第48話 vsアークリッチ
「……一度だけ言う。魔物達の攻撃を止めさせろ。そしてお前の正体と目的、石化させた手段を吐け」
わざわざ口を封じなかったのは、自白させるためだ。
戦意喪失して洗いざらい話してくれれば、苦労はしないのだが――
「――『蛇の眼』ェェェェェ!!」
肉と皮が腐り落ち、剥き出しになったクリオプレケスの頭蓋骨。
その右目の眼窩が一瞬光ったかと思うと、そこから触手のようなものが僕目掛けて放たれた。
鞭のようにしなるそれは、恐らく影で作られているのだろう。光を一切通さないその触手は凄まじい勢いで迫ってきたが、
「【解体】」
――素手で影を掴み取り、そのまま影をバラバラに解体した。
「馬鹿な、儂の影を、掴んだじゃと!?」
「影を捉えるって感覚。最初は手こずったけど、もう慣れたよ」
僕の解体スキルは、捉えた対象を任意の形状でバラバラにする。
対象は物理的なものに限らない。僕がそれを認識して、捉える事が出来たのならば。
森羅万象、あらゆる事象を解体することが出来る。
レッサーヴァンパイアとの戦い、ミュルドさんの作った影の道、そしてこの防具の影に干渉する能力。
今までの経験が、僕に『影を捉える』という感覚を教えてくれた。
「やっぱり自白する気はないか。まあ、予想はしてたけど」
それよりも、気になる事がある。
今の影の攻撃の際、地面に転がったゴーレムの肉片、その一部を掠めていた。
よく見ると、掠めた部分が石化している。……今のが、石化事件の手口であった可能性は高い。
先程クリオプレケスはこの攻撃の事を『蛇の眼』と叫んでいた。
そんな名前のスキルはステータスに載っていなかったから、スキルによる攻撃ではない。とすると、呪術かマジックアイテム。呪術の予備動作らしきものはなかったから、恐らく後者だろう。
連発してこないあたり、やはり溜めが必要か、もしくは制約があるんだろうな。
「影を伸ばして触れた相手を即座に石化させる……物騒なマジックアイテムだな。聞く手間は省けたけど」
「クソッ、儂が! この儂が! こんな所で負けると言うのか!?」
「もういい。【遠隔臨死解体】」
再びのスキル同時発動。
眼窩に収められたマジックアイテム『蛇の眼』ごと、頭蓋骨を真っ二つにする。
これでもう、クリオプレケスは肉体の制御権を失った。
「一度だけって言ったからね。応じなかった以上、命をもって償ってもらうよ」
本当は聞きたいことは山ほどあるが、こいつを生かしておくのは流石に危険だ。
ケルベロスやゾンビへの対処も残っている。これ以上時間を割くことは出来ない。
「――今からお前は、只のバラバラ死体になる」
これから僕が何をするのか、察しがつくように敢えて宣言した。
「お前に痛覚があるかは知らないけれど、文字通り四つ裂きにされた分のダメージがお前に襲い掛かる。お前のスキルはその分のダメージもちゃんと受け流してくれるのか? ――最も、その場合は死ぬまでバラバラにするけどね。僕はどっちでもいいよ。好きな方で死ぬといい」
……自分で言っておいてなんだけど、アンデッドに死ぬとか言うの、ちょっとおかしかったかも。
それでも四分割にされたクリオプレケスから、なんとなく怯えの気配が伝わって来る気がした。
これまでの被害者の事を思えば、この程度では全く足りないだろうけれど。
それでも、こいつには報いを与えなければならない。
「【臨死解体】――解除」
僕はクリオプレケスの肉体に掛かっていた、臨死解体の効果を解除した。
生きながら四分割された奴の身体はその瞬間、本物の四分割された死体になった。
「グ、オァァ”ァ”――」
薄気味悪い呻き声をあげながら、ビクビクとクリオプレケスの身体がのたうち回る。
即死しない所を見ると、受けたダメージはちゃんと影法師のスキルで受け流せているのだろう。
だが受け流したところで、四分割された奴の身体が元に戻るわけではない。
身体がバラバラになっている限り、奴が生き続ける限り、奴へと無限にダメージが発生し続ける。
本体がダメージを受け、それを影法師に受け流して無効化し、また本体にダメージが入り――
死ぬまで抜け出せない永遠のループに突入したクリオプレケス。
僕はそんな姿を見ても、憐憫など欠片も湧いてこなかった。
数分ほど、経過しただろうか。
クリオプレケスの身体は、遂に動かなくなった。