 コボルトの骨は素材としては特に需要があるわけではない。装備の素材としては、もっと優れた素材が他にたくさんあるし、他に特筆するような使い道もない。


 そんな微妙な使い道の素材は、冒険者ギルドでもあまり買い取ってはくれない。

 ドロップリストに存在しない素材なんて、前例もないので相場も用途も分からない。調べるのにも金と手間が掛かるし、何より僕の悪評のせいで信用してもらえない。

 つまりこの裏技を使って素材を入手しても、きちんと買い取ってくれる所がなければあまり意味が無いのだ。

 コボルトの場合は需要もなく卸先もないので、裏技を使わなかったという訳だ。


 しかし今回の狂精霊の核になると、話は変わってくる。


 確か精霊系モンスターの核は、錬金術の素材として高値が付くと聞いたことがある。

 狂精霊の核なんてアイテムは聞いたことが無いから、恐らくこの裏技でしか入手できないレアアイテムだろう。果たして、この素材も高値が付くだろうか?


 ……試してみる価値はあるだろう。僕は真っ二つになった精霊核をそのままリュックにしまった。


「こういう未知のアイテムはギルドじゃ買い叩かれることもあるし、ちゃんと価値を見定めてくれる卸先を見つけなきゃな」


 素材の買取は、何も冒険者ギルドだけが行なっているわけではない。

 迷宮都市にはギルド以外にも、様々な店が出揃っている。冒険者の中には、そういった店舗と直接契約を交わして、迷宮で手に入れたアイテムを直接卸すといった契約を結んでいる者も居るのだ。

 正確にこのアイテムの価値を理解すれば、買い取ってくれる人が見つかるかもしれない。


 僕は頭の中で一人の少女の姿を思い浮かべる。彼女ならこのアイテムの価値を見極めてくれるだろう。

 どうせ近いうちに会いに行く予定だったのだ。迷宮から帰ったら、彼女の『鑑定屋』に立ち寄ることにしよう。


当作品では魔物=モンスターという認識でお話が進みます。

魔物とモンスターという単語が混在していますがご了承ください。

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