第57話 vsアークリッチ・ゾンビケルベロス ②逆襲の魔女
すみません、前話のサブタイトルがしっくりこなかったので、今話と入れ替えてみました。
本文に変更はございません。
「貴様、儂が殺したはずの魔女か!? 心臓を貫いたはずだ、なぜ生きている!」
「そうね、あんたをぶっ殺すために地獄から舞い戻って来た、って所かしら?」
不敵な笑みを浮かべて、挑発してみせるソフィア。
クリオプレケスは知らない。彼女が致命傷を受けても再生してしまう、特殊な体質であることを。
他の冒険者が居るこの場で蘇ったということは、外部にその事実が漏れてしまう可能性もあるのだが……今は、考えるべきではないだろう。
「私を殺してくれてどうもありがとう! お陰で体力も魔力も全快しちゃったわよ! ――【錬金術――大量生産:運搬用ゴーレム生成】!!」
まるでキノコが生えるかのように、ボコボコと凄まじい速度でゴーレムが生み出されている。ソフィアも僕と出会った時と比べて、腕を上げたようだ。
「シテン! 私は倒れてるみんなを安全な所に避難させる! だから周りに気にせず、思いっきりやっちゃって!」
「――うん」
頼もしい相棒に背中を任せ、目の前の巨悪、クリオプレケスに集中する。
「小癪なァァァ!! 今さら何をしたところで、儂の力には及ばん! 見ろ、このケルベロスの数を! Aランクモンスターが群れをなして貴様らを蹂躙してくれるわ!」
三体のケルベロス、九つの頭。
それらが同時に口を開き、九発のブレスを放とうとする。
「――【解体】」
対して僕は、フルパワーで解体スキルを行使する。
僕の前方、ケルベロスの立っていた大地が、一瞬で粉々に砕かれた。
「なっ」
「【遠隔解体】、三連斬」
地面を蹴って、滑空するように急接近。
バランスを崩して無防備なケルベロスの影を、二体纏めて始末する。
残りの一発は本体に向けて放つが、ケルベロスが一瞬早く影の中に潜行した。
奴が出てくる気配はない。こちらの隙を突いて奇襲を仕掛けるつもりだろう。
「シテンさん! 後ろです!」
「――ありがとう、リリス」
だが、そんなものは無意味だ。
リリスの言葉を信じて、背後に攻撃を仕掛ける。
防具の効果で影に干渉できるようになった僕の攻撃は、相手が影に隠れていても通用する。
「【遠隔解体】」
影から飛び出してきた、偽物のケルベロスを一刀両断する。
流石に本体ではなかったか、けれど影の中には潜んでいるはずだ。
僕の影とケルベロスが出て来た影を繋ぎ、そこから『大爆炎』の魔術スクロールを起動して中で起爆させる。
「グウウッ!?」
慌てて飛び出してきたクリオプレケスの本体を、【臨死解体】で解体しようとするが、横から伸びて来た影に阻まれてしまった。
「影魔術か」
触手の様に蠢く触手を、短剣の一薙ぎで纏めてバラバラにする。
クリオプレケスは……僕から離れて、距離を取ろうとしている様だ。
「ハァッ、ハァッ、貴様か、貴様のせいかっ!」
巻き込まれない後方まで下がっていたリリスに、クリオプレケスは狙いを定めたようだ。
僕から距離を取りつつも、彼女の下に走りだす。
「逃げるな!」
移動速度は向こうの方が速い、このままだと追い付けないが……
奴の行く手を、ソフィアのゴーレムが阻む。
「行かせないわよ!」
「どけええええ!」
影から湧きだした新たなケルベロスの影が、ゴーレム達を次々と屠っていく。
クリオプレケスの進軍を止めることは出来ず、やがてリリスの前に辿り着きそうになった時、今度はソフィア本人が立ち塞がった。
「『氷よ、極寒よ、その牙を以って、凍てつき、凍えよ』!!」
五節詠唱の氷魔術が放たれ、ケルベロスを足止めするが……
「馬鹿め!」
「ソフィアっ!」
氷の牢獄から抜け出したケルベロスの顎が、ソフィアの身体に喰らいついた。
冒険者達を運んでいたゴーレムが、停止する。
「ヒャヒャヒャ! 今度は蘇らないように、丸ごと喰らってやるわ!」
「……あら? いいの、そんな事して」
大量の血反吐を吐きながら、ソフィアが笑っていた。
「ゴホッ……錬金術や魔術の触媒として、最も手軽で優れた素材は、術者の血液。あなたも魔術師の端くれなら、それくらい知っているでしょう?」
「何を言っている!」
「まだ分からないの? 私はわざと攻撃を受けたのよ。あんたに一杯食わせるためにね――」
……!
そうか、ソフィアの狙いはそれか!
奴も気づいた頃だろう、だがもう遅い。
ケルベロスはソフィアの血液を、大量に飲み込んでしまっている。
「貴様! まさかッ!」
「魔女の血なんか飲んだら、お腹壊しちゃうわよ? ――魔術混成、【錬金術:爆弾人形】!!」
ケルベロスの体内に入り込んだソフィアの血液と、ソフィアの魔術が合わさってケルベロスの体内で錬金術が発動する!