第47話 臨死解体(ニアデッド)
(一人称視点)
「【解体――臨死解体】」
言葉に出して、スキルの発動を宣言する。
僕を叩き潰そうとしているゴーレムに向けて、僕は剣を振り上げた。
そして、数メートルはあろうゴーレムの巨体が、ブロック状に切り分けられ、解体された。
「なんじゃ今のスキルは!? 儂のゴーレムが一瞬で!? しかも躊躇なく破壊するとは!」
「うるさいよ」
アークリッチ、クリオプレケスのふざけた口を黙らせるべく、続けてスキルを発動する。
調子が良い。今なら僕の全力を存分に発揮できそうだ。
「【遠隔解体】、【臨死解体】――同時発動。【解体】。」
今まで放ったどの斬撃よりも鋭く、速く、クリオプレケスにその刃が届いた。
「無駄じゃ! どんな攻撃だろうと儂のスキル【影法師】があれば無効化できる――!」
「どこが? 自分の身体を見てみなよ」
遠隔解体と臨死解体の合わせ技を受けたクリオプレケスの身体は、首元で切断されていた。
当然、切り離された下半身は姿勢を保つことが出来ず、頭部と一緒に床に転がる。
「な、なんだこれは……? なぜ儂は生きている? なぜ儂のスキルが発動しない!?」
「お前に話すことはもう何もない。なにも理解出来ないまま、バラバラになれ」
……奴のスキルは『受けたダメージを身代わりに受け流す』というものだろう。
だからさっき解体スキルで攻撃した時は、対象が身代わりにずらされてしまい、本体にダメージを与えることが出来なかった。
受けたダメージを別の対象に逸らす。
ならば、攻撃しなければ良い。
派生スキルの一つ、【臨死解体】は、対象を生かしたまま解体するスキルだ。
通常の解体スキルが物理的な解体とすると、この臨死解体は概念的な解体と言うべきだろうか。
相手はただ、バラバラになるだけ。性質はそのままに、ただ物質としての繋がりだけを解体される。
そこにはダメージも生まれない。バラバラになった対象は、麻酔を掛けられたかのように痛みも感じず、その切断面からは血も流れない。
現に、さっきこのスキルで解体したゴーレムは、ブロック状になったにもかかわらず一滴の血も流していない。
ただ、バラバラになるだけ。肉体の繋がりを失い、動けなくなるだけ。
あのゴーレムは動けないだけでまだ生きている。僕が臨死解体のスキルを解除しない限りは。
だから積み木のように体を組み立てなおしてから臨死解体スキルを解除すれば、何事もなく活動を再開するだろう。
そしてもう一つ、このスキルには特徴がある。
本体から切り離された部位は、当人の意思で動かすことが出来なくなるのだ。
まるで麻酔に掛けられたように。魚を生け作りにするかのように。
けれど神経は繋がっているので、五感はそのままだ。本体から切り離された部位でも、触られた感触や痛覚は感じ取れる。
また切断する部位によって、当人が動かせる肉体範囲は異なる。奴の場合は腰から下を斬り落としたので、今は頭部のある上半身しか動かせないはずだ。
ダメージが発生しないならば、それは攻撃とはみなされない――
奴の持つ影法師のスキルのように、攻撃を反射、無効化するものに見られる特徴だ。
だから僕の臨死解体に対して、ダメージに反応する影法師のスキルは発動せず、奴の本体はそのまま切断されてしまったのだ。
実は半分賭けのようなものだったが、これで確信した――臨死解体ならば、奴のスキルを貫通出来る。